プロローグ
♪ 爽やかなる決意 ←クリックするとBGMが流れます。
「よーりちゃん♪」
「かの? ・・・手を繋ぎたいの?」
「えへへ・・・ うん」
「んもー、しょうがないわねー。ほら」
はしっ
いつもの朝の登校時間。
いつも通り五人で登校する少女たちの先頭は、小依と夏音。
「おー、ふたりはいつも通りだなー」
「うんうん☆ ラブラブなのって見ててもシアワセだよねぇ
ω」
「こよりはともかく、かのんが自分からってめずらしい・・・。いつもなら押される側なのに」
「んー、それもそうだねぇ」
乃愛が二人に追いつき、特徴的な前髪を「?」とさせながら問う。
「今日は一段となかよしさんだネ☆ なにかあったの?」
「分かんないわよ。でも、かのがこうしたいっていうなら、お姉さんの私はそうさせてあげるだけよ!」
「えへへ・・・ ありがとーよりちゃん」
頬を朱に染めながら、五本の指をすべて絡めるようにして手を組む夏音。とても嬉しそうな顔をしている。
さすがの小依も恥ずかしいのか、顔を赤くして目を泳がせている。
七月に入り初夏の気候となっていることもあり、汗ばむ手と手。
夏音は乃愛に顔を向けると、心底幸せそうな瞳でこう告げた。
「ノアちゃん」
「カノンちゃん?」
「これが・・・この形がね、私たちの「絆」なんだー」
幸せそうで、熱を帯びた、とろんとしている瞳。
乃愛は夏音が本当に小依のことが大好きなのだと実感し、恋をして輝いている夏音を羨望のまなざしで見つめる。
「そっかー。いいなー アタシもヒナタちゃんとおんなじことしたーい」
「おー、いいぞ!」
「えへへ、やったー☆」
「まったく、最上級生にもなって・・・」
「ハナちゃんフキゲンだけど、今日もミャーさんに会えるからがんばろ☆」
「な、別にお姉さんは関係ないでしょ・・・。でも、今日のお菓子はなんだろう・・・楽しみ」
「気がはやーいω まだ一日始まったばかりだよー?」
「よーしみんな、学校までもうちょっとだからダッシュするぞー!」
「あーん、待ってよーヒナタちゃーんω」
♪ wo ist die käse?
──孵る 孵る 卵が孵る
──生まれいずるは 希望? 絶望?
──少女の卵は孵らない 孵ることすら叶わない
──孵らなければ 希望はない さすれば必然 絶望もない
──最後に残った道標 それに縋った一人の少女
──結果生じる「それ」は
──はたして少女たちに 何をもたらすのか
── 魔法少女まどか★マギカ 十周年記念祝賀公演 ──
~私に天使が舞い降りた! feat. 魔法少女まどか★マギカ~
【 絆 】
【天使編
01】
01
七月三日(水) 一五:四〇
キーンコーンカーンコーン・・・
「みゃああああぁぁぁぁぁねぇぇぇぇぇぇぇぇぇeeee」
「ヒーナタちゃーん、待ってー
ω」
「ちょっとひなた。 ・・・お姉さんのお菓子は私のだから」
一日の授業が終わって、下校時間になりました。
ひなたちゃんたちは今日もみやこおねぇさんといっしょに遊ぶみたいで、ホームルームが終わったらドップラー効果を発生させながら一目散に走っていっちゃいました。
♪ Scaena felix
「かの。今日は私、お母さんとお出かけなのよ」
「そうなんだー。楽しんできてね」
「うん、ありがと。・・・だから、ごめん。お届け物はお願いしちゃってもいい?」
「いいよー こういうとき、学級委員が二人いてよかったって思うなー」
今日はうちのクラスでお休みの子がいたので、プリントなどをその子のおうちまで届ける必要がありました。その子はお隣の見滝原市との市境にある、かなり遠くの集団住宅地から登校していました。
本当ならその地域は見滝原市の学校のほうが近いんですけど、天舞市に住んでいるので学区的にこちらの学校に通っているみたいです。
普通、お休みの人と同じ地域から通っている子にお届けをお願いするプリント類。でも、その子の地域は遠いので他にその地域から通っている子はいませんでした。
その為、私たち学級委員が届けに行くことになったのでした。
「私もかのと一緒に行きたかったのに。残念だわ・・・」
そう言って、よりちゃんは渋々ひとりで下校していきました。
教室の窓から校庭を歩くよりちゃんを見つめます。
心なしかしんなりしているように見えるよりちゃんの長い髪。目で追っていましたが、校門を出ると見えなくなっちゃいました。
私もよりちゃんと一緒に行きたかったですけど、仕方ありません。意を決して椅子から立ち上がります。
「・・・よし。ひとりでもがんばろう」
みんな下校してしまって誰もいない教室を一通り見回して、忘れ物や落とし物がないことを確認します。
お休みの子に手渡すプリントなど一式がランドセルに入っていることを確認して、学級日誌を職員室の先生に届けて。
昇降口でお靴をはきかえると、ゆっくりと南の方に向かって歩いていきます。
いつもは学校から北に上り、最初に見えてくるひなたちゃんとノアちゃんのおうちを過ぎて、次に見えてくる花ちゃんのおうちも過ぎた先にある私たちのおうちまで帰ります。
最近はみんなでひなたちゃんのおうちにお邪魔して、みやこおねぇさんとみんなで一緒に遊ぶことが増えました。クラスでの噂通り、きれいでいろんなことができる素敵なおねぇさんです。
私もお菓子の作り方を教えてもらったり、いろいろとお世話になっているおねぇさん。今日もひなたちゃんたちとわいわい遊んでいるんだろうなぁ。
みんなのことを思い浮かべながら二十分くらい歩くと、大きな川の河川敷に着きました。周りには視界をさえぎるものは何もなく、遠くに目的の集団住宅地が見えました。
「・・・あの団地かな。えっと、何号棟の何号室だったかな・・・」
スマートフォンにメモしておいた住所を開いて建物とお部屋を確認します。すぐ近くの建物みたいです。
♪ Warning #1
コッ コッ コッ・・・
まだ照明がつくには早い時間。ちょっと薄暗い階段を上ってその子のおうちのドアまで移動します。
履いているローファーの足音が、階段を上るときに不気味に響いて心細くなります。
平日の昼間ですけど、建物は静まりかえっていてちょっとだけ薄気味悪く感じました。
ピンポー・・・ン・・・
♪ Desiderium
「・・・はーい」
「小之森です。学校のプリント、届けにきました」
「あ、かのんちゃん? ちょっと待ってね」
持ってきていたマスクを着けて、じっとりとした額の汗をハンカチで拭っていると、カチャリと音がしてドアが開きました。
開けてくれたのはお休みしているクラスの子、瀬戸内アリスちゃん。熱があるのか、パジャマ姿でおでこに熱を冷ますジェルが貼られていました。
ノアちゃんと似たような淡い金髪が、少しだけジェルに挟まっているのはご愛敬だと思います。
「・・・あれ? おうちの方は?」
「お仕事休めないんだって。夏風邪だしそんなに高い熱じゃないから、静かにしてたら大丈夫」
玄関からリビングに通してくれて、冷蔵庫に入っていた麦茶を入れてくれました。
マスクをして小さな咳をしているので心配ですけど、動き方はしっかりしているのでそんなにひどい風邪じゃなさそう。ちょっとだけほっとします。
「ありがとう。横になっていた方がいいよー?」
「うん、ありがとう。そうするね」
素直に奥のベッドに横になってくれました。よりちゃんだったら「大丈夫よ!」って言って素直に横になってくれないので、助かります。
ちょっとだけ汗をかいていたようなので、体をふいてパジャマを着替えるのをお手伝いします。
横になってもらって掛け布団をかぶせてから、タオルと脱いだパジャマを洗濯カゴに入れます。
「かのんちゃんありがとう。すごく手際がいいね」
「よりちゃんので慣れてるから、かなぁ」
「あはは、こよりちゃんといっしょだといろんな経験できそうだよね」
「えへへ・・・ ご飯は食べられてる?」
「うん。レトルトのおかゆ温めて食べてるから」
「そっかぁ・・・」
レトルトのおかゆは確かに水分もとれるし用意するのも楽です。でも、それだけだとちょっと栄養が足らないかも。
私だったらおかゆに卵をいれたり、ほうれん草のおひたしを作ったりして食べてもらうところだけど、冷蔵庫は勝手に開けられないし・・・。
「・・・かのんちゃん、来てくれてありがとう。なんだか元気になったよ」
「それならよかった。あ、これ授業のプリントと、給食で出たプリン」
「ありがとう。あとで食べるから、テーブルに置いておいてもらえる?」
「うん。いいよー」
プリンをテーブルに置いて、プリントもその隣に置きます。
花ちゃんだったら風邪引いててもその場で食べるだろうなぁ。
なんてことを考えながら、学校でのこととかをちょっとだけ雑談しました。
「ほわー そんなことがあったんだ。さすがこよりちゃん。・・・あ、もう薄暗くなってるね」
「もうこんな時間なんだー。おしゃべりしてるとあっという間だね」
「引き留めちゃってごめんね。かのんちゃんいてくれるとなんだか安心しちゃって」
「そ、そう? えへへ・・・」
「今日は来てくれてありがとう。早めに風邪治せるように頑張るね」
「うん。無理しないように、お大事にしてね」
使った麦茶のコップをさっと洗って食器のカゴにいれて、ご挨拶をしてお部屋を出ました。
♪ Puella in somnio
さっきよりも薄暗くなっていましたけど、お空は夕焼けで染まっていて。四階の通路からはかなり遠くまで見通せました。
川沿いの集団住宅地から川に橋が架かっていて、その先に複雑な形をした黒っぽい建物────工場のようなもの────が見えました。
私の生活している場所にはない、異質な構造体。
なんとなく、その工場が気になってしまって。
よりちゃんがいなくて心細いはずなのに、非日常的なその黒い塊への好奇心が勝ってしまった私は、まるで重力に抗えない塵芥のように吸い寄せられていったのでした。
【天使編
02】
02
七月三日(水) 一七:三〇
♪ Umbra Nigra
ヒュウゥゥ・・・ ビュオオォォォ・・・ ォォォォ・・・
「・・・。うぅ、寒い・・・」
初夏だというのに身を切るように冷たい風が吹きすさぶその工場には、不気味な風のうなり声が響きわたり、沈みかけで血のように濃いオレンジ色の夕日が真横から射していました。
あまりにも濃いその夕日は、まるでべっこう飴のようで。
触れるだけで絡め取られてしまいそうな粘度の高い光の層でした。
その強い夕日に照らされる工場は、まるで血糊のようにべったりとした黒い影を地面に這わせていました。
「・・・なんだろう。すごく、怖い・・・」
ぞわぞわと、体を這うような不快感を感じて恐ろしくなった私は、急いで帰ろうとして踵を返しました。
その時────。
白くて小さな生き物──雪兎のような──が、視界の端を横切るのが見えました。
【魔法少女編
01】
03
七月三日(水) 一七:二五
♪ Touchi─And─Go
ダー・・ン・・ ダーン・・・
タタッ カン カン カン カン カンッ
私は暁美ほむら。
インキュベーターの企みを知り、まどかを救う──ワルプルギスの夜を倒す──為に奔走する時間遡行者。
「ハッ ハッ ハッ・・・」
「・・・・・・・・・!」
ダギューン ダンダンダン! ダーン・・・
隣町の天舞市と隣接する工場で、インキュベーターを始末する。
一匹は仕留めたけれど、複数いるこいつらはなかなかしぶとい。
タタタッ カン カン カンッ
インキュベーターは人目のつきやすい工場の敷地外に出ようとしている。
このままでは逃げられてしまうと判断した私は、魔力で補正して精密狙撃をすることにした。
キュー・・・ン・・・ ダーーーーン!
「!」
サッ
キューーーーーンン・・・ キュン カン キィン・・・
「外した!? この距離で・・・っ くっ・・・!」
インキュベーターが不意に体を翻し、弾を避ける。
あいつを仕留めるはずだった弾丸は工場のダクトやパイプで跳弾しながらいずこかへ消えていった。
魔力を出し惜しみせず、時間停止して仕留めるべきだったと省みた、その時。
「っ! きゃああああああぁぁっっっ!!」
「悲鳴? ・・・こんなときに・・・っ」
【魔法少女編
02】
04
七月三日(水) 一七:三二
カンカンカンカン カンッ
開けた場所に、一人の少女が横たわっていた。
地面は夥しい鮮血に濡れてコールタールのように大きな染みを作っていた。
♪ Terror Adhaerens
「・・・! 大丈夫? しっかりしなさい!」
「はっ はっ はっ」
「呼吸が浅い・・・。まさか、さっきの跳弾で? 弾創は・・・」
魔力を込めていたこともあり、殺傷能力が異常に高くなっていた弾丸によって少女の左の大腿部は大きな風穴が開いており、破断した骨が剥き出しとなっていた。
その白く細い大腿部は、二センチメートルほどの内腿の筋により辛うじて繋がっているような状態だった。
周囲にむせかえるような血の匂いが充満する。
大きく抉れている左の大腿部から、拍動と連動してドクドクと血が噴き出している。少女の呼吸は浅く、多量の冷たい汗をかいており、皮膚が白い。
出血性ショック死寸前の状態だった。
私はインキュベーター追跡を諦め、少女の処置をすることにした。
「・・・死なせはしないわ。安心しなさい。ゆっくり呼吸をするのよ」
あまり使い慣れない他者の回復。自分の傷を癒すイメージを応用し、少女の大腿部に左手を添え魔力を込める。
ただし、傷口は塞がず痛覚を遮断するだけ。
そして私の固有魔法である「時間遡行」の力を使う。弾丸が少女の大腿部に進入・貫通し、周囲の体組織が破滅的なダメージを受けた際の明瞭なイメージを組み立て、損傷部のみ逆ベクトルに時間を進める。
加えて、体外に放出された多量の血液及びそれら周辺の体組織も時間を巻き戻す。
地面の砂や制服、髪などと混じり合い、空気に触れたことで酸化して泥のように変質した少女の血液。
弾丸により焼け焦げ炭化した筋肉、地面のアスファルトに飛び散り同化した皮膚組織・神経繊維などの体組織。
それらの時間を巻き戻すことで分離し、炭化・酸化した組織を修復し、体内に存在していた時と同じ綺麗な状態に戻して傷口から体内へと還してゆく。
地面に作られた大きな血だまりがみるみるうちに少女の大腿部に吸い込まれていき、最後に傷が塞がれていく。
しばらくして辺りに静寂が戻る。先程までの血みどろの惨状が幻かのように、横たわる少女の呼吸は穏やかで表情からも苦痛が消えていた。
「ふぅ・・・。しばらくすれば目を覚ますでしょう」
立ち上がり、その場を離れようとする。
亜麻色の髪の少女を一瞥し、踵を返そうとした。
しかし────。
「・・・。 ・・・私はもう、人間ではないのにね・・・」
自分が撃った罪のない少女をそのままにしてはおけない。
そう思った私は、少女が意識を取り戻すまで自宅で保護することにした。
【魔法少女編
03】
05
七月三日(水) 一八:〇六
♪ Signum Malum
できるだけ人目に付かない道を選び、深い眠りに落ちている少女を両腕で抱えて自宅へ戻る。
人通りの多いところや防犯カメラのある場所は時間を止めて瞬間移動しながら、無事誰にも目撃されることなく帰宅することに成功した。
盾の中に少女を収納して運ぶこともできたけれど、爆弾や弾薬が飛び交う空間に生身の人間を放り込めるほど、まだ私の人間性は失われてはいない。
シュル・・・ ファサ・・・
休息は椅子に腰掛けて取ることが多い為、あまり自分では使わないベッドに少女を横にさせる。
あどけない面影を残すいたいけな少女。見た目から恐らく小学三・四年生くらいだろう。その白と青の制服から天舞市の私立小学校に通っていることが分かる。
少女が苦しくないように枕の位置を調整し、軽めの毛布を胸元まで掛ける。
引き続き安らかな寝息をたてている少女をしばし見つめてから変身を解き、一息つく。
客人など招き入れたことのない無愛想な部屋。火薬の匂いが立ちこめる部屋の中にはおよそ年頃の少女が飾るような愛らしいオブジェなどない。
ワルプルギスの夜の出現予測地点を割り出す為の統計情報、拳銃と弾倉の山、そして某所より「拝借」してきたAT4などの兵器のみ。愛くるしい少女を迎え入れるには似つかわしくない殺風景な部屋を見やり、かぶりを振る。
ひとまず少女が目を覚ました後の対応に集中できるよう、先にシャワーを浴びておくことにした。
【魔法少女編
04】
06
七月三日(水) 一八:一九
サアアァァァァ・・・
♪ Amicae Carae Meae
風呂は命の洗濯である。そういう言葉をどこかで聞いた記憶がある。
魔法少女となり、魂を抜き取られてしまった今でもシャワーは以前と同じように心地よく感じるのだから皮肉なものだ。
左手の中指にはめているリング────紫色の宝石がついている────を見つめながら、五感で捉えられるものはすべて幻想でしかないと自分に言い聞かせる。
まったく、よくできている。インキュベーターの持つ技術力だけは素直に感心する。
言われなければ・・・いえ、言われても尚、この宝石が私のすべてであることなど実感できないのだから。
肉体は飾り。でも、食事であろうと魔力であろうとエネルギーを補給して生命活動を維持しているのであれば新陳代謝が起き、役目を終えた細胞が剥離していくのは必然。
汚れていても目的遂行には何ら支障はないのだけれど、あの子が────まどかが────そばにいると何故か気になってしまう。
だから仕方なくこうしてシャワーを浴びている。ただそれだけのこと。
キュッ・・・ パタン
シャワーを浴び終え、浴槽には入らずそのまま出る。
長い髪────。以前はこれをシャワー上がりに乾かすことが憂鬱だったのだけれど、今は魔法で整えることができる。
指輪に魔力を込め、普段の手癖と同じように髪の根元から先端までをなでる。
シュアアァァァ・・・ ファサァ・・・
これで髪の乾燥は完了。
魔法少女になってから、日常において一番便利になったと感じることかもしれない。
ついでに全身の水分も魔力で飛ばす。ゆえに、タオルの類は今の私には必要なかった。
巴マミは「人間だった頃」の習慣が身についているのか、はたまた魔力を温存しているのか、未だに
タオルドライをしている。
確かに拭き上げれば済むことではあるから、魔力の無駄遣いと言われてしまえばそれまでなのだけれど。
シュッ シュッ・・・ スルリ
下着は学校指定のものがなかった為、特にこだわりもなく白の上下を身に着けている。
下はともかく、この体型で上は必要なのかと自分でも思う。サラシでも巻いておいた方が防御力が上がるのではないかと思うのだけれど、何回か前のループの時にまどかから止められたことがある。それ以来素直に下着は着けるようにしている。
見滝原中学の制服と、黒のカチューシャを着けたところで、それは起きた。
♪ Anima Mala
「あっ ああああああぁ うあああああああああっ!」
状況を察した私はベッドまで飛んでいくと、声の主を観察する。
うずくまって自らの両腕を手繰り寄せるように掻き抱いている少女。
先程までの天使のような寝顔とは打って変わり、死を前にしたかのような蒼白な表情となっていた。
大量の涙と冷や汗で、少女のスカートには大きな染みができている。
「大丈夫。大丈夫よ。落ち着いて」
「ああぅ うあああぁぁ・・・!」
「しっかりして。あなたの左足は無事よ」
「うっ うぅ・・・」
意識を失う直前に感じていた激痛がまだ続いていると思っているのだろう。一種の体の防衛反応であるから仕方のないこと。
私は少女の正面から両腕をさすって説得していたけれど、それだけでは不足していると判断しそのまま少女の頭を胸に抱き込んで落ち着かせる。
こういうとき、もう少し温かく柔らかい体だったらなどと考えてしまう。
「・・・・・・あ・・・・・・ え・・・・・・?」
「大丈夫。もう大丈夫よ。あなたが気を喪っている間に、足は治癒したわ」
「・・・痛く、ない・・・。・・・・・・?」
「そう。痛くない。大丈夫だから安心しなさい」
極限まで力が入り硬直していた少女の体。けれど、今はそれも弛緩して支えていないとベッドに崩れ落ちてしまいそう。
よかった。短時間で状況を理解し、沈静化してくれたようだ。見た目に寄らず、状況判断力が高く心がしっかりしているようだ。
少女は反射的に私の背中に回していた両腕をぱっと離すと、ベッドの上で後ずさり、距離を置いた。
そして、正座をしながら私のことをまじまじと見つめてくる。常に瞳を閉じていた為分からなかったけれど、その柔らかく穏やかそうな亜麻色の髪と煌めく瞳が印象的だった。
「えと・・・ 危ないところ、助けていただいてありがとうございました」
先程の悲鳴とは打って変わり、その声は穏やかで相手を包み込むような包容力がある。
小学三年生くらいに見えるけれど、その相手を問わず包み込むような母性は既に私を遥かに超えているように思えた。
「いえ・・・。それより色々と説明したいことがあるのだけれど、いいかしら」
「はい。私も知りたいので、お願いします」
「では、少し待っていて。お茶の用意をしてくるわ」
「ありがとうございます」
礼儀正しく、母性溢れる・・・けれども小学三年生くらいの少女。
存在自体が矛盾の塊のような人物と会話するのは嫌いではない。それに責任の所在含めてこの子には事実を伝えないと。
魔法少女以外の誰かと────それも自分より年下の少女と────お茶会なんて初めての経験だけれど。
事実を伝えることの憂鬱さよりも、この穏やかで愛くるしい少女とのお茶会に高揚感を強く感じながら、私はキッチンへと移動していった。
【魔法少女編
05】
07
七月三日(水) 一八:四六
「────そんなことがあったんですね」
「ええ。巻き込んでしまって、ごめんなさい」
あいにく紅茶を切らしていて、インスタントコーヒーしかなかった。子どもにあまり濃いコーヒーはよくないと思い、アメリカンの更にアメリカンにしてスティックシュガーと多めのミルクを入れた。少女はそれを喜んで受け取ってくれ、冷え切った体を温かい飲み物で癒していた。
私は簡潔に事実を伝えた。それだけでは理解できず質問の嵐が起こると想定していたのだけれど、少女からは特に質問はなかった。
目の前の少女は意外にも、驚いたり恐怖したりする様子はなかった。今の説明で私が銃刀法違反をしていること、あまつさえそれで自分が撃たれたことを理解したはずなのに。まだ感覚が麻痺しているのかもしれない。
「いえ。見捨てず助けていただいて、こうして保護までしてくださって、ありがとうございます」
少女は頭を下げながらそれだけ言うと、両手で包み込んでいるカップを見つめて静かになった。茫然自失という様子ではなく、私の説明を反芻して何かを必死に理解しようとしているようだった。
♪ Quamobrem?
「・・・いくつか、聞いてもいいですか?」
「ええ。納得するまで説明するわ」
「その・・・。どうしてほむらさんは、あのような人気のないところにいたんですか?」
「私がターゲット・・・インキュベーターをあそこまで追いつめたからよ」
「いんきゅべーたー・・・というのは」
「年頃の少女を誑かして、魔法少女として契約させようと迫る変質者・・・というより宇宙人・・・地球外生命体ね。生命体であるかどうか怪しいけれど」
「ちきゅうがいせいめいたい・・・ えっと、魔法少女?」
「ええ。私のことよ」
私はその場で魔法少女として変身をしてみせる。常人には瞬時に早着替えをしたようにしか見えないだろうけれど、それ以外に説明のしようがなかった。
普段、自らが魔法少女であることは伏せている。あらぬトラブルに巻き込まれる可能性があるからだ。しかし、今回は少女の方がトラブルに巻き込まれた側。こちらも包み隠さずすべてを説明しなければならない。
「わ・・・ 一瞬、紫色に光って・・・お着替えしたんですか?」
「・・・まぁ、そうね。魔法少女として変身しただけだけれど」
「その魔法少女さんは何をしているんですか?」
「魔女や使い魔といった、目に見えない災厄を根絶して回っているわ」
「世のため人のため、なんですね。大変そう・・・」
「いえ。私利私欲の為よ」
頭に大きな「?」を浮かべるかのように、小首を傾げる少女。
その愛らしい仕草に、私は自分からもう少し分かりやすく説明をしようと口を開いた。
「魔女を倒せば魔法少女にとっても見返りがあるのよ。これがそれ」
「黒い・・・ 何かのオブジェですか?」
「これは
グリーフシード。その名の通り災厄の種。魔女を倒すとこれを落とすことがあるのだけれど、放置しておくと新たな災厄の火種になるのよ」
「手に持っていて、大丈夫なんですか・・・?」
「ええ。これ自体は安全なものよ。そして、私たち魔法少女の穢れを祓ってくれる貴重なアイテムでもあるわ」
「けがれ・・・?」
「インキュベーターと契約した魔法少女は、例外なくこのソウルジェムを持つことになる。戦うことでソウルジェムに穢れが溜まって濁っていくけれど、その穢れをこのグリーフシードは・・・」
少女の目の前で、私は自らのソウルジェムにグリーフシードを近づける。
ソウルジェムから黒い澱のようなものが浮かび上がり、それがグリーフシードへと吸い込まれていく。
「・・・このように、ソウルジェムを綺麗な状態にしてくれるの。ソウルジェムが穢れて濁ると魔法少女の動きが鈍くなるし、魔法もうまく使えなくなっていくわ」
「透き通るようにピカピカに・・・。重曹のようなものなんですね」
「重曹・・・ まぁ、そうとも言えるわね」
重曹のように無害なものではないのだけれど。
というより、そんなキッチン用品のような朗らかな話ではないわ。
「魔法少女さんは魔女と戦って世界を救っている。戦うと、宝石が濁ってしまうので、魔女の落とすグリーフシードでそれをきれいにする。きれいにしないと戦えなくなる・・・」
亜麻色の髪の少女はそう呟くと、納得したような顔になった。先程の説明だけでそれが理解できるのだから、見た目に寄らず聡明なようだ。
しかし、すぐ眉が下がってしまい、小首を傾げる。また分からないことが出てきたようだ。
「・・・先程のいんきゅべーたーさん、というのは魔法少女さんを増やす活動をしているんですよね」
「平たく言うとそうね」
「平和の使者ということになりそうですけど、どうしてそれを追いつめていたんですか?」
そこを理解してもらうには、本当にすべてを話す必要がある。
時間を確認すると、午後七時になろうとしていた。小学生が外を出歩いていていい時間ではない。
「あなた、時間は大丈夫なの? もう遅いわよ」
「うちは今日、おかぁさん帰ってくるの遅いので大丈夫です。 あ」
「どうしたの?」
「ごめんなさい。そういえば自己紹介がまだでした」
言われて気づく。
お互い、誰なのか分からないまま結構な時間をおしゃべりしていたことになる。
まったく間抜けな話ね。
「私は暁美ほむら。インキュベーターと契約した魔法少女よ」
「小之森夏音です。天舞市に住む小学六年生です」
「え・・・ あなた・・・、小学六年生なの?」
「はい。ほむらさんは高校生ですか?」
「・・・いえ。中学二年よ」
初見で小学三年生くらいだろうと思っていたけれど、それよりずっと上だった。
私としたことが年齢を見誤るなんて・・・私と大差ない年齢のようだ。
「とても大人びていてかっこいいので、もっとおねぇさんなんだと思っていました。意外と歳が近いのでなんだか安心しました」
屈託のない笑顔を私に向けてくれる。
きっとこの子の住む天舞市には日頃から愛が溢れているのだろう。
♪ Sis Puella Magica!
────天舞市。見滝原市の北西に隣接する市だけれど、私たち魔法少女にとってはそれ以上に特異な市として知れ渡っていた。
原理は分からないけれど、天舞市にはインキュベーターは入り込めないらしく、これまで天舞市出身の魔法少女は一人もいない。
感情がないはずのインキュベーターも「わけが分からないよ」と不満そうにしていたが、天舞市自体はそれほど大きな市ではない為目をつぶっているというのが実状のようだ。
インキュベーターの科学力は現代の地球のそれを遥かに上回っている。それにも関わらずどんなことをしてもインキュベーターたちが潜入できず、それどころか潜入できない理由すら分からないというその特異性。
私たち魔法少女から現代の聖域として神聖視され、中には羨む魔法少女がいる程度には特異な町であることは間違いなかった。
南に広がる神浜市も「自動浄化システム」と呼ばれるフィールドが存在している。
あれもインキュベーターの侵入を防ぎ新たな魔法少女が生まれない仕組みを提供し、システムが作られる前に契約した魔法少女の穢れを「ドッペル」を用いることにより浄化する画期的なもの。
天舞市と似たような働きをするが、神浜市には魔法少女も魔女もウワサもキモチも存在し、日々諍いが起きている。
しかもその「自動浄化システム」自体が問題をはらんでいる。システム構築の為のエネルギー源として神浜市周辺の街から魔女を強制的に誘導してきた為、その周辺の街(二木市など)では魔女が枯渇してしまった。
結果として、そこに住む魔法少女はグリーフシードを得られなくなった為、生き残るために魔法少女同士での血生臭い殺戮が繰り返されたと聞く。
そのような血塗られたシステムに頼ることなく、存在自体が「聖域」である天舞市は、戦いに明け暮れる私たち魔法少女から見ればさながら「別の世界の街」と言える────。
「・・・ほむらさん、大丈夫ですか?」
「あ・・・ ええ。ごめんなさい。少し長くなるけれど、魔法少女とインキュベーターの関係について話すわね」
【魔法少女編
06】
08
七月三日(水) 一九:〇三
「まず基本的なこと。魔法少女としてインキュベーターと契約できるのは、この惑星では第二次性徴期の少女だけよ」
♪ Inevitabilis
コーヒーの入ったカップを片手に、リラックスした状態で説明を始める。
私も魔法少女についてこれほど落ち着いた状態で、かつ時間をかけて誰かに説明をしたことはない。
目の前の少女の持つ独特な温かさがそうさせるのだろうか。これから話す内容にそぐわず、私はかつてないほど穏やかな気持ちで臨んでいた。
「つまり、私たちくらいの年齢の女の子だけが魔法少女になれる、ということですね」
「そう。第二次性徴というのは学校で習ったわよね」
「はい。大人になるための心と体の変化のこと、ですよね」
「人により始まる時期は千差万別。小学三年生くらいから変化が起きる子もいれば、高校生になっても起こらない子もいる」
「そうみたいですね」
「それもあり一概に「何歳から」とは言えないのが特徴。でも、微かに胸が膨らみ始めた程度であっても、第二次性徴が始まっていればインキュベーターとの契約は可能よ」
「そうなんですね・・・。その、私も、周りのお友だちも、まだ目立った変化は起きていないんですけど・・・」
やはり体のことになると恥ずかしいのだろう。目の前の少女は両手で胸を押さえ、頬を染めてやや俯いている。
契約の資格があるかどうか、否応なく分かる指標がある。その点を確認してみる。
「小之森夏音。あなた、インキュベーターを見た?」
「えっと、あれがそうだったのか分からないですけど、白くて小さな雪兎のような動物が横切ったのは見えました」
その直後、この子は私の跳弾に倒れた。
そのことを思い出しているのか、両手を膝の上に置きキュッと固く結んでいる。
「そう・・・。あなたも契約する資格はあるようね」
「そ、そうなんですか・・・?」
「インキュベーターの姿は契約の条件が揃っている人、既に契約している人にしか見えないの」
「それじゃあ、あの時の雪兎が・・・」
「雪兎なんてかわいいものではないけれど、確かにあの白いのがインキュベーターよ」
少女は呆けたような顔でぼんやりと虚空を見つめている。
無理もない。魔法少女などという空想の産物でしかない存在に、自らもなれる可能性が開けたのだ。
少女はしばしその事実に浸っていたが、すぐに気を取り直すと背筋を伸ばして椅子に座り直した。
「えと これまでのお話をまとめると・・・。いんきゅべーたーさんは地球に来ている地球外生命体で、第二次性徴期の少女と契約して魔法少女を増やしている・・・」
「魔法少女として契約した子は、魔女と戦うことになる。戦うとソウルジェムが穢れていってしまうので、魔女の持っているグリーフシードで穢れを祓う必要がある・・・」
「その通りよ」
非常に理解力が高いので驚く。何もメモを取ることなく、口頭で説明するだけで理解できているようだ。
それであれば、その先に待ち受ける疑問も手に取るように分かる。話の流れを切らないよう、先回りして伝える。
「それだけであればインキュベーターは無害よ。でもね」
「は、はい」
「インキュベーターは何を目的として魔法少女を増やしていると思う?」
「目的、ですか・・・。平和の使者としてこの星に来ているなら、世界平和、宇宙平和のため、でしょうか・・・」
なるほど。その説を信じることができれば、どれほど心が穏やかになることか。
それにしても、この少女は性善説で物事を捉えがちなところが心配になる。年頃の少女なのだから、周囲の大人は性悪説でのものの見方も教えるべきではないだろうか。
「・・・発想を転換しましょう。まず、インキュベーターは正義の味方ではないわ。誰の味方でもなく、彼らは彼らの目的を遂行する為にこの星に来ているのよ」
「そ、そうなんですか」
「その前提に立って考えてみて。インキュベーターには私たちが魔法少女となることで利することがあるということ。それは何だと思う?」
「ううーん・・・。私たちが魔法少女になることで、いんきゅべーたーさんが得をすること・・・」
少女は目を閉じて、苦悶の表情を浮かべている。
実際にはそこまで苦しそうではなく、かわいらしくうんうん唸りながら考えを巡らせているようだ。
「・・・魔法少女として活動することで、何が起こるかというと・・・魔女を倒すわけだから、世界が平和になっていくのは確かで・・・」
「でも、戦うのが怖くて戦えない子もいると思うから、そういう子と契約してもいんきゅべーたーさんは特に問題がないというか、魔女を倒さなくても契約するだけでお得なことがある・・・」
その着眼点に自力で辿り着くことができることに、驚きを隠せない。
突き詰めれば確かにそこがポイント。「魔法少女として契約すること」が重要であって、「魔法少女としてどのような活動をするか」はインキュベーターにとって重要ではないのだ。
魔法少女になり、戦わずに時を過ごしたケースで考えている少女。改めて平和主義者のようだ。
「魔女を倒さないとグリーフシードが手に入らない。グリーフシードが手に入らないと、魔法少女は・・・ あれ、魔法少女はどうなってしまうんでしょう」
「ソウルジェムが濁りきると、魔女になるわ」
「魔法少女は穢れを祓えないと魔女になる、と・・・」
そこを意外とあっさり受け入れてしまうのね。
これまでの言動と一致しない少女の反応に、少し違和感を感じる。
「・・・・・・え? 魔女になっちゃうんですか? 魔法少女が?」
「・・・ええ」
慌てふためく少女を見て、私は何故か安堵する。
少し天然というか、間がおもしろいというか、若干抜けているようだ。
「魔法少女が絶命するケースは二つ。ひとつは魔女との戦闘でソウルジェムを砕かれてしまうこと。もうひとつはソウルジェムが穢れで濁りきることで魔女化することよ」
「魔女って、魔法少女が戦っている相手、ですよね・・・?」
「そうよ。私たち魔法少女は戦えなくなってグリーフシードを入手できなくなると、それまで戦ってきた存在──魔女──として生まれ変わるわ」
「そんな・・・」
「そしてそれがインキュベーターの目的でもあるの」
「どうして・・・ いんきゅべーたーさんはどうしてそんなことを」
今にも泣きそうになっている少女は、目に涙を湛えながら魔法少女の運命に思いを馳せているようだった。
「正確には魔女化することというより、魔女化するときに生成される膨大なエネルギーを回収することなのだけれど・・・ほぼ同義よね」
「うぅ・・・ 魔法少女さんがかわいそう・・・。自分の信じた祈りで戦ってきたのに、最後には倒される側になってしまうなんて・・・」
「・・・私がインキュベーターを駆除しようとする思い、分かってもらえたかしら」
「はい・・・ でも、どうして今でも魔法少女になる子が絶えないんでしょう。最後にはそうなってしまうと分かっていたら、契約しようとなんて思わないはずなのに」
少女はスカートからハンカチを取り出して涙を拭っている。
その世を憂う姿が、以前聞いた佐倉杏子の父親と重なって見えた。
この子は聖職者が向いているかもしれない。
「インキュベーターはその不都合な真実を隠して契約を迫ってくるわ。あなたももし天舞市から出て行動することがあるなら、インキュベーターの標的になるから注意することね」
「はい・・・」
そして私は長い髪を一掻きすると、少女と正面から向かい合う。
手を膝の上で揃えて、軽く頭を下げる。
「ごめんなさい。あなたを撃ったのは私。痛い思いをさせてしまって、申し訳なかったわ」
「い、いえ・・・。確かにとっても痛かったですけど、それも新しい魔法少女を、新しい犠牲者を出さないためにしたことですし」
「ごめんなさい・・・」
「あの場に放置しないで助けてくれて、とても嬉しいです。どうか頭を上げてください」
言われて、元の体勢に戻る。
少女を見ると、相手を包み込むような穏やかな表情をして──聖母のような佇まいで──私に手を差し伸べていた。
つられて手を取ると、少女は私の片手を両手で包み込み温めてくれた。
「ありがとうございます」
「夏音さん・・・」
久しぶりに。本当に久しぶりに。
誰かと触れ合って心がほぐされた気がした。
【魔法少女編
07】
09
七月三日(水) 二〇:〇五
「もう時間も遅いですし、だいじょうぶですよぉ」
「いえ、ちゃんと送るわ。発端は私のミスだから」
♪ Fateful #1
玄関でそのような会話をして、二人で家を出る。
本心では少女に泊まっていってほしかったけれど、明日も学校があることから我慢した。
私、出会って間もない少女に依存しかかっている。こんなこと、まどか以外になかったことなのに。
「その・・・ 傘、ありがとうございます」
「風邪でも引いたら大変よ。遠慮しないで」
いつの間にか雨が降り出していた。この時季は俄雨が多い。
雷鳴は聞こえてはこない。今日はこれ以上、少女を怯えさせたくはなかったから好都合。
少女は傘を持っていなかった為、私の傘を渡して使ってもらっている。
私は雨に濡れようと風邪など引くことはないから、少女の隣を傘もささずに歩いている。
サァァァ・・・
ポッ ポッ ポツッ・・・
ふと雨音が変わって隣を見ると、少女が背伸びをして私の上に傘を差し向けてくれていた。
「ほ、ほむらさんが風邪をひいちゃったら、大変、なの、で」
腕をまっすぐ伸ばし、辛い体勢なのかプルプルと震えながら傘を持つ少女。
私のことを心配してくれるのね。まったく、お人よしで甘い子だわ。
パッ・・・
「あ・・・」
スッ・・・
少女から無言で傘を奪い取ると、そのまま少女の頭上に傘を掲げる。
背の高い私が持った方が少女は楽なはず。できるだけ少女の側に傘を差し向け、いたいけな少女が濡れないように努める。初見で小学三年生と見誤ったのは、あまりにも少女の身長が小さかった為。恐らく私と十五センチメートルほど差があるように見える。変身する前のまどかよりも、若干小さい程度の小柄さで。
ただ、今はその身長差が功を奏し、私は楽に少女の頭上に傘を掲げることができている。
「えへへ・・・ ありがとうございます」
少女は恥ずかしそうにはにかみながら、私に寄り添うようにして傘に入ってくれた。私は久しぶりに感じるくすぐったいような気持ちを振り払うように、眉間に力を込めながらひとつ咳払いをする。
「・・・くどいようだけれど、何があってもインキュベーターと契約してはダメよ。契約してしまったら、この世の地獄を味わうことになると肝に銘じておきなさい」
「は、はい」
「困ったことがあれば駆けつけるわ。これは私の連絡先」
「あ、ありがとうございます。えっと・・・」
「いいのよ。これにかけてくる人はごく数人しかいないから、登録されていない番号はあなただと考えることにするわ」
電話番号をメモした紙を少女に渡す。スマートフォンを取り出そうとあたふたしていた少女はそれを素直に受け取ると、大事そうにスカートのポケットにしまいこんだ。
「・・・あ、そろそろおうちにつきます」
「そう。私はこれで」
「今日は遅くまでありがとうございました」
「こちらこそごめんなさい。それじゃ」
少女を濡れない屋根の下まで送ると、瞬時に変身して盾に傘を収納する。そして家屋やビルの屋上を跳んで移動しながら、今日のことを振り返る。様々な反省点が浮かんでくるが、それよりも少女の温かさのほうが印象に残っていた。
魔法少女として活動していると、どうしても相手の裏の裏を読むことが身についてしまい、陰鬱な物事の捉え方をしてしまうようになる。しかし、私たちくらいの年齢ならば、今日の彼女のようなあどけなさを残していても本来は許されるべきなのだ。
まどか・・・まどかだけが、その暗澹たる陰鬱な日々に一条の光を射してくれる、たったひとつの道標。インキュベーターに騙される前のまどかを救う。それ以外に心が救われる道はない。そう考えていた。
でも────。
「・・・・・・」
今日、少しだけ。ほんの少しだけこの永久凍土のように凍てついた心がほぐされたような気がした。
「・・・もう私は人間ではないのに。不思議なこともあるものね・・・」
次は・・・、次の機会があるか分からないけれど。
彼女を迎え入れる時には必ず薫り高い紅茶を用意しておこうと心に決めたのだった。
【天使編
03】
10
七月四日(木) 一〇:三五
♪ ホッコリタイム
「かの、昨日の夜はどうしたのよ。何度も電話したのに」
「よりちゃんごめんねー 疲れちゃって早めに寝ちゃったんだ」
「まだ完全じゃないみたいだから、今日は早く休むのよ」
「うん。ありがとうー」
「お姉さんの私が添い寝してあげようか!」
「えー だいじょうぶだよー。よりちゃんはしっかり授業うけてね。何かあったら電話してね」
「かの、またお母さんみたいになってるわよ。大丈夫、まかせて!」
昨日のことでとても疲れていた私は、二時間目の授業が終わった後で学校を早退することにしました。学級委員のお仕事をすべてよりちゃんに任せるのはちょっと心配でしたけど、ノアちゃんたちがサポートしてくれると言ってくれたのと、よりちゃんの「まかせて!」という頼もしい言葉と笑顔を信じてお任せすることにしました。
よりちゃんもひなたちゃんたちも、とても心配そうな顔で私を見送ってくれました。
さすがにみんなには昨日あったことを正直に話せません。そんな後ろめたい気持ちもあって、みんなに力なく手を振って学校を後にしました。
まだ午前中ですけど、日差しがとても強くてじりじりと肌が焼かれるよう。日に焼けちゃったらいやだなぁ・・・なんてぼんやりと考えながらおうちまでとぼとぼと歩いていきます。
おうちまで着くころには、汗をびっしょりかいていました。今日の最高気温は確か三十八度。まだ七月に入ったばかりなのに茹だるような外気温でした。
足に張り付くスカートのポケットから鍵を取り出して、ドアを開けます。
「ただいまー・・・」
誰に言うでもなくつぶやくと、ドアを閉めて鍵をかけました。
ぐったりと疲れていましたが、汗だけは軽く流そうと思いシャワーを浴びることにしました。
パジャマと下着を持って脱衣所に移動して、スカートをハンガーにかけます。シャツや下着を脱ごうとしましたが、汗で張り付いてしまってなかなか脱げません。やっとの思いで脱ぎ終わると、しわにならないように洗濯カゴに入れました。
「・・・・・・・・・」
脱衣所の姿見が目に入り、思わず左足のふとももを────昨日鉄砲で撃ち抜かれた場所を────凝視してしまいます。
何もなかったかのようにきれいになっているふともも。でも、じっと見つめていると昨日のことがフラッシュバックしてしまいそうだったので、頭を振って逃げるように浴室に入りました。
温かいお湯を頭から浴びると、お腹の辺りが冷たくなっているような気がしました。
あれだけ暑い中を移動してきたのに。やっぱり昨日のことが────。
いけない。また昨日のことを思い出してしまいそうだったので、余計なことは考えないようにして体を清めることに集中しました。
そう。いつものようによりちゃんと一緒にお風呂に入っている時のことを思い出しながら。
そうすると、ちょっとだけお腹の辺りも温かくなってきたような気がします。やっぱりよりちゃんは頼りになるなぁ。
♪ こよりとかのん
『ふーん。かのはあちこちふっくらやわらかくなってきてるのね。大人っぽくてうらやましいわ』
よりちゃんとお風呂に入っていた時、そんなことを言われたことがありました。それだけでなくその「やわらかい場所」によりちゃんが触れてきて、すごくくすぐったかったことを思い出しました。
よりちゃんだって、うーん・・・。
よりちゃんはあんまり身長は伸びていないですけど、お胸とかはちゃんとふくらんできています。でもそれも数ミリくらいなので、きっと私しかその違いは分からないかもしれません。
よりちゃんはいつも早く大人になりたいと言っているので、きっと早く大人の女性らしい体型になりたいんだろうなぁ。みやこおねぇさんや松本おねぇさんみたいに。
よりちゃんは将来どんな女性になるのかなぁ。もしかしたら急に背が伸びてすらっとしたかっこいい女性になるかも。キリンさんみたいに。
よりちゃんが大人になった時、私はよりちゃんのお隣にいられるのかなぁ。
この間、よりちゃんは私とのことを「ふーふ」だと言ってくれました。どっちが「夫」で「婦」なのか分からないですけど、嬉しくて真っ赤になったことを思い出します。
もしかしたら「婦婦」なのかなぁ。ゆうちゃんの「ママとママ」みたいな感じで。
ふふ、将来どうなるんだろう。楽しみだなぁ。
よりちゃんのおかげでお腹もすっかり温まった私は、浴室から出て体をしっかり拭いてパジャマを着たのでした。
【天使編
04】
11
七月四日(木) 一一:三〇
元々疲れ切っていた私は、シャワーで濡れただるさもあって、うつらうつらしながら寝室へ移動しました。
やっぱりちょっと暑いので、エアコンを弱めにつけてベッドに横になって、夏用の薄掛けをかぶりました。
授業を休んでいる分、本当はお勉強しないといけないんですけど、けだるさで頭がぼーっとしてしまいお勉強できるような気分にはなれませんでした。
「ん・・・ んん・・・ はぁ・・・」
目を閉じればすぐに眠れると思っていましたが、そんなに簡単にはいかないみたいです。
どうしようかなぁ・・・。本を読んだりする気力もないですし、かといって寝てしまえる状態でもないですし。
・・・そういえば、
リリキュアのアニメでまだ見られていないのがあったかも。そのことを思い出した私は、枕の隣に置いてあるタブレットを取り出して電源を入れました。
「あれはたしか・・・エンプラだったかなぁ」
エンプラ──。エンジェルプライムビデオというサービスがあって、うちはおかぁさんが会員登録しているので私も自由に使わせてもらっています。
まだ見ちゃいけないような過激な映画もあるそうなので、そういうのが検索で出てこないようにおかぁさんが設定をしてくれています。
やっぱり、おかぁさんを悲しませたくないですし、うっかりよりちゃんがうちに来た時にそういうのを見させてしまったら大変ですし。
♪ 右往左往
『白く! 輝く! 奇跡の、花! ホワイトリリィ!!』
再生ボタンを押すと、最初のアバンタイトルのところでホワイトリリィが名乗りを上げて変身していました。そういえば、これの前のお話のラストで悪役の怪人さんを廃工場に追い詰めていたのでした。
リリキュアという作品は魔法少女とはちょっと違って、格闘技で戦うことが多いみたいです。なので、キラキラとした魔法が飛び交うような戦い方ではありません。全身を魔法で強くして突撃する感じで、ひなたちゃんが好きそうな戦い方でした。
でもそれは、本物の魔法少女であるほむらさんもおんなじだったので、案外そういうものなのかもしれません。
『世の中の人を困らせる悪は、このホワイトリリィが滅します!』
ホワイトリリィが高らかに宣言すると、全身が白く輝きながら天空へ飛翔しました。その姿はまるで熾天使のようで。
ホワイトリリィの決め技は、目に見えないくらいの超高速で放たれる
「アルティマ・シュート」というキック。
『アルティマ・シュートッ!!』
キィンッ ズドゴオオォォォオンンン
!!
それが怪人にクリーンヒット。威力が強すぎたのか怪人は蒸発するように消滅しちゃいました。ついでに地面には大きなクレーターができていました。直径1キロメートルくらいはありそうです。後片付けは大変そうですけど、今は使われていない廃工場でよかったぁ。
戦いを終えたホワイトリリィはそのままワープをして、普段の生活に戻っていきました。
「・・・すごいなぁ。私たちとおんなじ女の子なのに、とっても強くて正義感もあって・・・」
電源を落としたタブレットを胸に抱いて、正義の味方のすごさにうっとりとしてしまいます。
でも・・・。
「でも、正義と悪って、いったい誰にとってのことなんだろう・・・」
街を騒がす悪役さんたちをこらしめているホワイトリリィ。でも、悪役さんたちのしている
「悪事」もいたずらのようなもので。
例えば、学校の靴箱の靴を揃った状態からバラバラにして、また丁寧に靴箱に入れなおしたり、商店街のお店の入り口に敷かれているマットを裏表逆にしちゃったりといったものでした。
そういういたずらをして街の人たちを困らせて、その様子を見て楽しんでいるだけなので、それほど実害はないのかなぁって思います。
ホワイトリリィは確かに街の秩序を守ろうと悪役さんたちと戦っているんですけど、戦い終わったあとに悪役さんが蒸発しちゃうというのはやりすぎかなぁって思います。
もしかすると、悪役さんたちから見たら、ホワイトリリィのほうが悪役なのかもしれません。
そんなことを考えていると、ふわりふわりと昨日のことが頭の中に浮かんできます。
♪ Now He Is
ほむらさんのお話。
魔法少女という存在について。
その存在理由。
インキュベーターさんの思惑。
よく考えてみると、インキュベーターさんがしようとしていることはこの宇宙に住むすべての存在にとって必要なことなのかもしれません。
宇宙の寿命を延ばせるくらい文明が発展したら、インキュベーターさんじゃなくても誰かがやらないといけないことなのかもしれません。
そうなると、確かにほむらさんたち魔法少女さんは騙されて利用されている被害者さんですけど、インキュベーターさんのしようとしていることも頭から否定はできないような気がします。
やり方が問題なだけで、もう少しやり方を考えてみんなが納得できるようになれば、とても素敵な事業なのかも。
でも私なら、誰かを悲しませたりご迷惑をかけてしまうくらいなら、今のまま何もせず、この宇宙の寿命と添い遂げるほうを選ぶかなぁ・・・。
ほむらさんの氷のような硬くて強い意志。その元に行われていた、インキュベーターさんの駆除。
駆除に使われていたのは鉄砲。普段の生活では見ることのない、遠い世界の武器だと思っていました。
でも、あの時確かに感じた左足の激痛は、幻でも作り物でもなくて。
今も忘れることのできないリアルな感覚として、私の左足にくっきりと刻印されていて────。
「う・・・ うぅ・・・ っ・・・!」
気づけば、もう昨日の記憶から気持ちをそらすことはできなくなっていました。
ベッドの中で、左足を守るように丸まって痛みの記憶を押さえ込もうとしました。
でも、あの時の・・・体の奥で硬いものが爆発したような、骨が軋んで破断して、その周りのお肉が潰れて千切れていった感覚はなかなか消えてくれません。
リリキュアのような、ある意味あったかくてやさしい世界観での空想ではなく、鉄砲で撃たれるという血生臭い体験から始まった一連のリアル。
それを思い出してしまって、ガタガタと震えてしまいます。
「よ・・・ より、ちゃん・・・っ! ぐすっ よりちゃ・・・」
まくらに涙がしみこんで、冷たくなっていくのが分かりました。
シャワーの時と同じように、よりちゃんとのほっとする日常と、ほむらさんのやさしい面影を必死に思い返しながら。
おかぁさんのいないひとりぼっちの自宅で、さびしく眠りについたのでした。
【天使編
05】
12
七月四日(木) 一五:四〇
♪ とっておきのことば
── いつも隣 ここがわたしの場所 心が 穏やかになるの ──
スマートフォンの着信音で目が覚めた私は、体を起こすのもおっくうだったので横になったまま電話に出ました。
『ふぇ・・・はい。あれ、よりちゃん? どうしたの? だいじょうぶ?』
『かの、休んでるのにごめんね。今日お休みした人にプリントと給食のデザートを届けることになったのよ』
『そっかぁ。ひとりで行ける?』
『昨日かのが届けに行ったアリスちゃんなんだけど、私、おうちの場所がよく分からなくって。先生に聞くの忘れちゃった』
『・・・そっか。アリスちゃんも朝いなかったもんね。うん。じゃあいっしょに行こう? お着替えしたらそっち行くね』
『疲れてるのに、かのごめん。ありがとう!』
電話を切って時計を見ると、午後四時近くになっていました。ちょうど放課後の時間です。
アリスちゃんのおうちの場所をよりちゃんのスマートフォンに送ってナビに案内してもらうこともできました。でも、やっぱりついていかないと心配です。
午前中に着ていた制服はまだしっとりしていたので、替えの制服を出してお着替えをしました。
ランドセルを背負っておうちの鍵をかけると、学校へと歩いていきます。今日二回目の登校です。
午前中よりは太陽が西の方に傾いていましたけど、それでもやっぱり日陰から出るとジリジリと焼けるように暑くて。
できるだけ日陰を歩くようにして、ハンカチで額を拭いながらよりちゃんとの待ち合わせ場所である校門を目指しました。
「・・・あ、かのー!」
「よりちゃん、おまたせー」
「かのごめん。暑いのに来させちゃって・・・」
「大丈夫だよー」
「でも、かのがいてくれたら千人力ね。ありがとう!」
「えへへ・・・ それじゃ行こうか」
よりちゃんと合流できました。よりちゃんも暑い中ずっと待っててくれたみたいで、汗びっしょりになっていました。制服が張り付いていて、下のシャツが透けて見えちゃってます。
んもー、よりちゃんってば・・・。
「よりちゃん」
「かの?」
ふわっ しゅるり ぽんぽん
「はい、よりちゃんこっちむいてー」
「んむにゅぅ・・・はぼっ」
「・・・うん。きれいになった」
「ぷーっ かの、ありがと!」
ハンカチでよりちゃんのお顔と首筋の汗を簡単に拭きます。
きれいになったよりちゃんはいつものキラキラした笑顔で私の手を取って、そのままずんずんと進んでいきます。
頼もしいなぁ。それにいつもとおんなじでかっこいいなぁ・・・。
って、あれ?
くいくいっ
「よりちゃんよりちゃん」
「なによ」
「アリスちゃんのおうちは反対方向だよ?」
「!? いつものクセで、おうちに帰っちゃうところだったわ・・・」
「あはは・・・。お届けもの、がんばろう?」
こうして私たちは、天舞市と見滝原市の市境にあるアリスちゃんのおうちに向かったのでした。
【天使編
06】
13
七月四日(木) 一六:三〇
♪ 明かりに照らされて
昨日とおんなじ、人気のない建物をよりちゃんと上っていきます。
今日はよりちゃんが一緒なので、心細くはありませんでした。
二日続けてお休みしているアリスちゃん。心配でしたけど、元気そうだったのでほっとしました。
「ほわぁ・・・わざわざありがとう。何度も遠いところまで来させちゃってごめんね。昨日はすぐ治ると思ったんだけど・・・」
「ううん。お大事にしてねー」
「こうしてかのとデートできるから、またいつでも休んでいいのよ!」
「もー よりちゃん、めっ!」
「うぅ、かのぉ・・・」
「あはは いつも通り二人仲良しだね。いいなぁ・・・。また学校でね」
アリスちゃんはまだ具合悪そうでした。学校も大事ですけど、あんまり無理しないでほしいなぁ。
よりちゃんはあんまり来たことのない場所なのでテンションが上がってましたけど、長居するとアリスちゃんが疲れちゃうので早々においとますることにしました。
玄関まで見送ってくれたアリスちゃんに改めてご挨拶をして。私たちは夕暮れ時の河原を並んで歩いていきました。
ふとスマートフォンを見ると、おかぁさんからメールが入っていました。
「あれ・・・ おかぁさんからだ」
「お母さん、なんて?」
「えっと・・・」
『今夜お仕事が終わったらその足で出張に行くことになりました。二週間くらいだけど、夏音には寂しい思いさせてごめんなさいね。小依ちゃんのお母様とご一緒だから、こちらのことは心配しないでください』
「・・・だって」
「あ、そのことなら私にも来てたわよ。お母さんたち仲良しで嬉しいわ!」
「そうだねー」
本当は、今はおかぁさんと一緒にいたい気持ちが強いですけど、わがままも言っていられません。
簡単に「お仕事がんばってね」とメールを返します。さっき寝込んでいた時に来ていたんだろうなぁ。
よりちゃんとおかぁさんたちの出張のことをメインにいろいろお話をしながら、ゆったりと流れる川を見つめます。
夕日の溶け込む滔々とした河川。きらきらと輝いて見えますけど、その向こうには昨日のあの工場が見えました。
♪ The Battle Is Over
「かの」
「・・・よりちゃん?」
「ちょっと寄り道していきましょ。なんだかあっちが気になるのよ」
来た道をそのまま帰ろうと思っていましたけど、昨日の私とおんなじでよりちゃんもやっぱりあの工場が気になるみたいです。
さすがに二日続けてほむらさんも来ていないだろうと思い、少しだけ寄り道することにしました。
「・・・いいけど、ちょっとだけだよ?」
「大丈夫よ。かの具合悪いんだし、ちょっとだけにするから」
私のことを気にしてくれるよりちゃん。嬉しくて胸があったかくなります。
でも、工場は昨日とおんなじで不気味な雰囲気で。
絡めとられそうな粘度の高い夕日、血糊のような工場の影、季節にそぐわない吹きすさぶ寒風、低く響くゴゥンゴゥンという工場の音。
よりちゃんと一緒ですけど、昨日のこともあってどうしても体の芯が震えてきてしまいます。
「なんかこういうところ、わくわくするわね!」
「そ、そうかなぁ・・・」
「リリキュアが敵と戦ってたりしてそう!」
「あー」
♪ Salve,Terrae Magicae
「紅くきらめく決意の花! レッドリリィ!」
シャキーン
「わー よりちゃんかっこいいー」
・・・実際、ここでほむらさんは魔法少女としてあの白いのと戦っていたわけで。
白いの────キュゥべえさんという地球外生命体。
すべての魔法少女と敵対しているわけではないようですけど、ほむらさんはあのキュゥべえさんの数を減らそうとしていました。地球外生命体で、自分たちの目的のために私たち地球人を利用しようとしているとほむらさんは言っていました。
でも・・・。本当にそんな映画のような宇宙人の侵略が起きているのかな。
身近なクラスのみんなの様子を見る限り、魔法少女として契約したり、戦ったりしている人はいなさそうですけど・・・。
そういえば、天舞市には魔法少女はいないってほむらさんが言っていたかも。
「あれ? かの、あれなにかしら」
「よりちゃん?」
「ほら、あの白い猫みたいなの」
「・・・!」
♪ Wanna Destroy?
咄嗟に、私は屈んで小さくなりました。またほむらさんの銃弾が飛んでくるかもしれないと思ったからです。
でも、耳を澄ませてみると銃声のような大きな音は聞こえてきませんでした。
「私、なんでかああいう小さい動物に嫌われてるのよね」
「・・・そのほうがいいと思うよ」
「かの・・・?」
キュゥべえさんの存在意義と企みが本当なら。
私たちのような年代の子どもはあの子と接触してはいけないはずです。
ほむらさんも私のことを気にしてくれたからこそ、再三にわたって「インキュベーターと接触してはいけない」と忠告してくれたのだと思います。
「・・・あれ? この子、引っかいたりしてこないわね。よーしよーし」
「あっ・・・! よりちゃん、ダメっ
!!」
ほむらさんとのやり取りを思い出していたら、いつの間にかよりちゃんがキュゥべえさんに近づいていました。
そして、そのかわいい見た目を最大限生かした動作で、よりちゃんに抱っこされる形になっていました。
「よりちゃん、それ・・・ その子をこっちに・・・!」
「なんでよ。私、こういう小さい子になつかれたの初めてなんだから、もうちょっといいでしょ」
「あ・・・ あぁ・・・!」
私がよりちゃんからそれを奪い取ろうとした、そのとき。
そのノアちゃんのようなお口が動かないまま、キュゥべえさんの声が頭の中に直接流れ込んできたのでした。
「やあ、種村小依。小之森夏音」
「今日は君たちにお願いがあって来たんだ」
「僕と契約して、魔法少女になってよ!」
【魔法少女編08】
14
七月二日(火) 二五:三〇
ダァンッ!
「さやかっ・・・! ちくしょう、こんなことって・・・!」
「ひどいよ・・・ こんなの、あんまりだよ・・・」
「・・・・・・・・・」
時として事実とは残酷なものだ。
呪いを募らせた美樹さやかが産んだ魔女、オクタヴィア。
私たちはそれと戦闘することなく難を逃れたが、繊細な巴マミは「魔法少女が魔女化した」という事実に冷静さを失ってしまっていた。
ヒュルッ
「!!」
ダーン チュンッ
魔力のロープにて私と佐倉杏子を捕らえ撃ち抜こうとした巴マミだったが、マスケット銃の弾丸は誰にも命中せず床にヒットした。
「お、おい! マミ!」
「ソウルジェムが魔女を生むなら・・・ みんな死ぬしかないじゃない!」
「あなたも、私も・・・っ!!」
「・・・・・・!」
ヒュンッ パキィ・・・ン
巴マミが撃ち出すより先に、まどかの放った弓矢が巴マミのソウルジェムを撃ち抜いていた。
急所を撃ち抜かれた巴マミは、まるでスローモーションのようにゆっくりと頽れていった。
どさっ・・・
「・・・いやだ・・・ もういやだよ、こんなの・・・っ!」
自らの手を血に染め、誰よりも信頼していた巴マミを殺めたまどか。
正気を保っていられるギリギリの境界線で、泣き崩れていた。
生き残ったのは私とまどか、そして佐倉杏子。誰一人として「助かってよかった」などという笑みを浮かべられるはずもなく、沈痛な面持ちで床を見つめ続けていた。
巴マミの遺体を前に、三人がそれぞれの思惑を胸に秘めながら対峙していた。
♪ I Miss You
「・・・へっ 笑えねーな。結局あたしら、最後には魔女になっちまうってことか」
「・・・佐倉杏子・・・。そうよ。魔法少女は誰一人として例外なく、そうなる運命なのよ」
「そうかい。・・・それで、これからどうするんだ」
「どうもこうもないわ。最後の望みにかけるだけよ」
「ワルプルギスの夜か・・・。あたしはごめんだね。勝てる見込みもない、仮に勝てたとしても遅かれ早かれ魔女になっちまうってんじゃあな」
「杏子ちゃん・・・」
「そう。あなたがいれば戦力として助かるのだけれど、無理強いはしないわ」
「そんな、みんなで戦おうって・・・この街のみんなのためにワルプルギスの夜を倒そうって誓ったのに」
「まどか。魔法少女はすべて自分だけの祈りの為に戦うのよ。戦うか、退くかは自分次第。これは慈善事業ではないわ」
「でもっ・・・」
「そういうこった。悪いけど降りさせてもらうぜ。今度ばかりは状況が悪すぎる」
そう言い残し、長い長いホームを歩いて佐倉杏子は去っていった。
美樹さやかと巴マミ。佐倉杏子にとって最も親しいとも言える人が同時に亡くなったのだ。今は彼女にも時間が必要なはずだ。
残ったのは私とまどかの二人きり。
「・・・ほむらちゃん。二人きりになっちゃったね」
「・・・鹿目まどか。あなたも自分の判断で決めなさい。私はひとりでも戦うわ」
「私も戦う。戦わせてほしい。少しでもほむらちゃんが奇跡を起こせる可能性が増えるなら、私もいっしょに・・・!」
「ごめんなさい。ありがとう・・・」
この後、私は悲しみに暮れ涙に沈むまどかを自宅まで送り届け、眼前の遺体を巴マミの自宅まで移送しベッドへ寝かしつけた。
着衣に乱れがないこと、体に傷がないことを入念にチェックし、軽く室内の片付けと清掃をして部屋を出た。
ファサァ・・・
「ふぅ・・・」
「こちらの世界」で亡くなった巴マミは、自宅にて原因不明の死を迎えたことになるだろう。魔女結界内で亡くなる場合は永遠に行方不明者のままとなる。それと比べれば余程人間らしい最期だと言える。
死因不明ながらも、遠い親戚は葬儀を行うこともできる。それにより気持ちの整理をつけることもできるだろう。これが一番影響の少ないやり方なのだ。
それにしても────。
コッ コッ コッ・・・
「・・・それにしても、あまりに人の死に慣れすぎているわね。私・・・」
「もう人間ではないのだから、当たり前と言えばそうなのだけれど」
そう自嘲気味に鼻で笑うと、三時間ほどの仮眠を取る為に自宅へと向かった。
【魔法少女編
09】
15
七月三日(水) 一五:二〇
♪ Pugna Cum Maga
対艦ミサイルなどを仕入れる為に某基地へと向かう。
残る標的はワルプルギスの夜。これを倒す為の準備を本日中に行い、出現予測日時の七月五日の夕方まで休息を取る。それが私のこの世界において残された、最後の仕事。
防犯カメラは時間停止で掻い潜り、センサーの類は暗視ゴーグルとセンサーの情報を処理するコンピュータの時刻を狂わせることで、大きな騒ぎとなることなく目的の大型兵器を手に入れることができた。
七月三日(水) 一七:〇〇
拳銃やマシンガンなどは見滝原市の北西の外れにあるいくつかの「事務所」から拝借する。
何故かこの地域の「事務所」の人たちは距離的に近い隣町の天舞市では仕事を一切行わず、専ら見滝原市と風見野市でのみ活動している。
以前、事務所に潜入した際に「天舞市はツキが悪い」「仕事する気が失せる」といった会話が聞こえてきた。
彼らもインキュベーターと同じように、天舞市では悪事ができないのかもしれない。そう考えてほくそ笑んでいる自分がおかしかった。
行動範囲が限定されているおかげで行動パターンも読めてきており、各事務所の手すきとなる時間帯も把握している。
一度に多量の銃器を拝借すると警戒されてしまう為、少量ずつ複数の事務所から拝借することも忘れない。
一体何と戦うつもりなのか分からないけれど、手榴弾、AT4、スナイパーライフル、マシンガン、C-4など必要となりそうな武器はすべて調達することができた。
七月三日(水) 一七:二〇
ヒュゥウゥ・・・
「・・・・・・」
拝借した武器を盾に収め、時間停止を解除した途端、急に風向きが変わった。
流れてくる風に、重油と鉄粉の臭いが強く感じられる。
風上を見ると、川を隔てた向こう側に天舞市が見え、川のこちら側に大きな工場が見えた。
ここは見滝原市と天舞市の市境。インキュベーター達にとっての「不可侵領域」が眼前に広がっている。
シュタタッ タタタッ
視界の端に素早く動く白いものが目に付く。インキュベーターだ。
性懲りもせず、天舞市に入り込もうとしているのだろう。より天舞市に近い工場の中に入っていくのが見えた。
「・・・往生際が悪いわね」
まどかが契約をしてしまったこの世界では、インキュベーターを追跡する必要性はないのだけれど。
考えてみればまどかが契約をしたのも、その契機となる美樹さやかの魔法少女化も、すべてはインキュベーターの仕業。
そう。この世界線でのまどかの祈りは「魔女となった美樹さやかを助けてほしい」だった。
「・・・・・・」
♪ Puella in somnio
幼馴染の為に魔法少女として契約した美樹さやかは、この世界に於いても自ら呪いを募らせ、魔女となってしまった。
それを憐れんだまどかは美樹さやかの為に契約したが、「美樹さやかが助かるとはどのような状態か」という定義の部分でインキュベーターと齟齬があった。
結果的に、まどかの祈りは「魔女オクタヴィアが魔法少女と戦闘を起こすことなく消滅する」という形で遂げられた。
まどかはそんなはずではなかったと自らの選択を後悔し、魔法少女の魔女化という現実と相まって涙の海に沈んでしまったのだ。
タッ タタッ・・・
カン カン カン カン カンッ
気づけば、インキュベーターを追って走り出していた。
この世界は既に「終わってしまった」世界。いくらインキュベーターを始末しようとも何一つ変わらない。
頭では理解していても、それでも止められない衝動。もう人間ではないのだけれど、この感情の奔流は止めることはできなかった。
右手で握りしめる拳銃の安全装置を解除し、私は工場の中へと駆け込んでいった。
【天使編
07】
16
七月四日(木) 一八:三〇
「しゃべった・・・? この子、しゃべったわよ? それに、私たちの名前を知ってるみたい」
「・・・・・・! ・・・・・・」
♪ Pugna Infinita
このとき────。
私はどうすればこの場を切り抜けられるかを必死に考えました。
相手はこの地球より文明の進んだ惑星に住む地球外生命体。きっとこちらの考えてることもぜんぶお見通しなのだと思います。
それに、私はまだ小学生です。いろいろな経験が──よりちゃんを守るための経験が──ぜんぜん足らないはずです。
この間のほむらさんの接し方を見ても、いきなり拳銃で撃とうとしていました。つまりかわいい見た目ですけどとっても怖い存在なのだろうと思います。
なので、どう考えても正面から話し合っては丸め込まれてしまうと思います。
それなら────。
「・・・えと、その・・・ 私たちは今、魔法少女にならないといけないわけでもないと思うので、また今度で・・・」
「・・・非常に興味深いね、小之森夏音。君は何故そう言い切れるんだい?」
「そ、それは・・・。今は特に危ない目にあっている人もいないですし、魔女や使い魔が襲ってきているわけでもないから・・・です」
キュゥべえさんがよりちゃんから離れて、私の方に身を乗り出してきました。
よかった。よりちゃんから注意をそらすことができたみたいです。
キュゥべえさんはそのくりくりとしたかわいい瞳で私に語りかけてきました。
相変わらず、ノアちゃんによく似たそのお口は動いていませんでした。
「・・・君は何も分かっていない。今、君が魔法少女となることで救える命がどれほどあるか、想像したことはあるかい?」
「そ、それは・・・」
「君が魔法少女となり、使命を果たすことで、この宇宙の寿命がどれだけ延びるのか。興味はないかい?」
「・・・・・・」
「君はどうやら、僕が接触する前から魔法少女と魔女との関係性を理解しているようだ。そして僕のことも。一体、誰からその知識を教わったんだい?」
「・・・・・・」
「大方の予想はつくけどね。ここは見滝原市と天舞市との境界だ。天舞市では僕たちは仕事ができないから、見滝原市の魔法少女からだろう。違うかい?」
「・・・・・・」
なんとなく、キュゥべえさんの語り口から、ほむらさんのお名前をここで出してはいけない気がしました。
キュゥべえさんの話はどこに行き着くんだろう。そんなことを考えられるくらい、なぜか私は混乱することもなく。
胸の底が冷えきってしまうような冷静さで成り行きを見守ることができていました。
「ちょっと待ちなさい! そんなのあるわけないじゃない。魔法少女とかヒーローには憧れるけど、実際になれるわけないんだから」
ぐいーーーーっ!
「キュゥべえさんごめんなさい。ちょっとだけ時間ください」
「いいよ。ゆっくり話し合うといい」
ずるずるずる・・・
♪ Mother And Daughter
「か、かのっ 痛い痛い! ちょっと、何するのよ!」
「いいから、よりちゃんは静かにしてて。あれと関わっちゃいけないんだよ・・・ね? いい子だから」
「それなら、かのだって同じじゃない。私が言いくるめてあ」
ぎゅっ
「か、かのぉ・・・」
「・・・よりちゃんありがとう。でも今は、今だけでいいから私の言うこと聞いてほしいの」
「・・・もー、しょうがないわね。こうなったかのは退かないんだから。それで、どうしたらいいの?」
「逃げて」
「へっ?」
「いいから、私が合図したら全速力で走っておうちまで逃げて」
「かのはどうするのよ」
「私もすぐに追いかけるから。よりちゃんが転んでたら起こしてあげるから。お願い」
「・・・分かったわ。なんだか危ないことなのね」
よりちゃんを抱きしめながらお願いしました。
よりちゃんもちゃんと分かってくれたみたいで、最後には言うことを聞いてくれました。
私たちは手を繋いだまま、キュゥべえさんと向き合いました。
♪ Sis Puella Magica!
「・・・それで、どうするんだい? 種村小依、小之森夏音」
「よりちゃん、行って!」
「いくわよー!」
弾かれたようによりちゃんが走り出しました。ずるっと転びそうになりながら、でも体勢を立て直してまっすぐ走っていきます。うん、その調子だよよりちゃん。
キュゥべえさんはそんなよりちゃんの様子を目で追っています。でも、目で追うだけで特に走って追いかけようとはしませんでした。
「・・・よりちゃんは用事があるので先に帰りました」
「それは残念だ。種村小依はまたの機会にしよう。小之森夏音、君はどうするんだい?」
「魔法少女になるかどうか、今は決められません。でも、どちらにしてももう少し知りたいことがあります」
「どんなことだい?」
「あなたの・・・あなたたちの目的は、一体何ですか?」
キュゥべえさんは一切表情を変えることなく、沈黙しました。
その間、十秒ほど。
「・・・魔法少女と魔女の関係を知っている君なら、それも理解しているんじゃないかな」
「はい。でも、キュゥべえさんから直接聞きたいんです」
「僕たちの目的はただひとつ。良質なエネルギーが目減りしていくこの宇宙のエントロピーを減少させ、良質なエネルギーに満ちた宇宙にすることさ」
「それは・・・「私たちが魔法少女になる」こと以外ではできないことなんですか?」
「他に方法がないわけじゃない。ただ、最も効率がいいのが「それ」というだけさ」
「効率・・・。よく分かりました。ありがとうございます。魔法少女になるかどうか、考えてみます」
「この宇宙のために死んでくれる気になったら、いつでも声をかけて。僕たちは天舞市では活動できないから、この場所で落ち合おう」
「またね、小之森夏音」
【天使編
08】
17
七月四日(木) 一九:〇〇
「はっ はっ はっ」
タタタタタッ
コケッ トッ トッ トッ・・・
タタタタタッ
種村小依は小之森夏音に言われた通り、最短距離で工場を抜けて天舞市に向かって走っていた。
途中で何度か
転びそうになりながらも、しかし上手に体勢を立て直して転ぶことはなく、市境の川に架かる橋まで戻ってくることができた。
あと数歩で天舞市に入るという、その時。
「種村小依。ちょっといいかい?」
「なによ。今走るのに忙しいんだからあとにしてちょうだい!」
「小之森夏音の考えていること、気にならないかい?」
ザッ ザザーッ けん けん けん・・・
小依はその声に、反射的に足でブレーキをかけてしまう。前につんのめりそうになったが、何とか踏みとどまる。
そして振り返り、思ったよりも近くにいた足元のキュゥべえを見下ろす。
♪ Facing The Truth #1
「気になるに決まってるじゃない! あとでかのにはちゃんと説明してもらうんだから」
「小之森夏音はすべてを君に教えてくれると思うかい?」
「あたりまえでしょ。私たちおさななじみだし、何よりお互いに恋人同士でふーふなんだから」
「そういう関係だからこそ、話せないこともあるんじゃないかな」
「・・・どういうことよ」
そういえば、と。
さっき夏音と一緒にいたキュゥべえがここにいるということは、夏音はどうしたのだろう。
小依はそう疑問に思い、きょろきょろと周りを見回す。
「小之森夏音はまださっきの場所にいるよ。安心して」
「もうお話は終わったってこと?」
「いや、まだ話しているようだ」
「?」
キュゥべえの言っていることが理解できない小依。頭の上にひとつクエスチョンマークを浮かべる。
「僕たちは沢山いるからね。僕は小之森夏音と会話している個体とは別個体だよ」
「え、そうなの? そっくりじゃない。何匹くらいいるのよ」
「そうだね。この惑星だけならざっと五億くらいかな。この惑星が所属する銀河では二十五垓くらいだね」
「ごおく!? にじゅうご・・・がい? がいって何?」
「数の単位だよ。君たちの文明では一、十、百、千、万、億、兆、京と続くだろう。垓は京の次の単位さ」
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん・・・」
小依は両手の指を使って数えていたが、瞬時に理解した顔をキュゥべえに向ける。
「分かったわ! いっぱいいるってことね!」
「うん・・・・・・まぁ、その認識で間違ってはいないよ」
「それで、かのがどうしたっていうのよ」
「小之森夏音はこの宇宙を救えるかもしれない人材なんだ。今、それについての説明を受けているよ」
「宇宙を・・・? 宇宙って、助けてあげないといけないくらい困ってるの?」
「その通り。今も僕たちが住むこの宇宙は疲弊し続けていて、活用できるエネルギーが目減りしていっているんだ」
小依はキュゥべえの言っている意味を自分なりに理解しようとしている。
あごに手を当て、目を閉じ、うーんと唸っている。
「つまり・・・」
「うん」
「宇宙は疲れてるけど、栄養もとれなくてふらふらなのね」
「君たちの感覚だとそうなるだろうね」
「そして、かのはそんな宇宙を癒してあげられるってことなのね?」
「そうさ。小之森夏音は選ばれし者なんだ」
「さすがかのね! ふふーん!」
「そしてそれは君も同じだよ。種村小依」
「えっ?」
小依は一瞬話の意味が分からず、改めてキュゥべえを見つめる。
そしてすぐに納得したような、いつもの得意げな顔になった。
「まぁ、私とかのはいつも一緒だし、一心同体なんだから当然よ!」
「僕の姿が見えていて、こうして会話できている時点で、君にもその資格があるんだ」
「それなら、私にもかのと同じ説明をしてちょうだい」
「もちろんさ。ただ・・・」
タッ タッ タッ タッ・・・
♪ I’ll Be With You
音のする方にキュゥべえが振り返ると、遥か遠くに小之森夏音の姿があった。
「小之森夏音の話は終わったようだ。君も今日は一緒に帰宅するといい」
「うーん。じゃあ、あとでかのからお話聞いてみることにするわ」
「それはやめておいた方がいいと思うな」
「なんでよ」
「小之森夏音はスケールの大きな話を聞いて、若干ショックを受けているようだ。彼女のことを思うなら、今はその話題に触れない方がいいよ」
「・・・それもそうね。分かったわ」
キュゥべえは小依のその言葉を確認すると、さっと身を翻しその場から消えた。
そしてテレパシーで小依に一言だけ伝える。
【また明日、夕方にここで落ち合おう。細かい話はそこで僕からさせてもらうよ】
「分かったわ」
「よりちゃーーん」
小依は「明日の夕方に、ここ」と心に刻むと、夏音を正面から出迎えて抱きとめる。
「かのー!」
ぎゅっ
「かの、大丈夫だった?」
「うん。よりちゃんは途中で転んじゃった?」
「転びそうになったけど、踏みとどまったわ!」
「そっかぁ。よかったぁ」
心からほっとして笑顔を見せる夏音。しかし小依はその笑顔の奥に疲労がにじんでいることを見逃さなかった。
「かの。おうちに帰りましょ」
「うん。そうだねー あ、途中でお夕飯の材料を買って、帰ってから作らなきゃ」
「今日はコンビニで買って済ませちゃいましょ」
「よりちゃん・・・?」
「うーん。・・・あ、私食べてみたいものがあったのよ。季節限定の『流れない流しそうめん』ってやつ」
「流れないのに流しそうめんなの・・・?」
「旬だし、ちょうどいいでしょ」
「旬かもだけど・・・。よりちゃんがいいならそれでいいよ?」
「じゃ、コンビニ寄っていきましょ」
きゅぅ・・・
♪ Serena Ira
暖かい手で夏音の右手を取る小依。
夏音も小依の手に包まれて、ほっとする。
煌めく星々が瞬く天を、突き抜けるような群青色が覆い、血潮よりも昏い黄昏が地平線に滲んでいる。
その黄昏を背に、漆黒の工場から地鳴りのような物言わぬ鼓動が響いてくる。
それはまるで、苦しい苦しいと呻きを上げて助けを求めるこの宇宙そのものの悲鳴のよう。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・よりちゃん?」
「・・・なんでもないわ。行きましょ」
得体の知れない巨きな存在を感じて、ぶるりと震える小依。
それは夏音にも伝わったが、それ以上二人は会話することなく足早にその場を立ち去ったのだった。
【天使編
09】
18
七月四日(木) 一九:五〇
♪ Postmeridie
「いただきます!」
「いただきまーす」
よりちゃんと帰りにコンビニに立ち寄って、お夕飯を買って帰りました。今日は私のおうちに来てもらって、一緒に休もうと思います。
よりちゃんは「流れそうで流れない、でもちょっと流れるおそうめん」を選んでいました。流れるのか、流れないのか、どっちなんだろう?
私はあんまりお腹がすいていなかったですけど、無理にでも食べなきゃと思っておにぎりと卵入りサラダにしました。卵のサラダならよりちゃんも食べてくれるので、あーんして食べてもらおうっと。
「・・・よりちゃんのそれ、流れるの?」
「んー、麺をほぐすお水がついてて、それでゆるゆるっと短い距離流して食べる感じね」
容器に入った麺にお水をかけて、おはしで三センチくらい左右にゆるゆるっとしてほぐしてから食べるみたいです。なんだかイメージとは違いましたけど、よりちゃんが喜んでるからいいかなぁ・・・。
ちゅるちゅると少しずつ食べているよりちゃん。いつもみたいにいっぱい詰め込んで、喉に詰まらせる心配はないですけど・・・。
「かの、食べないの?」
「え あ、いただくよー」
おにぎりのビニール袋を開けて、ひとくち食べてみます。すっぱい梅干しが入っていて、ちょっとだけ食欲が出てきたような気がしました。
サラダの方のパックも開けて、スプーンですくいます。
「はい、よりちゃんあーん」
「あーむっ ひゃっはりたまこのはおいひいわへ」
「あはは、花ちゃんみたい。飲み込んでからしゃべるんだよー?」
「んくっ 分かってるわよ。かのもちゃんと食べなさい」
よりちゃんに言われて、自分のごはんに集中します。
おにぎりの梅干し。白いごはんの中で、ひときわ目立つ赤い色。
そう、昨日の左足のえぐれたお肉みたいに────。
「かの、大丈夫? お顔真っ青よ?」
「・・・え・・・。あ・・・ うん」
よりちゃんに心配かけるわけにはいきません。私はできるだけいつもどおりを装いながら、サラダをお口に運びます。
ゆで卵をつぶしたものに、キュウリと人参を入れてマヨネーズであえたもの。これならよりちゃんも人参食べてくれるから、今度自分でも作ろうっと。
卵はタンパク質が豊富で────。
タンパク質。
それは命を形作るもの。
よりちゃんの体も、私の体も半分以上タンパク質でできていて。
そう、腕も、足も、血も・・・。
♪ Cor Destructum
「うっ んぅ・・・!」
「かの
!? どうしたの? 大丈夫?」
食事してるところに、戻しちゃうわけにはいかない。
私は両手で口を押えながら、流しまでよろよろ移動しましたけど、そこまでが限界でした。
「うぇ うぇぇ・・・っ」
「かの
!?」
梅干しとは違う、苦みのある酸味が口の中いっぱいに広がって。
食べ物がもったいないし、きたないし、よりちゃんに見られたくなかったけど。
どうしても体が受け付けてくれませんでした。
「ご・・・ ごめ・・・ ごめんね、よりちゃん」
「何言ってるのよ。無理しないで」
「見ないで・・・きたないから。ごはんしてるのに、ごめんね・・・」
よりちゃんは背中をやさしくさすってくれました。同時に、流しの吐瀉物をお水できれいに流してくれました。
私が落ち着いてくると、コップに水を注いで手渡してくれました。
「お口の中、これでゆすいできれいにしてね」
くっ くぷくぷくぷ・・・ ぷしゃっ
ちゅくちゅくちゅく・・・ ぷえっ
「はー・・・ よりちゃん、ありがとう」
「かの」
呼ばれて振り向くと、よりちゃんが私のほっぺに両手を添えました。
ぺろっ ちゅっ ちゅう・・・
「ひゃん よ、よりひゃん?」
よりちゃんは私のお鼻をぺろっとすると、左右のほっぺに口づけをしてくれました。
「かのにきたないところなんて、どこにもないわよ」
「よりちゃん・・・」
よりちゃんの気持ちが嬉しくて、思わず首筋に抱き着いてしまいました。
よりちゃんのお顔は見えないですけど、首筋とほっぺがすごく熱くなっています。
「・・・無理してまで食べることないわ。かのは昨日から疲れてるんだし」
「うん・・・」
「私がさっと片づけるから、かのはパジャマに着替えて先にベッドに入ってなさい。私もすぐ行くから」
よりちゃんは最後に私のおでこに口づけすると、腕まくりをしてテーブルの上のごはんを冷蔵庫に片づけ始めました。
よりちゃんの気持ちが嬉しくてじーんと感動した私は、よりちゃんに言われた通りお着替えをしてベッドに潜り込んだのでした。
【天使編
10】
19
七月四日(木) 二〇:二四
♪ Take Your Hands ~ Wings of Relief ~ Her New Wings
ヒュオオォォォォ・・・・・・ ガタガタッ ガタッ・・・
お外は強い風が唸り声をあげていて、窓が風に揺さぶられて震える音が響いている。
音がするたびに、隣で横になっているかのがビクッと身を縮こまらせる。きっと怖いのね。
できるだけ音が小さくなるように、ベッドからおりて窓のカギをしっかりかけてカーテンもぴっちり閉める。
かのの隣に戻ってスマートフォンで天気を見てみると、お隣の見滝原市に大きな台風が来ていると書かれていた。
ザアアァァアァァァ・・・
強い風に揺さぶられて、大きな木がさざめいている音が聞こえる。
なかなか静かにならない部屋の中で、気になるのはかののこと。
寝付けないのか、私の方に弱々しい瞳を向けてくるかの。不安な気持ちはよく分かるわ。
かのひとり安心させてあげられないなんて。ちょっと悲しくなってくる。
かのが安心できるように、触れるか触れないかくらいの手つきでかのの頭をなでる。
「・・・・・・より、ちゃん・・・」
「眠れないの?」
「うん・・・。ふらふらなはずなのに、おかしいね・・・」
そんなかのがかわいそうで、愛おしくて、思わずかのに覆いかぶさるように抱きついちゃう。
「・・・よりちゃん。
キス、して・・・」
「かの・・・?」
「お願い・・・」
かのとは恋人同士でふーふ。それは小学校に上がったころからずっと変わらない。
ある時、あれは三年生くらいだったかしら。テレビで男の人と女の人がお口同士で「ちゅー」ってしているのを見た。
お母さんに聞いてみたら、それは「キス」というもので、恋人さんたちやご夫婦がすることだと教えてくれた。
キスしている人がすごく大人に見えた私は、早速かのにしてみることにしたの。
でも、かのは最初キスさせてくれなかったわ。顔を近づけると、かのは右を向いたり上を向いたりして唇にキスをさせてくれなかったの。
嫌われちゃったのかしらと思ってしずしずと聞いてみたら、『お口以外ならいいよ』と言われて。
あのときの最初のキスはお互いに目を閉じていたから、かののお鼻に唇が触れると同時におでこ同士でごっつんこしちゃって。二人して頭を抱えてぷるぷるしていたのを思い出すわ。
それからは、二人きりの時に「いい?」と目配せをして、「いいよ」と目線でお返事がきたときに、ほっぺやおでこ、手の甲とかにキスをするようになった。
ちゅっ ちゅぅ・・・
お夕食の時とおんなじ、おでことほっぺにキスをする。
これでかのも安心してくれるはず。眠れないときはこれで何度も解決してきたわ。
でも、目の前のかのはまゆが下がってしまって、満足してないように見えた。
くいくいっ・・・
かのが俯きながら私の腕を引っ張る。
こういうときはかのに身をゆだねてお任せするといいというのも理解してるわ。
引っ張られるまま、かのの方に体を預ける。
ちぅ
それは、とてもひかえめなキス。
かのは私の腕にキスをすると、じっと見つめてくる。
何かしら? って思っていると、もう一度かのが動いた。
ちゅっ ちゅっ
かのは私の首に軽くキスをすると、続けて耳にキスをしてくる。
耳はぞわぞわするから弱いんだけど、かのがしたいなら我慢しないと。
それにしても、今日は積極的ね。いつもは私からばかりキスをしていて、かのは受ける側なのに。
かのはうるんだ瞳で私の目をじっと見つめてくる。今日のかのは具合も悪そうだし、きっと心細いのね。
仕方ないわ。奥の手を使うわよ。
すっ・・・ ちゅ ちぅ・・・
かのの手の甲と、まぶたにそっとキスを落とす。
かののことが一番大事ってことと、かのってすごいわねって伝えるためのキス。
いつもはここまですれば満足してくれて、笑顔でおやすみなさいしてくれるのよね。でも、かのは唇をとがらせていて、なんだか不満そうなお顔だった。
くぃっ・・・ ぱさっ
かのはゆっくりと私を横にさせると、お腹の上に覆いかぶさってきた。
そのままかのは私のパジャマのボタンを外すと、お腹に直接触れてきた。
ちょっとくすぐったいわね、と思った矢先。
ふに・・・ ちゅう はむっ ちゅっ・・・
「ひゃっ んにぅっ」
思わずくすぐったくて変な声出ちゃったわ。
かのは私のお腹にキスをすると、そのまま上がってきて私の胸にもキスをしてきた。
「か、かのぉ・・・」
「・・・・・・」
かのは上目遣いで私のことを一目見ると、そのまま何度も胸にキスの雨を降らせて、はむはむしてきた。
ああ、これはあれね。もしかしたら・・・。
きっとかのは、私からお口にキスをしてほしいのね。なんとなくそれが伝わってきた。
でも、それはまだ早いわ。最初にかのが『お口以外なら』と言った気持ちが、今ならよく分かる。
ちゅっ ちゅっ
かのを抱き込むような形で、かのの背中にキスをする。
かのは相変わらず、お腹と胸に何度もキスをしてきていた。気持ちは痛いほど分かるけど、でもこれはかのの為に我慢しないといけないことなの。
人はみんな、いつか考えが変わることがあるもの。
私はこの先ずっと、かのだけを愛すけど。
現実的なかのはその時の立場によって考え方と感情が変わっていくかもしれない。
もちろん、かののことを信頼していないわけじゃないわよ? でも、取り返しのつかないことだから慎重にね。
だから、唇へのキスはお預け。いつか私以外の人をかのが愛するようになったときの為に、ファーストキスは取っておいてほしいから。
きゅぅぅ・・・
キスを飛び越えて、胸を吸っているような形になっているかの。大きな赤ちゃんみたい。
そんなかのを両腕でしっかりやさしく抱きしめて、かのの頭に唇を押し当ててささやく。
「かの。私のこと好きでいてくれてありがとう」
「でも今はかの弱ってるから、ちゃんと寝て回復しましょ」
「おやすみなさい、かの」
ちょっとだけ腕を緩めて、かのが苦しくないようにする。
もそもそとパジャマから出てくるかの。そのお顔は涙で濡れていて、ためらうように目線を動かしていたけど、こくんと大きく頷いてくれた。
かのは私の濡れた胸とお腹を軽くティッシュで拭くと、パジャマのボタンをそっとかけてくれる。そして私たち二人にかかるように夏掛けをかけてくれて、かのは横になった。
かのは私のことをすがるような目で見つめてから目を閉じる。かのの目尻からとめどなく涙が流れ出ていくのが見えた。
私は指先でかのの涙を拭うと、かのとほっぺたをくっつけるような形で落ち着いて、そのまま意識を手放したのだった。
【魔法少女編
09】
20
七月四日(木) 二六:四三
♪ Magia [Quattro] -short-
「きゃっ きゃあああああぁぁぁぁっっっ!!」
ガッ ドガアァァッ
「!! まどかっ・・・!」
【 アーッハッハッハッハ アーッハッハッハ ハハハッ 】
纏わりつく使い魔に堕とされたまどかは、直線的な軌道を描きながら倒壊したビルに頭から激突していた。
それを目にしながらも、私は魔力を込めたサブマシンガンで使い魔を蹴散らすだけで精一杯だった。
地面に大穴が空くレベルの大量のC-4でも足止めにすらならず、対艦ミサイル四基でも若干軌道をずらすことしかできず。
用意してあった武器・兵器はその八割五分を使い切った状態だった。
ワルプルギスの夜の使い魔は、一匹一匹が並みの魔法少女と同等以上の強さを持つ。生半可な武装や覚悟では本体に近づくことすら叶わない。
【 フフフフ ハァーッハッハッハッハ ウフフフフ 】
見滝原市は北端の川沿いから南方の市街中心までほぼ壊滅状態。
唯一の救いは、川向うの天舞市はそれほど被害が出ていなさそうなことだけだった。
♪ Nux Walpurgis
グワァ・・・ ゴォウッ
「
!!!」
まどかが気を喪って倒れているエリアに、ワルプルギスの夜は追い打ちで巨大なビルを落そうとしていた。
気づいた私は使い魔を振り払い、まどかの元に飛び込みながら時間停止を試みる。
キュルキュルキュル・・・
「・・・えっ?」
時間が止まらない。
盾を一瞥すると、魔力がほとんど尽きてしまっていた。
「・・・はっ!」
ドガアアァァァンン
ズズンン・・・
「ぐっ・・・ぅ・・・っ!」
咄嗟に身を挺してまどかを庇おうとしたけれど、到底一人で支え切れる重さではなかった。
まどかは下腹部から下を、私は両足をビルに擦り潰され、身動きが取れなくなった。
手の届く距離にまどかがいるのに、万策尽きた私はまどかと共に横たわることしかできなかった。
「またなの・・・ 何度やっても、私は・・・!」
「ほ・・・むら・・・ ちゃ・・・」
「! まどかっ・・・」
まどかは無理やり笑顔を浮かべると、ひとつのグリーフシードを取り出した。
それはまどかの親友、美樹さやかの遺品となった──魔女オクタヴィアの──グリーフシードだった。
♪ Signum Malum
「ほ・・・むらちゃん。こ・・・れ・・・」
「まどか。グリーフシードがあるなら今すぐ使いなさい、さもなければ」
「ほむら・・・ちゃんに、使って・・・ほしい、の・・・ ゴブッ ごぼっ ごほっ」
見るからに、今にも天に召されそうなまどか。
大量の血を吐きながら、震える手で必死にグリーフシードを持つ手をこちらに伸ばしてくる。
「そんな・・・ 何故私に・・・
!?」
「ごぶっ 私には、できなくて・・・ ほむら、ちゃんに できること、お願いしたい から・・・」
瀕死のまどかを見ていられなくなり、せめてまどかの願う通りに動きたいと思った私は、思わず左手の甲をまどかに差し出してしまう。
ヒュァァァアアアアア・・・・・・
凍り付いていた全身に熱い血が滾ってゆくのが分かる。
消耗が激しすぎて全回復には程遠かったけれど、今のこの場を切り抜けることはできそうだった。
キイイィィィィ・・・ ザシュッ!
魔力を込めたサバイバルナイフで擦り潰された自分の両足を切断する。
そして、新しい足を魔力で形成した。
これで動けると思った、その時────。
「ぐっ あああああああぁぁ・・・ あぁ ああっ・・・!」
「まどかっ!」
魔力の尽きたまどかは自己修復することもできず、魔法少女として強化された肉体が仇となり気を失うことも叶わず。死ぬよりも辛い、擦り潰された下腹部から下の激痛を、何度も正確に感じ取り続けることしかできずにいた。
「ほむら ちゃん、過去に 戻れるんだよね・・・? こんな終わり方に、ならないように・・・ 歴史を変えられるって、言ってたよね・・・?
「まどか・・・っ!!」
「キュゥべえ に、だまされる前の 馬鹿な私、を・・・ 助けてあげて、くれない かな・・・」
「・・・約束するわ。絶対にあなたを救ってみせる! 何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる・・・っ!」
「よか った・・・」
ギュィィイイィィン・・・ ギィィィイイィン
「ぐぁ がっ ああああああああっっ!!」
「まどか!」
まどかのソウルジェムは色相が反転して漆黒に近い悍ましい色に変わっていた。
誰の目にも魔女化が近いことは明らかだった。
「ほむら、ちゃ・・・ もうひとつ、頼んで、いい・・・?」
もうまどかはしゃべるのも辛そうだった。
口から血と泡を吹きながら、必死に言葉を伝えてくる。
「・・・私、魔女には なりたくない・・・ 嫌なことも 悲しいこともあったけど・・・ 守りたいものも たくさん、この世界には、あった から・・・」
「ええ・・・ ええ、そうね・・・ そうよね、まどか・・・」
「おねが い・・・」
まどかは変身を解くと、ソウルジェムを掌に載せてこちらに差し出してきた。
もうまどかを見ていられなかった。
いついかなる時も強くあろうとしていたけれど、まどかの今際の際は何度経験しても弱い自分が出てしまう。
震える手で盾から拳銃を取り出して安全装置を外し、まどかの掲げるソウルジェムに照準を合わせる。
──これはまどかの介錯なのだから。
──まどかにこれ以上の苦痛を感じさせない為の救済なのだから。
──だから。だから・・・!
「~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
涙で何も見えなかったけれど、まどかの最期のぬくもりに導かれて。
私はそのまま、冷たい引き金を引いた。
【魔法少女編
10】
21
七月五日(金) 三:二五
【 アーッハッハッハッハ アーッハッハッハ 】
ほぼ更地となり、壊滅状態となった見滝原市を尻目に、ワルプルギスの夜は使い魔を引き連れて北上してゆく。
しかし、市境が近くなると急に勢力が衰え、平均的な台風と同程度の規模にまで縮小していった。
「・・・ふぅん。史上最悪の魔女も霧散しそうだ。努力の甲斐があってよかったじゃないか」
「・・・・・・」
私はまどかの両手を胸の前で組ませ、短時間だが黙祷を捧げる。
無神経なインキュベーターに弾を食らわせようと思ったけれど、もうこの世界には用はない。
まどかから分け与えられた魔力により、今すぐにでも時間遡行をし、あの子の最後の願いを叶えに行かなければ。
ファサァ・・・
盾に手を添え、時間遡行の為に魔力を込めようとした時。
ふと、この世界で出会った一人の天使のことが頭を過った。
♪ this is my despair
天使────。そう、生身の人間でありながら、そのすべてを包み込む包容力と温かさは天使と言って差し支えない。
人によっては聖母と形容するかもしれないその博愛の精神は、私の凍てつく心をも融かさんとしたことも事実。
何故だか、無性に会いたくなる。
コッ コッ コッ コッ・・・
「・・・戦わないのかい? 弱っている今なら、倒せるかもしれないよ?」
「・・・うるさいわね。付いてこないでちょうだい」
私がループを繰り返しているのはまどかの為。
まどかの為ならば命を懸けられる。
何度繰り返しても、その気持ちに変わりはない。
しかし、時間遡行する前に少しだけ寄り道をしても許されるだろう。
「・・・・・・」
私はほとんど被害を受けていない天舞市の方角を見やると、ゆっくりと歩みを進めていった。
七月五日(金) 四:〇三
♪ 幸せな一日
天舞市にある二十四時間営業のスーパーマーケットに立ち寄る。この時間に学生服では怪しまれる為、盾に収納しておいた普段着に着替えることも忘れない。
さすがにこの時間に会いに行く、もしくは自宅に招くのは非常識極まりない。平日ということもあり、昼間は学校にも行っていることだろう。
自宅に戻り休息を取る前に、例のものを購入しておく。
例のもの──薫り高い紅茶の茶葉。以前、巴マミにご馳走してもらった紅茶でとてもおいしいものがあったことを思い出す。それと同じものを探してみる。
「・・・アッサムのオレンジペコーは・・・ これね」
アッサムOP、オレンジペコーは甘みのある味と穏やかな香りが特徴の紅茶。ストレートでもミルクを入れてもおいしい。
小さな子どもだからあまり香りがきつくないほうがいいだろう。もっとも、小さな子どもと言っても私とほぼ同い年なのだけれど。
何となく、あの子のイメージから紅茶にはミルクを入れ、クッキーなどをつまみながら飲むような気がする。
「・・・喜んでくれるといいのだけれど」
あまり誰かをもてなしたことがないから、若干不安は感じるけれど。
でも例え選択を失敗したとしても、あの子なら笑顔を向けてくれるはず。
そう思えるだけの人柄の良さがあの子にはあった。
私は茶葉の入ったビンと缶に入ったクッキーを購入し、店から出る。
ヒュオォォォ・・・
♪ Happy Ending
台風一過の空は、見滝原市の惨状がイメージできないほど澄み渡った薄明色をしていた。
日が昇り始めてすぐの時間帯で、夜から朝に切り替わろうとしている。
まどかを含め、どれだけ多くの市民が犠牲となったのだろう。街ひとつがほぼ更地になるレベルの災害である為、想像すらできない。
空を仰ぐと、亡くなった人たちの魂が空を昇り、大空に溶け込んでいっているような。薄紫色と薄青のたゆたう神秘的な色合いの美しい大空が広がっていた。
見滝原市の方角を見据え、東から朝日を受けながら、犠牲者に黙祷を捧げる。
そして私は、まどかを看取った直後だというのに自分でも信じられないほど軽い足取りで、倒壊の被害を免れた自宅へと向かっていった。
Continued next time...
<2024年8月31日公演分>
■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(小之森夏音さんを治療する暁美ほむらさんの図) ■
ヴァラカスサーバ在住のマイチャンさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。
物語の進行上避けられなかった演出とはいえ、さぞかし小依さんは心を痛めたことでしょう。
乃愛さんもおっしゃっていましたが、「自分自身よりそのパートナーの方が傷が深い」というのも頷けます。
ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のまいちゃんさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。
素敵な作品、ありがとうございました。
<2024年9月22日公演分>
■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(長い髪をファサァとする暁美ほむらさんの図) ■
ヴァラカスサーバ在住のマイチャンさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。
激痛で叫び、悶え苦しんだ夏音さん。目の前でそれを見届けた小依さんは、今回も胸を痛めたことでしょう。
こちらは公演会のお昼休み中のワンシーンです。大切な人が苦しむ姿を見続けることは多大な痛みを伴うものです。
よく頑張りましたね。苦しい時はしっかりと甘えることも大切です。
ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のまいちゃんさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。
素敵な作品、ありがとうございました。
<2024年10月27日公演分>
■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(二人の前に姿を現したキュゥべえの図) ■
ヴァラカスサーバ在住のマイチャンさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。
人生は選択の連続です。そして、中には人生を左右する大きな選択もあります。
そのような大きな選択は、往々にして後になってから気がつくものが多いのですが……。
ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のまいちゃんさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。
素敵な作品、ありがとうございました。
<2024年12月1日公演分>
■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(走って逃げる小依さんの図) ■
ヴァラカスサーバ在住のマイチャンさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。
聖母夏音さん。大学生の松本さんにすら「ママ」と呼ばれる母性の持ち主です。
しかしながら、確かに小依さんのおっしゃる通りまだお母さんになる前の状態ですね。
お二人が仲睦まじいことは大変よろしいことだと思います。
ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のまいちゃんさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。
素敵な作品、ありがとうございました。
<2025年2月23日公演分>
■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(夏音さんを介抱する小依さんの図) ■
ヴァラカスサーバ在住のマイチャンさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。
「かの、食べないの?」「かのもちゃんと食べなさい」
小依さんのおっしゃる「あんなこと」とは、上記のセリフのことです。
メタ的には「脚本がそうなっていたので致し方ない」のですが、それでも小依さんは夏音さんと共に脚本を練り上げたこともあり「この内容でGOを出した」という点に於いて後悔されているのです。
文筆家としては既に大人顔負けの領域に踏み込んでいるお二人。然れどその精神性はいたいけであり、重いシナリオを受け止めるには少々至純に過ぎるようにも思えます。
彼女たちは彼女たちで傷を確認し合い、癒し合うことのできる天使性を持ちますが、受け止めきれない時は保護者がフォローすべき段階に来ているのかもしれません。
(ここ最近の公演会にて天使のお母様方が必ず同席してくださっているのはその為とのことです)
ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のまいちゃんさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。
素敵な作品、ありがとうございました。
<2025年3月30日公演分>
■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(ワルプルギスの夜) ■
ヴァラカスサーバ在住のマイチャンさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。
毎回、どの章もクライマックスと言える珠玉の物語の中でも、今回の第20章はあまりにも強く光り輝き、その場に立ち会った観客・演者問わずすべての人に強烈な印象を焼き付けました。
それはまどかさんがおっしゃる通り、原作アニメの中でも「真髄」とも呼ぶべき第10話のシーンの小説化に成功され、かつ異様なまでのリアリティを伴うまどかさんたちの演技あっての賜物です。
これぞまどマギ。これぞまどほむ。原作公開から14年の時を経て、熟成に熟成を重ねたまどかさんほむらさんの「想い」が凝縮された舞台であったと言えるでしょう。天晴れ!
実は、我々保護者が天使たちに厳重に隠匿していたシーンでもありました。それは、余りにも生々しい「死の気配」を感じる演技であり、ほむらさんの
「この世で最も愛すべき存在を自らの手で殺めなければならない」という、見る者も精神的に瑕疵を負う可能性が非常に高い残酷なシーンであった為です。
このシーンを公演会に取り入れることについての是非はまどかさんたちと時間をかけて協議をしました。結果的には
「夏音さんの覚悟に報いる為にも外してはならない、逃げてはならないシーンであろう」
という判断でまとまりました。精神的瑕疵については天使自身の自浄作用とお母様方の癒しの力に頼る形で、ほむらさんまどかさんにより公演会で実演する運びとなりました。
ところが、第20章終了後の天使たちの様子を見る限りでは、逆にダメージを負ったほむらさんをひなたさんが抱き締め、癒そうとする一幕も見られました。
他の天使たちも、ほむらさんに負担をかけまいと最大限の配慮をしてくださっていたように見えます。
我々保護者が危惧するよりもずっと、天使たちは心の成長を遂げていたようですね。肩の力が抜け、安堵したことを覚えています。
今回のイルミ観賞会は、千代りんさんのご提案により公演会の多くの観客様及び演者様が共に観賞する運びとなったようです。
恒例の「屋根の上集会」にほむらさんまどかさん含め公演会メンバーが集結したことからの発案だったそうです。ナイス提案でしたね。
作者のまいちゃんさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。
素敵な作品、ありがとうございました。
【 参考資料 】
本公演会にて紡がれる「絆」においては、様々な商用作品からエッセンス、イマジネーション、モチーフなどが取り入れられて形作られています。
以下にそれら商用作品についてまとめます。
作品名 |
作品形態 |
連携形式 |
コピーライト |
魔法少女まどか★マギカ |
TVアニメ |
featuring |
©︎Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS |
魔法少女まどか★マギカ[前編] 始まりの物語 |
映画 |
featuring |
©︎Magica Quartet/Aniplex・Madoka Movie Project |
魔法少女まどか★マギカ[後編] 永遠の物語 |
映画 |
featuring |
©︎Magica Quartet/Aniplex・Madoka Movie Project |
魔法少女まどか★マギカ[新編] 叛逆の物語 |
映画 |
featuring |
©︎Magica Quartet/Aniplex・Madoka Movie Project Rebellion |
ぷにるはかわいいスライム |
TVアニメ |
inspire |
©︎まえだくん/小学館/ぷにる製作委員会 |
アクロトリップ |
TVアニメ |
inspire |
©︎佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会 |
私に天使が舞い降りた! |
単行本 TVアニメ |
inspire (the authentic source) |
©︎椋木ななつ・一迅社/わたてん製作委員会 |
ホワイトリリィ ↑※ピクシブ百科事典の該当ページが開きます。 |
単行本 TVアニメ |
spin-off inspire (the authentic source) |
©︎椋木ななつ・一迅社/わたてん製作委員会 |
私に天使が舞い降りた! プレシャス・フレンズ |
映画 |
inspire (the authentic source) |
©︎椋木ななつ・一迅社/わたてんプレフレ製作委員会 |
※以下、連携形式の違いについて解説します。
・featuring |
フィーチャリングのことです。コラボレーションやデュエットは「両作品は対等」「共同制作」という意味となりますが、フィーチャリングは厳密に「上下関係がある」ことを明確にしているという違いがあります。表記方法は「作品A feat. 作品B」という形となり、この場合は「作品Bを作品A側に登場させていただいている」という意味となります。「作品Bのほうが影響力が大きく、作品規模として大きい」と作品A側が明確に表明していることになります。 今回の公演会に於いては「わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ」という表記である為、これは「わたてにんぐ劇場に所属の夏音さんの作る物語に、多大な影響力を持つまどかさんの魔法少女まどか★マギカという作品にスペシャルゲストとして登場していただいている(または、まどか★マギカ側に入り込ませていただいている)」という、最大限の畏敬、尊敬の念が込められた命名であることになります。 |
・inspire |
インスパイアのことです。ベースとなる「私に天使が舞い降りた!」の物語を作るにあたり、言い回しや表現などにひらめきを得て、感化された結果物語に取り入れたいと感じた作品を指します。具体的には「ホワイトリリィ」「ぷにるはかわいいスライム」「アクロトリップ」といった作品群のことです。 |
・spin-off |
スピンオフ作品のことです。「ホワイトリリィ」は「私に天使が舞い降りた!」という作品内における劇中劇であり、一種のスピンオフと言えると思います。 |
・the authentic source |
本家本元のことです。「私に天使が舞い降りた!」という作品も商用作品ではあるのですが、既に天使たちにとっては「我が家」であり「ホームグラウンド」となっている作品です。その為、「私に天使が舞い降りた!」についてもインスパイア扱いが相当ではあるのですが、天使たちの「自分たちがオリジナルであり本家本元である」という気概を尊重する形で、わたてん!に限ってはこの表記としてみました。 |
※「魔法少女まどか★マギカ」と私はよく表記していますが、WEBや出版物などを見ますと「魔法少女まどか☆マギカ」が正しいようです。ここで歴代の作品ロゴを見てみましょう。
「ワルプルギスの廻天」に於いては「☆」に見えますが、他は塗り潰された「★」のように見えます。
個人的にはまどか★マギカという作品は「抗いようのない絶望に魔法少女たちが塗り潰されていく」様を描いているように感じますので、昔から「☆」ではなく「★」を好んで使用して参りました。
ただ、公式見解は「☆」が正しいようですので、みなさまWEB検索をされる際は「魔法少女まどか☆マギカ」と指定するほうが無難かと思われます。
■作品内時系列整理
本作「絆」に於いては、暁美ほむらさんたち魔法少女の主観にて進行する「ほむらさんサイド(魔法少女編)」と、小之森夏音さんたち天使の主観にて進行する「夏音さんサイド(天使編)」とが交錯する形で物語が展開します。
また、「時系列ずらし」という高度な物語編纂方法を取り入れており、単純に第01章からお話が時系列通りに進むお話ではなく、実は物語の一番最初は第14章であることが途中で判明するという複雑な作り方がなされています。
これについて夏音さんに理由を尋ねてみました。
「時間を操る魔法少女のほむらさんに魔法少女側の主役に就いていただいたこともありまして、その感謝を表すためにも大胆な作り方をしてみようかなぁと思いまして。読みづらいとは思うんですけど・・・><」
とのこと。つまり、読みにくさは承知の上で「物語の製法そのものを【時間を操るほむらさんへのリスペクト】として大規模な時系列ずらしを採用した」ということになります。
普段おっとりしている穏やかな夏音さんの冒険心を尊重すべく、私にできることを考えてみました。結果的に、一見すると読み辛い・理解し辛いと感じてしまう物語構造となっていることから、その理解を手助けする為の整理をしてみようと思い至りました。
以下、本作における時系列整理の為の資料を提示しますので、ご一読ください。
夏音さんにヒアリングしたところ、本作は公演開始時期の「2024年に於ける7月」を想定して作られているそうです。その為、上図のように2024年7月3日の深夜時間帯から始まることになります。
以下はその「7月3日~5日」に起きた出来事について、ほむらさんサイド/夏音さんサイドそれぞれの発生時刻をプロットした表です。
物語内で発生した出来事を、時系列に沿って「No.」の(01)~(29)でまとめたものが、右端の「各シーンの時系列整理」の列になります。
夏音さんの綴られる章立てとのリンクは「該当章」の列に対応表としてまとめております。
<留意事項>
・各章に記載のある「詳細時刻」はその出来事の「発生時刻」であり、その出来事がどの程度かかったのかまでは不明な状態です。
ただし、ヒントとなることは書かれておりまして、例えば第14章ラストには巴マミさんの弔いを終えたほむらさんは「三時間ほどの仮眠を取る為に自宅へと向かった」とあります。
その続きのお話は第15章(15:10開始)となることから、支度などの時間を考えると仮眠は恐らく「11:00~14:00」辺りだったのではないかと推測できます。
巴マミさんの弔い後、自宅へ帰宅~シャワー~栄養補給などをする時間を考えると、弔いは9:00頃までに終わらせているものと考えられます。
そのような推測の上に、(01)については25:30~9:00と長めに引いてみました。
(実際には街が動き出す前の5:00頃までには巴マミさんのご自宅にご遺体を搬送し終わっているのであろうと思います)
・時刻表記は物語に登場したままとしています。(例:上図(27)にある「7/4(木) 26:43」を「7/5(金) 2:43」と変換はしておりません)
■ワルプルギスの夜
第05章のチャットログに、今回の「舞台の大道具」として極寒の島の竜巻を「ワルプルギスの夜」に見立てているとの会話がありました。ここで魔法少女まどか★マギカにおける「ワルプルギスの夜」という存在についてまとめてみたいと思います。
「ワルプルギスの夜」とは、魔法少女まどか★マギカの元ネタとして有名なゲーテのファウストに登場する一節です。主人公ファウストと悪魔メフィストフェレスとの会話にて「ワルプルギスの夜にブロッケン山へ来て~」というものが登場します。
ここでの「ワルプルギスの夜に~」とは「ワルプルギスの夜と呼ばれるお祭りの行われる時季に~」という意味であり、4月30日の夜~5月1日のことを指します。
「ワルプルギスの夜と呼ばれるお祭り」とは何かといえば、端的にいえば北欧諸国で行われる春祭りのことです。聖ワルプルガという宣教師が民衆をキリスト教に改宗させ、当時猛威を振るっていたペスト・狂犬病・百日咳などの目に見えない風土病と戦い、これに打ち勝ちました。これらの風土病は当時「魔女による魔術である」とされており、ワルプルギスの夜の祭典は「民衆vs魔女」の戦いの象徴であると言えるでしょう。後に「魔女狩り」と呼ばれる悲しき概念に繋がるのですが、それはまた別のお話。
このワルプルギスの夜の祭典では、主に聖ワルプルガを介して神に祈り魔女からの守護を得て、焚火を点けて聖ワルプルガのイヴを祝い、悪霊や魔女を退散させるといったことが行われています。なお、4月30日の夜~5月1日に行われているのは、この日に聖ワルプルガの聖遺物をローマ帝国の教区が設置されているアイヒシュテットへ移送した日とされている為であり、その記念の祝祭のようです。
さて。「ワルプルギスの夜」という言葉の一般的な意味としては上記の通りです。「魔女と対決する」ことを象徴する祭典という意味であり、これは魔法少女まどか★マギカにも登場します。
暁美ほむらさんのご自宅の様子。極寒の島同様白い光で覆われ、上部には暁美ほむらさんの収集したワルプルギスの夜についての情報が投影されています。
極寒の島の公演場所から一望できる竜巻。逆さとなっているワルプルギスの夜を模したものであり、暁美ほむらさんのご自宅の様子に近づける為の努力の一環とのことです。
魔法少女まどか★マギカにおける「ワルプルギスの夜」。通常の魔女とは異なり、結界に身を隠す必要すらない超弩級の大物魔女。一般人にはスーパーセル(超大型台風)として知覚されます。
上下が逆(頭が下)になっていますが、ワルプルギスの夜が本来の向きに反転するとそれだけで世界が壊滅すると言われています。大人しく逆転しておいていただきましょう。
魔女「ワルプルギスの夜」を牽引するパレード群。これはつまり「魔女の祭典」という「オリジナルのワルプルギスの夜」のイメージを踏襲しているものと考えられます。
難敵を相手に、たった一人で大量の兵器と共に戦う暁美ほむらさん。
魔法少女まどか★マギカにおけるワルプルギスの夜とは「魔女」そのものであり、舞台装置の魔女という異名を持つ「難攻不落で倒すことのできない魔女」として登場します。これが倒される時は物語が破綻する時であり、通常は倒すことはできず、例え倒せた場合もより大きな問題が発生する為にそこを起点として再度ループが発生することになります。
第四の壁を越えうる存在であり、物語の作者の祝福を受けているとも考えられるワルプルギスの夜。そのような理不尽な魔女を相手に、暁美ほむらさんは往々にして一人孤独に戦うことを余儀なくされます。果たして暁美ほむらさんに魂の安寧が訪れる日は来るのでしょうか────。
■巴マミさんのヘアスタイリング
第06章のチャットログに上記の会話がありましたので、映画「叛逆の物語」における巴マミさんの入浴後のヘアスタイリングについて見てみましょう。
※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約8.3MBです。
【シーン解説】
見滝原市の魔法少女戦隊P.M.H.Q.(ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテッド)の隊長である巴マミさん(隊員は佐倉杏子さん、美樹さやかさん、鹿目まどかさん、暁美ほむら(眼鏡)さん)。遅い時間に「ナイトメア」と呼ばれる存在が出現したことを受け、時間短縮の為魔法で縦ロールのヘアスタイルを作り出しています。
お体にバスタオルを巻いていること、髪をブラシで整えていたことから、平常時は魔力節約の為にタオルを用いて拭き上げ髪型も手で整えているものと思われます。
ちなみに巴マミさんが「ベベ」と呼んでいる小さな存在はP.M.H.Q.のマスコット的存在であり、叛逆の物語においては巴マミさんの同居人です。
■ソウルジェムの浄化について
第07章のチャットログに上記の会話がありましたので、ソウルジェムの浄化についての映像をまとめてみました。
※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約162MBです。
※編集注
動画には今際の際の魔法少女が登場します。あまりの臨場感に精神的にダメージを受けてしまう方がいらっしゃるかもしれません。
特に天使のみなさん。花さんは春香さんもしくはみやこさんとご一緒に。ひなたさんはみやこさんもしくは千鶴さんとご一緒に。乃愛さんはエミリーさんとご一緒に。小依さん夏音さんは周囲の大人の方とご一緒に以下の動画を閲覧するようにしてください。
【シーン解説】
・巴マミさんのソウルジェム浄化 (出典:魔法少女まどか★マギカ[前編] 始まりの物語)
・美樹さやかさんのソウルジェム浄化(出典:魔法少女まどか★マギカ 第5話 後悔なんて、あるわけない)
・暁美ほむらさんのソウルジェム浄化(出典:魔法少女まどか★マギカ[後編] 永遠の物語)
の順に動画でまとめております。
基本的な解説は動画の下部にテキストとして加えております。
ここでは動画に入りきらなかった注釈を記載いたします。
・巴マミさんのソウルジェム浄化
巴マミさんは魔法少女の先輩として美樹さやかさんと鹿目まどかさんを連れて魔女退治に出陣しました。魔女の魔力の痕跡を頼りに地味な探索を続けていると「薔薇園の魔女(ゲルトルート)」と呼ばれる魔女が出現。巴マミさんお得意の必殺技「ティロ・フィナーレ」によりこれを仕留めます。
動画のシーンは魔女戦が終了した後の様子を抜粋していますが、いくつか注釈を。まず、冒頭の空間が歪むような演出は「魔女結界を抜けた」ことを表しています。魔女は自分だけの閉塞した空間「結界」に隠れ潜んでおり、この結界に犠牲者を呼び込む為に「魔女の口付け」と呼ばれるものを一般人に付与します。魔女に魅入られてしまった犠牲者はそのまま命を落とすことがあります。(その場合でも直接魔女に殺められるというよりは「自らの意思で身投げをした」といった形になります)
魔女との戦闘前に犠牲者を救出し、その後単騎で魔女に勝利した巴マミさんは類稀なる力を持つベテラン魔法少女であると言えるでしょう。
ソウルジェムの浄化については動画の説明通りです。グリーフシードひとつで何回ソウルジェムを完全浄化できるのかは不明ですが、一回以上は回復できるようです。例えがあまり良くありませんが、スマートフォンを駆動し続ける為の「モバイルバッテリー」のようなイメージです。(電力を補充するのではなく、溜まった穢れを吸収するものですので概念的には逆なのですが)
・美樹さやかさんのソウルジェム浄化
美樹さやかさんのソウルジェム浄化も、巴マミさんのものと同じです。ここではキュゥべえによる「グリーフシードの処理」に着目してみましょう。
キュゥべえの顔についている「ω」の口は、会話には用いられませんが食べ物を摂取する際には開いて機能します。グリーフシードもこの口から取り込むのかと思いきや、背中がパカッと開きそこに取り込んでいますね。
キュゥべえの体の体積は非常に小さいのですが、「食物摂取用・処理用のスペース」「グリーフシード取り込み・処理用のスペース」は分割されているようです。さすが宇宙人のテクノロジーですね。
(呪いを溜め込み過ぎたグリーフシードを処理できるのなら、ソウルジェムの穢れもキュゥべえの背中の口で直接吸い込めるのではないか……と思うのですが、難しいのでしょうかね)
・暁美ほむらさんのソウルジェム浄化
暁美ほむらさんはその登場タイミングによって「眼鏡を着用したほむらさん(メガほむ)」「クールなほむらさん(クーほむ)」「リボン付きほむらさん(リボほむ)」という愛称で呼ばれることがあります。原典の魔法少女まどか★マギカ(DVD・BD版)では、第1話~9話が「クーほむ」、第10話のループの中では「メガほむ」、第11話~12話は再び「クーほむ」、第12話ラスト付近で「リボほむ」として登場します。簡単に特徴をまとめますと
・クーほむ:クールなほむらさん。時間停止・遡行可能な盾を装備。主な武装は拳銃・爆薬など。
・メガほむ:眼鏡着用のほむらさん。性格は気弱で、引っ込み思案。時間停止・遡行可能な盾を装備。主な武装はゴルフクラブ・爆薬など。
・リボほむ:リボン着用のクールなほむらさん。性格はクーほむと同じ。円環の理となったまどかさんから「リボン」と「弓」を受け継いだ状態。まどかさん同様魔法で生成した矢を弓で撃ち込む戦闘スタイル。
リンドビオルサーバの暁美ほむらさんは「クーほむ」に分類されますが、「メガほむ」のように可愛らしく礼儀正しい側面もお持ちであり、何より他者に対する優しさが原作ほむらさんよりも飛び抜けて高いです。これは「原作での役割を終えて、円環の理に導かれた」為に、柔和な性格となっていることが理由です。これはフェデレーション内の魔法少女さん全員に共通する特徴です。
動画終盤でも触れましたが、鹿目まどかさんの存在が無かったことにされている為、鹿目まどかさんを中心とした願いにより契約をした暁美ほむらさんの契約理由も他のものに置き換わっています。それがどのようなものであるかは不明ですが、武装としてはまどかさんの装備されていた弓を用いた戦闘スタイルに変化しています。(弓自体の見た目は黒く変色しており、魔法の矢も紫色の光となっていますが、カラーリングはほむらさんのイメージに近いものとなっているのでしょうね)
なお、叛逆の物語にも退治したナイトメアによりソウルジェムが浄化されるシーンがありますが、術式が大きく異なることから省略しています。あくまで「ソウルジェムがグリーフシードorグリーフキューブにより浄化されるシーン」の抜粋と捉えてください。
■リリキュア(ホワイトリリィ)について
第11章にて華々しく公演会デビューされたホワイトリリィさん。ここでは私に天使が舞い降りた!という作品における劇中劇である「リリキュア(ホワイトリリィ)」について解説いたします。
まずはわたてん!のアニメよりホワイトリリィに関連するシーンを抜粋してまとめてみましょう。
※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約97MBです。
前半部分はみやこさん、乃愛さん、花さんそれぞれのホワイトリリィのコスプレを着用した際の様子です。
後半部分は本物のホワイトリリィの登場する、ひなたさんと乃愛さんの映画館デートでのシーン。
白とピンクを基調としたふわふわの衣装がとても愛らしいですね。本物のホワイトリリィのお姿を見る限り中学生~高校生くらいに見えますので、花さんたちのコスプレ衣装とみやこさんのコスプレ衣装の中間くらいが本家のサイズに近いのかもしれません。
動画中にもホワイトリリィの声優さんである「ゆかな」さんについて軽く触れましたが、第9話のエンドロールにも上記の通りゆかなさん名義での表記があります。
記念すべきプリキュアシリーズ第一作目「ふたりはプリキュア」にてキュアホワイト役を務め、更にはプリキュアシリーズが始まる前の作品である「愛天使伝説ウェディングピーチ」においてもエンジェルリリィ役を務められている大御所です。このウェディングピーチという作品は「美少女戦士セーラームーン」の実質的な派生作品とされており、企画構成をセーラームーンの担当者が立ち上げておりキャラクターデザインもセーラームーンと同じ方が描いている作品です。また、それら過去の作品を知らずとも「キュア
ホワイト」「エンジェル
リリィ」という名前を合わせて「
ホワイトリリィ」が誕生したと類推できるようにも作られています。
恐らくこれら関連要素はネタとして「気付いた人だけ楽しんでもらえたら」という意図で組みこまれていると思いますが、劇中劇であっても手を抜かない製作側の本気を感じられるものとなっています。わたてん!のスピンオフ作品としてホワイトリリィがアニメ化されると面白そうですね。
豆知識ですが、原作マンガでは「リリキュア」という作品名で呼ばれており「ホワイトリリィ」はキャラクター名として登場します。一方、TVアニメでは「ホワイトリリィ」という作品名であり、主役も「ホワイトリリィ」であるとされています(マスコット(使い魔)は「リリィ」と呼んでいましたが、愛称のようなものかと思われます)。なお、みやこさんのお部屋に掲示されているホワイトリリィのポスターは一種類ですが、映画館に掲示されているポスターは3つのバリエーションがあるようです。
以下、みやこさんのお部屋に掲げられているポスターと、映画館に掲げられているポスターを掲載いたします。
アニメ第3話「刷り込み」のBパートより。他にもポスターの見られるシーンはありましたが、ここが一番見やすいと思いました。作品名と思しきロゴには「ホワイトリリィ」と記載されています。
アニメ第9話「私が寝るまでいてくださいね」のAパートより。映画館に掲示されている「映画 ホワイトリリィ」のポスター。どうやら絵柄は三種類あるようです。
3種類あるうちの左の絵柄の拡大図。これがメインビジュアルのようですね。ホワイトリリィだけでなく、パープルリリィ、レッドリリィ、グリーンリリィがいるようです。映画でホワイトリリィと戦っていたのはポスター中央左の銀髪の方と思われます。ホワイトリリィの攻撃が効かないようですので、かなりの強敵ですね。
3種類あるうちの中央と右の絵柄の拡大図。残念ながら詳細は確認できませんが、右の絵柄の上部中央には「敵の女幹部」と思しきボスのような褐色肌の方がいらっしゃいます。また、各リリィのマスコット(使い魔)の姿もそれぞれ別に存在するようです。キュゥべえのように全魔法少女共通の使い魔ではないようですね。左の絵柄については「映画」という文言のないロゴになっていますので、TVアニメ・映画共通の作品イメージビジュアルのようなものかもしれません。
ホワイトリリィには当てはまりませんが、他リリィについては衣装の色、瞳の色、髪の色の系統がそれぞれ統一されており、魔法少女まどか★マギカから続く系譜のカラーリングを踏襲しているように見えます。
以下、原作マンガより「ホワイトリリィ」「リリキュア」に関連するシーンを抜粋します(右から縦にご覧ください)。
右から1ページずつ、簡単に解説します。
原作第1巻5話「見られた」 記念すべきみやこさんと乃愛さんの出会いのお話。「白く輝く奇跡の花 ホワイトリリィ!」と、アニメでの決め台詞と同じ名乗りを上げています。
原作第1巻5話「聞かれた」 みやこさんの秘密の趣味を、お隣の空き家に引っ越してきたばかりの乃愛さんに窓越しに見られ聞かれてしまいました。更には追い打ちまでされてしまい、みやこさんは瀕死の重傷を負うのでした。無残。ちなみにこの出会いの出来事についてみやこさんは「早く忘れて」と常日頃から乃愛さんにお願いしているのですが、最新第15巻に於いても未だにネタにされている状態ですので恐らく忘れてもらうのは無理なのではないかと(苦笑)
原作第1巻5話「逃がさない」 転校してきた乃愛さんがひなたさんのお宅に遊びに来た際のシーン。先の「見られた」と同じ構図にて今度は乃愛さんがホワイトリリィの衣装をお召しになっています。アニメでの該当シーンもみなさんここと同じリアクションであり、原作に忠実に再現されています。
原作第1巻5話「食いつき」 この辺りもアニメとほぼ同じ流れです。強いて言えばアニメ版のほうがみやこさんの食いつき方がすごいくらいでしょうか。
原作第1巻6話「ノア:4位」 乃愛さん発案での「みんなでコスプレ勝負」。「みんなで」ということで、審査員だったみやこさんも巻き込まれており、乃愛さんご指定のホワイトリリィの衣装に。
原作第1巻6話「良い子?」 この辺りはアニメでいうと乃愛さん登場回の第2話「サイキョーにカワイイ」に同じ流れで登場します。ただ、セリフ回しはアニメの方がより角の立たないやわらかいものとなっています。
原作第4巻33話「ネタバレ禁止」 ここのパートまで「リリキュア」という言葉は登場していませんでした。以降、原作マンガに於いては「リリキュア:作品名」「ホワイトリリィ:登場人物」と定義したいと思います。
原作第5巻39話「動画もあるよ」 友奈さんとおままごとをするお話です。香子さんのお写真などで見慣れているリリキュア(という作品の主役=ホワイトリリィ)になってほしいとせがんでいますね。
原作第5巻39話「見慣れてる」 友奈さんにせがまれたホワイトリリィをお召しになるみやこさん。友奈さん大喜びの影で、笑顔で怖いことをおっしゃる香子さん。
原作第8巻62話「行動派」 リリキュア新シリーズ全員分のコスプレ衣装を作ったと豪語するみやこさん。大学生は意外と時間があるようですね(苦笑)。
原作第8巻62話「少数派」 全員分ということで、夏音さんたちにも着てほしいとお願いしていますね。常識人の夏音さんが困惑しています。
原作第8巻62話「変身」 ここほどカラーページでないことが惜しまれるパートも少ないのではないでしょうか。トーンの微妙な違いと各天使のイメージカラーから、想像力で色を補うしかありませんね。恐らくですが、花さん:
パープルリリィ、乃愛さん:
ホワイトリリィ、ひなたさん:
オレンジリリィ、小依さん:
レッドリリィ、夏音さん:
グリーンリリィに相当するものと思われます。
原作第8巻62話「フラッシュバック」 そしてオチはみやこさんのホワイトリリィ姿と、香子さんの敵の女幹部姿。敵幹部1人 vs リリィ連合6人という構図ですが、それでも香子さんなら善戦しそうな雰囲気がありますね。
原作第15巻付属 書き下ろしマンガ「魔法少女☆星野みやこ」 ひげろーに似た魔法の使者に契約もせず魔法少女にさせられたみやこさんのお話。ラストで「敵の女幹部」として香子さんも登場しています。この衣装のデザインは第8巻でみやこさんが香子さんの為に作った黒地の衣装と同じものです。なお、みやこさんのホワイトリリィ姿は第8巻の「新シリーズの衣装」ではなく、それまでに登場していた「旧シリーズの衣装」のようです。アニメのホワイトリリィたち各リリィの衣装もこちらのデザインを参考にしているように思います。
(推測ですが、原作マンガにおける「旧シリーズ」ではホワイトリリィ単独であり、「新シリーズ」になって人数が増えてアニメ版の「映画 ホワイトリリィ」のような状態になったのではないかと)
と、このようにわたてん!という作品に於ける劇中劇として「リリキュア(ホワイトリリィ)」がありますが、軽く今回の「絆」での役割などを記載してみます。
以下、夏音さん小依さんからヒアリングした結果を元にまとめております。
原作とアニメそれぞれで「強く勇ましい、頼りになる等身大のお姉さん」のヒーローとして描かれるホワイトリリィ。もちろん、夏音さん小依さんもエンプラにてホワイトリリィは視聴しており、夏音さんがその強さにうっとりと陶酔する「正義の味方」として登場します。この「正義」というキーワードを元に、魔法少女とキュゥべえの存在について自問するきっかけにできないかと考えたそうです。「何をもって正義といえるのか」「誰にとっての正義なのか」「キュゥべえは本当に悪なのか」といったテーマを自分の中でまとめる為に、勧善懲悪が非常に分かりやすい「魔法少女もの」であるホワイトリリィを取り入れたそうです。
これはつまり、魔法少女まどか★マギカという作品も「魔法少女もの」ではあるのですが、その物語構造が非常に難解かつ「絶対的な正義は見方(立場)によって変わる」というテーマ性があることから、既にわたてん!とまどマギという2つの作品をミックスしていることは承知の上で更にホワイトリリィという作品を3つ目の例として取り入れることにしたそうです。
■アルティマ・シュートについて
第11章および第13章のチャットログに上記の会話がありましたので、ホワイトリリィさんの必殺技として登場した「アルティマ・シュート」について解説いたします。
※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約226MBです。
動画では正式名称として採用された「ティロ・フィナーレ」のシーンを集めてみました。
ご覧の通り、「アルティマ・シュート」とは巴マミさんの必殺技「ティロ・フィナーレ」のことです。ちょうど巴マミさんが観劇された日にこの技が登場しましたので、良い演出だったと言えるでしょう。
巴マミさんと言えばティロ・フィナーレ。とすぐさま関連付けて思い出される技であり、あまりの威力に使い魔どころか魔女ですら直撃すれば一撃で撃破してしまうオーバーキル確定の超必殺技です。特に、映画叛逆の物語終盤に於けるティロ・フィナーレは歴代最高出力の「列車砲」となっており、その効果範囲・威力はまさに「黄金色の核兵器」と言ってよろしいかと思われます(某リリカルな魔法少女さんの「桃色の核兵器」になぞらえております)。直撃していればワルプルギスの夜ですら半壊したかもしれませんね。
「アルティマ・シュート」は魔法少女まどか★マギカの収録直前まで巴マミさんの必殺技の名称として設定されていたものです。ところが、収録直前に英語からイタリア語に、つまり「ティロ・フィナーレ」に変更となった経緯があります。急遽変更となったことから、初代の魔法少女まどか★マギカのマンガでは技名の誤植が起きるといった問題も発生しました。
意味としては「最後の一撃」ということで、英語でもイタリア語でも同じようなものです。必殺技という特性から、もうその後は無い(ラストアタックとなる)為、様々な作品で似たような名称が採用されていますが(例えば某野菜王子の「ファイナルフラッシュ」などもそうですね)、その中にあってもイタリア語の「ティロ・フィナーレ」は異彩を放つ大技と言えるでしょう。
※なお、本来は砲弾を用いて狙撃する広範囲マップ兵器なのですが、ホワイトリリィの使用武器が不明な為にヒーローものによくある「蹴り技(キック)」に当てはめたとのことでした。
しかしながら、ホワイトリリィの元ネタと考えられるエンジェルリリィの持ち技として「リリィ・キック」「百烈キック」というものがあります。蹴り技を多用する戦闘スタイルのようですので、原作リスペクトという意味で非常にふさわしいチョイスになったと思います。
※以下、おまけ。
■巴マミさんの超火力攻撃の例
※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約410MBです。
※編集注
動画には一瞬ですが、美樹さやかさんの左腕が破砕し血肉と共に骨が剥き出しになるシーンがあります。特に夏音さん小依さんには左足に受けた生々しい傷を想起させるものである為に直視し辛いものと思います。
天使各位のお母様のご判断にお任せしますが、再生される場合は天使を一人にはせず大人と共にご覧いただけますようお願いいたします。
動画では2つの銃撃戦をまとめてみました。
・前半:マギア✧レコード(アニメ版)における、「神浜の聖女」となった巴マミさんの暴走を阻止し、元の巴マミさんを取り戻すべく敢然と立ち向かう美樹さやかさんとの戦闘シーン。
・後半:新編 叛逆の物語における、同居人ベベを守ろうと奮闘する巴マミさんと、ベベを魔女であると疑う暁美ほむらさんとの戦闘シーン。
いずれも恐ろしいまでの物量戦が繰り広げられています。やはりマスケット銃と拳銃という、一発の威力が(魔法少女としては)弱めの武器を使用するお二人ですので、数に物を言わせる戦術を採用しているようです。
美樹さやかさんは、先輩かつ錬度も上の巴マミさんが更にパワーアップした「神浜聖女」と戦う為、持ち前のタフさ(受けたダメージを瞬時に回復魔法で癒すやり方)で持ちこたえようとしています。涙ぐましい捨て身の戦法ですが、これも巴マミさんを取り戻す為。決死の作戦が行われます。
暁美ほむらさんも巴マミさんに負けず劣らずのベテラン魔法少女です。両者のパワーバランスが拮抗していることから決定打に欠け、長期戦を余儀なくされています。
原典の魔法少女まどか★マギカにおける巴マミさんも非常に強い印象でしたが、叛逆の物語やマギア✧レコードといった後継作品によってよりその突出した戦闘センス・超火力が分かりやすく描写されていると感じます。精神的には脆いところもあるものの、いざ戦闘となると鬼神の如き強さを発揮する巴マミさん。人間味のある頼れる先輩魔法少女として、様々な後輩魔法少女やファンから愛されているのも頷けますね。
※叛逆の物語における「巴マミさん vs 暁美ほむらさん」の銃撃戦についての補足情報
我々常人の感覚からすると「一発でも体に命中すると致命傷となる」と捉えるのですが、魔法少女は「急所となるソウルジェムに当たらなければ死ぬことはない」という感覚をお持ちです。巴マミさんは右の側頭部、暁美ほむらさんは左手の甲。ここに銃弾が当たらなければ自己回復魔法で修復が可能な為です。
その為、全力でお相手を倒そうとしているように見えるのですが、その実お二人とも「力比べをしている」といった感覚で銃撃戦をしていることになります。一種のサバイバルゲームのようなイメージでしょうか。「敗者は落命する」というよりは「敗者は勝者の言い分に従う」という含みがあるものと思われます。
ラストの「ほら、埒が明かないわよ」という巴マミさんのセリフは「ほら、(急所を外して攻撃していたら)埒が明かないわよ」という意味となります。まだこの段階ではお互いにお相手のことを気遣って撃ち合いをしていることを表しています。
■悪役の行う「悪事」について
第11章のチャットログに上記の会話がありました。天使の想像上の「悪事」にしては解像度が高いなと感じましたので、夏音さんにこの点をヒアリングしてみました。
インタビューイー:
小之森夏音さん
種村小依さん
インタビューアー:DOSAN
──次の公演会の準備でお忙しい中、ご参集いただきましてありがとうございます。
気にしなくて大丈夫よ!
気分転換したかったので、お気になさらないでください^^
──ありがとうございます。それでは早速、簡易インタビューとしまして第11章にて登場しました「悪事」について教えてください。
──個人的に、このパートで登場した二例の悪事は、夏音さんにしては非常に具体的に感じました。例えば実際にこのようないたずらをして叱られた経験があったりするのでしょうか。
あ、これはあれよね、かの。
うん。10月から新しく始まりましたふたつのアニメでいたずらをするシーンがありましたので、そこから抜き出させてもらったんです。
かのは冗談も苦手だし、いらずらして怒られたこともないのよ。だから最近見たアニメからいただいたのよね。
──なるほど。今季のアニメからアイデアを頂戴したと。具体的にはどのようなアニメのシーンになりますでしょうか。
えと・・・ こんな感じです。
・「学校の靴箱の靴を揃った状態からバラバラにして、また丁寧に靴箱に入れ直したり」・・・ぷにるはかわいいスライム
・「商店街のお店の入口に敷かれているマットを裏表逆にしちゃったり」・・・アクロトリップ
どちらもよりちゃんと一緒に見ているアニメです。
「ぷにるはかわいいスライム」第2話より。砂鉄を取り込んでしまい「悪い子」になったぷにるが学校の下駄箱で靴を並び変えるいたずらをしているシーン。
「ぷにるはかわいいスライム」週刊コロコロコミック公式サイト
「ぷにるはかわいいスライム」アニメ公式サイト
「アクロトリップ」第1話より。N県奈仁賀市にて悪の総帥デビューしたばかりのくろまさん。手始めに商店入口のマットをひっくり返すという地味な悪事を実践しているシーン。
「アクロトリップ」集英社りぼん公式サイト
「アクロトリップ」アニメ公式サイト
──こちらが元ネタでしたか。ありがとうございます。
──コロコロコミックとりぼんが原作とのことで、小学生らしくて非常に好ましいですね。
ふふーん! でも、どっちも子ども向けの雑誌に載ってるマンガなのに、アニメになると深夜アニメになっちゃうのはなんでかしらね?
なんでだろうねー。今はドラゴンボールも深夜みたいだし、明るい時間帯のアニメはプリキュアとかくらいなのかなー?
わんだふるぷりきゅあとか! わんちゃんが人間になってプリキュアになるっていうめずらしいプリキュアで、みやこお姉さんが声やってるプリキュアもいるわね!
キュアリリアンだねー^^ 凛々しい声がかっこいいなぁ。
──お二人とも、お忙しい中でも新しい作品に次々と触れているようで安心しました。
──本日も短時間でしたが、ありがとうございました。また折に触れてインタビューさせていただきますね。
■転びマスター小依さん
度々公演会に登場する「転びマスター小依さん」のお姿。今回は動画にて実際の様子をご覧いただこうと思います。
映画「プレシャス・フレンズ」より「転びマスター小依さん」を中心に、夏音さんとの心温まるシーンを抜粋してみました。
※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約199MBです。
ひと続きの動画としてエンコードしましたので、以下に参考としてタイムスタンプごとの概略を記載いたします。
・00:00~00:07 …… 星野家にてコスプレ撮影会に興じるお二人。バランスを崩して倒れそうになる小依さんを夏音さんが支えます。
・00:07~00:56 …… 長瀞にあります、白咲花さんのご祖母様・桜さんのお宅。天使たちが「修学旅行の練習旅行」としてお泊りに来ています。ひなたさんと共に駆け回る小依さんが2回ほど躓いて転びそうになっています。
・00:56~00:59 …… 川下り(ラフティング)中、小依さんが落としそうになったオールを夏音さんがキャッチします。
・00:59~01:02 …… 石畳にて撮影会に興じるわたてん☆5。5人の集合写真では小依さんが転びそうになっており、夏音さんにしがみついていますね。
・01:02~01:09 …… 桜さんのご自宅で夕食後のデザート作りのお手伝い(生クリームの泡立て)をする小依さんと見守る夏音さん。生クリームが周りに飛んで夏音さんにかかってしまっていますね。
・01:09~01:21 …… TVシリーズで既に戦力外通告を受けていた小依さんと花さんに、料理の苦手な桜さんも仲間入り。フローリングで正座は痛そうですね。
・01:21~01:27 ……
「よりちゃん、危ない・・・」「かの、ありがと・・・」 という寝言。夢の中でもお二人はご一緒なのですね。
・01:27~01:36 …… 2日目の朝。急遽お祭りに行くことになったことからリーダーの小依さんは予定を変更してみなを導こうとしていますが、その矢先に転びそうになり夏音さんに支えてもらっています。
・01:36~03:20 …… 「エンジェルフォール・スターマイン」内
「えんむすびのかみさま」にてお二人が魅せてくださいました、「夏祭りのリベンジ」を公式が映像化したものです。厳密には輪投げ屋さんと射的屋さんで異なりますが、趣旨・行動原理・想いは共通と言えるでしょう。「深呼吸をすることで落ち着いて物事がうまくいく」というところまで公演会の内容を完璧にトレースしていますね。
・03:20~03:29 …… 射的の景品
(秩父市のマスコットキャラクター、ポテくまくん)を見事に手に入れた小依さん。
阿左美冷蔵 金崎本店さんの卓上にそれを置きながら、夏音さんとかき氷を「あーん」し合っていますね。
■原作単行本に於ける転びマスター小依さん
原作単行本でも「転びマスター小依さん」のお姿は多数登場します。ただ、成長しているのか転ぶシーンはあまり後半には出てこない印象です。
「転びマスター小依さん」のシーンだけでなく、小依さんが「ドジっ子」であることを表すシーンも併せてまとめてみました。右から古い順に並べてあります。
原作第3巻14ページ「納得」 家庭科の授業での調理実習です。小依さんが転びそうになり、持ってきたお砂糖が全量入ってしまったシーンです。これは確かに焼いたら真っ黒になりますね(苦笑)
原作第3巻51ページ「舞い散る」 階下でみやこさんと夏音さんがプリンを作っている際のひなたさんのお部屋の様子。小依さんのくしゃみにより舞い散ってしまいましたが、ね●ねる●るね的な粉状のお菓子を作ろうとしていたようです。
原作第3巻52ページ「弾ける」 イチゴ味のポテチを開けようとした小依さんが、ポテチバーン現象により周囲にまき散らしてしまっている様子。
原作第3巻120ページ「二人の関係」 「みんなから集めた大事なプリントをなくした」際の様子。廊下を直進していたはずの小依さんが急に右に90度ターンをしてから転びそうになり、窓の外にプリントを放り投げる形になってしまっていますね。
原作第4巻87ページ「ドジに針」 文化祭の劇で使う衣装をみなさんで作っているシーンです。どうやら「ふふん」と得意げになってしまうと「いいところを見せよう」という気持ちが強くなってしまい、作業に失敗するように見受けられます。
原作第4巻95ページ「ひとコマ漫画」 落ち着いて作業することで失敗なく上手にできるようです。ちなみに作中では「ドジ=小依さん」「不器用=花さん」という分類がされているようです。
原作第4巻112ページ「反射」 的に当てて跳ね返ってきたボールを顔面にヒットさせてしまう小依さん。ある意味で非常に器用なことをされているように思えます。
原作第4巻113ページ「天丼」 空きペットボトルをピンに見立て、ボーリングで勝負する小依さんたち。原作ではコマ割りの淵に跳ね返ってきているような演出になっていますが、アニメでは自由落下したボールが頭に当たっているようです。手を放すタイミングが若干遅かったようですね。
原作第4巻136ページ「無計画」 「困っている人を助けたい!」という思いが先立ち声を挙げたものの、よくよく考えてみると妙案が浮かばなかったようです。残念な感じですが、その心意気は素晴らしいですね。
原作第4巻137ページ「かのんジョーク」 普段言い慣れないジョークを頑張って言ってみた夏音さん。誰もが「うーん……」となっているところに、夏音さんのことをよく知る小依さんが「冗談が下手ね」と。こういう点を即座に見抜けるのは幼馴染の特権かもしれません。普段から夏音さんのことをよく見つめているということですね。
原作第5巻36ページ「そこまでのドジ」 体育の授業中にバク転をしたひなたさんがクラスメイトから歓声を受けたことを見て、小依さんが「バク転をするわ!」と思い立ち、それをフォローしようと奮闘する夏音さんのお話です。恐らくバク転ができるのはクラスの中でもひなたさんだけと思うのですが、それを小依さんの為に「まず自分ができるようになる」という目標を立てた為、みんなに内緒でひなたさんに頼み込み放課後に特別レッスンをしてもらうのでした。一方の小依さんは靴下を脱ぐだけでも転んでしまっているという、前途多難な様子を表したシーンです。
原作第6巻27ページ「第一被害者」 クリスマスイルミネーションを見ようと、みんなで街に繰り出した天使たち。小柄な小依さんは雑踏に揉まれて流されていってしまいました。
原作第6巻29ページ「詰み」 走って合流しようとする小依さんとひなたさん。滑る地面により小依さんは背後に、ひなたさんは前に転びそうになり、お互いがお互いを支える形となり奇跡的なバランスで転ばずに済んでいるようです。これはこれですごい。
原作第6巻65ページ「用意よくない」 元旦早朝デートをする為に、小高い神社まで夏音さんと共に登ってきた小依さん。温かいお茶を持ってきたとのことでしたが、夏音さんが飲んでみると冷たいお茶だったのでした。ただ、そのことは小依さんには伝えず自分の中だけに留めておこうと気遣える夏音さんはやはり大人組ですね。
原作第6巻68ページ「衝撃の事実」 夏音さんが内緒にしていた「冷たいお茶」ですが、あっけなく小依さんにも知られてしまうのでした。この後の
「(かの、冷たいなんて一言も言わなかったのに・・・)かの、ありがと」「えへへ・・・」といったお二人の様子を思い浮かべると、自然と笑顔になりますね。
原作第6巻130ページ「トラウマ」 星野家で天使たちがチョコ作りに勤しんでいます。小依さんはラッピング担当ということで、夏音さんの配慮が見て取れます。針を指に刺すことも危険ですが、包丁では最悪指を切り落としてしまう可能性があります。夏音さんが震えているのも分かりますね。なお、小依さんがチョコ作りをするお話として
「バレンタイン・イヴ」という作品があります。
原作第7巻31ページ「説得力」 小依さんのお誕生日当日のお話です。夏音さんより少し大人になれたと上機嫌の小依さんはノートを集めて職員室まで届ける役を買って出ましたが、みなさんのイメージ通りの展開となってしまいました。張り切る小依さんの思いを無下にせず、口も手も出さずにいた夏音さん。
「やる時はやるんだよー」と誇らしげでしたが、ノートをばらまいてしまっている音を聞いて自信がなくなってきてしまっているようです。
原作第7巻41ページ「プロ」 お誕生日デートのお話です。夏音さんの為にネコカフェに入る小依さん。ネコカフェデートは大成功でしたね。その後「山」に行くという小依さんについていこうとした夏音さんでしたが、地面の段差で転んでしまいました。安全な転び方をレクチャーする小依さんは「転びマスター小依さん」としての真骨頂が発揮されています。
原作第8巻14ページ「偶然か必然か」 ここからの4ページは6年生に進級した乃愛さんが「クラス替えで離れ離れになってしまうのでは」と不安を感じているお話です。こちらでは夏音さんと小依さんはこれまで別のクラスになったことがないという衝撃の事実が語られています。
原作第8巻15ページ「こよりちゃんにおまかせ」 「クラス委員(学級委員)」という役職に絶大な信頼を置いている小依さん。既に(夏音さんと共に)クラス委員になった気になっている小依さん、かわいいですね。
原作第8巻16ページ「杞憂」 そして花さんから衝撃の事実が。どうやらプリントに書かれていたようですが……。乃愛さんは嬉しい反面、ここまでのやり取りは何だったのかというお顔をされていますね。
原作第8巻17ページ「うっかりこよりちゃん」 君子豹変す。
「そういえばそうだったわね・・・」という表情の小依さんですが、誤っていたときははっきりきっぱり謝ることができていますね。さすが大統領の器(微笑)
原作第8巻55ページ「やる気は満点」 小依さんの「×」型のバレッタのお話です。放課後にお掃除しているのですが、小依さんが動く度に散らかっていくという(苦笑)。ここでは珍しくあのひなたさんがツッコミ役を担当していますね。
原作第8巻56ページ「軽い理由」 ごみ捨てに行った小依さんでしたが、からっぽのごみ箱を抱えて行ってしまったようです。走って行かれたので、「コケッ ガランガラン」という絵面が浮かんでしまいますが大丈夫だったのでしょうかね。
原作第8巻124ページ「戦力外3」 「戦力外1」は文化祭のお洋服を作る際に指に針を刺してしまったこと、「戦力外2」は同じく文化祭の飾りのお花をフェルトで作ろうとしてダメだったことでした。今回はお花見用のお花を布で作ろうとしていましたが、花さんと小依さんにはやはり難しかったようです。
原作第8巻125ページ「言うは易し」 夏音さんの「ぽしょぽしょ」が可愛らしいですね。自分がアドバイスすることで小依さんが活躍できることに幸せを感じているお顔です。結果うまくいきませんでしたが、それにしてもこの「ぽしょぽしょ」の情報圧縮率には舌を巻きます。
原作第8巻130ページ「ゴミ」 現在までに発刊されているわたてん原作マンガの中でも、恐らく最大の失言ではないかと思います。みやこさんも乃愛さんのようにお二人の様子をよくよく観察してから発言されるとより良いのではないかと思います。
原作第11巻32ページ「首トン」 暇を持て余した天使の遊びとして「みゃーさんねかしつけせんしゅけん!」が開催されました。一番手の小依さんは肩揉みで気持ち良くなってもらおうとするのですが、気合が入り過ぎて「首トン」になってしまいました。やはり小依さんの課題は「如何に平常心で居られるか」という点に尽きると思います。
原作第11巻94ページ「大人の姿」 大人になりたい小依さんは、みやこさんにお化粧・整髪・コスプレなど手伝ってもらい大人っぽい姿に変身します。しかし、ブラックコーヒーの苦手な小依さんは一口飲んで戻してしまうのでした。花さんは酔い潰れている大人をよく目にしているようですね(苦笑)
原作第12巻19ページ「プール遊び」 松本家を含めた子どもたち全員でプールに遊びに来ました。細かいですが、こちらの3コマ目で久しぶりに小依さんが転びそうになっています。
原作第12巻28ページ「説得力」
「よりねぇゆーかいはんだからみはってる」とおっしゃる友奈さん。それに対し
「よりちゃんはとってもやさしくて頼りになるお姉ちゃんだよ」と夏音さん。ところが、
「あっつ!」「あっ!」「あっ ごめんなさい!」とここぞとばかりに小依さんのドジが炸裂。夏音さんも立場がないのか珍しく厳しいお顔をしていますね。
原作第12巻83ページ「夏が旬」 お母様がお仕事の為、お夕飯を作ることになった夏音さん。小依さんにリクエストを聞きますが「旬のもの」ということで「流しそうめん」ということに。2コマ目の夏音さんは珍しく小依さんに的確なツッコミを入れていますね。これまでの
「よりちゃんダメ!」「ほらもー」とは異なり、お友だちがいない場ではより距離感が近くなるのか率直な物言いになるようですね。
原作第12巻94ページ 本公演会でも登場しました「流しそうめん」です。牛乳パックを組み合わせて、非常に上手に作っていますね。確かにハンバーグよりは流しそうめんの方が旬と言えるかもしれませんが(苦笑)
原作第12巻95ページ「ひとコマ漫画」 牛乳パックで器用に流し台を作り、ボウルとザルまで用意して準備は完璧……に思えましたが、肝心のそうめんを用意していなかったようです。あはは…… 自宅にそうめんがあるといいのですが、もしなかった場合お買い物のやり直しとなるのですごい手戻りですね。この後夏音さんがどのようにリカバリしたのか気になります。
原作第13巻68ページ「危険度増」 道端でばったり出会った小依さんたちと松本さんたち。
「こよねぇも一緒に散歩行こ!」という友奈さんのお願いを聞き入れる形で走り出すのですが夏音さんたちとはぐれてしまい探すことに。その際のシーンなのですが、3コマ目で友奈さんに褒められて得意げな小依さんはやはり転びそうになるのでした。
原作第13巻112ページ「私は間違えない」 修学旅行でのひとコマ。修学旅行では終始小依さんがリーダーとして奮闘しましたが、たまにこのようなミスをすることも(苦笑)
原作第14巻129ページ「確定イタズラ」 6年生の文化祭でのひとコマ。仮装衣装を着てお菓子を配るのですが、
「トリック・オア・トリートって言ってお菓子受け取らない人にイタズラするんだぞ!」とのこと(ひなたさん談)。小依さんはお菓子を持っていない(転んで撒いてしまった)ことから、イタズラ確定ということですね。
原作第15巻79ページ「迷子RTA」 クリスマスのお話。イルミネーションを見に駅前まで出てきた天使たちですが、小依さんは集合する前の段階で消えてしまったとのこと。原作第6巻27ページ「第一被害者」と対になるお話ですね。ちなみに、この後小依さんと夏音さんは二人きりで綺麗なイルミネーションを見て回ったようです。
このように、小依さんは「想いが先走ってしまい、体がついてこない」為に毎度転びそうになっていることが分かります。本公演会の「第17章」冒頭に於いても、尋常ならざる様子の夏音さんから「逃げて」と懇願されたことで動揺していることが読み取れます。
「誰かにいいところを見せたい」「褒められて有頂天になっている」ような状況で発生しやすいようですので、小依さんは落ち着いて周囲を見渡す余裕を持つ、客観的に現状を捉えることで(是非はともかく)より大人のような振る舞いが可能になると思います。
■キスに込めた密やかな想いについて
第19章終了後のご感想タイムにて、小依さんより上記の説明がありましたので詳しくまとめてみます。
まず「キスをする場所によって想いを伝える」という風習は元々海外の文化であり、日本に於いてはあまり浸透していない概念であろうと考えられます。少なくとも「○○にキスをしたからこう思っているのだな」という統一見解を広く共有できていないのが現状と思われます。
(もっとも、お若い世代の小依さん夏音さん、そして乃愛さんは重々ご理解されて(かつ運用されて)いるように見受けられますが)
その為、想い合うカップル同士での決め事である場合がほとんどでしょう。以下に記載しますのは微に入り細に入り分類をしたくなる一種の「若者文化」として、辛うじて統一見解を得られているように見受けられるインターネット上の情報をまとめたものになります。
※以下、第19章での登場順に上から並べています。
キスをした人 |
キスをする部位 |
そのキスに潜ませている想い |
小依さん → 夏音さん |
お鼻 |
慈しむ気持ち・かわいがりたい・守ってあげたい |
小依さん → 夏音さん |
おでこ |
信頼する気持ち・友愛の気持ち |
小依さん → 夏音さん |
ほっぺ |
親愛の気持ち・かわいい・愛でたい |
夏音さん → 小依さん |
腕 |
恋慕の気持ち・恋愛愛情 |
夏音さん → 小依さん |
首 |
執着心・自分のものにしたい・独占欲・性的な魅力を感じている |
夏音さん → 小依さん |
耳 |
性的な魅力を感じている・恋愛感情・スキンシップしたい |
小依さん → 夏音さん |
手の甲 |
敬愛の気持ち・尊敬・大きな敬意・相手の気持ちを尊重 |
小依さん → 夏音さん |
まぶた |
憧れの気持ち・大切に思う気持ち・理想的な人だと感じている |
夏音さん → 小依さん |
お腹 |
癒しを求めている・疲れている・ゆっくりしたい |
夏音さん → 小依さん |
胸 |
情欲の表れ・性的魅力を感じている |
小依さん → 夏音さん |
背中 |
もっと愛情を伝えたい |
小依さん → 夏音さん |
髪の毛・頭部 |
親愛の気持ち・かわいい・守ってあげたい |
今回は対象外 |
唇 |
ストレートな恋愛感情 |
まさに小依さんがおっしゃる通り
「私はずっと、「かののこと守りたい、尊敬してる、いとおしい」って意味のキスをしてて」
「かのはずっと、「癒されたい、愛しあいたい」って意味のキスをしてるの」
ということになります。
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