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■2024年8月31日


 全体チャットおよび同盟チャットで行われた実際のチャットログはこちらから。

チャットログ00:公演会開始前、集合時 演者側配置最終チェックの様子
チャットログPR:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 プロローグ
チャットログ01:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第01章 ~ 休憩・ご歓談 ~ ロケーション移動
チャットログ02:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第02章 ~ お昼休憩・ご歓談 ~ ロケーション移動
チャットログ03:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第03章 ~ ロケーション移動
チャットログ04:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第04章 ~ ご感想 ~ 解散

 スクリーンショットは小之森夏音さん、星野千鶴さん、里見灯花さん、みんなの爺や(DOSAN)が撮影したものになります。当日の様子が分かるチャットログを時系列で繋げて分割しております。


 主な参加者は以下の通りでした。

 わたてん公演会部:小之森夏音さん、種村小依さん、白咲花さん、星野ひなたさん、姫坂乃愛さん、瀬戸内アリスさん、キュゥべえさん、里見灯花さん、柊ねむさん、アリナ・グレイさん、星野みやこさん
 わたてん保護者会:暁美ほむらちゃんさん、Myまいさん、うらりーぬさん、oなききつねoさん、鹿目まどかちゃんさん、星野千鶴さん、姫坂エミリーさん、白咲春香さん、みんなの爺や

 総勢20名でのイベントとなりました。ご参加ありがとうございます。

 なお、Myまいさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
 いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
 作品につきましては種村小依さんと小之森夏音さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。





■2024年9月22日


 全体チャットおよび同盟チャットで行われた実際のチャットログはこちらから。

チャットログ00:公演会開始前、集合時の様子 ~ 前回のあらすじ
チャットログ05:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第05章 ~ 休憩・ご歓談
チャットログ06:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第06章 ~ お昼休憩・ご歓談
チャットログ07:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第07章 ~ 休憩・ご歓談
チャットログ08:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第08章 ~ ご歓談
チャットログEX:魔法少女まどか★マギカ原作組による「インキュベーターの本質」についてのレクチャー ~ 解散

 スクリーンショットはみんなの爺や(DOSAN)が撮影したものになります。当日の様子が分かるチャットログを時系列で繋げて分割しております。


 主な参加者は以下の通りでした。

 わたてん公演会部:小之森夏音さん、暁美ほむらさん、種村小依さん、白咲花さん、星野ひなたさん、姫坂乃愛さん、星野みやこさん、里見灯花さん、柊ねむさん、アリナ・グレイさん
 わたてん保護者会:絵笛さん、Myまいさん、うらりーぬさん、oなききつねoさん、鹿目まどかちゃんさん、まどか先輩さん、佐倉杏子ちゃんさん、星野千鶴さん、姫坂エミリーさん、白咲春香さん、みんなの爺や
 ミスリル・リンク:究極まどか先輩さん

 総勢22名でのイベントとなりました。ご参加ありがとうございます。

 なお、Myまいさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
 いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
 作品につきましては種村小依さんと小之森夏音さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。





■2024年10月27日


 全体チャットおよび同盟チャットで行われた実際のチャットログはこちらから。

チャットログ00:公演会開始前、集合時の様子 ~ 前回のあらすじ
チャットログ09:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第09章 ~ ご歓談
チャットログ10:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第10章 ~ 場所移動・ご歓談
チャットログ11:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第11章 ~ 場所移動・ご歓談
チャットログ12:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第12章 ~ ご歓談・公演会部内脚本打ち合わせ
チャットログ13:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第13章 ~ 場所移動・ご歓談 ~ 解散

 スクリーンショットは小之森夏音さん、白咲春香さん、みんなの爺や(DOSAN)が撮影したものになります。当日の様子が分かるチャットログを時系列で繋げて分割しております。


 主な参加者は以下の通りでした。

 わたてん公演会部:小之森夏音さん、暁美ほむらさん、種村小依さん、ホワイトリリィさん、瀬戸内アリスさん、キュゥべえさん、星野ひなたさん、姫坂乃愛さん、星野みやこさん、アリナ・グレイさん
 わたてん保護者会:絵笛さん、Myまいさん、鹿目まどかちゃんさん、巴マミちゃんさん、百江なぎさちゃんさん、白咲春香さん、みんなの爺や

 総勢17名でのイベントとなりました。ご参加ありがとうございます。

 なお、Myまいさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
 いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
 作品につきましては種村小依さんと小之森夏音さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。








■2024年12月1日


 全体チャットおよび同盟チャットで行われた実際のチャットログはこちらから。

チャットログ00:公演会開始前、集合時の様子 ~ 前回のあらすじ
チャットログ14:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第14章 ~ 場所移動・ご歓談
チャットログ15:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第15章 ~ 場所移動・ご歓談
チャットログ16:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第16章 ~ 場所移動・ご歓談 ~ 解散

 スクリーンショットは小之森夏音さん、佐倉杏子さん、ミスリルの賢者(DOSAN)が撮影したものになります。当日の様子が分かるチャットログを時系列で繋げて分割しております。


 主な参加者は以下の通りでした。

 わたてん公演会部:暁美ほむらさん、小之森夏音さん、種村小依さん、キュゥべえさん、白咲花さん、星野ひなたさん、姫坂乃愛さん、星野みやこさん
 わたてん保護者会:Myまいさん、鹿目まどかちゃんさん、巴マミちゃんさん、うらりーぬさん、oなききつねoさん、ミスリルの賢者
 ミスリル・リンク:鹿目まどかさん
 ミスリル・ボンド:巴マミさん、佐倉杏子さん

 総勢17名でのイベントとなりました。ご参加ありがとうございます。

 なお、Myまいさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
 いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
 作品につきましては種村小依さんと小之森夏音さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。










■2025年2月23日


 全体チャットおよび同盟チャットで行われた実際のチャットログはこちらから。

チャットログ00  :公演会開始前、集合時の様子 ~ 前回のあらすじ
チャットログ17  :わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第17章
チャットログ17EX:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第17章 についてのご感想・ご歓談 ~ 休憩 ~ 場所移動
チャットログ18  :わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第18章
チャットログ18EX:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第18章 についてのご感想・ご歓談 ~ 解散

 スクリーンショットはみんなのお父さん(DOSAN)が撮影したものになります。当日の様子が分かるチャットログを時系列で繋げて分割しております。

 ※今回の公演会では以下の理由により天使たちの舞台裏となる公演会部側血盟チャットでのやり取りはありませんでした。

 ・完成している台本を元に公演会を実施したことから、内部での相談がなかった為。
 ・脚本読み合わせ及びリハーサルをしっかり実施したことから、当日の出演者間で意思疎通の為のやり取りが不要だった為。

 小依さん夏音さん以外の天使たちは「観客」に徹していた為、声援や思うところについては同盟チャットで発言してくださっていました。


 主な参加者は以下の通りでした。

 わたてん公演会部:小之森夏音さん、種村小依さん、白咲花さん、星野ひなたさん、姫坂乃愛さん、星野みやこさん
 わたてん保護者会:キュゥべえさん、千代リンさん、Myまいさん、うらりーぬさん、姫坂エミリーさん、鹿目まどかちゃんさん、佐倉杏子ちゃんさん、ゆのさん、みんなのお父さん

 総勢14名でのイベントとなりました。ご参加ありがとうございます。

 なお、Myまいさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
 いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
 作品につきましては種村小依さんと小之森夏音さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。













■2025年3月30日


 全体チャットおよび同盟チャットで行われた実際のチャットログはこちらから。

チャットログ00  :公演会開始前、集合時の様子 ~ 前回のあらすじ
チャットログ19  :わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第19章
チャットログ19EX:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第19章 についてのご感想・ご歓談 ~ 休憩 ~ 場所移動
チャットログ20  :わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第20章
チャットログ20EX:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第20章 についてのご感想・ご歓談 ~ 休憩
チャットログ21  :わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第21章 ~ 場所移動 ~ 後半続行
チャットログ21EX:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 全体についてのご感想・ご歓談 ~ 解散

 スクリーンショットは白咲花さん、星野千鶴さん、鹿目まどかさん、ミスリルの救世主(DOSAN)が撮影したものになります。当日の様子が分かるチャットログを時系列で繋げて分割しております。



 主な参加者は以下の通りでした。

 わたてん公演会部:小之森夏音さん、種村小依さん、暁美ほむらさん、白咲花さん、星野ひなたさん、姫坂乃愛さん、星野みやこさん
 わたてん保護者会:キュゥべえさん、ワルプルギスの夜さん、千代リンさん、Myまいさん、うらりーぬさん、星野千鶴さん、暁美ほむらちゃんさん、鹿目まどかちゃんさん、ミスリルの光刃、ミスリルの救世主
 ミスリル・リンク:鹿目まどかさん

 総勢18名でのイベントとなりました。ご参加ありがとうございます。

 なお、Myまいさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
 いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
 作品につきましては種村小依さんと小之森夏音さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。
















■2025年4月27日


 全体チャットおよび同盟チャットで行われた実際のチャットログはこちらから。

チャットログ00  :公演会開始前、集合時の様子 ~ 前回のあらすじ
チャットログ22  :わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第22章
チャットログ22EX:わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第22章 についてのご感想・ご歓談 ~ 解散

 スクリーンショットは星野ひなたさん、白咲春香さんが撮影したものになります。当日の様子が分かるチャットログを時系列で繋げて分割しております。



 主な参加者は以下の通りでした。

 わたてん公演会部:小之森夏音さん、種村小依さん、白咲花さん、星野ひなたさん、姫坂乃愛さん
 わたてん保護者会:千代リンさん、Myまいさん、楽笑09さん、百江なぎさちゃんさん、巴マミちゃんさん、白咲春香さん

 総勢11名でのイベントとなりました。ご参加ありがとうございます。

 なお、Myまいさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
 いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
 作品につきましては種村小依さんと小之森夏音さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。
















■2025年7月27日


 全体チャットおよび同盟チャットで行われた実際のチャットログはこちらから。

チャットログ00  :公演会開始前、集合時の様子 ~ 前回のあらすじ
チャットログ23  :わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第23章 ~ 集合写真撮影・ご歓談
チャットログ24  :わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第24章 ~ お化け・物の怪・幽霊・妖怪・舟幽霊談義
チャットログ25  :わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第25章 ~ ご歓談
チャットログ25EX:山中先生のご挨拶 ~ 種村小依さんと小之森夏音さんによる「本物語の持つ意味と表現したいこと」についての説明 ~ ご歓談 ~ 解散

 スクリーンショットは小之森夏音さん、みんなのお父さんが撮影したものになります。当日の様子が分かるチャットログを時系列で繋げて分割しております。



 主な参加者は以下の通りでした。

 わたてん公演会部:種村小依さん、小之森夏音さん、白咲花さん、星野ひなたさん、姫坂乃愛さん、瀬戸内アリスさん、山中先生さん
 わたてん保護者会:千代リンさん、Myまいさん、ノノルさん、うらりーぬさん、鹿目詢子さん、みんなのお父さん

 総勢13名でのイベントとなりました。ご参加ありがとうございます。

 なお、Myまいさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
 いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
 作品につきましては種村小依さんと小之森夏音さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。





















■2025年8月30日


 全体チャットおよび同盟チャットで行われた実際のチャットログはこちらから。

チャットログ00  :公演会開始前、集合時の様子 ~ 前回のあらすじ(天使側・魔法少女側両方)
チャットログ26  :わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第26章 ~ 移動 ~ 集合写真撮影・ご歓談
チャットログ27  :わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ 「絆」 第27章 ~ 杏子さん褒め殺しタイム ~ 28章以降について

 スクリーンショットは暁美ほむらさん、みんなのお父さんが撮影したものになります。当日の様子が分かるチャットログを時系列で繋げて分割しております。



 主な参加者は以下の通りでした。

 わたてん公演会部:種村小依さん、小之森夏音さん、白咲花さん、星野ひなたさん、姫坂乃愛さん
 わたてん保護者会:暁美ほむらさん、千代リンさん、Myまいさん、ノノルさん、うらりーぬさん、山中先生さん、みんなのお父さん
 ミスリル・ボンド:佐倉杏子さん

 総勢13名でのイベントとなりました。ご参加ありがとうございます。

 なお、Myまいさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
 いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
 作品につきましては種村小依さんと小之森夏音さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。


 ■記載ルール■
  メイン記述者(進行者。今回は小之森夏音さん、種村小依さん、暁美ほむらさん、佐倉杏子さん)が直接一般チャットもしくは同盟チャットに地の文を書き、他登場人物は「」で囲む形でセリフを書くことで物語を紡いでいきます。


☆☆☆☆☆ イントロダクション ☆☆☆☆☆

── リンドビオルサーバのとある同盟では ──
── 気ままに天使たちが舞い降りては 一遍の物語を協力して紡ぎ 人知れず飛び去っていく──
── という噂がまことしやかに囁かれています ──

こちらの記事は「エンジェリック・ミスリル・ハーツ・フェデレーション」内「天使が舞い降りた」同盟において
天使たちの紡いだ物語を一般公開できる形で記録に残そうと考えまとめたものとなります。(天使たちの公開許可はいただいております)

「私に天使が舞い降りた!(わたてん!)」という作品世界から、こちらの世界に飛ばされてしまった天使たち。
戻る術が見つからない日々の中、お友だちの代理露店をこなしながら元気に楽しげに生活されています。
時折、突発的に始まるリアルタイムでの「物語の編纂(即興劇)」というお遊戯は、その完成度の高さ、内容の睦まじさにより
見る人に癒しと潤いを与えてくれるものとなっており、まさに【天使】のような存在となっています。


メイン記述者は「小之森夏音」さん、「種村小依」さん、「暁美ほむら」さん、「佐倉杏子」さん。
主なキャストは「白咲花」さん、「姫坂乃愛」さん、「星野ひなた」さん、「瀬戸内アリス」さん、「キュゥべえ」さん、「ホワイトリリィ」さん、「巴マミ」さん、「鹿目まどか」さん、「ワルプルギスの夜」さん、「山中先生」さんでした。



プロフィール画像はこちらになります。












──────────────────────────
──    【      絆      】    ──
──────────────────────────



 ■作品イメージタグ■   ※登場人物はセリフの多い順に左から並べております(一部例外あり)。
  #魔法少女まどか★マギカ #私に天使が舞い降りた! #まどマギ #わたてん! #フィーチャリング #小之森夏音 #種村小依 #暁美ほむら #佐倉杏子 #キュゥべえ #瀬戸内アリス #ホワイトリリィ #鹿目まどか #巴マミ #白咲花 #星野ひなた #姫坂乃愛 #ワルプルギスの夜 #山中先生 #よりかの #まどほむ #シリアス #シビア #センシティブ #ダークファンタジー #憲章違反許容作品 #他作品コラボレーション #リリキュア #アクロトリップ #ぷにるはかわいいスライム

 ■作品文体■
  三人称神視点完全客観型
  一人称小説


プロローグ


 ♪ 爽やかなる決意  ←クリックするとBGMが流れます。


「よーりちゃん♪」
「かの? ・・・手を繋ぎたいの?」
「えへへ・・・ うん」
「んもー、しょうがないわねー。ほら」


はしっ


 いつもの朝の登校時間。
 いつも通り五人で登校する少女たちの先頭は、小依と夏音。

「おー、ふたりはいつも通りだなー」
「うんうん☆ ラブラブなのって見ててもシアワセだよねぇω
「こよりはともかく、かのんが自分からってめずらしい・・・。いつもなら押される側なのに」
「んー、それもそうだねぇ」

 乃愛が二人に追いつき、特徴的な前髪を「?」とさせながら問う。

「今日は一段となかよしさんだネ☆ なにかあったの?」
「分かんないわよ。でも、かのがこうしたいっていうなら、お姉さんの私はそうさせてあげるだけよ!」
「えへへ・・・ ありがとーよりちゃん」

 頬を朱に染めながら、五本の指をすべて絡めるようにして手を組む夏音。とても嬉しそうな顔をしている。
 さすがの小依も恥ずかしいのか、顔を赤くして目を泳がせている。

 七月に入り初夏の気候となっていることもあり、汗ばむ手と手。
 夏音は乃愛に顔を向けると、心底幸せそうな瞳でこう告げた。

「ノアちゃん」
「カノンちゃん?」
「これが・・・この形がね、私たちの「絆」なんだー」

 幸せそうで、熱を帯びた、とろんとしている瞳。
 乃愛は夏音が本当に小依のことが大好きなのだと実感し、恋をして輝いている夏音を羨望のまなざしで見つめる。

「そっかー。いいなー アタシもヒナタちゃんとおんなじことしたーい」
「おー、いいぞ!」
「えへへ、やったー☆」
「まったく、最上級生にもなって・・・」
「ハナちゃんフキゲンだけど、今日もミャーさんに会えるからがんばろ☆」
「な、別にお姉さんは関係ないでしょ・・・。でも、今日のお菓子はなんだろう・・・楽しみ」
「気がはやーいω まだ一日始まったばかりだよー?」
「よーしみんな、学校までもうちょっとだからダッシュするぞー!」
「あーん、待ってよーヒナタちゃーんω


 ♪ wo ist die käse? 



──孵る 孵る 卵が孵る
──生まれいずるは 希望? 絶望?
──少女の卵は孵らない 孵ることすら叶わない
──孵らなければ 希望はない さすれば必然 絶望もない
──最後に残った道標 それに縋った一人の少女
──結果生じる「それ」は
──はたして少女たちに 何をもたらすのか



── 魔法少女まどか★マギカ 十周年記念祝賀公演 ──

~私に天使が舞い降りた! feat. 魔法少女まどか★マギカ~




【      絆      】

【天使編01

01

七月三日(水) 一五四〇


キーンコーンカーンコーン・・・


「みゃああああぁぁぁぁぁねぇぇぇぇぇぇぇぇぇeeee」
「ヒーナタちゃーん、待ってーω
「ちょっとひなた。  ・・・お姉さんのお菓子は私のだから」

 一日の授業が終わって、下校時間になりました。
 ひなたちゃんたちは今日もみやこおねぇさんといっしょに遊ぶみたいで、ホームルームが終わったらドップラー効果を発生させながら一目散に走っていっちゃいました。


 ♪ Scaena felix 


「かの。今日は私、お母さんとお出かけなのよ」
「そうなんだー。楽しんできてね」
「うん、ありがと。・・・だから、ごめん。お届け物はお願いしちゃってもいい?」
「いいよー こういうとき、学級委員が二人いてよかったって思うなー」

 今日はうちのクラスでお休みの子がいたので、プリントなどをその子のおうちまで届ける必要がありました。その子はお隣の見滝原市との市境にある、かなり遠くの集団住宅地から登校していました。
 本当ならその地域は見滝原市の学校のほうが近いんですけど、天舞市に住んでいるので学区的にこちらの学校に通っているみたいです。
 普通、お休みの人と同じ地域から通っている子にお届けをお願いするプリント類。でも、その子の地域は遠いので他にその地域から通っている子はいませんでした。

 その為、私たち学級委員が届けに行くことになったのでした。

「私もかのと一緒に行きたかったのに。残念だわ・・・」

 そう言って、よりちゃんは渋々ひとりで下校していきました。
 教室の窓から校庭を歩くよりちゃんを見つめます。
 心なしかしんなりしているように見えるよりちゃんの長い髪。目で追っていましたが、校門を出ると見えなくなっちゃいました。
 私もよりちゃんと一緒に行きたかったですけど、仕方ありません。意を決して椅子から立ち上がります。

「・・・よし。ひとりでもがんばろう」

 みんな下校してしまって誰もいない教室を一通り見回して、忘れ物や落とし物がないことを確認します。
 お休みの子に手渡すプリントなど一式がランドセルに入っていることを確認して、学級日誌を職員室の先生に届けて。
 昇降口でお靴をはきかえると、ゆっくりと南の方に向かって歩いていきます。

 いつもは学校から北に上り、最初に見えてくるひなたちゃんとノアちゃんのおうちを過ぎて、次に見えてくる花ちゃんのおうちも過ぎた先にある私たちのおうちまで帰ります。
 最近はみんなでひなたちゃんのおうちにお邪魔して、みやこおねぇさんとみんなで一緒に遊ぶことが増えました。クラスでの噂通り、きれいでいろんなことができる素敵なおねぇさんです。
 私もお菓子の作り方を教えてもらったり、いろいろとお世話になっているおねぇさん。今日もひなたちゃんたちとわいわい遊んでいるんだろうなぁ。
 みんなのことを思い浮かべながら二十分くらい歩くと、大きな川の河川敷に着きました。周りには視界をさえぎるものは何もなく、遠くに目的の集団住宅地が見えました。

「・・・あの団地かな。えっと、何号棟の何号室だったかな・・・」

 スマートフォンにメモしておいた住所を開いて建物とお部屋を確認します。すぐ近くの建物みたいです。

 ♪ Warning #1 


コッ  コッ  コッ・・・


 まだ照明がつくには早い時間。ちょっと薄暗い階段を上ってその子のおうちのドアまで移動します。
 履いているローファーの足音が、階段を上るときに不気味に響いて心細くなります。
 平日の昼間ですけど、建物は静まりかえっていてちょっとだけ薄気味悪く感じました。


ピンポー・・・ン・・・


 ♪ Desiderium 


「・・・はーい」
「小之森です。学校のプリント、届けにきました」
「あ、かのんちゃん? ちょっと待ってね」

 持ってきていたマスクを着けて、じっとりとした額の汗をハンカチで拭っていると、カチャリと音がしてドアが開きました。
 開けてくれたのはお休みしているクラスの子、瀬戸内アリスちゃん。熱があるのか、パジャマ姿でおでこに熱を冷ますジェルが貼られていました。
 ノアちゃんと似たような淡い金髪が、少しだけジェルに挟まっているのはご愛敬だと思います。

「・・・あれ? おうちの方は?」
「お仕事休めないんだって。夏風邪だしそんなに高い熱じゃないから、静かにしてたら大丈夫」

 玄関からリビングに通してくれて、冷蔵庫に入っていた麦茶を入れてくれました。
 マスクをして小さな咳をしているので心配ですけど、動き方はしっかりしているのでそんなにひどい風邪じゃなさそう。ちょっとだけほっとします。

「ありがとう。横になっていた方がいいよー?」
「うん、ありがとう。そうするね」

 素直に奥のベッドに横になってくれました。よりちゃんだったら「大丈夫よ!」って言って素直に横になってくれないので、助かります。
 ちょっとだけ汗をかいていたようなので、体をふいてパジャマを着替えるのをお手伝いします。
 横になってもらって掛け布団をかぶせてから、タオルと脱いだパジャマを洗濯カゴに入れます。

「かのんちゃんありがとう。すごく手際がいいね」
「よりちゃんので慣れてるから、かなぁ」
「あはは、こよりちゃんといっしょだといろんな経験できそうだよね」
「えへへ・・・ ご飯は食べられてる?」
「うん。レトルトのおかゆ温めて食べてるから」
「そっかぁ・・・」

 レトルトのおかゆは確かに水分もとれるし用意するのも楽です。でも、それだけだとちょっと栄養が足らないかも。
 私だったらおかゆに卵をいれたり、ほうれん草のおひたしを作ったりして食べてもらうところだけど、冷蔵庫は勝手に開けられないし・・・。

「・・・かのんちゃん、来てくれてありがとう。なんだか元気になったよ」
「それならよかった。あ、これ授業のプリントと、給食で出たプリン」
「ありがとう。あとで食べるから、テーブルに置いておいてもらえる?」
「うん。いいよー」

 プリンをテーブルに置いて、プリントもその隣に置きます。
 花ちゃんだったら風邪引いててもその場で食べるだろうなぁ。
 なんてことを考えながら、学校でのこととかをちょっとだけ雑談しました。

「ほわー そんなことがあったんだ。さすがこよりちゃん。・・・あ、もう薄暗くなってるね」
「もうこんな時間なんだー。おしゃべりしてるとあっという間だね」 黄昏の工場
「引き留めちゃってごめんね。かのんちゃんいてくれるとなんだか安心しちゃって」
「そ、そう? えへへ・・・」
「今日は来てくれてありがとう。早めに風邪治せるように頑張るね」
「うん。無理しないように、お大事にしてね」

 使った麦茶のコップをさっと洗って食器のカゴにいれて、ご挨拶をしてお部屋を出ました。

 ♪ Puella in somnio 


 さっきよりも薄暗くなっていましたけど、お空は夕焼けで染まっていて。四階の通路からはかなり遠くまで見通せました。
 川沿いの集団住宅地から川に橋が架かっていて、その先に複雑な形をした黒っぽい建物────工場のようなもの────が見えました。
 私の生活している場所にはない、異質な構造体。
 なんとなく、その工場が気になってしまって。
 よりちゃんがいなくて心細いはずなのに、非日常的なその黒い塊への好奇心が勝ってしまった私は、まるで重力に抗えない塵芥のように吸い寄せられていったのでした。

【天使編02

02

七月三日(水) 一七三〇


 ♪ Umbra Nigra 


ヒュウゥゥ・・・  ビュオオォォォ・・・  ォォォォ・・・


「・・・。うぅ、寒い・・・」

 初夏だというのに身を切るように冷たい風が吹きすさぶその工場には、不気味な風のうなり声が響きわたり、沈みかけで血のように濃いオレンジ色の夕日が真横から射していました。
 あまりにも濃いその夕日は、まるでべっこう飴のようで。
 触れるだけで絡め取られてしまいそうな粘度の高い光の層でした。
 その強い夕日に照らされる工場は、まるで血糊のようにべったりとした黒い影を地面に這わせていました。

「・・・なんだろう。すごく、怖い・・・」

 ぞわぞわと、体を這うような不快感を感じて恐ろしくなった私は、急いで帰ろうとして踵を返しました。
 その時────。
 白くて小さな生き物──雪兎のような──が、視界の端を横切るのが見えました。

【魔法少女編01

03

七月三日(水) 一七二五


 ♪ Touchi─And─Go 


ダー・・ン・・ ダーン・・・
タタッ   カン カン カン カン カンッ


 私は暁美ほむら。
 インキュベーターの企みを知り、まどかを救う──ワルプルギスの夜を倒す──為に奔走する時間遡行者。

「ハッ ハッ ハッ・・・」
「・・・・・・・・・!」


ダギューン  ダンダンダン! ダーン・・・


 隣町の天舞市と隣接する工場で、インキュベーターを始末する。
 一匹は仕留めたけれど、複数いるこいつらはなかなかしぶとい。


タタタッ   カン カン カンッ


 インキュベーターは人目のつきやすい工場の敷地外に出ようとしている。

 このままでは逃げられてしまうと判断した私は、魔力で補正して精密狙撃をすることにした。


キュー・・・ン・・・      ダーーーーン!


「!」


サッ

キューーーーーンン・・・ キュン カン キィン・・・


「外した!? この距離で・・・っ  くっ・・・!」

 インキュベーターが不意に体を翻し、弾を避ける。
 あいつを仕留めるはずだった弾丸は工場のダクトやパイプで跳弾しながらいずこかへ消えていった。
 魔力を出し惜しみせず、時間停止して仕留めるべきだったと省みた、その時。

「っ! きゃああああああぁぁっっっ!!
「悲鳴? ・・・こんなときに・・・っ」

【魔法少女編02

04

七月三日(水) 一七三二


カンカンカンカン カンッ


 開けた場所に、一人の少女が横たわっていた。
 地面は夥しい鮮血に濡れてコールタールのように大きな染みを作っていた。


 ♪ Terror Adhaerens 

凶弾
「・・・! 大丈夫? しっかりしなさい!」
「はっ    はっ    はっ」
「呼吸が浅い・・・。まさか、さっきの跳弾で? 弾創は・・・」

 魔力を込めていたこともあり、殺傷能力が異常に高くなっていた弾丸によって少女の左の大腿部は大きな風穴が開いており、破断した骨が剥き出しとなっていた。
 その白く細い大腿部は、二センチメートルほどの内腿の筋により辛うじて繋がっているような状態だった。

 周囲にむせかえるような血の匂いが充満する。
 大きく抉れている左の大腿部から、拍動と連動してドクドクと血が噴き出している。少女の呼吸は浅く、多量の冷たい汗をかいており、皮膚が白い。
 出血性ショック死寸前の状態だった。
 私はインキュベーター追跡を諦め、少女の処置をすることにした。

治療
「・・・死なせはしないわ。安心しなさい。ゆっくり呼吸をするのよ」

 あまり使い慣れない他者の回復。自分の傷を癒すイメージを応用し、少女の大腿部に左手を添え魔力を込める。
 ただし、傷口は塞がず痛覚を遮断するだけ。
 そして私の固有魔法である「時間遡行」の力を使う。弾丸が少女の大腿部に進入・貫通し、周囲の体組織が破滅的なダメージを受けた際の明瞭なイメージを組み立て、損傷部のみ逆ベクトルに時間を進める。
 加えて、体外に放出された多量の血液及びそれら周辺の体組織も時間を巻き戻す。
 地面の砂や制服、髪などと混じり合い、空気に触れたことで酸化して泥のように変質した少女の血液。
 弾丸により焼け焦げ炭化した筋肉、地面のアスファルトに飛び散り同化した皮膚組織・神経繊維などの体組織。
 それらの時間を巻き戻すことで分離し、炭化・酸化した組織を修復し、体内に存在していた時と同じ綺麗な状態に戻して傷口から体内へと還してゆく。
 地面に作られた大きな血だまりがみるみるうちに少女の大腿部に吸い込まれていき、最後に傷が塞がれていく。
 しばらくして辺りに静寂が戻る。先程までの血みどろの惨状が幻かのように、横たわる少女の呼吸は穏やかで表情からも苦痛が消えていた。

「ふぅ・・・。しばらくすれば目を覚ますでしょう」

 立ち上がり、その場を離れようとする。
 亜麻色の髪の少女を一瞥し、踵を返そうとした。
 しかし────。

「・・・。 ・・・私はもう、人間ではないのにね・・・」

 自分が撃った罪のない少女をそのままにしてはおけない。
 そう思った私は、少女が意識を取り戻すまで自宅で保護することにした。

【魔法少女編03

05

七月三日(水) 一八〇六


 ♪ Signum Malum 


 できるだけ人目に付かない道を選び、深い眠りに落ちている少女を両腕で抱えて自宅へ戻る。
 人通りの多いところや防犯カメラのある場所は時間を止めて瞬間移動しながら、無事誰にも目撃されることなく帰宅することに成功した。
 盾の中に少女を収納して運ぶこともできたけれど、爆弾や弾薬が飛び交う空間に生身の人間を放り込めるほど、まだ私の人間性は失われてはいない。


シュル・・・   ファサ・・・


 休息は椅子に腰掛けて取ることが多い為、あまり自分では使わないベッドに少女を横にさせる。
 あどけない面影を残すいたいけな少女。見た目から恐らく小学三・四年生くらいだろう。その白と青の制服から天舞市の私立小学校に通っていることが分かる。
 少女が苦しくないように枕の位置を調整し、軽めの毛布を胸元まで掛ける。
 引き続き安らかな寝息をたてている少女をしばし見つめてから変身を解き、一息つく。
 客人など招き入れたことのない無愛想な部屋。火薬の匂いが立ちこめる部屋の中にはおよそ年頃の少女が飾るような愛らしいオブジェなどない。ワルプルギスの夜の出現予測地点を割り出す為の統計情報、拳銃と弾倉の山、そして某所より「拝借」してきたAT4などの兵器のみ。愛くるしい少女を迎え入れるには似つかわしくない殺風景な部屋を見やり、かぶりを振る。
 ひとまず少女が目を覚ました後の対応に集中できるよう、先にシャワーを浴びておくことにした。

【魔法少女編04

06

七月三日(水) 一八一九


サアアァァァァ・・・


 ♪ Amicae Carae Meae 


 風呂は命の洗濯である。そういう言葉をどこかで聞いた記憶がある。
 魔法少女となり、魂を抜き取られてしまった今でもシャワーは以前と同じように心地よく感じるのだから皮肉なものだ。
 左手の中指にはめているリング────紫色の宝石がついている────を見つめながら、五感で捉えられるものはすべて幻想でしかないと自分に言い聞かせる。
 まったく、よくできている。インキュベーターの持つ技術力だけは素直に感心する。
 言われなければ・・・いえ、言われても尚、この宝石が私のすべてであることなど実感できないのだから。
 肉体は飾り。でも、食事であろうと魔力であろうとエネルギーを補給して生命活動を維持しているのであれば新陳代謝が起き、役目を終えた細胞が剥離していくのは必然。
 汚れていても目的遂行には何ら支障はないのだけれど、あの子が────まどかが────そばにいると何故か気になってしまう。
 だから仕方なくこうしてシャワーを浴びている。ただそれだけのこと。


キュッ・・・     パタン


 シャワーを浴び終え、浴槽には入らずそのまま出る。

 長い髪────。以前はこれをシャワー上がりに乾かすことが憂鬱だったのだけれど、今は魔法で整えることができる。
 指輪に魔力を込め、普段の手癖と同じように髪の根元から先端までをなでる。


シュアアァァァ・・・   ファサァ・・・


 これで髪の乾燥は完了。
 魔法少女になってから、日常において一番便利になったと感じることかもしれない。
 ついでに全身の水分も魔力で飛ばす。ゆえに、タオルの類は今の私には必要なかった。
 巴マミは「人間だった頃」の習慣が身についているのか、はたまた魔力を温存しているのか、未だにタオルドライをしている。
 確かに拭き上げれば済むことではあるから、魔力の無駄遣いと言われてしまえばそれまでなのだけれど。


シュッ シュッ・・・   スルリ


 下着は学校指定のものがなかった為、特にこだわりもなく白の上下を身に着けている。
 下はともかく、この体型で上は必要なのかと自分でも思う。サラシでも巻いておいた方が防御力が上がるのではないかと思うのだけれど、何回か前のループの時にまどかから止められたことがある。それ以来素直に下着は着けるようにしている。
 見滝原中学の制服と、黒のカチューシャを着けたところで、それは起きた。


 ♪ Anima Mala 


「あっ   ああああああぁ うあああああああああっ!」

 状況を察した私はベッドまで飛んでいくと、声の主を観察する。
 うずくまって自らの両腕を手繰り寄せるように掻き抱いている少女。
 先程までの天使のような寝顔とは打って変わり、死を前にしたかのような蒼白な表情となっていた。
 大量の涙と冷や汗で、少女のスカートには大きな染みができている。

「大丈夫。大丈夫よ。落ち着いて」
「ああぅ うあああぁぁ・・・!」
「しっかりして。あなたの左足は無事よ」
「うっ   うぅ・・・」


 意識を失う直前に感じていた激痛がまだ続いていると思っているのだろう。一種の体の防衛反応であるから仕方のないこと。
 私は少女の正面から両腕をさすって説得していたけれど、それだけでは不足していると判断しそのまま少女の頭を胸に抱き込んで落ち着かせる。
 こういうとき、もう少し温かく柔らかい体だったらなどと考えてしまう。

「・・・・・・あ・・・・・・ え・・・・・・?」
「大丈夫。もう大丈夫よ。あなたが気を喪っている間に、足は治癒したわ」
「・・・痛く、ない・・・。・・・・・・?」
「そう。痛くない。大丈夫だから安心しなさい」

 極限まで力が入り硬直していた少女の体。けれど、今はそれも弛緩して支えていないとベッドに崩れ落ちてしまいそう。
 よかった。短時間で状況を理解し、沈静化してくれたようだ。見た目に寄らず、状況判断力が高く心がしっかりしているようだ。
 少女は反射的に私の背中に回していた両腕をぱっと離すと、ベッドの上で後ずさり、距離を置いた。
 そして、正座をしながら私のことをまじまじと見つめてくる。常に瞳を閉じていた為分からなかったけれど、その柔らかく穏やかそうな亜麻色の髪と煌めく瞳が印象的だった。

「えと・・・ 危ないところ、助けていただいてありがとうございました」

 先程の悲鳴とは打って変わり、その声は穏やかで相手を包み込むような包容力がある。
 小学三年生くらいに見えるけれど、その相手を問わず包み込むような母性は既に私を遥かに超えているように思えた。

「いえ・・・。それより色々と説明したいことがあるのだけれど、いいかしら」
「はい。私も知りたいので、お願いします」
「では、少し待っていて。お茶の用意をしてくるわ」
「ありがとうございます」

 礼儀正しく、母性溢れる・・・けれども小学三年生くらいの少女。
 存在自体が矛盾の塊のような人物と会話するのは嫌いではない。それに責任の所在含めてこの子には事実を伝えないと。
 魔法少女以外の誰かと────それも自分より年下の少女と────お茶会なんて初めての経験だけれど。
 事実を伝えることの憂鬱さよりも、この穏やかで愛くるしい少女とのお茶会に高揚感を強く感じながら、私はキッチンへと移動していった。

【魔法少女編05

07

七月三日(水) 一八四六


「────そんなことがあったんですね」
「ええ。巻き込んでしまって、ごめんなさい」

 あいにく紅茶を切らしていて、インスタントコーヒーしかなかった。子どもにあまり濃いコーヒーはよくないと思い、アメリカンの更にアメリカンにしてスティックシュガーと多めのミルクを入れた。少女はそれを喜んで受け取ってくれ、冷え切った体を温かい飲み物で癒していた。
 私は簡潔に事実を伝えた。それだけでは理解できず質問の嵐が起こると想定していたのだけれど、少女からは特に質問はなかった。
 目の前の少女は意外にも、驚いたり恐怖したりする様子はなかった。今の説明で私が銃刀法違反をしていること、あまつさえそれで自分が撃たれたことを理解したはずなのに。まだ感覚が麻痺しているのかもしれない。

「いえ。見捨てず助けていただいて、こうして保護までしてくださって、ありがとうございます」

 少女は頭を下げながらそれだけ言うと、両手で包み込んでいるカップを見つめて静かになった。茫然自失という様子ではなく、私の説明を反芻して何かを必死に理解しようとしているようだった。


 ♪ Quamobrem? 


「・・・いくつか、聞いてもいいですか?」
「ええ。納得するまで説明するわ」
「その・・・。どうしてほむらさんは、あのような人気のないところにいたんですか?」

「私がターゲット・・・インキュベーターをあそこまで追いつめたからよ」
「いんきゅべーたー・・・というのは」
「年頃の少女を誑かして、魔法少女として契約させようと迫る変質者・・・というより宇宙人・・・地球外生命体ね。生命体であるかどうか怪しいけれど」
「ちきゅうがいせいめいたい・・・ えっと、魔法少女?」
「ええ。私のことよ」

 私はその場で魔法少女として変身をしてみせる。常人には瞬時に早着替えをしたようにしか見えないだろうけれど、それ以外に説明のしようがなかった。
 普段、自らが魔法少女であることは伏せている。あらぬトラブルに巻き込まれる可能性があるからだ。しかし、今回は少女の方がトラブルに巻き込まれた側。こちらも包み隠さずすべてを説明しなければならない。

「わ・・・ 一瞬、紫色に光って・・・お着替えしたんですか?」
「・・・まぁ、そうね。魔法少女として変身しただけだけれど」
「その魔法少女さんは何をしているんですか?」
「魔女や使い魔といった、目に見えない災厄を根絶して回っているわ」
「世のため人のため、なんですね。大変そう・・・」
「いえ。私利私欲の為よ」

 頭に大きな「?」を浮かべるかのように、小首を傾げる少女。
 その愛らしい仕草に、私は自分からもう少し分かりやすく説明をしようと口を開いた。

「魔女を倒せば魔法少女にとっても見返りがあるのよ。これがそれ」
「黒い・・・ 何かのオブジェですか?」
「これはグリーフシード。その名の通り災厄の種。魔女を倒すとこれを落とすことがあるのだけれど、放置しておくと新たな災厄の火種になるのよ」
「手に持っていて、大丈夫なんですか・・・?」
「ええ。これ自体は安全なものよ。そして、私たち魔法少女の穢れを祓ってくれる貴重なアイテムでもあるわ」
「けがれ・・・?」
「インキュベーターと契約した魔法少女は、例外なくこのソウルジェムを持つことになる。戦うことでソウルジェムに穢れが溜まって濁っていくけれど、その穢れをこのグリーフシードは・・・」

 少女の目の前で、私は自らのソウルジェムにグリーフシードを近づける。
 ソウルジェムから黒い澱のようなものが浮かび上がり、それがグリーフシードへと吸い込まれていく。

「・・・このように、ソウルジェムを綺麗な状態にしてくれるの。ソウルジェムが穢れて濁ると魔法少女の動きが鈍くなるし、魔法もうまく使えなくなっていくわ」
「透き通るようにピカピカに・・・。重曹のようなものなんですね」
「重曹・・・ まぁ、そうとも言えるわね」

 重曹のように無害なものではないのだけれど。
 というより、そんなキッチン用品のような朗らかな話ではないわ。

「魔法少女さんは魔女と戦って世界を救っている。戦うと、宝石が濁ってしまうので、魔女の落とすグリーフシードでそれをきれいにする。きれいにしないと戦えなくなる・・・」

 亜麻色の髪の少女はそう呟くと、納得したような顔になった。先程の説明だけでそれが理解できるのだから、見た目に寄らず聡明なようだ。
 しかし、すぐ眉が下がってしまい、小首を傾げる。また分からないことが出てきたようだ。

「・・・先程のいんきゅべーたーさん、というのは魔法少女さんを増やす活動をしているんですよね」
「平たく言うとそうね」
「平和の使者ということになりそうですけど、どうしてそれを追いつめていたんですか?」

 そこを理解してもらうには、本当にすべてを話す必要がある。
 時間を確認すると、午後七時になろうとしていた。小学生が外を出歩いていていい時間ではない。

「あなた、時間は大丈夫なの? もう遅いわよ」
「うちは今日、おかぁさん帰ってくるの遅いので大丈夫です。  あ」
「どうしたの?」
「ごめんなさい。そういえば自己紹介がまだでした」

 言われて気づく。
 お互い、誰なのか分からないまま結構な時間をおしゃべりしていたことになる。
 まったく間抜けな話ね。

「私は暁美ほむら。インキュベーターと契約した魔法少女よ」
「小之森夏音です。天舞市に住む小学六年生です」
「え・・・ あなた・・・、小学六年生なの?」
「はい。ほむらさんは高校生ですか?」
「・・・いえ。中学二年よ」

 初見で小学三年生くらいだろうと思っていたけれど、それよりずっと上だった。
 私としたことが年齢を見誤るなんて・・・私と大差ない年齢のようだ。

「とても大人びていてかっこいいので、もっとおねぇさんなんだと思っていました。意外と歳が近いのでなんだか安心しました」

 屈託のない笑顔を私に向けてくれる。
 きっとこの子の住む天舞市には日頃から愛が溢れているのだろう。


 ♪ Sis Puella Magica! 


 ────天舞市。見滝原市の北西に隣接する市だけれど、私たち魔法少女にとってはそれ以上に特異な市として知れ渡っていた。
 原理は分からないけれど、天舞市にはインキュベーターは入り込めないらしく、これまで天舞市出身の魔法少女は一人もいない。
 感情がないはずのインキュベーターも「わけが分からないよ」と不満そうにしていたが、天舞市自体はそれほど大きな市ではない為目をつぶっているというのが実状のようだ。
 インキュベーターの科学力は現代の地球のそれを遥かに上回っている。それにも関わらずどんなことをしてもインキュベーターたちが潜入できず、それどころか潜入できない理由すら分からないというその特異性。
 私たち魔法少女から現代の聖域として神聖視され、中には羨む魔法少女がいる程度には特異な町であることは間違いなかった。

 南に広がる神浜市も「自動浄化システム」と呼ばれるフィールドが存在している。
 あれもインキュベーターの侵入を防ぎ新たな魔法少女が生まれない仕組みを提供し、システムが作られる前に契約した魔法少女の穢れを「ドッペル」を用いることにより浄化する画期的なもの。
 天舞市と似たような働きをするが、神浜市には魔法少女も魔女もウワサもキモチも存在し、日々諍いが起きている。
 しかもその「自動浄化システム」自体が問題をはらんでいる。システム構築の為のエネルギー源として神浜市周辺の街から魔女を強制的に誘導してきた為、その周辺の街(二木市など)では魔女が枯渇してしまった。
 結果として、そこに住む魔法少女はグリーフシードを得られなくなった為、生き残るために魔法少女同士での血生臭い殺戮が繰り返されたと聞く。
 そのような血塗られたシステムに頼ることなく、存在自体が「聖域」である天舞市は、戦いに明け暮れる私たち魔法少女から見ればさながら「別の世界の街」と言える────。

「・・・ほむらさん、大丈夫ですか?」
「あ・・・  ええ。ごめんなさい。少し長くなるけれど、魔法少女とインキュベーターの関係について話すわね」

【魔法少女編06

08

七月三日(水) 一九〇三


「まず基本的なこと。魔法少女としてインキュベーターと契約できるのは、この惑星では第二次性徴期の少女だけよ」


 ♪ Inevitabilis 


 コーヒーの入ったカップを片手に、リラックスした状態で説明を始める。
 私も魔法少女についてこれほど落ち着いた状態で、かつ時間をかけて誰かに説明をしたことはない。
 目の前の少女の持つ独特な温かさがそうさせるのだろうか。これから話す内容にそぐわず、私はかつてないほど穏やかな気持ちで臨んでいた。

「つまり、私たちくらいの年齢の女の子だけが魔法少女になれる、ということですね」
「そう。第二次性徴というのは学校で習ったわよね」
「はい。大人になるための心と体の変化のこと、ですよね」
「人により始まる時期は千差万別。小学三年生くらいから変化が起きる子もいれば、高校生になっても起こらない子もいる」
「そうみたいですね」
「それもあり一概に「何歳から」とは言えないのが特徴。でも、微かに胸が膨らみ始めた程度であっても、第二次性徴が始まっていればインキュベーターとの契約は可能よ」
「そうなんですね・・・。その、私も、周りのお友だちも、まだ目立った変化は起きていないんですけど・・・」

 やはり体のことになると恥ずかしいのだろう。目の前の少女は両手で胸を押さえ、頬を染めてやや俯いている。

 契約の資格があるかどうか、否応なく分かる指標がある。その点を確認してみる。

「小之森夏音。あなた、インキュベーターを見た?」
「えっと、あれがそうだったのか分からないですけど、白くて小さな雪兎のような動物が横切ったのは見えました」

 その直後、この子は私の跳弾に倒れた。
 そのことを思い出しているのか、両手を膝の上に置きキュッと固く結んでいる。

「そう・・・。あなたも契約する資格はあるようね」
「そ、そうなんですか・・・?」
「インキュベーターの姿は契約の条件が揃っている人、既に契約している人にしか見えないの」
「それじゃあ、あの時の雪兎が・・・」
「雪兎なんてかわいいものではないけれど、確かにあの白いのがインキュベーターよ」

 少女は呆けたような顔でぼんやりと虚空を見つめている。
 無理もない。魔法少女などという空想の産物でしかない存在に、自らもなれる可能性が開けたのだ。
 少女はしばしその事実に浸っていたが、すぐに気を取り直すと背筋を伸ばして椅子に座り直した。

「えと これまでのお話をまとめると・・・。いんきゅべーたーさんは地球に来ている地球外生命体で、第二次性徴期の少女と契約して魔法少女を増やしている・・・」
「魔法少女として契約した子は、魔女と戦うことになる。戦うとソウルジェムが穢れていってしまうので、魔女の持っているグリーフシードで穢れを祓う必要がある・・・」
「その通りよ」

 非常に理解力が高いので驚く。何もメモを取ることなく、口頭で説明するだけで理解できているようだ。
 それであれば、その先に待ち受ける疑問も手に取るように分かる。話の流れを切らないよう、先回りして伝える。

「それだけであればインキュベーターは無害よ。でもね」
「は、はい」
「インキュベーターは何を目的として魔法少女を増やしていると思う?」
「目的、ですか・・・。平和の使者としてこの星に来ているなら、世界平和、宇宙平和のため、でしょうか・・・」

 なるほど。その説を信じることができれば、どれほど心が穏やかになることか。
 それにしても、この少女は性善説で物事を捉えがちなところが心配になる。年頃の少女なのだから、周囲の大人は性悪説でのものの見方も教えるべきではないだろうか。

「・・・発想を転換しましょう。まず、インキュベーターは正義の味方ではないわ。誰の味方でもなく、彼らは彼らの目的を遂行する為にこの星に来ているのよ」
「そ、そうなんですか」
「その前提に立って考えてみて。インキュベーターには私たちが魔法少女となることで利することがあるということ。それは何だと思う?」
「ううーん・・・。私たちが魔法少女になることで、いんきゅべーたーさんが得をすること・・・」

 少女は目を閉じて、苦悶の表情を浮かべている。
 実際にはそこまで苦しそうではなく、かわいらしくうんうん唸りながら考えを巡らせているようだ。

「・・・魔法少女として活動することで、何が起こるかというと・・・魔女を倒すわけだから、世界が平和になっていくのは確かで・・・」
「でも、戦うのが怖くて戦えない子もいると思うから、そういう子と契約してもいんきゅべーたーさんは特に問題がないというか、魔女を倒さなくても契約するだけでお得なことがある・・・」

 その着眼点に自力で辿り着くことができることに、驚きを隠せない。
 突き詰めれば確かにそこがポイント。「魔法少女として契約すること」が重要であって、「魔法少女としてどのような活動をするか」はインキュベーターにとって重要ではないのだ。
 魔法少女になり、戦わずに時を過ごしたケースで考えている少女。改めて平和主義者のようだ。

「魔女を倒さないとグリーフシードが手に入らない。グリーフシードが手に入らないと、魔法少女は・・・ あれ、魔法少女はどうなってしまうんでしょう」
ソウルジェムが濁りきると、魔女になるわ」
「魔法少女は穢れを祓えないと魔女になる、と・・・」

 そこを意外とあっさり受け入れてしまうのね。
 これまでの言動と一致しない少女の反応に、少し違和感を感じる。

「・・・・・・え?  魔女になっちゃうんですか? 魔法少女が?」
「・・・ええ」

 慌てふためく少女を見て、私は何故か安堵する。
 少し天然というか、間がおもしろいというか、若干抜けているようだ。

「魔法少女が絶命するケースは二つ。ひとつは魔女との戦闘でソウルジェムを砕かれてしまうこと。もうひとつはソウルジェムが穢れで濁りきることで魔女化することよ」
「魔女って、魔法少女が戦っている相手、ですよね・・・?」
「そうよ。私たち魔法少女は戦えなくなってグリーフシードを入手できなくなると、それまで戦ってきた存在──魔女──として生まれ変わるわ」
「そんな・・・」
「そしてそれがインキュベーターの目的でもあるの」
「どうして・・・ いんきゅべーたーさんはどうしてそんなことを」

 今にも泣きそうになっている少女は、目に涙を湛えながら魔法少女の運命に思いを馳せているようだった。

「正確には魔女化することというより、魔女化するときに生成される膨大なエネルギーを回収することなのだけれど・・・ほぼ同義よね」
「うぅ・・・ 魔法少女さんがかわいそう・・・。自分の信じた祈りで戦ってきたのに、最後には倒される側になってしまうなんて・・・」
「・・・私がインキュベーターを駆除しようとする思い、分かってもらえたかしら」
「はい・・・ でも、どうして今でも魔法少女になる子が絶えないんでしょう。最後にはそうなってしまうと分かっていたら、契約しようとなんて思わないはずなのに」

 少女はスカートからハンカチを取り出して涙を拭っている。
 その世を憂う姿が、以前聞いた佐倉杏子の父親と重なって見えた。
 この子は聖職者が向いているかもしれない。

「インキュベーターはその不都合な真実を隠して契約を迫ってくるわ。あなたももし天舞市から出て行動することがあるなら、インキュベーターの標的になるから注意することね」
「はい・・・」
髪
 そして私は長い髪を一掻きすると、少女と正面から向かい合う。
 手を膝の上で揃えて、軽く頭を下げる。

「ごめんなさい。あなたを撃ったのは私。痛い思いをさせてしまって、申し訳なかったわ」
「い、いえ・・・。確かにとっても痛かったですけど、それも新しい魔法少女を、新しい犠牲者を出さないためにしたことですし」
「ごめんなさい・・・」
「あの場に放置しないで助けてくれて、とても嬉しいです。どうか頭を上げてください」

 言われて、元の体勢に戻る。
 少女を見ると、相手を包み込むような穏やかな表情をして──聖母のような佇まいで──私に手を差し伸べていた。
 つられて手を取ると、少女は私の片手を両手で包み込み温めてくれた。

「ありがとうございます」
「夏音さん・・・」

 久しぶりに。本当に久しぶりに。
 誰かと触れ合って心がほぐされた気がした。

【魔法少女編07

09

七月三日(水) 二〇〇五


「もう時間も遅いですし、だいじょうぶですよぉ」
「いえ、ちゃんと送るわ。発端は私のミスだから」


 ♪ Fateful #1 


 玄関でそのような会話をして、二人で家を出る。
 本心では少女に泊まっていってほしかったけれど、明日も学校があることから我慢した。
 私、出会って間もない少女に依存しかかっている。こんなこと、まどか以外になかったことなのに。

「その・・・ 傘、ありがとうございます」
「風邪でも引いたら大変よ。遠慮しないで」

 いつの間にか雨が降り出していた。この時季は俄雨が多い。
 雷鳴は聞こえてはこない。今日はこれ以上、少女を怯えさせたくはなかったから好都合。
 少女は傘を持っていなかった為、私の傘を渡して使ってもらっている。
 私は雨に濡れようと風邪など引くことはないから、少女の隣を傘もささずに歩いている。


サァァァ・・・
ポッ ポッ ポツッ・・・

 ふと雨音が変わって隣を見ると、少女が背伸びをして私の上に傘を差し向けてくれていた。

「ほ、ほむらさんが風邪をひいちゃったら、大変、なの、で」

 腕をまっすぐ伸ばし、辛い体勢なのかプルプルと震えながら傘を持つ少女。
 私のことを心配してくれるのね。まったく、お人よしで甘い子だわ。


パッ・・・


「あ・・・」


スッ・・・


 少女から無言で傘を奪い取ると、そのまま少女の頭上に傘を掲げる。
 背の高い私が持った方が少女は楽なはず。できるだけ少女の側に傘を差し向け、いたいけな少女が濡れないように努める。初見で小学三年生と見誤ったのは、あまりにも少女の身長が小さかった為。恐らく私と十五センチメートルほど差があるように見える。変身する前のまどかよりも、若干小さい程度の小柄さで。
 ただ、今はその身長差が功を奏し、私は楽に少女の頭上に傘を掲げることができている。

「えへへ・・・ ありがとうございます」

 少女は恥ずかしそうにはにかみながら、私に寄り添うようにして傘に入ってくれた。私は久しぶりに感じるくすぐったいような気持ちを振り払うように、眉間に力を込めながらひとつ咳払いをする。

「・・・くどいようだけれど、何があってもインキュベーターと契約してはダメよ。契約してしまったら、この世の地獄を味わうことになると肝に銘じておきなさい」
「は、はい」

「困ったことがあれば駆けつけるわ。これは私の連絡先」
「あ、ありがとうございます。えっと・・・」
「いいのよ。これにかけてくる人はごく数人しかいないから、登録されていない番号はあなただと考えることにするわ」

 電話番号をメモした紙を少女に渡す。スマートフォンを取り出そうとあたふたしていた少女はそれを素直に受け取ると、大事そうにスカートのポケットにしまいこんだ。

「・・・あ、そろそろおうちにつきます」
「そう。私はこれで」
「今日は遅くまでありがとうございました」
「こちらこそごめんなさい。それじゃ」

 少女を濡れない屋根の下まで送ると、瞬時に変身して盾に傘を収納する。そして家屋やビルの屋上を跳んで移動しながら、今日のことを振り返る。様々な反省点が浮かんでくるが、それよりも少女の温かさのほうが印象に残っていた。
 魔法少女として活動していると、どうしても相手の裏の裏を読むことが身についてしまい、陰鬱な物事の捉え方をしてしまうようになる。しかし、私たちくらいの年齢ならば、今日の彼女のようなあどけなさを残していても本来は許されるべきなのだ。
 まどか・・・まどかだけが、その暗澹たる陰鬱な日々に一条の光を射してくれる、たったひとつの道標。インキュベーターに騙される前のまどかを救う。それ以外に心が救われる道はない。そう考えていた。
 でも────。

「・・・・・・」

 今日、少しだけ。ほんの少しだけこの永久凍土のように凍てついた心がほぐされたような気がした。

「・・・もう私は人間ではないのに。不思議なこともあるものね・・・」

 次は・・・、次の機会があるか分からないけれど。
 彼女を迎え入れる時には必ず薫り高い紅茶を用意しておこうと心に決めたのだった。

【天使編03

10

七月四日(木) 一〇三五


 ♪ ホッコリタイム 


「かの、昨日の夜はどうしたのよ。何度も電話したのに」
「よりちゃんごめんねー 疲れちゃって早めに寝ちゃったんだ」
「まだ完全じゃないみたいだから、今日は早く休むのよ」
「うん。ありがとうー」
「お姉さんの私が添い寝してあげようか!」
「えー だいじょうぶだよー。よりちゃんはしっかり授業うけてね。何かあったら電話してね」
「かの、またお母さんみたいになってるわよ。大丈夫、まかせて!」

 昨日のことでとても疲れていた私は、二時間目の授業が終わった後で学校を早退することにしました。学級委員のお仕事をすべてよりちゃんに任せるのはちょっと心配でしたけど、ノアちゃんたちがサポートしてくれると言ってくれたのと、よりちゃんの「まかせて!」という頼もしい言葉と笑顔を信じてお任せすることにしました。
 よりちゃんもひなたちゃんたちも、とても心配そうな顔で私を見送ってくれました。
 さすがにみんなには昨日あったことを正直に話せません。そんな後ろめたい気持ちもあって、みんなに力なく手を振って学校を後にしました。
 まだ午前中ですけど、日差しがとても強くてじりじりと肌が焼かれるよう。日に焼けちゃったらいやだなぁ・・・なんてぼんやりと考えながらおうちまでとぼとぼと歩いていきます。
 おうちまで着くころには、汗をびっしょりかいていました。今日の最高気温は確か三十八度。まだ七月に入ったばかりなのに茹だるような外気温でした。
 足に張り付くスカートのポケットから鍵を取り出して、ドアを開けます。

「ただいまー・・・」

 誰に言うでもなくつぶやくと、ドアを閉めて鍵をかけました。
 ぐったりと疲れていましたが、汗だけは軽く流そうと思いシャワーを浴びることにしました。
 パジャマと下着を持って脱衣所に移動して、スカートをハンガーにかけます。シャツや下着を脱ごうとしましたが、汗で張り付いてしまってなかなか脱げません。やっとの思いで脱ぎ終わると、しわにならないように洗濯カゴに入れました。

「・・・・・・・・・」

 脱衣所の姿見が目に入り、思わず左足のふとももを────昨日鉄砲で撃ち抜かれた場所を────凝視してしまいます。
 何もなかったかのようにきれいになっているふともも。でも、じっと見つめていると昨日のことがフラッシュバックしてしまいそうだったので、頭を振って逃げるように浴室に入りました。
 温かいお湯を頭から浴びると、お腹の辺りが冷たくなっているような気がしました。
 あれだけ暑い中を移動してきたのに。やっぱり昨日のことが────。
 いけない。また昨日のことを思い出してしまいそうだったので、余計なことは考えないようにして体を清めることに集中しました。
 そう。いつものようによりちゃんと一緒にお風呂に入っている時のことを思い出しながら。
 そうすると、ちょっとだけお腹の辺りも温かくなってきたような気がします。やっぱりよりちゃんは頼りになるなぁ。


 ♪ こよりとかのん 


『ふーん。かのはあちこちふっくらやわらかくなってきてるのね。大人っぽくてうらやましいわ』

 よりちゃんとお風呂に入っていた時、そんなことを言われたことがありました。それだけでなくその「やわらかい場所」によりちゃんが触れてきて、すごくくすぐったかったことを思い出しました。

 よりちゃんだって、うーん・・・。
 よりちゃんはあんまり身長は伸びていないですけど、お胸とかはちゃんとふくらんできています。でもそれも数ミリくらいなので、きっと私しかその違いは分からないかもしれません。
 よりちゃんはいつも早く大人になりたいと言っているので、きっと早く大人の女性らしい体型になりたいんだろうなぁ。みやこおねぇさんや松本おねぇさんみたいに。
 よりちゃんは将来どんな女性になるのかなぁ。もしかしたら急に背が伸びてすらっとしたかっこいい女性になるかも。キリンさんみたいに。

 よりちゃんが大人になった時、私はよりちゃんのお隣にいられるのかなぁ。
 この間、よりちゃんは私とのことを「ふーふ」だと言ってくれました。どっちが「夫」で「婦」なのか分からないですけど、嬉しくて真っ赤になったことを思い出します。
 もしかしたら「婦婦」なのかなぁ。ゆうちゃんの「ママとママ」みたいな感じで。
 ふふ、将来どうなるんだろう。楽しみだなぁ。
 よりちゃんのおかげでお腹もすっかり温まった私は、浴室から出て体をしっかり拭いてパジャマを着たのでした。

【天使編04

11

七月四日(木) 一一三〇


 元々疲れ切っていた私は、シャワーで濡れただるさもあって、うつらうつらしながら寝室へ移動しました。
 やっぱりちょっと暑いので、エアコンを弱めにつけてベッドに横になって、夏用の薄掛けをかぶりました。
 授業を休んでいる分、本当はお勉強しないといけないんですけど、けだるさで頭がぼーっとしてしまいお勉強できるような気分にはなれませんでした。

「ん・・・  んん・・・    はぁ・・・」

 目を閉じればすぐに眠れると思っていましたが、そんなに簡単にはいかないみたいです。
 どうしようかなぁ・・・。本を読んだりする気力もないですし、かといって寝てしまえる状態でもないですし。
 ・・・そういえば、リリキュアのアニメでまだ見られていないのがあったかも。そのことを思い出した私は、枕の隣に置いてあるタブレットを取り出して電源を入れました。

「あれはたしか・・・エンプラだったかなぁ」

 エンプラ──。エンジェルプライムビデオというサービスがあって、うちはおかぁさんが会員登録しているので私も自由に使わせてもらっています。
 まだ見ちゃいけないような過激な映画もあるそうなので、そういうのが検索で出てこないようにおかぁさんが設定をしてくれています。
 やっぱり、おかぁさんを悲しませたくないですし、うっかりよりちゃんがうちに来た時にそういうのを見させてしまったら大変ですし。


 ♪ 右往左往 

『白く! 輝く! 奇跡の、花!  ホワイトリリィ!!

 再生ボタンを押すと、最初のアバンタイトルのところでホワイトリリィが名乗りを上げて変身していました。そういえば、これの前のお話のラストで悪役の怪人さんを廃工場に追い詰めていたのでした。
 リリキュアという作品は魔法少女とはちょっと違って、格闘技で戦うことが多いみたいです。なので、キラキラとした魔法が飛び交うような戦い方ではありません。全身を魔法で強くして突撃する感じで、ひなたちゃんが好きそうな戦い方でした。
 でもそれは、本物の魔法少女であるほむらさんもおんなじだったので、案外そういうものなのかもしれません。

『世の中の人を困らせる悪は、このホワイトリリィが滅します!』

 ホワイトリリィが高らかに宣言すると、全身が白く輝きながら天空へ飛翔しました。その姿はまるで熾天使のようで。
 ホワイトリリィの決め技は、目に見えないくらいの超高速で放たれる「アルティマ・シュート」というキック。

『アルティマ・シュートッ!!


キィンッ  ズドゴオオォォォオンンン!!


 それが怪人にクリーンヒット。威力が強すぎたのか怪人は蒸発するように消滅しちゃいました。ついでに地面には大きなクレーターができていました。直径1キロメートルくらいはありそうです。後片付けは大変そうですけど、今は使われていない廃工場でよかったぁ。
 戦いを終えたホワイトリリィはそのままワープをして、普段の生活に戻っていきました。

「・・・すごいなぁ。私たちとおんなじ女の子なのに、とっても強くて正義感もあって・・・」

 電源を落としたタブレットを胸に抱いて、正義の味方のすごさにうっとりとしてしまいます。
 でも・・・。

「でも、正義と悪って、いったい誰にとってのことなんだろう・・・」

 街を騒がす悪役さんたちをこらしめているホワイトリリィ。でも、悪役さんたちのしている「悪事」もいたずらのようなもので。
 例えば、学校の靴箱の靴を揃った状態からバラバラにして、また丁寧に靴箱に入れなおしたり、商店街のお店の入り口に敷かれているマットを裏表逆にしちゃったりといったものでした。
 そういういたずらをして街の人たちを困らせて、その様子を見て楽しんでいるだけなので、それほど実害はないのかなぁって思います。
 ホワイトリリィは確かに街の秩序を守ろうと悪役さんたちと戦っているんですけど、戦い終わったあとに悪役さんが蒸発しちゃうというのはやりすぎかなぁって思います。
 もしかすると、悪役さんたちから見たら、ホワイトリリィのほうが悪役なのかもしれません。

 そんなことを考えていると、ふわりふわりと昨日のことが頭の中に浮かんできます。


 ♪ Now He Is 


 ほむらさんのお話。
 魔法少女という存在について。
 その存在理由。
 インキュベーターさんの思惑。

 よく考えてみると、インキュベーターさんがしようとしていることはこの宇宙に住むすべての存在にとって必要なことなのかもしれません。
 宇宙の寿命を延ばせるくらい文明が発展したら、インキュベーターさんじゃなくても誰かがやらないといけないことなのかもしれません。

 そうなると、確かにほむらさんたち魔法少女さんは騙されて利用されている被害者さんですけど、インキュベーターさんのしようとしていることも頭から否定はできないような気がします。
 やり方が問題なだけで、もう少しやり方を考えてみんなが納得できるようになれば、とても素敵な事業なのかも。
 でも私なら、誰かを悲しませたりご迷惑をかけてしまうくらいなら、今のまま何もせず、この宇宙の寿命と添い遂げるほうを選ぶかなぁ・・・。

 ほむらさんの氷のような硬くて強い意志。その元に行われていた、インキュベーターさんの駆除。
 駆除に使われていたのは鉄砲。普段の生活では見ることのない、遠い世界の武器だと思っていました。
 でも、あの時確かに感じた左足の激痛は、幻でも作り物でもなくて。
 今も忘れることのできないリアルな感覚として、私の左足にくっきりと刻印されていて────。

「う・・・  うぅ・・・   っ・・・!」

 気づけば、もう昨日の記憶から気持ちをそらすことはできなくなっていました。
 ベッドの中で、左足を守るように丸まって痛みの記憶を押さえ込もうとしました。
 でも、あの時の・・・体の奥で硬いものが爆発したような、骨が軋んで破断して、その周りのお肉が潰れて千切れていった感覚はなかなか消えてくれません。
 リリキュアのような、ある意味あったかくてやさしい世界観での空想ではなく、鉄砲で撃たれるという血生臭い体験から始まった一連のリアル。
 それを思い出してしまって、ガタガタと震えてしまいます。

「よ・・・ より、ちゃん・・・っ! ぐすっ よりちゃ・・・」

 まくらに涙がしみこんで、冷たくなっていくのが分かりました。
 シャワーの時と同じように、よりちゃんとのほっとする日常と、ほむらさんのやさしい面影を必死に思い返しながら。
 おかぁさんのいないひとりぼっちの自宅で、さびしく眠りについたのでした。

【天使編05

12

七月四日(木) 一五四〇


 ♪ とっておきのことば 


── いつも隣 ここがわたしの場所 心が 穏やかになるの ──

 スマートフォンの着信音で目が覚めた私は、体を起こすのもおっくうだったので横になったまま電話に出ました。

『ふぇ・・・はい。あれ、よりちゃん? どうしたの? だいじょうぶ?』
『かの、休んでるのにごめんね。今日お休みした人にプリントと給食のデザートを届けることになったのよ』
『そっかぁ。ひとりで行ける?』
『昨日かのが届けに行ったアリスちゃんなんだけど、私、おうちの場所がよく分からなくって。先生に聞くの忘れちゃった』
『・・・そっか。アリスちゃんも朝いなかったもんね。うん。じゃあいっしょに行こう? お着替えしたらそっち行くね』
『疲れてるのに、かのごめん。ありがとう!』

 電話を切って時計を見ると、午後四時近くになっていました。ちょうど放課後の時間です。
 アリスちゃんのおうちの場所をよりちゃんのスマートフォンに送ってナビに案内してもらうこともできました。でも、やっぱりついていかないと心配です。
 午前中に着ていた制服はまだしっとりしていたので、替えの制服を出してお着替えをしました。
 ランドセルを背負っておうちの鍵をかけると、学校へと歩いていきます。今日二回目の登校です。
 午前中よりは太陽が西の方に傾いていましたけど、それでもやっぱり日陰から出るとジリジリと焼けるように暑くて。

 できるだけ日陰を歩くようにして、ハンカチで額を拭いながらよりちゃんとの待ち合わせ場所である校門を目指しました。

「・・・あ、かのー!」
「よりちゃん、おまたせー」
「かのごめん。暑いのに来させちゃって・・・」
「大丈夫だよー」
「でも、かのがいてくれたら千人力ね。ありがとう!」
「えへへ・・・ それじゃ行こうか」

 よりちゃんと合流できました。よりちゃんも暑い中ずっと待っててくれたみたいで、汗びっしょりになっていました。制服が張り付いていて、下のシャツが透けて見えちゃってます。
 んもー、よりちゃんってば・・・。

「よりちゃん」
「かの?」


ふわっ    しゅるり    ぽんぽん


「はい、よりちゃんこっちむいてー」
「んむにゅぅ・・・はぼっ」
「・・・うん。きれいになった」
「ぷーっ  かの、ありがと!」

 ハンカチでよりちゃんのお顔と首筋の汗を簡単に拭きます。
 きれいになったよりちゃんはいつものキラキラした笑顔で私の手を取って、そのままずんずんと進んでいきます。
 頼もしいなぁ。それにいつもとおんなじでかっこいいなぁ・・・。
 って、あれ?


くいくいっ

「よりちゃんよりちゃん」
「なによ」
「アリスちゃんのおうちは反対方向だよ?」
!?  いつものクセで、おうちに帰っちゃうところだったわ・・・」
「あはは・・・。お届けもの、がんばろう?」

 こうして私たちは、天舞市と見滝原市の市境にあるアリスちゃんのおうちに向かったのでした。

【天使編06

13

七月四日(木) 一六三〇


 ♪ 明かりに照らされて 


 昨日とおんなじ、人気のない建物をよりちゃんと上っていきます。
 今日はよりちゃんが一緒なので、心細くはありませんでした。
 二日続けてお休みしているアリスちゃん。心配でしたけど、元気そうだったのでほっとしました。

「ほわぁ・・・わざわざありがとう。何度も遠いところまで来させちゃってごめんね。昨日はすぐ治ると思ったんだけど・・・」
「ううん。お大事にしてねー」
「こうしてかのとデートできるから、またいつでも休んでいいのよ!」
「もー よりちゃん、めっ!」
「うぅ、かのぉ・・・」
「あはは いつも通り二人仲良しだね。いいなぁ・・・。また学校でね」

 アリスちゃんはまだ具合悪そうでした。学校も大事ですけど、あんまり無理しないでほしいなぁ。
 よりちゃんはあんまり来たことのない場所なのでテンションが上がってましたけど、長居するとアリスちゃんが疲れちゃうので早々においとますることにしました。
 玄関まで見送ってくれたアリスちゃんに改めてご挨拶をして。私たちは夕暮れ時の河原を並んで歩いていきました。
 ふとスマートフォンを見ると、おかぁさんからメールが入っていました。

「あれ・・・ おかぁさんからだ」
「お母さん、なんて?」
「えっと・・・」

『今夜お仕事が終わったらその足で出張に行くことになりました。二週間くらいだけど、夏音には寂しい思いさせてごめんなさいね。小依ちゃんのお母様とご一緒だから、こちらのことは心配しないでください』

「・・・だって」
「あ、そのことなら私にも来てたわよ。お母さんたち仲良しで嬉しいわ!」
「そうだねー」

 本当は、今はおかぁさんと一緒にいたい気持ちが強いですけど、わがままも言っていられません。
 簡単に「お仕事がんばってね」とメールを返します。さっき寝込んでいた時に来ていたんだろうなぁ。
 よりちゃんとおかぁさんたちの出張のことをメインにいろいろお話をしながら、ゆったりと流れる川を見つめます。
 夕日の溶け込む滔々とした河川。きらきらと輝いて見えますけど、その向こうには昨日のあの工場が見えました。


 ♪ The Battle Is Over 


「かの」
「・・・よりちゃん?」
「ちょっと寄り道していきましょ。なんだかあっちが気になるのよ」

 来た道をそのまま帰ろうと思っていましたけど、昨日の私とおんなじでよりちゃんもやっぱりあの工場が気になるみたいです。
 さすがに二日続けてほむらさんも来ていないだろうと思い、少しだけ寄り道することにしました。

「・・・いいけど、ちょっとだけだよ?」
「大丈夫よ。かの具合悪いんだし、ちょっとだけにするから」

 私のことを気にしてくれるよりちゃん。嬉しくて胸があったかくなります。
 でも、工場は昨日とおんなじで不気味な雰囲気で。

 絡めとられそうな粘度の高い夕日、血糊のような工場の影、季節にそぐわない吹きすさぶ寒風、低く響くゴゥンゴゥンという工場の音。
 よりちゃんと一緒ですけど、昨日のこともあってどうしても体の芯が震えてきてしまいます。

「なんかこういうところ、わくわくするわね!」
「そ、そうかなぁ・・・」
「リリキュアが敵と戦ってたりしてそう!」
「あー」


 ♪ Salve,Terrae Magicae 


「紅くきらめく決意の花! レッドリリィ!」


シャキーン


「わー よりちゃんかっこいいー」

 ・・・実際、ここでほむらさんは魔法少女としてあの白いのと戦っていたわけで。
 白いの────キュゥべえさんという地球外生命体。
 すべての魔法少女と敵対しているわけではないようですけど、ほむらさんはあのキュゥべえさんの数を減らそうとしていました。地球外生命体で、自分たちの目的のために私たち地球人を利用しようとしているとほむらさんは言っていました。
 でも・・・。本当にそんな映画のような宇宙人の侵略が起きているのかな。
 身近なクラスのみんなの様子を見る限り、魔法少女として契約したり、戦ったりしている人はいなさそうですけど・・・。
 そういえば、天舞市には魔法少女はいないってほむらさんが言っていたかも。

「あれ? かの、あれなにかしら」
「よりちゃん?」
「ほら、あの白い猫みたいなの」


「・・・!」


 ♪ Wanna Destroy? 


 咄嗟に、私は屈んで小さくなりました。またほむらさんの銃弾が飛んでくるかもしれないと思ったからです。
 でも、耳を澄ませてみると銃声のような大きな音は聞こえてきませんでした。

「私、なんでかああいう小さい動物に嫌われてるのよね」
「・・・そのほうがいいと思うよ」
「かの・・・?」

 キュゥべえさんの存在意義と企みが本当なら。
 私たちのような年代の子どもはあの子と接触してはいけないはずです。
 ほむらさんも私のことを気にしてくれたからこそ、再三にわたって「インキュベーターと接触してはいけない」と忠告してくれたのだと思います。

QBと遭遇髪

「・・・あれ? この子、引っかいたりしてこないわね。よーしよーし」
「あっ・・・! よりちゃん、ダメっ!!

 ほむらさんとのやり取りを思い出していたら、いつの間にかよりちゃんがキュゥべえさんに近づいていました。

 そして、そのかわいい見た目を最大限生かした動作で、よりちゃんに抱っこされる形になっていました。

「よりちゃん、それ・・・ その子をこっちに・・・!」
「なんでよ。私、こういう小さい子になつかれたの初めてなんだから、もうちょっといいでしょ」
「あ・・・ あぁ・・・!」

 私がよりちゃんからそれを奪い取ろうとした、そのとき。
 そのノアちゃんのようなお口が動かないまま、キュゥべえさんの声が頭の中に直接流れ込んできたのでした。

「やあ、種村小依。小之森夏音」
「今日は君たちにお願いがあって来たんだ」
「ボクと契約して、魔法少女になってよ!」






【魔法少女編08

14

七月二日(火) 二五三〇


ダァンッ!


「さやかっ・・・!  ちくしょう、こんなことって・・・!」
「ひどいよ・・・ こんなの、あんまりだよ・・・」
「・・・・・・・・・」

 時として事実とは残酷なものだ。
 呪いを募らせた美樹さやかが産んだ魔女、オクタヴィア。
 私たちはそれと戦闘することなく難を逃れたが、繊細な巴マミは「魔法少女が魔女化した」という事実に冷静さを失ってしまっていた。


ヒュルッ


!!


ダーン   チュンッ


 魔力のロープにて私と佐倉杏子を捕らえ撃ち抜こうとした巴マミだったが、マスケット銃の弾丸は誰にも命中せず床にヒットした。

「お、おい! マミ!」
「ソウルジェムが魔女を生むなら・・・ みんな死ぬしかないじゃない!」
「あなたも、私も・・・っ!!

「・・・・・・!」


ヒュンッ    パキィ・・・ン


 巴マミが撃ち出すより先に、まどかの放った弓矢が巴マミのソウルジェムを撃ち抜いていた。
 急所を撃ち抜かれた巴マミは、まるでスローモーションのようにゆっくりと頽れていった。


どさっ・・・


「・・・いやだ・・・ もういやだよ、こんなの・・・っ!」

 自らの手を血に染め、誰よりも信頼していた巴マミを殺めたまどか。
 正気を保っていられるギリギリの境界線で、泣き崩れていた。
 生き残ったのは私とまどか、そして佐倉杏子。誰一人として「助かってよかった」などという笑みを浮かべられるはずもなく、沈痛な面持ちで床を見つめ続けていた。
 巴マミの遺体を前に、三人がそれぞれの思惑を胸に秘めながら対峙していた。


 ♪ I Miss You 


「・・・へっ 笑えねーな。結局あたしら、最後には魔女になっちまうってことか」
「・・・佐倉杏子・・・。そうよ。魔法少女は誰一人として例外なく、そうなる運命なのよ」
「そうかい。・・・それで、これからどうするんだ」
「どうもこうもないわ。最後の望みにかけるだけよ」
「ワルプルギスの夜か・・・。あたしはごめんだね。勝てる見込みもない、仮に勝てたとしても遅かれ早かれ魔女になっちまうってんじゃあな」
「杏子ちゃん・・・」

「そう。あなたがいれば戦力として助かるのだけれど、無理強いはしないわ」
「そんな、みんなで戦おうって・・・この街のみんなのためにワルプルギスの夜を倒そうって誓ったのに」
「まどか。魔法少女はすべて自分だけの祈りの為に戦うのよ。戦うか、退くかは自分次第。これは慈善事業ではないわ」
「でもっ・・・」
「そういうこった。悪いけど降りさせてもらうぜ。今度ばかりは状況が悪すぎる」

 そう言い残し、長い長いホームを歩いて佐倉杏子は去っていった。
 美樹さやかと巴マミ。佐倉杏子にとって最も親しいとも言える人が同時に亡くなったのだ。今は彼女にも時間が必要なはずだ。
 残ったのは私とまどかの二人きり。

「・・・ほむらちゃん。二人きりになっちゃったね」
「・・・鹿目まどか。あなたも自分の判断で決めなさい。私はひとりでも戦うわ」
「私も戦う。戦わせてほしい。少しでもほむらちゃんが奇跡を起こせる可能性が増えるなら、私もいっしょに・・・!」
「ごめんなさい。ありがとう・・・」

 この後、私は悲しみに暮れ涙に沈むまどかを自宅まで送り届け、眼前の遺体を巴マミの自宅まで移送しベッドへ寝かしつけた。
 着衣に乱れがないこと、体に傷がないことを入念にチェックし、軽く室内の片付けと清掃をして部屋を出た。


ファサァ・・・


「ふぅ・・・」

 「こちらの世界」で亡くなった巴マミは、自宅にて原因不明の死を迎えたことになるだろう。魔女結界内で亡くなる場合は永遠に行方不明者のままとなる。それと比べれば余程人間らしい最期だと言える。
 死因不明ながらも、遠い親戚は葬儀を行うこともできる。それにより気持ちの整理をつけることもできるだろう。これが一番影響の少ないやり方なのだ。

 それにしても────。


コッ コッ コッ・・・


「・・・それにしても、あまりに人の死に慣れすぎているわね。私・・・」
「もう人間ではないのだから、当たり前と言えばそうなのだけれど」

 そう自嘲気味に鼻で笑うと、三時間ほどの仮眠を取る為に自宅へと向かった。

【魔法少女編09

15

七月三日(水) 一五二〇


 ♪ Pugna Cum Maga 


 対艦ミサイルなどを仕入れる為に某基地へと向かう。
 残る標的はワルプルギスの夜。これを倒す為の準備を本日中に行い、出現予測日時の七月五日の夕方まで休息を取る。それが私のこの世界において残された、最後の仕事。
 防犯カメラは時間停止で掻い潜り、センサーの類は暗視ゴーグルとセンサーの情報を処理するコンピュータの時刻を狂わせることで、大きな騒ぎとなることなく目的の大型兵器を手に入れることができた。


七月三日(水) 一七〇〇


 拳銃やマシンガンなどは見滝原市の北西の外れにあるいくつかの「事務所」から拝借する。
 何故かこの地域の「事務所」の人たちは距離的に近い隣町の天舞市では仕事を一切行わず、専ら見滝原市と風見野市でのみ活動している。
 以前、事務所に潜入した際に「天舞市はツキが悪い」「仕事する気が失せる」といった会話が聞こえてきた。
 彼らもインキュベーターと同じように、天舞市では悪事ができないのかもしれない。そう考えてほくそ笑んでいる自分がおかしかった。
 行動範囲が限定されているおかげで行動パターンも読めてきており、各事務所の手すきとなる時間帯も把握している。
 一度に多量の銃器を拝借すると警戒されてしまう為、少量ずつ複数の事務所から拝借することも忘れない。

 一体何と戦うつもりなのか分からないけれど、手榴弾、AT4、スナイパーライフル、マシンガン、C-4など必要となりそうな武器はすべて調達することができた。


七月三日(水) 一七二〇


ヒュゥウゥ・・・


「・・・・・・」

 拝借した武器を盾に収め、時間停止を解除した途端、急に風向きが変わった。
 流れてくる風に、重油と鉄粉の臭いが強く感じられる。
 風上を見ると、川を隔てた向こう側に天舞市が見え、川のこちら側に大きな工場が見えた。
 ここは見滝原市と天舞市の市境。インキュベーター達にとっての「不可侵領域」が眼前に広がっている。


シュタタッ   タタタッ


 視界の端に素早く動く白いものが目に付く。インキュベーターだ。
 性懲りもせず、天舞市に入り込もうとしているのだろう。より天舞市に近い工場の中に入っていくのが見えた。

「・・・往生際が悪いわね」

 まどかが契約をしてしまったこの世界では、インキュベーターを追跡する必要性はないのだけれど。
 考えてみればまどかが契約をしたのも、その契機となる美樹さやかの魔法少女化も、すべてはインキュベーターの仕業。
 そう。この世界線でのまどかの祈りは「魔女となった美樹さやかを助けてほしい」だった。

「・・・・・・」


 ♪ Puella in somnio 


 幼馴染の為に魔法少女として契約した美樹さやかは、この世界に於いても自ら呪いを募らせ、魔女となってしまった。
 それを憐れんだまどかは美樹さやかの為に契約したが、「美樹さやかが助かるとはどのような状態か」という定義の部分でインキュベーターと齟齬があった。
 結果的に、まどかの祈りは「魔女オクタヴィアが魔法少女と戦闘を起こすことなく消滅する」という形で遂げられた。
 まどかはそんなはずではなかったと自らの選択を後悔し、魔法少女の魔女化という現実と相まって涙の海に沈んでしまったのだ。


タッ   タタッ・・・
カン カン カン カン カンッ


 気づけば、インキュベーターを追って走り出していた。
 この世界は既に「終わってしまった」世界。いくらインキュベーターを始末しようとも何一つ変わらない。
 頭では理解していても、それでも止められない衝動。もう人間ではないのだけれど、この感情の奔流は止めることはできなかった。
 右手で握りしめる拳銃の安全装置を解除し、私は工場の中へと駆け込んでいった。

【天使編07

16

七月四日(木) 一八三〇


「しゃべった・・・? この子、しゃべったわよ? それに、私たちの名前を知ってるみたい」
「・・・・・・! ・・・・・・」


 ♪ Pugna Infinita 


 このとき────。
 私はどうすればこの場を切り抜けられるかを必死に考えました。
 相手はこの地球より文明の進んだ惑星に住む地球外生命体。きっとこちらの考えてることもぜんぶお見通しなのだと思います。
 それに、私はまだ小学生です。いろいろな経験が──よりちゃんを守るための経験が──ぜんぜん足らないはずです。
 この間のほむらさんの接し方を見ても、いきなり拳銃で撃とうとしていました。つまりかわいい見た目ですけどとっても怖い存在なのだろうと思います。
 なので、どう考えても正面から話し合っては丸め込まれてしまうと思います。
 それなら────。

「・・・えと、その・・・ 私たちは今、魔法少女にならないといけないわけでもないと思うので、また今度で・・・」
「・・・非常に興味深いね、小之森夏音。君は何故そう言い切れるんだい?」
「そ、それは・・・。今は特に危ない目にあっている人もいないですし、魔女や使い魔が襲ってきているわけでもないから・・・です」

 キュゥべえさんがよりちゃんから離れて、私の方に身を乗り出してきました。
 よかった。よりちゃんから注意をそらすことができたみたいです。
 キュゥべえさんはそのくりくりとしたかわいい瞳で私に語りかけてきました。

 相変わらず、ノアちゃんによく似たそのお口は動いていませんでした。

「・・・君は何も分かっていない。今、君が魔法少女となることで救える命がどれほどあるか、想像したことはあるかい?」
「そ、それは・・・」
「君が魔法少女となり、使命を果たすことで、この宇宙の寿命がどれだけ延びるのか。興味はないかい?」
「・・・・・・」
「君はどうやら、ボクが接触する前から魔法少女と魔女との関係性を理解しているようだ。そしてボクのことも。一体、誰からその知識を教わったんだい?」
「・・・・・・」
「大方の予想はつくけどね。ここは見滝原市と天舞市との境界だ。天舞市ではボクたちは仕事ができないから、見滝原市の魔法少女からだろう。違うかい?」
「・・・・・・」

 なんとなく、キュゥべえさんの語り口から、ほむらさんのお名前をここで出してはいけない気がしました。
 キュゥべえさんの話はどこに行き着くんだろう。そんなことを考えられるくらい、なぜか私は混乱することもなく。
 胸の底が冷えきってしまうような冷静さで成り行きを見守ることができていました。

「ちょっと待ちなさい! そんなのあるわけないじゃない。魔法少女とかヒーローには憧れるけど、実際になれるわけないんだから」


ぐいーーーーっ!


「キュゥべえさんごめんなさい。ちょっとだけ時間ください」
「いいよ。ゆっくり話し合うといい」


ずるずるずる・・・


 ♪ Mother And Daughter 


「か、かのっ 痛い痛い! ちょっと、何するのよ!」
「いいから、よりちゃんは静かにしてて。あれと関わっちゃいけないんだよ・・・ね? いい子だから」
「それなら、かのだって同じじゃない。私が言いくるめてあ」


ぎゅっ


「か、かのぉ・・・」
「・・・よりちゃんありがとう。でも今は、今だけでいいから私の言うこと聞いてほしいの」
「・・・もー、しょうがないわね。こうなったかのは退かないんだから。それで、どうしたらいいの?」
「逃げて」
「へっ?」
「いいから、私が合図したら全速力で走っておうちまで逃げて」
「かのはどうするのよ」
「私もすぐに追いかけるから。よりちゃんが転んでたら起こしてあげるから。お願い」
「・・・分かったわ。なんだか危ないことなのね」

 よりちゃんを抱きしめながらお願いしました。
 よりちゃんもちゃんと分かってくれたみたいで、最後には言うことを聞いてくれました。
 私たちは手を繋いだまま、キュゥべえさんと向き合いました。


 ♪ Sis Puella Magica! 

「・・・それで、どうするんだい? 種村小依、小之森夏音」
「よりちゃん、行って!」
「いくわよー!」
小依ダッシュ
 弾かれたようによりちゃんが走り出しました。ずるっと転びそうになりながら、でも体勢を立て直してまっすぐ走っていきます。うん、その調子だよよりちゃん。
 キュゥべえさんはそんなよりちゃんの様子を目で追っています。でも、目で追うだけで特に走って追いかけようとはしませんでした。

「・・・よりちゃんは用事があるので先に帰りました」
「それは残念だ。種村小依はまたの機会にしよう。小之森夏音、君はどうするんだい?」
「魔法少女になるかどうか、今は決められません。でも、どちらにしてももう少し知りたいことがあります」
「どんなことだい?」
「あなたの・・・あなたたちの目的は、一体何ですか?」

 キュゥべえさんは一切表情を変えることなく、沈黙しました。
 その間、十秒ほど。

「・・・魔法少女と魔女の関係を知っている君なら、それも理解しているんじゃないかな」
「はい。でも、キュゥべえさんから直接聞きたいんです」
「ボクたちの目的はただひとつ。良質なエネルギーが目減りしていくこの宇宙のエントロピーを減少させ、良質なエネルギーに満ちた宇宙にすることさ」
「それは・・・「私たちが魔法少女になる」こと以外ではできないことなんですか?」
「他に方法がないわけじゃない。ただ、最も効率がいいのが「それ」というだけさ」
「効率・・・。よく分かりました。ありがとうございます。魔法少女になるかどうか、考えてみます」
「この宇宙のために死んでくれる気になったら、いつでも声をかけて。ボクたちは天舞市では活動できないから、この場所で落ち合おう」
「またね、小之森夏音」

【天使編08

17

七月四日(木) 一九〇〇


「はっ  はっ  はっ」


タタタタタッ
コケッ   トッ トッ トッ・・・
タタタタタッ


 種村小依は小之森夏音に言われた通り、最短距離で工場を抜けて天舞市に向かって走っていた。
 途中で何度か転びそうになりながらも、しかし上手に体勢を立て直して転ぶことはなく、市境の川に架かる橋まで戻ってくることができた。
 あと数歩で天舞市に入るという、その時。

「種村小依。ちょっといいかい?」
「なによ。今走るのに忙しいんだからあとにしてちょうだい!」
「小之森夏音の考えていること、気にならないかい?」


ザッ  ザザーッ  けん けん けん・・・


 小依はその声に、反射的に足でブレーキをかけてしまう。前につんのめりそうになったが、何とか踏みとどまる。
 そして振り返り、思ったよりも近くにいた足元のキュゥべえを見下ろす。


 ♪ Facing The Truth #1 

「気になるに決まってるじゃない! あとでかのにはちゃんと説明してもらうんだから」
「小之森夏音はすべてを君に教えてくれると思うかい?」
「あたりまえでしょ。私たちおさななじみだし、何よりお互いに恋人同士でふーふなんだから」
「そういう関係だからこそ、話せないこともあるんじゃないかな」
「・・・どういうことよ」

 そういえば、と。
 さっき夏音と一緒にいたキュゥべえがここにいるということは、夏音はどうしたのだろう。
 小依はそう疑問に思い、きょろきょろと周りを見回す。

「小之森夏音はまださっきの場所にいるよ。安心して」
「もうお話は終わったってこと?」
「いや、まだ話しているようだ」
「?」

 キュゥべえの言っていることが理解できない小依。頭の上にひとつクエスチョンマークを浮かべる。

「ボクたちは沢山いるからね。ボクは小之森夏音と会話している個体とは別個体だよ」
「え、そうなの? そっくりじゃない。何匹くらいいるのよ」
「そうだね。この惑星だけならざっと五億くらいかな。この惑星が所属する銀河では二十五垓くらいだね」
「ごおく!? にじゅうご・・・がい? がいって何?」
「数の単位だよ。君たちの文明では一、十、百、千、万、億、兆、京と続くだろう。垓は京の次の単位さ」
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん・・・」

 小依は両手の指を使って数えていたが、瞬時に理解した顔をキュゥべえに向ける。

「分かったわ! いっぱいいるってことね!」
「うん・・・・・・まぁ、その認識で間違ってはいないよ」
「それで、かのがどうしたっていうのよ」

「小之森夏音はこの宇宙を救えるかもしれない人材なんだ。今、それについての説明を受けているよ」
「宇宙を・・・? 宇宙って、助けてあげないといけないくらい困ってるの?」
「その通り。今もボクたちが住むこの宇宙は疲弊し続けていて、活用できるエネルギーが目減りしていっているんだ」

 小依はキュゥべえの言っている意味を自分なりに理解しようとしている。
 あごに手を当て、目を閉じ、うーんと唸っている。

「つまり・・・」
「うん」
「宇宙は疲れてるけど、栄養もとれなくてふらふらなのね」
「君たちの感覚だとそうなるだろうね」
「そして、かのはそんな宇宙を癒してあげられるってことなのね?」
「そうさ。小之森夏音は選ばれし者なんだ」
「さすがかのね! ふふーん!」
「そしてそれは君も同じだよ。種村小依」
「えっ?」

 小依は一瞬話の意味が分からず、改めてキュゥべえを見つめる。
 そしてすぐに納得したような、いつもの得意げな顔になった。

「まぁ、私とかのはいつも一緒だし、一心同体なんだから当然よ!」
「ボクの姿が見えていて、こうして会話できている時点で、君にもその資格があるんだ」
「それなら、私にもかのと同じ説明をしてちょうだい」
「もちろんさ。ただ・・・」


タッ タッ タッ タッ・・・


 ♪ I’ll Be With You 

 音のする方にキュゥべえが振り返ると、遥か遠くに小之森夏音の姿があった。

「小之森夏音の話は終わったようだ。君も今日は一緒に帰宅するといい」
「うーん。じゃあ、あとでかのからお話聞いてみることにするわ」
「それはやめておいた方がいいと思うな」
「なんでよ」
「小之森夏音はスケールの大きな話を聞いて、若干ショックを受けているようだ。彼女のことを思うなら、今はその話題に触れない方がいいよ」
「・・・それもそうね。分かったわ」

 キュゥべえは小依のその言葉を確認すると、さっと身を翻しその場から消えた。
 そしてテレパシーで小依に一言だけ伝える。

【また明日、夕方にここで落ち合おう。細かい話はそこでボクからさせてもらうよ】
「分かったわ」
「よりちゃーーん」

 小依は「明日の夕方に、ここ」と心に刻むと、夏音を正面から出迎えて抱きとめる。

「かのー!」


ぎゅっ


「かの、大丈夫だった?」
「うん。よりちゃんは途中で転んじゃった?」
「転びそうになったけど、踏みとどまったわ!」
「そっかぁ。よかったぁ」

 心からほっとして笑顔を見せる夏音。しかし小依はその笑顔の奥に疲労がにじんでいることを見逃さなかった。

「かの。おうちに帰りましょ」
「うん。そうだねー  あ、途中でお夕飯の材料を買って、帰ってから作らなきゃ」
「今日はコンビニで買って済ませちゃいましょ」
「よりちゃん・・・?」
「うーん。・・・あ、私食べてみたいものがあったのよ。季節限定の『流れない流しそうめん』ってやつ」
「流れないのに流しそうめんなの・・・?」
「旬だし、ちょうどいいでしょ」
「旬かもだけど・・・。よりちゃんがいいならそれでいいよ?」
「じゃ、コンビニ寄っていきましょ」


きゅぅ・・・


 ♪ Serena Ira 


 暖かい手で夏音の右手を取る小依。
 夏音も小依の手に包まれて、ほっとする。
 煌めく星々が瞬く天を、突き抜けるような群青色が覆い、血潮よりも昏い黄昏が地平線に滲んでいる。
 その黄昏を背に、漆黒の工場から地鳴りのような物言わぬ鼓動が響いてくる。
 それはまるで、苦しい苦しいと呻きを上げて助けを求めるこの宇宙そのものの悲鳴のよう。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・よりちゃん?」
「・・・なんでもないわ。行きましょ」

 得体の知れない巨きな存在を感じて、ぶるりと震える小依。
 それは夏音にも伝わったが、それ以上二人は会話することなく足早にその場を立ち去ったのだった。

【天使編09

18

七月四日(木) 一九五〇


 ♪ Postmeridie 


「いただきます!」
「いただきまーす」

 よりちゃんと帰りにコンビニに立ち寄って、お夕飯を買って帰りました。今日は私のおうちに来てもらって、一緒に休もうと思います。
 よりちゃんは「流れそうで流れない、でもちょっと流れるおそうめん」を選んでいました。流れるのか、流れないのか、どっちなんだろう?
 私はあんまりお腹がすいていなかったですけど、無理にでも食べなきゃと思っておにぎりと卵入りサラダにしました。卵のサラダならよりちゃんも食べてくれるので、あーんして食べてもらおうっと。

「・・・よりちゃんのそれ、流れるの?」
「んー、麺をほぐすお水がついてて、それでゆるゆるっと短い距離流して食べる感じね」

 容器に入った麺にお水をかけて、おはしで三センチくらい左右にゆるゆるっとしてほぐしてから食べるみたいです。なんだかイメージとは違いましたけど、よりちゃんが喜んでるからいいかなぁ・・・。
 ちゅるちゅると少しずつ食べているよりちゃん。いつもみたいにいっぱい詰め込んで、喉に詰まらせる心配はないですけど・・・。

「かの、食べないの?」
「え あ、いただくよー」

 おにぎりのビニール袋を開けて、ひとくち食べてみます。すっぱい梅干しが入っていて、ちょっとだけ食欲が出てきたような気がしました。
 サラダの方のパックも開けて、スプーンですくいます。

「はい、よりちゃんあーん」
「あーむっ   ひゃっはりたまこのはおいひいわへ」
「あはは、花ちゃんみたい。飲み込んでからしゃべるんだよー?」
「んくっ 分かってるわよ。かのもちゃんと食べなさい」

 よりちゃんに言われて、自分のごはんに集中します。
 おにぎりの梅干し。白いごはんの中で、ひときわ目立つ赤い色。
 そう、昨日の左足のえぐれたお肉みたいに────。

「かの、大丈夫? お顔真っ青よ?」
「・・・え・・・。あ・・・ うん」

 よりちゃんに心配かけるわけにはいきません。私はできるだけいつもどおりを装いながら、サラダをお口に運びます。
 ゆで卵をつぶしたものに、キュウリと人参を入れてマヨネーズであえたもの。これならよりちゃんも人参食べてくれるから、今度自分でも作ろうっと。
 卵はタンパク質が豊富で────。

 タンパク質。
 それは命を形作るもの。
 よりちゃんの体も、私の体も半分以上タンパク質でできていて。
 そう、腕も、足も、血も・・・。


 ♪ Cor Destructum 


「うっ   んぅ・・・!」
「かの!? どうしたの? 大丈夫?」

 食事してるところに、戻しちゃうわけにはいかない。
 私は両手で口を押えながら、流しまでよろよろ移動しましたけど、そこまでが限界でした。
小依の介抱
「うぇ うぇぇ・・・っ」
「かの!?

 梅干しとは違う、苦みのある酸味が口の中いっぱいに広がって。
 食べ物がもったいないし、きたないし、よりちゃんに見られたくなかったけど。
 どうしても体が受け付けてくれませんでした。

「ご・・・ ごめ・・・   ごめんね、よりちゃん」
「何言ってるのよ。無理しないで」
「見ないで・・・きたないから。ごはんしてるのに、ごめんね・・・」

 よりちゃんは背中をやさしくさすってくれました。同時に、流しの吐瀉物をお水できれいに流してくれました。
 私が落ち着いてくると、コップに水を注いで手渡してくれました。

「お口の中、これでゆすいできれいにしてね」


くっ    くぷくぷくぷ・・・   ぷしゃっ
ちゅくちゅくちゅく・・・   ぷえっ


「はー・・・  よりちゃん、ありがとう」
「かの」

 呼ばれて振り向くと、よりちゃんが私のほっぺに両手を添えました。


ぺろっ   ちゅっ    ちゅう・・・


「ひゃん  よ、よりひゃん?」

 よりちゃんは私のお鼻をぺろっとすると、左右のほっぺに口づけをしてくれました。

「かのにきたないところなんて、どこにもないわよ」
「よりちゃん・・・」

 よりちゃんの気持ちが嬉しくて、思わず首筋に抱き着いてしまいました。
 よりちゃんのお顔は見えないですけど、首筋とほっぺがすごく熱くなっています。

「・・・無理してまで食べることないわ。かのは昨日から疲れてるんだし」
「うん・・・」
「私がさっと片づけるから、かのはパジャマに着替えて先にベッドに入ってなさい。私もすぐ行くから」

 よりちゃんは最後に私のおでこに口づけすると、腕まくりをしてテーブルの上のごはんを冷蔵庫に片づけ始めました。
 よりちゃんの気持ちが嬉しくてじーんと感動した私は、よりちゃんに言われた通りお着替えをしてベッドに潜り込んだのでした。

【天使編10

19

七月四日(木) 二〇二四


 ♪ Take Your Hands ~ Wings of Relief ~ Her New Wings 


ヒュオオォォォォ・・・・・・  ガタガタッ  ガタッ・・・


 お外は強い風が唸り声をあげていて、窓が風に揺さぶられて震える音が響いている。
 音がするたびに、隣で横になっているかのがビクッと身を縮こまらせる。きっと怖いのね。
 できるだけ音が小さくなるように、ベッドからおりて窓のカギをしっかりかけてカーテンもぴっちり閉める。
 かのの隣に戻ってスマートフォンで天気を見てみると、お隣の見滝原市に大きな台風が来ていると書かれていた。


ザアアァァアァァァ・・・


 強い風に揺さぶられて、大きな木がさざめいている音が聞こえる。
 なかなか静かにならない部屋の中で、気になるのはかののこと。
 寝付けないのか、私の方に弱々しい瞳を向けてくるかの。不安な気持ちはよく分かるわ。
 かのひとり安心させてあげられないなんて。ちょっと悲しくなってくる。
 かのが安心できるように、触れるか触れないかくらいの手つきでかのの頭をなでる。

「・・・・・・より、ちゃん・・・」
「眠れないの?」
「うん・・・。ふらふらなはずなのに、おかしいね・・・」

 そんなかのがかわいそうで、愛おしくて、思わずかのに覆いかぶさるように抱きついちゃう。

「・・・よりちゃん。キス、して・・・」
「かの・・・?」
「お願い・・・」

 かのとは恋人同士でふーふ。それは小学校に上がったころからずっと変わらない。
 ある時、あれは三年生くらいだったかしら。テレビで男の人と女の人がお口同士で「ちゅー」ってしているのを見た。
 お母さんに聞いてみたら、それは「キス」というもので、恋人さんたちやご夫婦がすることだと教えてくれた。
 キスしている人がすごく大人に見えた私は、早速かのにしてみることにしたの。
 でも、かのは最初キスさせてくれなかったわ。顔を近づけると、かのは右を向いたり上を向いたりして唇にキスをさせてくれなかったの。
 嫌われちゃったのかしらと思ってしずしずと聞いてみたら、『お口以外ならいいよ』と言われて。
 あのときの最初のキスはお互いに目を閉じていたから、かののお鼻に唇が触れると同時におでこ同士でごっつんこしちゃって。二人して頭を抱えてぷるぷるしていたのを思い出すわ。
 それからは、二人きりの時に「いい?」と目配せをして、「いいよ」と目線でお返事がきたときに、ほっぺやおでこ、手の甲とかにキスをするようになった。


ちゅっ      ちゅぅ・・・


 お夕食の時とおんなじ、おでことほっぺにキスをする。
 これでかのも安心してくれるはず。眠れないときはこれで何度も解決してきたわ。
 でも、目の前のかのはまゆが下がってしまって、満足してないように見えた。


くいくいっ・・・


 かのが俯きながら私の腕を引っ張る。
 こういうときはかのに身をゆだねてお任せするといいというのも理解してるわ。
 引っ張られるまま、かのの方に体を預ける。


ちぅ


 それは、とてもひかえめなキス。
 かのは私の腕にキスをすると、じっと見つめてくる。
 何かしら? って思っていると、もう一度かのが動いた。


ちゅっ  ちゅっ


 かのは私の首に軽くキスをすると、続けて耳にキスをしてくる。
 耳はぞわぞわするから弱いんだけど、かのがしたいなら我慢しないと。
 それにしても、今日は積極的ね。いつもは私からばかりキスをしていて、かのは受ける側なのに。
 かのはうるんだ瞳で私の目をじっと見つめてくる。今日のかのは具合も悪そうだし、きっと心細いのね。
 仕方ないわ。奥の手を使うわよ。


すっ・・・  ちゅ   ちぅ・・・


 かのの手の甲と、まぶたにそっとキスを落とす。
 かののことが一番大事ってことと、かのってすごいわねって伝えるためのキス。

 いつもはここまですれば満足してくれて、笑顔でおやすみなさいしてくれるのよね。でも、かのは唇をとがらせていて、なんだか不満そうなお顔だった。


くぃっ・・・     ぱさっ


 かのはゆっくりと私を横にさせると、お腹の上に覆いかぶさってきた。
 そのままかのは私のパジャマのボタンを外すと、お腹に直接触れてきた。
 ちょっとくすぐったいわね、と思った矢先。


ふに・・・  ちゅう          はむっ  ちゅっ・・・


「ひゃっ   んにぅっ」

 思わずくすぐったくて変な声出ちゃったわ。
 かのは私のお腹にキスをすると、そのまま上がってきて私の胸にもキスをしてきた。

「か、かのぉ・・・」
「・・・・・・」

 かのは上目遣いで私のことを一目見ると、そのまま何度も胸にキスの雨を降らせて、はむはむしてきた。
 ああ、これはあれね。もしかしたら・・・。
 きっとかのは、私からお口にキスをしてほしいのね。なんとなくそれが伝わってきた。
 でも、それはまだ早いわ。最初にかのが『お口以外なら』と言った気持ちが、今ならよく分かる。


きゅぅぅ・・・
ちゅっ   ちゅっ

 かのを抱き込むような形で、かのの背中にキスをする。
 かのは相変わらず、お腹と胸に何度もキスをしてきていた。気持ちは痛いほど分かるけど、でもこれはかのの為に我慢しないといけないことなの。

 人はみんな、いつか考えが変わることがあるもの。
 私はこの先ずっと、かのだけを愛すけど。
 現実的なかのはその時の立場によって考え方と感情が変わっていくかもしれない。
 もちろん、かののことを信頼していないわけじゃないわよ? でも、取り返しのつかないことだから慎重にね。
 だから、唇へのキスはお預け。いつか私以外の人をかのが愛するようになったときの為に、ファーストキスは取っておいてほしいから。


ちゅぷく ちゅぷ・・・  むに   むにぃ・・・


 キスを飛び越えて、胸を吸っているような形になっているかの。大きな赤ちゃんみたい。
 そんなかのを両腕でしっかりやさしく抱きしめて、かのの頭に唇を押し当ててささやく。

「かの。私のこと好きでいてくれてありがとう」
「でも今はかの弱ってるから、ちゃんと寝て回復しましょ」
「おやすみなさい、かの」

 ちょっとだけ腕を緩めて、かのが苦しくないようにする。
 もそもそとパジャマから出てくるかの。そのお顔は涙で濡れていて、ためらうように目線を動かしていたけど、こくんと大きく頷いてくれた。
 かのは私の濡れた胸とお腹を軽くティッシュで拭くと、パジャマのボタンをそっとかけてくれる。そして私たち二人にかかるように夏掛けをかけてくれて、かのは横になった。
 かのは私のことをすがるような目で見つめてから目を閉じる。かのの目尻からとめどなく涙が流れ出ていくのが見えた。
 私は指先でかのの涙を拭うと、かのとほっぺたをくっつけるような形で落ち着いて、そのまま意識を手放したのだった。

【魔法少女編09

20

七月四日(木) 二六四三


 ♪ Magia [Quattro] -short- 

↓画像をクリックすると参考資料に飛びます。
ワルプルギスの夜



「きゃっ   きゃあああああぁぁぁぁっっっ!!


ガッ    ドガアァァッ


!!   まどかっ・・・!」


【 アーッハッハッハッハ   アーッハッハッハ   ハハハッ 】


 纏わりつく使い魔に堕とされたまどかは、直線的な軌道を描きながら倒壊したビルに頭から激突していた。
 それを目にしながらも、私は魔力を込めたサブマシンガンで使い魔を蹴散らすだけで精一杯だった。
 地面に大穴が空くレベルの大量のC-4でも足止めにすらならず、対艦ミサイル四基でも若干軌道をずらすことしかできず。
 用意してあった武器・兵器はその八割五分を使い切った状態だった。
 ワルプルギスの夜の使い魔は、一匹一匹が並みの魔法少女と同等以上の強さを持つ。生半可な武装や覚悟では本体に近づくことすら叶わない。


【 フフフフ  ハァーッハッハッハッハ  ウフフフフ 】


 見滝原市は北端の川沿いから南方の市街中心までほぼ壊滅状態。
 唯一の救いは、川向うの天舞市はそれほど被害が出ていなさそうなことだけだった。

 ♪ Nux Walpurgis 


グワァ・・・    ゴォウッ


!!!


 まどかが気を喪って倒れているエリアに、ワルプルギスの夜は追い打ちで巨大なビルを落そうとしていた。
 気づいた私は使い魔を振り払い、まどかの元に飛び込みながら時間停止を試みる。


キュルキュルキュル・・・


「・・・えっ?」

 時間が止まらない。
 盾を一瞥すると、魔力がほとんど尽きてしまっていた。

「・・・はっ!」


ドガアアァァァンン
ズズンン・・・


「ぐっ・・・ぅ・・・っ!」


 咄嗟に身を挺してまどかを庇おうとしたけれど、到底一人で支え切れる重さではなかった。

 まどかは下腹部から下を、私は両足をビルに擦り潰され、身動きが取れなくなった。
 手の届く距離にまどかがいるのに、万策尽きた私はまどかと共に横たわることしかできなかった。

「またなの・・・ 何度やっても、私は・・・!」
「ほ・・・むら・・・  ちゃ・・・」
「!   まどかっ・・・」

 まどかは無理やり笑顔を浮かべると、ひとつのグリーフシードを取り出した。
 それはまどかの親友、美樹さやかの遺品となった──魔女オクタヴィアの──グリーフシードだった。


 ♪ Signum Malum 


「ほ・・・むらちゃん。こ・・・れ・・・」
「まどか。グリーフシードがあるなら今すぐ使いなさい、さもなければ」
「ほむら・・・ちゃんに、使って・・・ほしい、の・・・   ゴブッ ごぼっ  ごほっ」

 見るからに、今にも天に召されそうなまどか。
 大量の血を吐きながら、震える手で必死にグリーフシードを持つ手をこちらに伸ばしてくる。

「そんな・・・ 何故私に・・・!?
「ごぶっ  私には、できなくて・・・ ほむら、ちゃんに できること、お願いしたい から・・・」

 瀕死のまどかを見ていられなくなり、せめてまどかの願う通りに動きたいと思った私は、思わず左手の甲をまどかに差し出してしまう。


ヒュァァァアアアアア・・・・・・


 凍り付いていた全身に熱い血が滾ってゆくのが分かる。
 消耗が激しすぎて全回復には程遠かったけれど、今のこの場を切り抜けることはできそうだった。


キイイィィィィ・・・    ザシュッ!


 魔力を込めたサバイバルナイフで擦り潰された自分の両足を切断する。
 そして、新しい足を魔力で形成した。
 これで動けると思った、その時────。

「ぐっ  あああああああぁぁ・・・  あぁ ああっ・・・!」
「まどかっ!」

 魔力の尽きたまどかは自己修復することもできず、魔法少女として強化された肉体が仇となり気を失うことも叶わず。死ぬよりも辛い、擦り潰された下腹部から下の激痛を、何度も正確に感じ取り続けることしかできずにいた。

「ほむら ちゃん、過去に 戻れるんだよね・・・? こんな終わり方に、ならないように・・・ 歴史を変えられるって、言ってたよね・・・?」
「まどか・・・っ!!
「キュゥべえ に、だまされる前の 馬鹿な私、を・・・ 助けてあげて、くれない かな・・・」
「・・・約束するわ。絶対にあなたを救ってみせる! 何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる・・・っ!」
「よか    った・・・」


ギュィィイイィィン・・・  ギィィィイイィン

「ぐぁ   がっ ああああああああっっ!!
「まどか!」

 まどかのソウルジェムは色相が反転して漆黒に近い悍ましい色に変わっていた。
 誰の目にも魔女化が近いことは明らかだった。

「ほむら、ちゃ・・・ もうひとつ、頼んで、いい・・・?」

 もうまどかはしゃべるのも辛そうだった。
 口から血と泡を吹きながら、必死に言葉を伝えてくる。

「・・・私、魔女には なりたくない・・・ 嫌なことも 悲しいこともあったけど・・・ 守りたいものも たくさん、この世界には、あった から・・・」
「ええ・・・  ええ、そうね・・・ そうよね、まどか・・・」
「おねが い・・・」

 まどかは変身を解くと、ソウルジェムを掌に載せてこちらに差し出してきた。
 もうまどかを見ていられなかった。
 いついかなる時も強くあろうとしていたけれど、まどかの今際の際は何度経験しても弱い自分が出てしまう。
 震える手で盾から拳銃を取り出して安全装置を外し、まどかの掲げるソウルジェムに照準を合わせる。

──これはまどかの介錯なのだから。
──まどかにこれ以上の苦痛を感じさせない為の救済なのだから。
──だから。だから・・・!



「~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!



 涙で何も見えなかったけれど、まどかの最期のぬくもりに導かれて。
 私はそのまま、冷たい引き金を引いた。

【魔法少女編10

21

七月五日(金) 三二五


【 アーッハッハッハッハ   アーッハッハッハ 】


 ほぼ更地となり、壊滅状態となった見滝原市を尻目に、ワルプルギスの夜は使い魔を引き連れて北上してゆく。
 しかし、市境が近くなると急に勢力が衰え、平均的な台風と同程度の規模にまで縮小していった。

「・・・ふぅん。史上最悪の魔女も霧散しそうだ。努力の甲斐があってよかったじゃないか」
「・・・・・・」

 私はまどかの両手を胸の前で組ませ、短時間だが黙祷を捧げる。
 無神経なインキュベーターに弾を食らわせようと思ったけれど、もうこの世界には用はない。
 まどかから分け与えられた魔力により、今すぐにでも時間遡行をし、あの子の最後の願いを叶えに行かなければ。


ファサァ・・・


 盾に手を添え、時間遡行の為に魔力を込めようとした時。
 ふと、この世界で出会った一人の天使のことが頭を過った。


 ♪ this is my despair 

 天使────。そう、生身の人間でありながら、そのすべてを包み込む包容力と温かさは天使と言って差し支えない。
 人によっては聖母と形容するかもしれないその博愛の精神は、私の凍てつく心をも融かさんとしたことも事実。
 何故だか、無性に会いたくなる。


コッ  コッ  コッ  コッ・・・


「・・・戦わないのかい? 弱っている今なら、倒せるかもしれないよ?」
「・・・うるさいわね。付いてこないでちょうだい」

 私がループを繰り返しているのはまどかの為。
 まどかの為ならば命を懸けられる。
 何度繰り返しても、その気持ちに変わりはない。
 しかし、時間遡行する前に少しだけ寄り道をしても許されるだろう。

「・・・・・・」

 私はほとんど被害を受けていない天舞市の方角を見やると、ゆっくりと歩みを進めていった。




七月五日(金) 四〇三


 ♪ 幸せな一日 


 天舞市にある二十四時間営業のスーパーマーケットに立ち寄る。この時間に学生服では怪しまれる為、盾に収納しておいた普段着に着替えることも忘れない。

 さすがにこの時間に会いに行く、もしくは自宅に招くのは非常識極まりない。平日ということもあり、昼間は学校にも行っていることだろう。
 自宅に戻り休息を取る前に、例のものを購入しておく。
 例のもの──薫り高い紅茶の茶葉。以前、巴マミにご馳走してもらった紅茶でとてもおいしいものがあったことを思い出す。それと同じものを探してみる。

「・・・アッサムのオレンジペコーは・・・    これね」

 アッサムOP、オレンジペコーは甘みのある味と穏やかな香りが特徴の紅茶。ストレートでもミルクを入れてもおいしい。
 小さな子どもだからあまり香りがきつくないほうがいいだろう。もっとも、小さな子どもと言っても私とほぼ同い年なのだけれど。
 何となく、あの子のイメージから紅茶にはミルクを入れ、クッキーなどをつまみながら飲むような気がする。

「・・・喜んでくれるといいのだけれど」

 あまり誰かをもてなしたことがないから、若干不安は感じるけれど。
 でも例え選択を失敗したとしても、あの子なら笑顔を向けてくれるはず。
 そう思えるだけの人柄の良さがあの子にはあった。
 私は茶葉の入ったビンと缶に入ったクッキーを購入し、店から出る。


ヒュオォォォ・・・


 ♪ Happy Ending 


 台風一過の空は、見滝原市の惨状がイメージできないほど澄み渡った薄明色をしていた。
 日が昇り始めてすぐの時間帯で、夜から朝に切り替わろうとしている。
 まどかを含め、どれだけ多くの市民が犠牲となったのだろう。街ひとつがほぼ更地になるレベルの災害である為、想像すらできない。

 空を仰ぐと、亡くなった人たちの魂が空を昇り、大空に溶け込んでいっているような。薄紫色と薄青のたゆたう神秘的な色合いの美しい大空が広がっていた。
 見滝原市の方角を見据え、東から朝日を受けながら、犠牲者に黙祷を捧げる。
 そして私は、まどかを看取った直後だというのに自分でも信じられないほど軽い足取りで、倒壊の被害を免れた自宅へと向かっていった。

【天使編11

22

七月五日(金) 七一六


くつくつくつ・・・・・・
ことこと・・・


 ♪ 一段落 


 リビングの窓から強い朝日が差し込んできていて、昨日の台風が去ったことを実感します。
 冷蔵庫に入れておいた昨日の残り物──おそうめんとおにぎり──をキッチンに持ってきて、リサイクル料理を作ります。ちょっと手抜きですけど、おそうめんはお鍋でおだしと軽く煮てにゅうめんに。食べかけのおにぎりも海苔をはがしてお鍋で煮て、梅干しおかゆに。海苔は刻んでにゅうめんのほうに乗せようと思います。

「・・・・・・・・・」

 結局、昨日の夜はあんまり寝られませんでした。
 すぐ横によりちゃんがいてくれる安心感から、お外から聞こえてくる音はそれほど怖くはありませんでした。でも、キュゥべえさんの言っていたことを思い返すと、まったく安心はできませんでした。
 よりちゃんはキュゥべえさんから「魔法少女になってほしい」としか言われていません。でも、私の横で「魔法少女となることで救える命がある」「魔法少女となり使命を果たすことで宇宙の寿命が延びる」ということは聞いていました。
 よりちゃんのまっすぐな性格から、自分が魔法少女になることで救える存在があると知ったら、きっとすぐに契約してしまうだろうと思います。ただでさえ、魔法少女──ホワイトリリィのような強くてかっこいい存在──になりたいと思っているよりちゃんですので、それになれるというだけでいろいろなことを一足飛びで飛び越えてイチコロだと思います。

 やっぱり、危ないってことをちゃんと説明しておかなきゃ。よりちゃんの為にも。うん。
 私は朝ごはんのときに、私の知っていることをよりちゃんに説明しようと決意したのでした。

「ふぁ・・・   かの、おふぁよ」
「あ、よりちゃんおはよー。お顔洗ってすっきりしてきてね」
「ん・・・」
起き抜けの小依
 起きてきたよりちゃん。まだ眠そうです。子猫みたいに伸びをすると、洗面所にふらりと歩いていきました。
 こういう脱力しきっているときは不思議と転ばないよりちゃん。やっぱり緊張しているときに転びやすいんだなぁ。
 洗面所に歩いていくよりちゃんの後ろ姿を見つめていると、自然と昨日の夜のことを思い出してしまいます。

 昨日の夜────。
 私はとっても寂しくて、苦しくて。
 よりちゃんが寄り添ってくれているのにそれでも抱き着いて、甘えなければ壊れてしまいそうでした。気がついたらよりちゃんを引き倒していて、私からよりちゃんにいっぱいキスをしていました。今思い出すと、お顔から湯気が出てしまいそう。はしたない女の子だと思われちゃったかなぁ・・・。
 よりちゃんのとても甘いにおいと、あたたかい体、すべすべとした肌の感触にすっかり夢中になってしまって。よりちゃんの薄くてキリッとした唇を、お口で感じてみたい。きっと甘くて幸せな気持ちで満たされるんだろうなぁ・・・。
 でも、お口ではキスしてくれないよりちゃん。原因は私にあるってことは理解しています。一番最初のキスのとき、私はよりちゃんの将来のことを思って「お口同士でのキス」を禁止にしました。

 それは、子どもの時の恋、特に女の子同士の恋は「はしかのようなもの」だと考えている大人がいっぱいいると知っていたから。
 流行り病のように誰しもが罹るものだけど、それは一時的なものであって長続きはしない、と。子どもの時の恋は「練習のようなもの」だから、本気にしてはいけない、と。
 悲しいですけど、ほとんどの人がそう思っていることは事実だと思います。

 でも────。
 でも、私とよりちゃんは本当の恋人さんやご夫婦さんのようで。
 私たちだけは特別。と思っているわけではないですけど、私たちなら病めるときも、健やかなるときも、常にお互いのことを慮って行動することができると信じています。
 だから・・・そう。もしこのままお互いに心変わりすることがなく、相思相愛のままでいられたら。
 中学生になったときに、もう一度話し合ってお口同士でのキスを解禁しようと思ってたりします。

 あー、恥ずかしい・・・。お顔が熱くて手でぱたぱたと風を送って冷ましていると、お鍋の中のおかゆとにゅうめんがいい感じにできあがっていました。
 冷蔵庫の野菜室に入れておいたレタスとキュウリ、ミニトマトで軽くサラダを作って、お鍋の主食を器に移していっしょにテーブルに並べます。
 電子レンジでミルクも温めて・・・。これでタンパク質と、炭水化物と、お野菜と・・・。うん、栄養のバランスもよさそうかなぁ。

「ふーっ すっきりしたわ」
「朝ごはん、食べちゃおう?」
「朝からいっぱい作ってくれたのね。かの、ありがとう!」
「えへへ・・・」

 二人でいただきまーすと両手を合わせて、ご飯をいただきます。
 正直、まったくお腹は空いていなかったですけど、よりちゃんが心配するので無理をしてゆっくり食べていきます。うん。水っぽいサラダは食べやすいかも。


すっ
ふー  ふー
はくっ  ちるるる  ちゅるるん


 よりちゃんはにゅうめんをふーふーしながら食べてくれてます。好みの味付けに作れたみたいで、よかったぁ。
 今日は全体的に水分多めのメニューなので、日中の日差しが強くても多少は耐えられるはず。もちろん、こまめにお水は飲まないと危ないですけど。
 今日は金曜日だから、一時間目の授業は体育で・・・なんてよりちゃんを見つめながら考えていたので気づくのが遅くなりましたけど、よりちゃんのお箸が止まっていました。

「かの」
「あ・・・ よりちゃん?」
「にゅうめん、おだしがきいててとってもおいしいわ」
「そっかぁ。よかったぁ」
「かのはおかゆにしたのね。食べられそう?」
「うん。ゆっくり食べるね」

 ちょっとだけ、昨日のお夕飯のときよりやわらかい雰囲気のよりちゃん。
 いつもなら「早く食べなさい。学校遅れちゃうわよ!」みたいに急かされるんですけど、今日は食べるのが遅い私のことも受け入れてくれて、見守ってくれているように感じます。
 どうしたのかなぁ?

「・・・よりちゃん」
「かの?」
「あのね、昨日の工場でのこと、なんだけど・・・」

 そうでした。ご飯のときに、よりちゃんに説明しようと思っていたのでした。
 それを思い出した私は、ちょっとだけ背筋を伸ばしてよりちゃんを見つめます。
 何から説明しようかな。少し考えを巡らせていると、よりちゃんが右手のてのひらをこちらに向けました。



すっ・・・


「・・・かの。その話はやめておきましょ」
「え・・・ でも・・・」
「かのは今、あの白狐に言われたことですごく悩んで、辛くなってるでしょ?」
「う、うん・・・」
「だから、かのが元気になるまでその話はおあずけよ。いい?」
「で、でも・・・」


カタン
てくてく
しゅりぃ・・・


 ♪ 憧れの人 


「ふぁ」
「かの、お願い。このところのかのは普通じゃないわ。だから、何よりもかのが元気になることを優先してほしいの」
「より、ちゃん・・・」
「私の為だと思って。お願い・・・」

 よりちゃんは椅子から立ち上がり、こちらに回るととってもやさしく抱き締めてくれました。私は椅子に座ったまま、よりちゃんのお腹に抱きかかえられるような形になりました。
 私の頭とおでこに軽くキスをしてくれるよりちゃん。そのまま二分間くらい抱いてくれました。抱きながら、イヤイヤをする小さな子のように、軽く左右に揺さぶられます。
 思ったより、よりちゃんに心配をかけてしまっていたようです。
 ごめんね、よりちゃん。

「・・・うん。元気になるように、がんばってみるね」
「ありがとう、かの。かのが元気じゃないと、私も元気でいられないのよ」
「そっかぁ・・・ うん」
「そうと決まれば、かのは今日は学校お休みしなさい。ご飯食べて、寝られるだけしっかり寝てなさい」
「え・・・ えっと、でも、学級委員のお仕事とか・・・」
「私がぜんぶやるわ。ふーふなんだから、こういうときは私にまかせなさーい!」
「えへへ・・・ありがとう。先生にも伝えておいてね」
「ふふーん、まかせて!」

 自信たっぷりのいつものよりちゃんのお顔にほっとしました。
 ノアちゃんたちもいるから、もし何かあったらサポートしてもらえるようにあとでこっそりLANEしておこうっと。
 私たちはご飯を食べ終わると、よりちゃんは身支度をして玄関へ移動しました。私もお見送りの為にいっしょに移動します。

「それじゃ、行ってくるわ!」
「いってらっしゃい。気をつけてね」

 かっこいいよりちゃんをお見送り。
 これってなんだか、本当のご夫婦みたいで、私は専業主婦さんみたいだなぁ・・・。
 そんなことを考えたらすごく恥ずかしくなってしまって、真っ赤になりながら寝室のベッドに潜り込んだのでした。

【天使編12

23

七月五日(金) 一五四二


 ♪ 想う気持ち 


「それにしてもカノンちゃん、シンパイだねぇ・・・」

 かのからノアちゃんに連絡がいってたみたいで、今日は朝からかののことで持ちきりだったわ。
 普段は私の方がちょーっとだけ体が弱いから、私がかのに看病してもらうことが多いのよね。今日は逆だからみんなもめずらしいみたい。
 今日はみんなが気にして手伝ってくれたから、かのがいなくても学級委員としてのお仕事で失敗することはなかったわ。みんなありがとう!

「よし、みんなでお見舞いにいくか!」
「いいけど、ちょっと今からだと時間が遅くない? それに、こよりはこれからアリスのとこ行くんだし」

 今はもう放課後の時間。私が今日あったことやかののことを考えていたら、話題がお見舞いのことに移っていて。
 確かに花ちゃんが言う通り、私はこれから学級委員として三日間連続でお休みしているアリスちゃんのおうちにプリントを届けに行くことになっているわ。
 だから、もし花ちゃんたちがうちに・・・というかかののおうちにお見舞いに来てくれるとしたら、全員でアリスちゃんの所に行って、そのあと全員でかののところに行くことになると思うのよね。
 そうなるとたぶん、ひなたちゃんとノアちゃんがおうちに帰るの一番遅くなっちゃって、きっと夜の七時くらいになっちゃうと思う。それだと遅すぎるからダメね。

「そうね。みんな気持ちは嬉しいけど、かののことは私がお世話するから大丈夫よ!」

「お世話って、ペットじゃないんだからーω でも、たしかにアタシたちが押しかけるよりコヨリちゃんにお任せしたほうがいいかもネ」

 ノアちゃんもきっと私と同じような時間の計算をしたんだと思う。
 やっぱりなんとなく、ノアちゃんはかのと同じような安心感があるっていうか、周りが見えているからひなたちゃんのこと以外のことなら間違ったことは言わないっていう信頼感があるわね。
 それにこれは内緒だけど、ノアちゃんは私から見ると一つ上の学年の先輩みたいに見えるくらい背が高いのもあって、無条件で頼れる気がしちゃうわ。やっぱり背の大きさって大事よね。

「うーん、それもそうだな。とりあえずみんな、昇降口行くかー」
「そうだね。早くこより送り出さないと、かのんのところに戻るのが遅くなっちゃう」
「うんうんー」

 みんなランドセルを背負って、忘れ物がないか教室の中を確認して。
 両手を頭の後ろで組む形になってるひなたちゃんを先頭に、ノアちゃん、花ちゃん、私の順に廊下を歩いていく。
 一階に降りたとき職員室が見えて。そういえば日誌を先生に提出しないといけないことを思い出した。持って帰っちゃうところだったわ。

「ちょっと先生に学級日誌を提出してくるわ。時間かかるようなら先に帰ってていいわよ」
「学級委員がんばって☆」
「いってらっしゃい」
「こよりがんばれ!」


ガラガラガラッ


「失礼しまーす!」

 職員室の中をぐるりと見まわして、担任の山中先生を見つける。先生はいつもの自分の席に座っていた。
 先生も気づいてくれたみたいで、私の方を向いて手招きしてくれる。誘われるまま、先生のところまで行って隣の椅子に座り込んだ。


 ♪ 信頼Ⅱ 


「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・はい。きちんと書けていますね。お疲れさまでした」
「ふふーん! かのがいなくてもこのくらいはできるわ!」
「ふふ、そうですね。今日一日お手伝いしてくれたお友だちに、しっかりお礼を言いましょうね」
「はい!」

 って、なんで先生みんなが手伝ってくれたこと知ってるのかしら。
 確かに学級日誌を書くのはノアちゃんが手伝ってくれたし、中身のチェックは花ちゃん、教室の中のチェックはひなたちゃんが一緒にしてくれたけど・・・。
 うーん。松本のお姉さんみたいに、教室にカメラつけて見てたのかしら? 不思議ね。
 でも、日誌の内容は特に問題なかったみたいだからよかったわ。

「種村さん」
「はい」
「瀬戸内さん、そして小之森さんのこと。先生は心配していますが個別にお見舞いには行けませんので、どうかよろしくお願いしますね」

 そう言って、先生は椅子に座ったまま軽く頭を下げてきた。
 「学級委員のお仕事なんだし、まかせなさーい!」っていつもみたいに言いそうになったけど、なんだか先生の雰囲気がしっとりしていたから、私も先生にお辞儀をすることしかできなかったわ。

「そして、種村さんも。小之森さんがいないときに何か困ったことがあれば、先生でも、誰かのお母様でもいいので必ず頼ってくださいね」
「え・・・っと」
「学校に電話してくれたら、先生は必ず助けに行きます。お知り合いの保護者のみなさまも、必ず力になってくれます。絶対に一人で判断しないようにしましょう」
「んー・・・ はい」
「先生との約束ですよ?」
「はい」


 ♪ 悲しみ 


 先生の、いつもとおんなじきれいな瞳が、今は私の目の奥の奥まで刺さってくるような感じがする。
 何故かしら。隠し事とかしてるわけでもないのに。頑張らないと目をそらしてしまいそうになる。
 隠し事・・・あの白イタチのことは確かに先生には伝えてないけど、でもあれはどう相談したらいいか分からないから、相談するにしてももう少し話を聞いてからじゃないとね。

「・・・まぁ、種村さんはその前にまず、周りをよく見て、足元もよく見て、転んだり迷ったりしないように瀬戸内さんのお宅まで到着することですね」
「それなら大丈夫よ! 昨日もかのといっしょに行ってるから、迷子になることはないわ」
「そうですか・・・。やっぱり昨日は小之森さんもご一緒だったのですね」

 かのと私はいつもいっしょにいるってことは先生も知ってるから、そんなにびっくりすることじゃないと思うけど・・・。
 先生は五秒くらい目を閉じると、悲しそうなお顔になっちゃったわ。

「では、今日は本当に種村さんだけが頼りですね」
「そうよ!」
「しっかりと、おうちに帰るまでが・・・ いえ、おうちに帰って、小之森さんを笑顔にするところまでが学級委員のお仕事です。頑張ってくださいね」

「ふふーん、まかせて!」
「気をつけて行ってくださいね。さようなら」
「はい! 先生さようなら!」

 勢いよく立ち上がると、ランドセルの中身が出そうになるくらい先生にお辞儀をして、職員室を出る。
 きょろりと見渡すと、ひなたちゃんたちがまだいてくれたわ。廊下でおしゃべりをしながら待っていてくれたみたい。

「みんな、待たせちゃってごめんね!」
「おー こより、学級委員おつかれ!」
「おつかれさまー」
「おつかれさま。下校しよう」


 ♪ 優しさを感じて 


 昇降口で靴箱に上履きを入れて、ローファーを取り出して履き替える。
 校庭で運動クラブの子たちが走り回っているのを四人で見ながら、校門まで歩いていく。
 本当、こんな短い距離、短い時間で話しきれないくらいいろんなおしゃべりをしたわ。
 話題の八割くらいが「みやこお姉さんのすごいところ」だったけど、ひなたちゃんのお姉さん語りは何度聞いても飽きないのが不思議。
 今度の修学旅行は、本当にひなたちゃんオンステージで朝までお姉さんのお話聞くことになるかも。
 でも、そんな目眩くような話題のほんのちょっとの切れ間で、ふっとノアちゃん花ちゃんが寂しそうな感じになるのが分かった。
 その時、ああ・・・って分かったの。
 みんなかのがいなくて寂しいって感じてくれてるってことを。
 そして、かのが隣にいない私のことを気づかって賑やかにしてくれてるってことを。

「・・・みんな、ありがとう」
「こより?」
「コヨリちゃん?」
「どうしたの?」


タタタッ    ザザーッ


 何の気なしに口から出ちゃって恥ずかしかった私は、あと数歩の校門まで走ると転ばずに止まってみせた。
 「この先はひとりでも大丈夫よ!」って意思表示のつもりで。
 ひなたちゃんは「おおー」って言いながら首をかしげていたけど、ノアちゃんと花ちゃんには伝わったみたいで。
 二人は目をふっと軽く伏せるような、やさしいお顔になって頷いてくれたわ。

「・・・コヨリちゃーん。今日はまだこれからお仕事だけど、最後までガンバッテー!」
「こより。アリスとかのんのこと、よろしくね」
「おー、転ばなかったな。こより、気をつけるんだぞー!」

 ひなたちゃんたちは大きく腕を上げて手を振ってくれる。
 私も応えるように、腕を大きくぶんぶん振りながら応えた。

「みんな、バイバイ!」

バイバイ

【天使編12

24

七月五日(金) 一六二一


 ♪ Conturbatio 


 みんなと別れて、昨日かのと一緒に歩いた道をひとりで歩いていく。
 昨日もぴかぴかのいいお天気だったけど、台風が去っていった今日はもっとぴっかぴかの雲一つないカンカン照りだった。
 頭からあごに伝わってしたたっていく汗。それが制服の上着に吸い込まれていったり、そのまま地面に落ちて行ったりしてる。背中のシャツと制服が、ランドセルと密着してぺったり張り付いてるのが分かる。金具のあるブラジャーじゃなくてよかったわ。夏物で薄い生地だけど、スカートにも汗がしみこんでぐっしょりと張り付いて動きにくい。うぅん、もう全部脱いじゃいたいわ。今着ているもの全部絞ったら、バケツに半分くらいの汗が溜まると思うわ。使い道ないけど。
 制服の半袖の腕の部分を使って、ぐいっと顔を拭う。私はかのより汗をいっぱいかくほうだから、すぐに短い袖がぐしょぐしょになる。いつもノースリーブが多いのは、汗を吸ってぐしょぐしょにならないようにしたいから。でも、制服だとついやっちゃうのよね。
 仕方なくスカートから湿ってるハンカチを取り出して左手に持ちながら、気になるときに拭う形にした。ランドセルは両手が空いて助かるわ。

 もう夕方の時間帯なのに、真昼間みたいに明るくて暑い。
 こんな日に熱を出して寝込んでるアリスちゃんはきっとすごく辛いわよね。早くお見舞い行ってあげなきゃ。
 昨日、かのと一緒に行った建物の、上った階の、教えてもらったお部屋。そこまでたどり着いて、呼び鈴を押してみる。


ぴんぽぉーーーん・・・


 ♪ Incertus 


 その時、伸びる「ぽーん」の音が壁や床に跳ね返って、変なうねり方をしながら通路を抜けていった。
 何かしら。昨日はかのと一緒だったから感じなかったのかもしれないけど、ちょっとだけ怖いような感じがする。
 耳が痛くなるような圧迫感のある静けさの中、そわそわしながら周りを見渡してみる。

「・・・何かしら、この感じ・・・」

 うーん。言葉で説明しにくい感覚ね。
 【嫌よ、来ないで】っていう気持ちが六割。
 【寂しいのは嫌】って気持ちが二割。
 【見つけて、探して】って気持ちが二割。
 くらいかしら。そういうのが混ざった強い気持ちがどこかからかこの空間に流れ込んできている。
 その時だった。


あいてるよぉー・・・
はいってきてぇー・・・


 そんな声が聞こえた気がした。それはまるで亡霊のような声で、弱弱しくはっきりしない、でもよく通る声だった。
 私はしゃがみこんで耳を澄ませてみる。じっとしていると、更に声が聞こえてきた。


おいでぇ    おいでぇー・・・

 お化けかもしれない。
 でも、今はかのがいないから怖がらせることもないわ。

「・・・行くしかないわね」

 私は深呼吸をして立ち上がり、意を決して目の前のドアを開けた。

【天使編14

25

七月五日(金) 一七一八


 ♪ 夢うつつ 


「いやー、入ってきてもらえてよかったよー」

 アリスちゃんはベッドに横になりながら、お顔だけこっちに向けてそう言った。

「本当、お化けかと思ったわよ」
「あはは ごめんごめん。起き上がるのが辛くて、ドアを開けられなかったんだよー」
「アリスちゃん、大丈夫なの? なんだか昨日より具合悪そうだけど」
「んー、お化けになっちゃうほど悪くはないんだけど、学校までは歩いて行けなさそうで・・・」

 汗もそんなにかいてないし、熱もほとんど平熱で、言う通りそんなに具合悪そうではなかったわ。
 でも、体がだるくて起き上がれなくて、手足に力が入らないみたい。目もなんだかどんよりとしていて、顔色はよくなかった。

「アリスちゃん、何か飲む?」
「そうだった。冷蔵庫に麦茶が作ってあるよ。コップに入れて飲んでね。私はちょっと、冷たいの飲むとやられちゃいそうだから・・・」
「やられちゃいそう?」
「うん・・・。なんだか、冷たい麦茶に体が負けそう」

 よく分からないけど、今のアリスちゃんは火の玉みたいな感じなのかしら。お水かけたら消えちゃうくらい弱火ってことよね。

 私はアリスちゃんが熾火みたいにパチパチしている様子を想像しながら麦茶を冷蔵庫から取り出して、流しに置いてあるコップに注いでテーブルに戻る。
 よく冷えていてとってもおいしそう。

「いただくわ!」


くぷっ


!!


 一口飲んで、その冷たさに生き返る感じがする。
 冷たい麦茶がとってもおいしくて、一杯まるごと飲みほしちゃったわ。


くぴ くぴ くぴ くぴっ
こーーーーーーーーっ
ごっくん!


「ぷはーっ!  くぅぅーーー・・・っ     んぁーっ おいしいわね!」
「おおー、いい飲みっぷり。こよりちゃん将来は飲兵衛になりそうだー」
「のんべー?」

 のんべー? のんべーのんべー・・・
 あっ、のんべーで思い出した。昨日のあの白いの。確かかのは「きゅーべー」って呼んでたわよね。「今日の夕方に工場で」って約束しちゃってるし、そろそろあれと会いに行かないと帰りが遅くなっちゃう。
 なーんか変な生き物だったけど、約束を破るわけにはいかないわ。


 ♪ 神殿にて 

「・・・こよりちゃん。かのんちゃん具合悪かったんだね」
「アリスちゃん?」
「それなのに、毎日こんな遠くまでお見舞いにこさせちゃった。ごめんね」
「いいのよ。それが学級委員のお仕事だし、それでアリスちゃんが元気になれば私もかのも嬉しいわ!」
「うん・・・。本当ありがとう。 うっ うぅ・・・」

 アリスちゃんはベッドの上で体を起こして、泣いていた。
 その涙は、かのに対してのものだけじゃないような気がして。
 気づけばアリスちゃんのことを抱きしめていた。


ぎゅっ・・・


「こ、こより、ちゃ・・・」
「大丈夫。私はここよ」
「私、怖くて・・・。ただの風邪だと思ってたけど、日に日に吸い取られていくような気がして」
「そうなのね」
「そのうち、呼吸が止まっちゃうんじゃないかって、不安で・・・」

 具合が悪いときって、良くないこと考えがちよね。
 私もベッドの中でぐずぐずしてるとき、いつもかのが勇気づけてくれたわ。

「アリスちゃん。気持ちを楽にしてみて」
「こよりちゃん・・・」
「山中先生も、クラスのみんなも、アリスちゃんのことすごく心配してたわ」
「心配かけてごめん・・・」
「でもね、心配するのはみんなアリスちゃんのことが大好きだからなのよ」
「え・・・?」
「心配かけて悪いなぁって思ったら、することはひとつ。元気になって、みんなに「ありがとう」って言うこと」
「・・・そうだよね、うん」

「でも、ちゃんと治ってないのに無理して学校に来ても、またすぐ寝込むことになっちゃうから」
「ちゃんと今まで通りになるまで、じっくり治してみてね。学校のみんな、ちゃんと待ってるから大丈夫よ」
「こよりちゃん・・・。ありがとう」

 アリスちゃんのお顔を見てみると、さっきの真っ青なお顔からちょっとだけピンク色になったような気がした。

「・・・って、私も寝込むたびにかのに言われてるのよ」
「こよりちゃんも?」
「そうなのよ。なんでかこういうときのかのって、お母さんみたいなのよね。くやしいけど安心しちゃうわ」
「あはは、うん。かのんちゃんはいつもママみたいだもんねー」
「本当よね。ママはもう間に合ってるから、せめて奥さんくらいにしてほしいわ」
「ほわぁ~~、いいなぁ。ご夫婦みたいでうらやましいー」
「ふふーん!」

 アリスちゃんはいろんな想像をしてるみたいで、目が輝いていた。
 今日来たときより、はっきりと元気になったように見えるから、お見舞いに来てよかったわ。
 私はもう一度アリスちゃんをぎゅっとして、きれいな金髪をすくように頭の上から下に何度か撫でて、立ち上がった。

「じゃあ、お大事にしてね! まだ土日あるからゆっくりして、月曜日に学校来られるといいわね」
「うん。土日はうちもお母さんいるから、しっかり治して学校行くね。ここ何日か本当にありがとう」

 流しに使ったコップを置いて、忘れ物もないことを確認して。
 アリスちゃんに手を振りながら玄関から出る。


ふわぁ・・・   ひょおぅぅ・・・


 ♪ Dream World 


 今日一日、いろんなところで温められた空気が頬をかすめていって、心地いい。
 四階から見える川沿いの景色を眺めてみる。この建物から出て川を渡ったところに、昨日かのと行った工場が見える。相変わらず、夕日を浴びて真っ黒な影を地面に落としていた。
 それだけじゃなくて、気になったのは工場の敷地の真ん中あたり。
 ここから眺めてみると、何かしら・・・レンズ、みたいな。工場の真ん中あたりが歪んで見える。そこだけは夕日じゃなく、濃い紫色のような光が内側から漏れ出ているように見えた。
 そして、その紫色の光が何本もの筋になっていて、レンズのところに周りの、この集団住宅地のいろんなところから光を集めて取り込んでいるように見えた。
 さっきかすめていった穏やかな風も吸い込まれていくみたい。昨日はあんなのなかったのに。変なの。

「とりあえず、あの白いのに会いに行かないと。遅くなっちゃうわ」

 もう夕方六時になりそうだったから、私は昨日あの白いのと最後に会った橋の向こうまで小走りに移動していった。

【魔法少女編11

26

七月五日(金) 一五一七


ピピピピッ        ピッ


 昼過ぎくらいから、送ろう送ろうと思っていた文言を、ようやく送ることができた。

【これから会いたいのだけれど、予定はどうかしら】

 あの日、彼女を送ったあと。夜遅くになってからお礼のショートメッセージが届いていた。まったく律儀な子。そういうところに魅力を感じてしまうのだけれど。
 送ったメッセージを改めて読み返す。我ながらそっけない、用件のみのかわいげのない文章だと思う。
 いざ送ろうとすると、あの子の幸せそうな愛らしい笑顔と、それが育まれた幸せな環境を想像してしまい、そこへ私のような「不幸の代名詞」のような存在からの誘惑を送り付けてよいものだろうかと思案してしまったから。
 結果、送信ボタンを押すというただそれだけの行為に三時間もかかってしまった。

「ふぅ・・・」


ファサァ・・・


 あとは返信を待つだけ。時間帯もそろそろ放課後だから問題はないはず。
 肩の荷が下りた私は、いくつかのパターンを考えシミュレーションをする。
 まず、素直にあの子がここへ来てくれるパターン。
 既にそのパターンを元にした準備は完了していた。お湯は適温でキープしてあり、ティーカップも温めてある。

 クッキーもお皿に並べ終わり、埃が入らないように薄い白布を被せてある。あとはお茶会の開始を待つばかりの状態だった。
 次に、どこか出先で会うことになるパターン。
 小学生とはいえ、日々の生活を送るうえでいろいろと予定があることだろう。彼女の聡明さから、いくつもの習い事をかけもちしていてもおかしくはない。
 それに、あれだけ魅力的な子なのだから、周囲も放ってはおかないだろう。まだ色恋沙汰には早い年齢だから特定の異性との逢瀬はないとは思うけれど、親しい友人たちと遊ぶ約束をしているかもしれない。事実、そこに私が水を差すことになるかもしれないと感じた為、誘いを出すのを躊躇ったのだ。
 親しい人たちとの約束を果たし、その一番最後でいい。もし余力があるなら、あの子の家の近くのカフェ──駅前の珈琲屋──で少しでも話したいと考えている。
 最後に、そのどちらでもないパターン。
 可能性は低いけれど、何らかの緊急事態が発生してお茶会どころではない場合。そのような場合は逆に私宛に連絡がくるはず。「何かあったときに」と伝えて連絡先を渡しているのだから、あちらから連絡がない限り「便りがないのは良い報せ」と考えるしかない。
 それとも、連絡すら取れないような危機的状況に────?
 いえ、あり得ないわね。天舞市から外に出なければ、魔女や使い魔といった災厄の種と出くわすこともないはず。
 そう。天舞市から出なければ────。

 ♪ Something Unusual 


「・・・・・・・・・・・・」

 何かしら。嫌な予感がする。
 あの子には「インキュベーターとは関わるな」と再三に渡り釘を刺したつもりでいる。聡明なあの子のことだから、余程のことがなければ言いつけはしっかり守るだろう。

「余程のことがなければ、ね・・・」

 インキュベーターと関わらなければ、必然的に魔女や使い魔といった超常の厄災は回避できるだろう。

 しかし・・・。

「・・・・・・・・・」

ほむら杏子電話中
 ピッ
 トゥルルルルルル
 トゥルルルルルル
 トゥルル
 ピッ



『・・・へぇ。どういう風の吹き回しだい? そっちから連絡してくるなんてさ。ワルプルギスの夜は失敗したらしいじゃんか』
『佐倉杏子。今どこにいるの?』
『あたしはいつもどおりだよ。常に使い魔と魔女のいる場所さ』
『ひとつ聞きたいのだけれど。あなたの周りに、天舞市の学生はいるかしら』
『天舞市? ・・・ああ、あの小中高一貫のお嬢様学校か。こんな辺鄙な場所にはいないだろうな』
『魔女の口づけを受けた被害者の中にもいないかしら?』
『あぁん? そこまで詳しく見ちゃいないが、あの制服は目立つからな。いれば気付くだろうが、ここ数日では見てないな』
『そう・・・。それならいいわ』


ピッ

 考えすぎだったのかしら。でも、先ほどの嫌な予感はまだ消えてはくれなかった。
 先ほどのメッセージを送った以上、自宅から動くわけにもいかず。
 あの子からの返信がくるまで、まんじりともしない時間を過ごすことになった。

【魔法少女編12

27

七月五日(金) 一五三〇


ピッ


「へっ!  なんだいまったく、かわいげのないヤツだな」


 ここ数日で急速に成長している使い魔。それを観察中にほむらから電話がかかってきたと思ったらすぐ切れちまった。
 ただ観察してるってのも暇なもんで、ちょうどいい話し相手ができたと思ったらこれだよ。
 まどかと挑んだはずのワルプルギスの夜がどうなったのか、その・・・まどかはどうなったのかとか。いろいろ聞きたいこともあったんだけどさ。

「・・・ま、あたしはあたしの仕事に精を出すか」


 ♪ I'll Be With You ~ I Miss You 


 さやかとマミを同時に喪ったあたしは、あの後風見野に拠点を移した。
 風見野を中心に、見滝原、宝崎、神浜といった周辺地域で魔女を狩りつつグリーフシードを担保としたビジネスを始めた。もっとも、マギウスのせいでもっぱら狩場は神浜なんだけどさ。
 「一人では魔女退治ができない弱小魔法少女」「魔法少女になりたてで狩り方が分からない初心者」「魔力の衰えてきた老齢魔法少女」があたしの客。
 それぞれから元本としてグリーフシードを数個得て、あたしも魔女を退治してグリーフシードを得て、在庫を増やしていく。客の魔法少女としての能力をスコア化し、それに応じてグリーフシードを配当する形で供給している。

 早い話が、グリーフシードを取引材料としたブローカーってやつだ。
 生殺与奪の権を握っているともいえる。実際、それでトラブルも起きたしな。
 だが、あたしはもう間違えない。さやかもマミも聞き入れてはくれなかったが、正しく「徹頭徹尾自分の為に魔法を使う」ってのを体現してやる。

「・・・。・・・でもなぁ・・・・・・」

 自分の為だけに魔法を使う。これまでどおり利己的に振舞っているつもりでいる。
 だが、あたしのやってることは「もちつもたれつ」だと言うやつもいる。
 いや、あたしは「他の魔法少女を利用している」。自分だけで手に入れられるグリーフシードには限りがあるからな。
 でも・・・。

「自分の食い扶持だけなら、ひとりでも何とかなるってのも事実なんだけどさ・・・」

 この事業を興すのは簡単だった。あたしの固有魔法である「他者に話を聞いてもらう幻惑魔法」をうまく使って、活動の賛同者は日に日に増えている。
 登録魔法少女数もそろそろ三桁に届く。すべては順風満帆ってやつだ。
 
「・・・なにやってんだろうな、あたし・・・」

 あたしは自分の抱える矛盾を傍観しながら、今にも孵りそうな魔女の卵を見つめていた。

Continued next time...















<2024年8月31日公演分>





■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(小之森夏音さんを治療する暁美ほむらさんの図) ■


ヴァラカスサーバ在住のMyまいさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。





物語の進行上避けられなかった演出とはいえ、さぞかし小依さんは心を痛めたことでしょう。
乃愛さんもおっしゃっていましたが、「自分自身よりそのパートナーの方が傷が深い」というのも頷けます。


ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のMyまいさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。

素敵な作品、ありがとうございました。








<2024年9月22日公演分>





■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(長い髪をファサァとする暁美ほむらさんの図) ■


ヴァラカスサーバ在住のMyまいさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。





激痛で叫び、悶え苦しんだ夏音さん。目の前でそれを見届けた小依さんは、今回も胸を痛めたことでしょう。



こちらは公演会のお昼休み中のワンシーンです。大切な人が苦しむ姿を見続けることは多大な痛みを伴うものです。
よく頑張りましたね。苦しい時はしっかりと甘えることも大切です。


ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のMyまいさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。

素敵な作品、ありがとうございました。








<2024年10月27日公演分>





■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(二人の前に姿を現したキュゥべえの図) ■


ヴァラカスサーバ在住のMyまいさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。





人生は選択の連続です。そして、中には人生を左右する大きな選択もあります。
そのような大きな選択は、往々にして後になってから気がつくものが多いのですが……。


ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のMyまいさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。

素敵な作品、ありがとうございました。








<2024年12月1日公演分>





■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(走って逃げる小依さんの図) ■


ヴァラカスサーバ在住のMyまいさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。





聖母夏音さん。大学生の松本さんにすら「ママ」と呼ばれる母性の持ち主です。
しかしながら、確かに小依さんのおっしゃる通りまだお母さんになる前の状態ですね。
お二人が仲睦まじいことは大変よろしいことだと思います。


ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のMyまいさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。

素敵な作品、ありがとうございました。








<2025年2月23日公演分>





■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(夏音さんを介抱する小依さんの図) ■


ヴァラカスサーバ在住のMyまいさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。





「かの、食べないの?」「かのもちゃんと食べなさい」
小依さんのおっしゃる「あんなこと」とは、上記のセリフのことです。
メタ的には「脚本がそうなっていたので致し方ない」のですが、それでも小依さんは夏音さんと共に脚本を練り上げたこともあり「この内容でGOを出した」という点に於いて後悔されているのです。
文筆家としては既に大人顔負けの領域に踏み込んでいるお二人。然れどその精神性はいたいけであり、重いシナリオを受け止めるには少々至純に過ぎるようにも思えます。
彼女たちは彼女たちで傷を確認し合い、癒し合うことのできる天使性を持ちますが、受け止めきれない時は保護者がフォローすべき段階に来ているのかもしれません。
(ここ最近の公演会にて天使のお母様方が必ず同席してくださっているのはその為とのことです)


ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のMyまいさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。

素敵な作品、ありがとうございました。








<2025年3月30日公演分>





■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(ワルプルギスの夜) ■


ヴァラカスサーバ在住のMyまいさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。











毎回、どの章もクライマックスと言える珠玉の物語の中でも、今回の第20章はあまりにも強く光り輝き、その場に立ち会った観客・演者問わずすべての人に強烈な印象を焼き付けました。
それはまどかさんがおっしゃる通り、原作アニメの中でも「真髄」とも呼ぶべき第10話のシーンの小説化に成功され、かつ異様なまでのリアリティを伴うまどかさんたちの演技あっての賜物です。
これぞまどマギ。これぞまどほむ。原作公開から14年の時を経て、熟成に熟成を重ねたまどかさんほむらさんの「想い」が凝縮された舞台であったと言えるでしょう。天晴れ!

実は、我々保護者が天使たちに厳重に隠匿していたシーンでもありました。それは、余りにも生々しい「死の気配」を感じる演技であり、ほむらさんの
「この世で最も愛すべき存在を自らの手で殺めなければならない」という、見る者も精神的に瑕疵を負う可能性が非常に高い残酷なシーンであった為です。
このシーンを公演会に取り入れることについての是非はまどかさんたちと時間をかけて協議をしました。結果的には
「夏音さんの覚悟に報いる為にも外してはならない、逃げてはならないシーンであろう」
という判断でまとまりました。精神的瑕疵については天使自身の自浄作用とお母様方の癒しの力に頼る形で、ほむらさんまどかさんにより公演会で実演する運びとなりました。
ところが、第20章終了後の天使たちの様子を見る限りでは、逆にダメージを負ったほむらさんをひなたさんが抱き締め、癒そうとする一幕も見られました。
他の天使たちも、ほむらさんに負担をかけまいと最大限の配慮をしてくださっていたように見えます。
我々保護者が危惧するよりもずっと、天使たちは心の成長を遂げていたようですね。肩の力が抜け、安堵したことを覚えています。






今回のイルミ観賞会は、千代りんさんのご提案により公演会の多くの観客様及び演者様が共に観賞する運びとなったようです。
恒例の「屋根の上集会」にほむらさんまどかさん含め公演会メンバーが集結したことからの発案だったそうです。ナイス提案でしたね。

作者のMyまいさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。

素敵な作品、ありがとうございました。








<2025年4月27日公演分>





■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(朝のお二人の様子) ■


ヴァラカスサーバ在住のMyまいさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。





これまた意味深な発言が出てきましたね。
この先のストーリーはもちろんお二人で共有されているようですが、最後の最後、どのように着地するかは夏音さんの頭の中にのみあるとのことです。
本作での情報統制(どなたにどこまで知らせるか)については、単純な緘口令のみならず普段からの立ち居振る舞いや言動でも行われているようです。
つまり「屋根の上集会」の場での発言であったり、公演会終了後の感想に紛れての想いの吐露であったり、この記事での振る舞いであったり。
ざっくりとしたイメージですが、情報の疎通という観点では開示される情報の少ない順に左から

「我々保護者」<「天使たち(よりかの以外)」<「出演者(ほむらさん以外)」<「ほむらさん」<「小依さん」<「夏音さん」

という情報の絞り込みが行われているようです。これは即ち、左に行くほど「観客として見てほしい、立ち会ってほしい」存在であるとのこと。
通常の公演会では、天使たちは一丸となって取り組む為「保護者」「天使」というカテゴリしかありませんが、今回はできるだけ多くの人に観客気分を
味わってほしい為にこのような形にしているとのことでした。実際、私も初期段階で相談を受けましたがお話の流れは皆目見当のつかない状態でして
「一人の観客」として楽しませていただいております。微に入り細に入り、夏音さんの温かなお心遣いに感謝いたします。

ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のMyまいさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。

素敵な作品、ありがとうございました。








<2025年7月27日公演分>





■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(バイバイ!) ■


ヴァラカスサーバ在住のMyまいさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。





夏音さんは一人の作家として、編み上げている物語に対する重責を感じているようです。
オンラインわたてにんぐ劇場が始まって今年で5年目となり、これまで数多の物語が紡がれてきた中で、今回のこの物語が今後に対する禍根を残すのではないかと恐れていると。
今回は最初から「憲章違反については許容する」という条件が課されていますので、ある程度の描写は許容されるものと思います。
ただ、夏音さんは普段から慈愛に満ちている穏やかな方ですので、条件的には問題はなくともこれまでのキラキラとした温かい物語が揃う劇場に於いて異端となることを懸念されています。
既に「聖母になんてなれなくても」の時点でギリギリだったと夏音さんは捉えているようですので、お気持ちは理解できます。

僭越ながら保護者の一人として申し上げますと、例えどのような結末及び道程となったとしてもそれを咎める観客はこの劇場にはいないと思えます。
もうここ(第25章)まで来ているのですから、夏音さんはそろそろ好きに筆を振るってもよろしいのではないかと思います。
夏音さんが苦悩されていることも大切なことです。むしろ「よい物語にしたい」という想いから苦悩されているのだと思いますので、お辛いでしょうが是非乗り越えて作家として成長してほしいと祈っております。

ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のMyまいさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。

素敵な作品、ありがとうございました。








<2025年8月30日公演分>





■ ヴァラカスサーバのイルミネーションアート(電話をするほむらさんと杏子さん) ■


ヴァラカスサーバ在住のMyまいさんは、生粋のイルミネーションアーティストです。
毎回公演会のシチュエーションに応じたイルミネーションアートをヴァラカスサーバにて作ってくださっています。





物語に於ける作者は、確かに「神様」のような存在であります。中には「ソフィーの世界」のように作者の思惑を掻い潜り登場人物が作者を出し抜くというお話もありますが、例外中の例外かと思います。
なお、MagicaQuartetとは魔法少女まどか☆マギカの原作名義(権利者表記)です。実体としては

総監督       :新房昭之さん                 
脚本        :虚淵玄さん                  
キャラクターデザイン:蒼樹うめさん   の御三方に         
           株式会社シャフト を加えた四者の合同名義です。 

つまり魔法少女まどか☆マギカに関するすべて(原作アニメ、スピンオフアニメ・マンガ・小説・ゲーム、関連書籍、公式グッズなど)の権利を有する方々であり、まどか☆マギカに携わる人にとってはまさに雲の上の存在かつ創造神です。

小依さんは夏音さんに、その神々と同列のところに並ぶべきとおっしゃっています。ここだけ聞くと大言壮語な感じも受けましたが、小依さんの言葉を聞いて考えを改めました。
夏音さんはなんと「宇宙をひとつ作り上げる」という壮大な規模でのシミュレーションをしながら物語を紡いでいるとのこと。
これは「自らの命を削って世界をひとつ産み出している」という魔法少女の柊ねむさんと何ら変わらない方法での執筆です。
(私は広くても天使たちの生活圏である天舞市の全域+見滝原市の一部+神浜市の一部くらいの規模を想定しておりました)
柊ねむさんは魔法少女となることで魔力で心身を強化していますのでいくつもの物語を産み出しても生きていられるという側面があります。
ただ夏音さんは体力的に心もとない小学生であり生身の人間ですので、やはりこの規模は負担が大きすぎると思います。

現在「物語上の抜け」について相談を受けているところですので、上記の点については私から夏音さんと小依さんにお話をさせていただこうと思っています。
ともあれ、そのくらいの規模と覚悟で創作しているとのことで、これは確かに夏音さんも創造神と同じ舞台に登り詰めるという気概で取り組んでいることが分かります。

創作の現場に於いては、すべての人が対等です。そこに序列はありませんので、自らの体力を鑑みながら物語を編んでみてほしいと思います。

ヴァラカスサーバにて、種村小依さんと小之森夏音さんのお二人で観賞することができたようです。
作者のMyまいさんに、しっかり天使たちに見ていただけたことをご報告すべくこちらに掲載させていただきました。

素敵な作品、ありがとうございました。








【 参考資料 】

本公演会にて紡がれる「絆」においては、様々な商用作品からエッセンス、イマジネーション、モチーフなどが取り入れられて形作られています。
以下にそれら商用作品についてまとめます。

作品名 作品形態 連携形式 コピーライト
魔法少女まどか★マギカ TVアニメ featuring ©︎Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS
魔法少女まどか★マギカ[前編] 始まりの物語 映画 featuring ©︎Magica Quartet/Aniplex・Madoka Movie Project
魔法少女まどか★マギカ[後編] 永遠の物語 映画 featuring ©︎Magica Quartet/Aniplex・Madoka Movie Project
魔法少女まどか★マギカ[新編] 叛逆の物語 映画 featuring ©︎Magica Quartet/Aniplex・Madoka Movie Project Rebellion
ぷにるはかわいいスライム TVアニメ inspire ©︎まえだくん/小学館/ぷにる製作委員会
アクロトリップ TVアニメ inspire ©︎佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会
私に天使が舞い降りた! 単行本
TVアニメ
inspire
(the authentic source)
©︎椋木ななつ・一迅社/わたてん製作委員会
ホワイトリリィ
  ↑※ピクシブ百科事典の該当ページが開きます。
単行本
TVアニメ
spin-off
inspire
(the authentic source)
©︎椋木ななつ・一迅社/わたてん製作委員会
私に天使が舞い降りた! プレシャス・フレンズ 映画 inspire
(the authentic source)
©︎椋木ななつ・一迅社/わたてんプレフレ製作委員会


※以下、連携形式の違いについて解説します。

・featuring  フィーチャリングのことです。コラボレーションやデュエットは「両作品は対等」「共同制作」という意味となりますが、フィーチャリングは厳密に「上下関係がある」ことを明確にしているという違いがあります。表記方法は「作品A feat. 作品B」という形となり、この場合は「作品Bを作品A側に登場させていただいている」という意味となります。「作品Bのほうが影響力が大きく、作品規模として大きい」と作品A側が明確に表明していることになります。
 今回の公演会に於いては「わたてにんぐ劇場 feat. 魔法少女まどか★マギカ」という表記である為、これは「わたてにんぐ劇場に所属の夏音さんの作る物語に、多大な影響力を持つまどかさんの魔法少女まどか★マギカという作品にスペシャルゲストとして登場していただいている(または、まどか★マギカ側に入り込ませていただいている)」という、最大限の畏敬、尊敬の念が込められた命名であることになります。
・inspire  インスパイアのことです。ベースとなる「私に天使が舞い降りた!」の物語を作るにあたり、言い回しや表現などにひらめきを得て、感化された結果物語に取り入れたいと感じた作品を指します。具体的には「ホワイトリリィ」「ぷにるはかわいいスライム」「アクロトリップ」といった作品群のことです。
・spin-off  スピンオフ作品のことです。「ホワイトリリィ」は「私に天使が舞い降りた!」という作品内における劇中劇であり、一種のスピンオフと言えると思います。
・the authentic source  本家本元のことです。「私に天使が舞い降りた!」という作品も商用作品ではあるのですが、既に天使たちにとっては「我が家」であり「ホームグラウンド」となっている作品です。その為、「私に天使が舞い降りた!」についてもインスパイア扱いが相当ではあるのですが、天使たちの「自分たちがオリジナルであり本家本元である」という気概を尊重する形で、わたてん!に限ってはこの表記としてみました。

※「魔法少女まどか★マギカ」と私はよく表記していますが、WEBや出版物などを見ますと「魔法少女まどか☆マギカ」が正しいようです。ここで歴代の作品ロゴを見てみましょう。


 「ワルプルギスの廻天」に於いては「☆」に見えますが、他は塗り潰された「★」のように見えます。
 個人的にはまどか★マギカという作品は「抗いようのない絶望に魔法少女たちが塗り潰されていく」様を描いているように感じますので、昔から「☆」ではなく「★」を好んで使用して参りました。
 ただ、公式見解は「☆」が正しいようですので、みなさまWEB検索をされる際は「魔法少女まどか☆マギカ」と指定するほうが無難かと思われます。



■作品内時系列整理

 本作「絆」に於いては、暁美ほむらさんたち魔法少女の主観にて進行する「ほむらさんサイド(魔法少女編)」と、小之森夏音さんたち天使の主観にて進行する「夏音さんサイド(天使編)」とが交錯する形で物語が展開します。
 また、「時系列ずらし」という高度な物語編纂方法を取り入れており、単純に第01章からお話が時系列通りに進むお話ではなく、実は物語の一番最初は第14章であることが途中で判明するという複雑な作り方がなされています。
 これについて夏音さんに理由を尋ねてみました。

「時間を操る魔法少女のほむらさんに魔法少女側の主役に就いていただいたこともありまして、その感謝を表すためにも大胆な作り方をしてみようかなぁと思いまして。読みづらいとは思うんですけど・・・><」

 とのこと。つまり、読みにくさは承知の上で「物語の製法そのものを【時間を操るほむらさんへのリスペクト】として大規模な時系列ずらしを採用した」ということになります。
 普段おっとりしている穏やかな夏音さんの冒険心を尊重すべく、私にできることを考えてみました。結果的に、一見すると読み辛い・理解し辛いと感じてしまう物語構造となっていることから、その理解を手助けする為の整理をしてみようと思い至りました。

 以下、本作における時系列整理の為の資料を提示しますので、ご一読ください。

 夏音さんにヒアリングしたところ、本作は公演開始時期の「2024年に於ける7月」を想定して作られているそうです。その為、上図のように2024年7月3日の深夜時間帯から始まることになります。
 以下はその「7月3日~5日」に起きた出来事について、ほむらさんサイド/夏音さんサイドそれぞれの発生時刻をプロットした表です。




 物語内で発生した出来事を、時系列に沿って「No.」の(01)~(30)でまとめたものが、右端の「各シーンの時系列整理」の列になります。
 夏音さんの綴られる章立てとのリンクは「該当章」の列に対応表としてまとめております。


<留意事項>
 ・各章に記載のある「詳細時刻」はその出来事の「発生時刻」であり、その出来事がどの程度かかったのかまでは不明な状態です。
  ただし、ヒントとなることは書かれておりまして、例えば第14章ラストには巴マミさんの弔いを終えたほむらさんは「三時間ほどの仮眠を取る為に自宅へと向かった」とあります。
  その続きのお話は第15章(15:10開始)となることから、支度などの時間を考えると仮眠は恐らく「11:00~14:00」辺りだったのではないかと推測できます。
  巴マミさんの弔い後、自宅へ帰宅~シャワー~栄養補給などをする時間を考えると、弔いは9:00頃までに終わらせているものと考えられます。
  そのような推測の上に、(01)については25:30~9:00と長めに引いてみました。
  (実際には街が動き出す前の5:00頃までには巴マミさんのご自宅にご遺体を搬送し終わっているのであろうと思います)

 ・時刻表記は物語に登場したままとしています。(例:上図(27)にある「7/4(木) 26:43」を「7/5(金) 02:43」と変換はしておりません)





■ワルプルギスの夜



 第05章のチャットログに、今回の「舞台の大道具」として極寒の島の竜巻を「ワルプルギスの夜」に見立てているとの会話がありました。ここで魔法少女まどか★マギカにおける「ワルプルギスの夜」という存在についてまとめてみたいと思います。

 「ワルプルギスの夜」とは、魔法少女まどか★マギカの元ネタとして有名なゲーテのファウストに登場する一節です。主人公ファウストと悪魔メフィストフェレスとの会話にて「ワルプルギスの夜にブロッケン山へ来て~」というものが登場します。
 ここでの「ワルプルギスの夜に~」とは「ワルプルギスの夜と呼ばれるお祭りの行われる時季に~」という意味であり、4月30日の夜~5月1日のことを指します。
 「ワルプルギスの夜と呼ばれるお祭り」とは何かといえば、端的にいえば北欧諸国で行われる春祭りのことです。聖ワルプルガという宣教師が民衆をキリスト教に改宗させ、当時猛威を振るっていたペスト・狂犬病・百日咳などの目に見えない風土病と戦い、これに打ち勝ちました。これらの風土病は当時「魔女による魔術である」とされており、ワルプルギスの夜の祭典は「民衆vs魔女」の戦いの象徴であると言えるでしょう。後に「魔女狩り」と呼ばれる悲しき概念に繋がるのですが、それはまた別のお話。
 このワルプルギスの夜の祭典では、主に聖ワルプルガを介して神に祈り魔女からの守護を得て、焚火を点けて聖ワルプルガのイヴを祝い、悪霊や魔女を退散させるといったことが行われています。なお、4月30日の夜~5月1日に行われているのは、この日に聖ワルプルガの聖遺物をローマ帝国の教区が設置されているアイヒシュテットへ移送した日とされている為であり、その記念の祝祭のようです。


 さて。「ワルプルギスの夜」という言葉の一般的な意味としては上記の通りです。「魔女と対決する」ことを象徴する祭典という意味であり、これは魔法少女まどか★マギカにも登場します。


暁美ほむらさんのご自宅の様子。極寒の島同様白い光で覆われ、上部には暁美ほむらさんの収集したワルプルギスの夜についての情報が投影されています。


極寒の島の公演場所から一望できる竜巻。逆さとなっているワルプルギスの夜を模したものであり、暁美ほむらさんのご自宅の様子に近づける為の努力の一環とのことです。


魔法少女まどか★マギカにおける「ワルプルギスの夜」。通常の魔女とは異なり、結界に身を隠す必要すらない超弩級の大物魔女。一般人にはスーパーセル(超大型台風)として知覚されます。
上下が逆(頭が下)になっていますが、ワルプルギスの夜が本来の向きに反転するとそれだけで世界が壊滅すると言われています。大人しく逆転しておいていただきましょう。


魔女「ワルプルギスの夜」を牽引するパレード群。これはつまり「魔女の祭典」という「オリジナルのワルプルギスの夜」のイメージを踏襲しているものと考えられます。


難敵を相手に、たった一人で大量の兵器と共に戦う暁美ほむらさん。


 魔法少女まどか★マギカにおけるワルプルギスの夜とは「魔女」そのものであり、舞台装置の魔女という異名を持つ「難攻不落で倒すことのできない魔女」として登場します。これが倒される時は物語が破綻する時であり、通常は倒すことはできず、例え倒せた場合もより大きな問題が発生する為にそこを起点として再度ループが発生することになります。
 第四の壁を越えうる存在であり、物語の作者の祝福を受けているとも考えられるワルプルギスの夜。そのような理不尽な魔女を相手に、暁美ほむらさんは往々にして一人孤独に戦うことを余儀なくされます。果たして暁美ほむらさんに魂の安寧が訪れる日は来るのでしょうか────。





■巴マミさんのヘアスタイリング



 第06章のチャットログに上記の会話がありましたので、映画「叛逆の物語」における巴マミさんの入浴後のヘアスタイリングについて見てみましょう。
 ※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約8.3MBです。

【シーン解説】
 見滝原市の魔法少女戦隊P.M.H.Q.(ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテッド)の隊長である巴マミさん(隊員は佐倉杏子さん、美樹さやかさん、鹿目まどかさん、暁美ほむら(眼鏡)さん)。遅い時間に「ナイトメア」と呼ばれる存在が出現したことを受け、時間短縮の為魔法で縦ロールのヘアスタイルを作り出しています。
 お体にバスタオルを巻いていること、髪をブラシで整えていたことから、平常時は魔力節約の為にタオルを用いて拭き上げ髪型も手で整えているものと思われます。

 ちなみに巴マミさんが「ベベ」と呼んでいる小さな存在はP.M.H.Q.のマスコット的存在であり、叛逆の物語においては巴マミさんの同居人です。







■ソウルジェムの浄化について



 第07章のチャットログに上記の会話がありましたので、ソウルジェムの浄化についての映像をまとめてみました。
 ※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約162MBです。

※編集注
 動画には今際の際の魔法少女が登場します。あまりの臨場感に精神的にダメージを受けてしまう方がいらっしゃるかもしれません。
 特に天使のみなさん。花さんは春香さんもしくはみやこさんとご一緒に。ひなたさんはみやこさんもしくは千鶴さんとご一緒に。乃愛さんはエミリーさんとご一緒に。小依さん夏音さんは周囲の大人の方とご一緒に以下の動画を閲覧するようにしてください。



【シーン解説】
 ・巴マミさんのソウルジェム浄化  (出典:魔法少女まどか★マギカ[前編] 始まりの物語)
 ・美樹さやかさんのソウルジェム浄化(出典:魔法少女まどか★マギカ 第5話 後悔なんて、あるわけない)
 ・暁美ほむらさんのソウルジェム浄化(出典:魔法少女まどか★マギカ[後編] 永遠の物語)
 の順に動画でまとめております。


 基本的な解説は動画の下部にテキストとして加えております。
 ここでは動画に入りきらなかった注釈を記載いたします。

・巴マミさんのソウルジェム浄化
 巴マミさんは魔法少女の先輩として美樹さやかさんと鹿目まどかさんを連れて魔女退治に出陣しました。魔女の魔力の痕跡を頼りに地味な探索を続けていると「薔薇園の魔女(ゲルトルート)」と呼ばれる魔女が出現。巴マミさんお得意の必殺技「ティロ・フィナーレ」によりこれを仕留めます。
 動画のシーンは魔女戦が終了した後の様子を抜粋していますが、いくつか注釈を。まず、冒頭の空間が歪むような演出は「魔女結界を抜けた」ことを表しています。魔女は自分だけの閉塞した空間「結界」に隠れ潜んでおり、この結界に犠牲者を呼び込む為に「魔女の口付け」と呼ばれるものを一般人に付与します。魔女に魅入られてしまった犠牲者はそのまま命を落とすことがあります。(その場合でも直接魔女に殺められるというよりは「自らの意思で身投げをした」といった形になります)
 魔女との戦闘前に犠牲者を救出し、その後単騎で魔女に勝利した巴マミさんは類稀なる力を持つベテラン魔法少女であると言えるでしょう。
 ソウルジェムの浄化については動画の説明通りです。グリーフシードひとつで何回ソウルジェムを完全浄化できるのかは不明ですが、一回以上は回復できるようです。例えがあまり良くありませんが、スマートフォンを駆動し続ける為の「モバイルバッテリー」のようなイメージです。(電力を補充するのではなく、溜まった穢れを吸収するものですので概念的には逆なのですが)

・美樹さやかさんのソウルジェム浄化
 美樹さやかさんのソウルジェム浄化も、巴マミさんのものと同じです。ここではキュゥべえによる「グリーフシードの処理」に着目してみましょう。
 キュゥべえの顔についている「ω」の口は、会話には用いられませんが食べ物を摂取する際には開いて機能します。グリーフシードもこの口から取り込むのかと思いきや、背中がパカッと開きそこに取り込んでいますね。
 キュゥべえの体の体積は非常に小さいのですが、「食物摂取用・処理用のスペース」「グリーフシード取り込み・処理用のスペース」は分割されているようです。さすが宇宙人のテクノロジーですね。
 (呪いを溜め込み過ぎたグリーフシードを処理できるのなら、ソウルジェムの穢れもキュゥべえの背中の口で直接吸い込めるのではないか……と思うのですが、難しいのでしょうかね)

・暁美ほむらさんのソウルジェム浄化
 暁美ほむらさんはその登場タイミングによって「眼鏡を着用したほむらさん(メガほむ)」「クールなほむらさん(クーほむ)」「リボン付きほむらさん(リボほむ)」という愛称で呼ばれることがあります。原典の魔法少女まどか★マギカ(DVD・BD版)では、第1話~9話が「クーほむ」、第10話のループの中では「メガほむ」、第11話~12話は再び「クーほむ」、第12話ラスト付近で「リボほむ」として登場します。簡単に特徴をまとめますと
 ・クーほむ:クールなほむらさん。時間停止・遡行可能な盾を装備。主な武装は拳銃・爆薬など。
 ・メガほむ:眼鏡着用のほむらさん。性格は気弱で、引っ込み思案。時間停止・遡行可能な盾を装備。主な武装はゴルフクラブ・爆薬など。
 ・リボほむ:リボン着用のクールなほむらさん。性格はクーほむと同じ。円環の理となったまどかさんから「リボン」と「弓」を受け継いだ状態。まどかさん同様魔法で生成した矢を弓で撃ち込む戦闘スタイル。

 リンドビオルサーバの暁美ほむらさんは「クーほむ」に分類されますが、「メガほむ」のように可愛らしく礼儀正しい側面もお持ちであり、何より他者に対する優しさが原作ほむらさんよりも飛び抜けて高いです。これは「原作での役割を終えて、円環の理に導かれた」為に、柔和な性格となっていることが理由です。これはフェデレーション内の魔法少女さん全員に共通する特徴です。
 動画終盤でも触れましたが、鹿目まどかさんの存在が無かったことにされている為、鹿目まどかさんを中心とした願いにより契約をした暁美ほむらさんの契約理由も他のものに置き換わっています。それがどのようなものであるかは不明ですが、武装としてはまどかさんの装備されていた弓を用いた戦闘スタイルに変化しています。(弓自体の見た目は黒く変色しており、魔法の矢も紫色の光となっていますが、カラーリングはほむらさんのイメージに近いものとなっているのでしょうね)

なお、叛逆の物語にも退治したナイトメアによりソウルジェムが浄化されるシーンがありますが、術式が大きく異なることから省略しています。あくまで「ソウルジェムがグリーフシードorグリーフキューブにより浄化されるシーン」の抜粋と捉えてください。







■魔女化について



 第08章の物語内にて上記のように魔女化のプロセスが明言されていました。ここではもう少し詳細に魔女化のプロセスについてまとめてみたいと思います。

 <ケース1 : 魔法少女が魔女化する場合>
  魔法少女は魂をインキュベーターにより「ソウルジェム」という宝石に変異させられます。そしてほむらさんの説明通り「ソウルジェムの穢れが浄化されない場合」または「グリーフシードでの浄化が間に合わない場合」に魔法少女は自らが募らせた呪いによって魔女化してしまいます。

  ※ ソウルジェムの穢れとは ※
   一般的な説明として、ソウルジェムは「魔法少女の魔力の源」であると言われています。その為、バッテリーや充電電池といったイメージをお持ちの方もいらっしゃると思います。
   電池であると仮定すると「何らかの形で魔力を使うことでソウルジェム内のエネルギーが減り、その減った分が「穢れ」と呼ばれる。グリーフシードを使って「充電」することができる」といった形での説明になるでしょう。
   「魔力を使う」という行為には以下のようなものがあります。(上から下へ魔力消費の小さいものから大きいもので並べています)

   ・変身せず平凡な日常生活を送る(体を動かすだけで微量の魔力を必要とする)。
   ・テレパシーや魔女探査など低消費魔力の魔法を使う。
   ・魔法少女に変身をする。
   ・魔法少女として戦う為の武装(武器・盾・籠手など)を顕現させる。
   ・攻撃魔法や回復魔法などの魔力消費の大きい魔法を使う。

   魔法少女と魔法少女の武装装備はセットのように思えますが、スピンオフ作品の「魔獣編」にて魔力の絶対値が下がってしまった暁美ほむらさんは「魔法少女に変身することはできるが武器となる弓を出すことができなくなる」という状態が描かれていました。
   その為、魔法少女に変身をすることに加えて魔力を消費して武装を生成+装備しているものと考えられます。

   <参考画像> 魔法少女まどか★マギカ 魔獣編 2巻より  魔獣に魔力を奪われた暁美ほむらさんが武器である弓を生成できないシーン。


   ここで、視聴済みのみなさんは上記以外の原因によりソウルジェムの穢れが溜まることがあることをご存知かと思います。そう、魔法少女の「感情」とソウルジェムは直結しているのです。魂そのものをソウルジェム化されてしまったのですから、それも納得できることと思います。
   例として、美樹さやかさんが魔女化した直接の原因は、戦闘で魔力を使いすぎた事ではありませんでした。最終的にさやかさんが魔女化したのは度重なる精神的ダメージが蓄積した結果、「心が死んでしまった」ことが原因でした。
   結論として、もちろん魔法少女として魔力を大量に使用することはソウルジェムの穢れが溜まる要因の一つではありますが、それよりもケアすべきは魔法少女の精神状態(メンタルヘルス)であると言えます。
   過酷な運命を背負って魔法少女となった後は、できるだけ周囲のみなさんとの人間関係を良好にできるよう努め、リラックスした状態を保てるようにしましょう。
   (書いていて思いましたが、これは魔法少女に限らずすべての人に共通のことですね)

 <ケース2 : 使い魔が魔女化する場合>
  魔女には使い魔と呼ばれる「手下」のような存在がいます。不思議なことに、魔女と使い魔は必ずしも良好な関係にあるとは言えず、使い魔が魔女のことを呆れていたりすることもあります。
  しかしながら魔女と使い魔は親子のようなものらしく、「使い魔は成長すると元のオリジナルの魔女になる」という情報があります。一つの結界内に魔女が二匹いる状況は想像しづらい為、恐らく「巣立ち」のようなことをするのかもしれません。
  この「ケース2」は実は原作アニメでは描かれていません。『魔法少女まどか☆マギカポータブル』というゲームでのみ登場します。その為、魔女化するケースとしてはほぼ「ケース1」になるものと考えられます。
  以下は参考までに佐倉杏子さんのセリフとなります。

  『見て分かんないの? あれ魔女じゃなくて使い魔だよ? グリーフシードを持ってるわけないじゃん』
  『だからさぁ、4,5人ばかり食って魔女になるまで待てっての。そうすりゃちゃんとグリーフシードも孕むんだからさ』
  『あんた、卵産む前のニワトリ〆てどーすんのさ』


 <ケース3 : グリーフシードが孵化して魔女になる場合>
  倒した魔女が所持していたグリーフシードを使用し、魔法少女はソウルジェムの穢れを祓います。このグリーフシードは上限まで呪いを溜めこむとそれ以上は呪いを吸収できなくなります。つまり、ソウルジェムの浄化に使用できなくなります。
  この状態になったグリーフシードはインキュベーターの背中にある大きな口(■ソウルジェムの浄化について の動画を参照)に取り込まれて無害化されます。
  しかしながら、魔法少女がグリーフシードを使い切った際にインキュベーターがその場にいない場合、ポイ捨てしてしまう方がいるかもしれません。また、あまりないと思いますが魔女を相打ち状態で倒したことでドロップしたグリーフシードがその場に置き去りになる場合、
  それらが周囲の怨嗟や呪いを吸い込んでしまい新たな魔女が誕生するケースも稀にあります。原作アニメでは一度だけ描写されまして、「お菓子の魔女」が誕生する際の描写はこれに該当します。病院の駐輪場の柱に刺さったグリーフシードが呪いを溜め込み過ぎており、
  魔女化寸前の状態となっていました。そこから誕生したのが「お菓子の魔女(シャルロッテ)」でした。
  しかしながらこの「ケース3」もあまり頻度は高くないと感じます。至る所に魔女を登場させる為に回収したグリーフシードをインキュベーターがばら撒いていない限り、滅多に起きない状況でしょう。その為、やはり魔女化する場合はほぼ「ケース1」になるものと考えられます。





■リリキュア(ホワイトリリィ)について



 第11章にて華々しく公演会デビューされたホワイトリリィさん。ここでは私に天使が舞い降りた!という作品における劇中劇である「リリキュア(ホワイトリリィ)」について解説いたします。
 まずはわたてん!のアニメよりホワイトリリィに関連するシーンを抜粋してまとめてみましょう。
 ※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約97MBです。


 前半部分はみやこさん、乃愛さん、花さんそれぞれのホワイトリリィのコスプレを着用した際の様子です。
 後半部分は本物のホワイトリリィの登場する、ひなたさんと乃愛さんの映画館デートでのシーン。
 白とピンクを基調としたふわふわの衣装がとても愛らしいですね。本物のホワイトリリィのお姿を見る限り中学生~高校生くらいに見えますので、花さんたちのコスプレ衣装とみやこさんのコスプレ衣装の中間くらいが本家のサイズに近いのかもしれません。



 動画中にもホワイトリリィの声優さんである「ゆかな」さんについて軽く触れましたが、第9話のエンドロールにも上記の通りゆかなさん名義での表記があります。
 記念すべきプリキュアシリーズ第一作目「ふたりはプリキュア」にてキュアホワイト役を務め、更にはプリキュアシリーズが始まる前の作品である「愛天使伝説ウェディングピーチ」においてもエンジェルリリィ役を務められている大御所です。このウェディングピーチという作品は「美少女戦士セーラームーン」の実質的な派生作品とされており、企画構成をセーラームーンの担当者が立ち上げておりキャラクターデザインもセーラームーンと同じ方が描いている作品です。また、それら過去の作品を知らずとも「キュアホワイト」「エンジェルリリィ」という名前を合わせて「ホワイトリリィ」が誕生したと類推できるようにも作られています。
 恐らくこれら関連要素はネタとして「気付いた人だけ楽しんでもらえたら」という意図で組みこまれていると思いますが、劇中劇であっても手を抜かない製作側の本気を感じられるものとなっています。わたてん!のスピンオフ作品としてホワイトリリィがアニメ化されると面白そうですね。

 豆知識ですが、原作マンガでは「リリキュア」という作品名で呼ばれており「ホワイトリリィ」はキャラクター名として登場します。一方、TVアニメでは「ホワイトリリィ」という作品名であり、主役も「ホワイトリリィ」であるとされています(マスコット(使い魔)は「リリィ」と呼んでいましたが、愛称のようなものかと思われます)。なお、みやこさんのお部屋に掲示されているホワイトリリィのポスターは一種類ですが、映画館に掲示されているポスターは3つのバリエーションがあるようです。
 以下、みやこさんのお部屋に掲げられているポスターと、映画館に掲げられているポスターを掲載いたします。


アニメ第3話「刷り込み」のBパートより。他にもポスターの見られるシーンはありましたが、ここが一番見やすいと思いました。作品名と思しきロゴには「ホワイトリリィ」と記載されています。


アニメ第9話「私が寝るまでいてくださいね」のAパートより。映画館に掲示されている「映画 ホワイトリリィ」のポスター。どうやら絵柄は三種類あるようです。


3種類あるうちの左の絵柄の拡大図。これがメインビジュアルのようですね。ホワイトリリィだけでなく、パープルリリィ、レッドリリィ、グリーンリリィがいるようです。映画でホワイトリリィと戦っていたのはポスター中央左の銀髪の方と思われます。ホワイトリリィの攻撃が効かないようですので、かなりの強敵ですね。


3種類あるうちの中央と右の絵柄の拡大図。残念ながら詳細は確認できませんが、右の絵柄の上部中央には「敵の女幹部」と思しきボスのような褐色肌の方がいらっしゃいます。また、各リリィのマスコット(使い魔)の姿もそれぞれ別に存在するようです。キュゥべえのように全魔法少女共通の使い魔ではないようですね。左の絵柄については「映画」という文言のないロゴになっていますので、TVアニメ・映画共通の作品イメージビジュアルのようなものかもしれません。
ホワイトリリィには当てはまりませんが、他リリィについては衣装の色、瞳の色、髪の色の系統がそれぞれ統一されており、魔法少女まどか★マギカから続く系譜のカラーリングを踏襲しているように見えます。

 以下、原作マンガより「ホワイトリリィ」「リリキュア」に関連するシーンを抜粋します(右から縦にご覧ください)。


 右から1ページずつ、簡単に解説します。

 原作第1巻5話「見られた」 記念すべきみやこさんと乃愛さんの出会いのお話。「白く輝く奇跡の花 ホワイトリリィ!」と、アニメでの決め台詞と同じ名乗りを上げています。
 原作第1巻5話「聞かれた」 みやこさんの秘密の趣味を、お隣の空き家に引っ越してきたばかりの乃愛さんに窓越しに見られ聞かれてしまいました。更には追い打ちまでされてしまい、みやこさんは瀕死の重傷を負うのでした。無残。ちなみにこの出会いの出来事についてみやこさんは「早く忘れて」と常日頃から乃愛さんにお願いしているのですが、最新第15巻に於いても未だにネタにされている状態ですので恐らく忘れてもらうのは無理なのではないかと(苦笑)



 原作第1巻5話「逃がさない」 転校してきた乃愛さんがひなたさんのお宅に遊びに来た際のシーン。先の「見られた」と同じ構図にて今度は乃愛さんがホワイトリリィの衣装をお召しになっています。アニメでの該当シーンもみなさんここと同じリアクションであり、原作に忠実に再現されています。
 原作第1巻5話「食いつき」 この辺りもアニメとほぼ同じ流れです。強いて言えばアニメ版のほうがみやこさんの食いつき方がすごいくらいでしょうか。



 原作第1巻6話「ノア:4位」 乃愛さん発案での「みんなでコスプレ勝負」。「みんなで」ということで、審査員だったみやこさんも巻き込まれており、乃愛さんご指定のホワイトリリィの衣装に。
 原作第1巻6話「良い子?」 この辺りはアニメでいうと乃愛さん登場回の第2話「サイキョーにカワイイ」に同じ流れで登場します。ただ、セリフ回しはアニメの方がより角の立たないやわらかいものとなっています。




 原作第4巻33話「ネタバレ禁止」 ここのパートまで「リリキュア」という言葉は登場していませんでした。以降、原作マンガに於いては「リリキュア:作品名」「ホワイトリリィ:登場人物」と定義したいと思います。
 原作第5巻39話「動画もあるよ」 友奈さんとおままごとをするお話です。香子さんのお写真などで見慣れているリリキュア(という作品の主役=ホワイトリリィ)になってほしいとせがんでいますね。
 原作第5巻39話「見慣れてる」 友奈さんにせがまれたホワイトリリィをお召しになるみやこさん。友奈さん大喜びの影で、笑顔で怖いことをおっしゃる香子さん。



 原作第8巻62話「行動派」 リリキュア新シリーズ全員分のコスプレ衣装を作ったと豪語するみやこさん。大学生は意外と時間があるようですね(苦笑)。
 原作第8巻62話「少数派」 全員分ということで、夏音さんたちにも着てほしいとお願いしていますね。常識人の夏音さんが困惑しています。
 原作第8巻62話「変身」 ここほどカラーページでないことが惜しまれるパートも少ないのではないでしょうか。トーンの微妙な違いと各天使のイメージカラーから、想像力で色を補うしかありませんね。恐らくですが、花さん:パープルリリィ、乃愛さん:ホワイトリリィ、ひなたさん:オレンジリリィ、小依さん:レッドリリィ、夏音さん:グリーンリリィに相当するものと思われます。
 原作第8巻62話「フラッシュバック」 そしてオチはみやこさんのホワイトリリィ姿と、香子さんの敵の女幹部姿。敵幹部1人 vs リリィ連合6人という構図ですが、それでも香子さんなら善戦しそうな雰囲気がありますね。



 原作第15巻付属 書き下ろしマンガ「魔法少女☆星野みやこ」 ひげろーに似た魔法の使者に契約もせず魔法少女にさせられたみやこさんのお話。ラストで「敵の女幹部」として香子さんも登場しています。この衣装のデザインは第8巻でみやこさんが香子さんの為に作った黒地の衣装と同じものです。なお、みやこさんのホワイトリリィ姿は第8巻の「新シリーズの衣装」ではなく、それまでに登場していた「旧シリーズの衣装」のようです。アニメのホワイトリリィたち各リリィの衣装もこちらのデザインを参考にしているように思います。
 (推測ですが、原作マンガにおける「旧シリーズ」ではホワイトリリィ単独であり、「新シリーズ」になって人数が増えてアニメ版の「映画 ホワイトリリィ」のような状態になったのではないかと)

と、このようにわたてん!という作品に於ける劇中劇として「リリキュア(ホワイトリリィ)」がありますが、軽く今回の「絆」での役割などを記載してみます。
以下、夏音さん小依さんからヒアリングした結果を元にまとめております。
原作とアニメそれぞれで「強く勇ましい、頼りになる等身大のお姉さん」のヒーローとして描かれるホワイトリリィ。もちろん、夏音さん小依さんもエンプラにてホワイトリリィは視聴しており、夏音さんがその強さにうっとりと陶酔する「正義の味方」として登場します。この「正義」というキーワードを元に、魔法少女とキュゥべえの存在について自問するきっかけにできないかと考えたそうです。「何をもって正義といえるのか」「誰にとっての正義なのか」「キュゥべえは本当に悪なのか」といったテーマを自分の中でまとめる為に、勧善懲悪が非常に分かりやすい「魔法少女もの」であるホワイトリリィを取り入れたそうです。
これはつまり、魔法少女まどか★マギカという作品も「魔法少女もの」ではあるのですが、その物語構造が非常に難解かつ「絶対的な正義は見方(立場)によって変わる」というテーマ性があることから、既にわたてん!とまどマギという2つの作品をミックスしていることは承知の上で更にホワイトリリィという作品を3つ目の例として取り入れることにしたそうです。





■アルティマ・シュートについて




 第11章および第13章のチャットログに上記の会話がありましたので、ホワイトリリィさんの必殺技として登場した「アルティマ・シュート」について解説いたします。
 ※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約226MBです。


 動画では正式名称として採用された「ティロ・フィナーレ」のシーンを集めてみました。
 ご覧の通り、「アルティマ・シュート」とは巴マミさんの必殺技「ティロ・フィナーレ」のことです。ちょうど巴マミさんが観劇された日にこの技が登場しましたので、良い演出だったと言えるでしょう。
 巴マミさんと言えばティロ・フィナーレ。とすぐさま関連付けて思い出される技であり、あまりの威力に使い魔どころか魔女ですら直撃すれば一撃で撃破してしまうオーバーキル確定の超必殺技です。特に、映画叛逆の物語終盤に於けるティロ・フィナーレは歴代最高出力の「列車砲」となっており、その効果範囲・威力はまさに「黄金色の核兵器」と言ってよろしいかと思われます(某リリカルな魔法少女さんの「桃色の核兵器」になぞらえております)。直撃していればワルプルギスの夜ですら半壊したかもしれませんね。

 「アルティマ・シュート」は魔法少女まどか★マギカの収録直前まで巴マミさんの必殺技の名称として設定されていたものです。ところが、収録直前に英語からイタリア語に、つまり「ティロ・フィナーレ」に変更となった経緯があります。急遽変更となったことから、初代の魔法少女まどか★マギカのマンガでは技名の誤植が起きるといった問題も発生しました。
 意味としては「最後の一撃」ということで、英語でもイタリア語でも同じようなものです。必殺技という特性から、もうその後は無い(ラストアタックとなる)為、様々な作品で似たような名称が採用されていますが(例えば某野菜王子の「ファイナルフラッシュ」などもそうですね)、その中にあってもイタリア語の「ティロ・フィナーレ」は異彩を放つ大技と言えるでしょう。

※なお、本来は砲弾を用いて狙撃する広範囲マップ兵器なのですが、ホワイトリリィの使用武器が不明な為にヒーローものによくある「蹴り技(キック)」に当てはめたとのことでした。
 しかしながら、ホワイトリリィの元ネタと考えられるエンジェルリリィの持ち技として「リリィ・キック」「百烈キック」というものがあります。蹴り技を多用する戦闘スタイルのようですので、原作リスペクトという意味で非常にふさわしいチョイスになったと思います。

※以下、おまけ。


■巴マミさんの超火力攻撃の例
 ※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約410MBです。

※編集注
 動画には一瞬ですが、美樹さやかさんの左腕が破砕し血肉と共に骨が剥き出しになるシーンがあります。特に夏音さん小依さんには左足に受けた生々しい傷を想起させるものである為に直視し辛いものと思います。
 天使各位のお母様のご判断にお任せしますが、再生される場合は天使を一人にはせず大人と共にご覧いただけますようお願いいたします。




 動画では2つの銃撃戦をまとめてみました。
 ・前半:マギア✧レコード(アニメ版)における、「神浜の聖女」となった巴マミさんの暴走を阻止し、元の巴マミさんを取り戻すべく敢然と立ち向かう美樹さやかさんとの戦闘シーン。
 ・後半:新編 叛逆の物語における、同居人ベベを守ろうと奮闘する巴マミさんと、ベベを魔女であると疑う暁美ほむらさんとの戦闘シーン。

 いずれも恐ろしいまでの物量戦が繰り広げられています。やはりマスケット銃と拳銃という、一発の威力が(魔法少女としては)弱めの武器を使用するお二人ですので、数に物を言わせる戦術を採用しているようです。
 美樹さやかさんは、先輩かつ錬度も上の巴マミさんが更にパワーアップした「神浜聖女」と戦う為、持ち前のタフさ(受けたダメージを瞬時に回復魔法で癒すやり方)で持ちこたえようとしています。涙ぐましい捨て身の戦法ですが、これも巴マミさんを取り戻す為。決死の作戦が行われます。
 暁美ほむらさんも巴マミさんに負けず劣らずのベテラン魔法少女です。両者のパワーバランスが拮抗していることから決定打に欠け、長期戦を余儀なくされています。
 原典の魔法少女まどか★マギカにおける巴マミさんも非常に強い印象でしたが、叛逆の物語やマギア✧レコードといった後継作品によってよりその突出した戦闘センス・超火力が分かりやすく描写されていると感じます。精神的には脆いところもあるものの、いざ戦闘となると鬼神の如き強さを発揮する巴マミさん。人間味のある頼れる先輩魔法少女として、様々な後輩魔法少女やファンから愛されているのも頷けますね。

※叛逆の物語における「巴マミさん vs 暁美ほむらさん」の銃撃戦についての補足情報
 我々常人の感覚からすると「一発でも体に命中すると致命傷となる」と捉えるのですが、魔法少女は「急所となるソウルジェムに当たらなければ死ぬことはない」という感覚をお持ちです。巴マミさんは右の側頭部、暁美ほむらさんは左手の甲。ここに銃弾が当たらなければ自己回復魔法で修復が可能な為です。
 その為、全力でお相手を倒そうとしているように見えるのですが、その実お二人とも「力比べをしている」といった感覚で銃撃戦をしていることになります。一種のサバイバルゲームのようなイメージでしょうか。「敗者は落命する」というよりは「敗者は勝者の言い分に従う」という含みがあるものと思われます。
 ラストの「ほら、埒が明かないわよ」という巴マミさんのセリフは「ほら、(急所を外して攻撃していたら)埒が明かないわよ」という意味となります。まだこの段階ではお互いにお相手のことを気遣って撃ち合いをしていることを表しています。





■悪役の行う「悪事」について



 第11章のチャットログに上記の会話がありました。天使の想像上の「悪事」にしては解像度が高いなと感じましたので、夏音さんにこの点をヒアリングしてみました。

【 エンジェリック☆プチ・インタビュー 】

インタビューイー:小之森夏音さん 種村小依さん
インタビューアー:DOSAN

──次の公演会の準備でお忙しい中、ご参集いただきましてありがとうございます。

気にしなくて大丈夫よ!
気分転換したかったので、お気になさらないでください^^

──ありがとうございます。それでは早速、簡易インタビューとしまして第11章にて登場しました「悪事」について教えてください。
──個人的に、このパートで登場した二例の悪事は、夏音さんにしては非常に具体的に感じました。例えば実際にこのようないたずらをして叱られた経験があったりするのでしょうか。

あ、これはあれよね、かの。
うん。10月から新しく始まりましたふたつのアニメでいたずらをするシーンがありましたので、そこから抜き出させてもらったんです。
かのは冗談も苦手だし、いらずらして怒られたこともないのよ。だから最近見たアニメからいただいたのよね。

──なるほど。今季のアニメからアイデアを頂戴したと。具体的にはどのようなアニメのシーンになりますでしょうか。

えと・・・ こんな感じです。
・「学校の靴箱の靴を揃った状態からバラバラにして、また丁寧に靴箱に入れ直したり」・・・ぷにるはかわいいスライム
・「商店街のお店の入口に敷かれているマットを裏表逆にしちゃったり」・・・アクロトリップ
どちらもよりちゃんと一緒に見ているアニメです。


「ぷにるはかわいいスライム」第2話より。砂鉄を取り込んでしまい「悪い子」になったぷにるが学校の下駄箱で靴を並び変えるいたずらをしているシーン。
「ぷにるはかわいいスライム」週刊コロコロコミック公式サイト
「ぷにるはかわいいスライム」アニメ公式サイト




「アクロトリップ」第1話より。N県奈仁賀市にて悪の総帥デビューしたばかりのくろまさん。手始めに商店入口のマットをひっくり返すという地味な悪事を実践しているシーン。
「アクロトリップ」集英社りぼん公式サイト
「アクロトリップ」アニメ公式サイト



──こちらが元ネタでしたか。ありがとうございます。
──コロコロコミックとりぼんが原作とのことで、小学生らしくて非常に好ましいですね。

ふふーん! でも、どっちも子ども向けの雑誌に載ってるマンガなのに、アニメになると深夜アニメになっちゃうのはなんでかしらね?
なんでだろうねー。今はドラゴンボールも深夜みたいだし、明るい時間帯のアニメはプリキュアとかくらいなのかなー?
わんだふるぷりきゅあとか! わんちゃんが人間になってプリキュアになるっていうめずらしいプリキュアで、みやこお姉さんが声やってるプリキュアもいるわね!
キュアリリアンだねー^^ 凛々しい声がかっこいいなぁ。

──お二人とも、お忙しい中でも新しい作品に次々と触れているようで安心しました。
──本日も短時間でしたが、ありがとうございました。また折に触れてインタビューさせていただきますね。






■宇宙の寿命について



 第11章のチャットログに上記の記述がありました。インキュベーターがその全精力を注ぎ込んで成そうとしている、「宇宙の寿命を延ばす」という事業。一言で述べるなら、それは熱力学第二法則に於いてエントロピーは増大していく一方であり、良質なエネルギーが目減りしていき、最終的には「冷え切った宇宙」となってしまうシナリオを根底から覆そうとする試みのことです。
 実は最近の宇宙物理学では「宇宙の終焉」の形はいくつかの仮説が提唱されており、このエントロピー増大による熱的死はそのうちのひとつに過ぎません。では、現在提唱されている「宇宙の終焉」の形について以下に簡単に記載してみたいと思います。

 <ケース1:エントロピー増大による熱的死(ビッグフリーズ)>
  これはこれまでインキュベーターへの質問会から始まって幾度となく本公演会でも取り上げられてきた「インキュベーターが回避しようとしている終焉のシナリオ」となります。
  熱力学第一法則により宇宙の内包するエネルギー総量は変わらないのですが、熱力学第二法則にあります「外的要因から切り離された環境=宇宙」に於いては
  「質の高い(エントロピーの低い)」エネルギーが目減りしていってしまうことで利用できるエネルギーがなくなり、宇宙は熱的な死を迎えてしまいます。
  この時の宇宙は膨張も収縮もしない完全に均一な(エントロピーの増大しきった)何もない宇宙となります。
  インキュベーターは宇宙がこの状態になることを避けようとしているわけですね。

 <ケース2:ビッグリップ
  宇宙は「何もないところはからっぽ」ではなく、ダークエネルギーと呼ばれる仮想的なエネルギーで満たされている……という前提で、このダークエネルギーにより宇宙は膨張を続けているとされています。
  膨張するのは宇宙という空間だけでなく、宇宙内のすべての原子・粒子とそれぞれの距離も膨張します。この膨張が加速度的に続けられると、宇宙内のすべてのものがバラバラになります。
  ビッグリップとはこのすべてのものがバラバラに引き裂かれてしまうことにより「物質であることを維持できなくなり消滅する」状態を指します。

 <ケース3:ビッグクランチ
  宇宙開闢時にはビッグバンと呼ばれる大爆発が発生し、光速を越える速度で指数関数的に宇宙がインフレーション(急膨張)したと考えられています。
  この138億年ほど昔に起きたビッグバンの余波がまだ続いており、現在でも宇宙は広がり続けていると考えられています。
  しかしながらこの膨張も永遠ではなく、宇宙内の質量による重力(引力・引き合う力)が膨張力を上回ると逆に収縮に向かうと言われています。
  ビッグクランチはその収縮の最終的な形であり、宇宙にある全ての物質と時空は無次元の特異点に収束する(一点に潰れる)と考えられています。

 <ケース4:真空崩壊(偽の真空から真の真空への相転移)>
  この概念は理解が難しい為、用語の解説から入りましょう。
  ・「真空崩壊」……現象名です。偽の真空から真の真空へ相転移した結果、連鎖的に莫大なエネルギーが生成され、それにより宇宙全体が大爆発を起こす際の名称です。
  ・「偽の真空」……現在の宇宙の「真空」と呼ばれる状態は、偽の真空状態であると言われています。「偽の真空」とは「今現在の宇宙の真空のこと」を指します。
  ・「真の真空」……「偽の真空」ではなく、本物の真空状態です。偽の真空よりも真の真空のほうがエネルギーが低く(エントロピーが増大しており)、より安定した状態です。
  ・「相転移」 ……「相」が変わることです。本項目では「偽の真空が真の真空状態に切り替わること」の意味で使います。この時、莫大なエネルギーが生成されます。

  これらの用語を用いて一言で解説しますと
  「偽の真空状態の現在の宇宙がふとした拍子に真の真空状態に相転移する時、莫大なエネルギーが生成されて宇宙全体が連鎖的に真空崩壊を起こす」
  ということになります。

  みなさんは既に「エネルギーの低い方へと自然に遷移する(エントロピー増大の法則)」という概念はご存知のはずです。偽の真空状態とは「一見エネルギーの一番低い安定した状態にある」ように見えていますが、
  実はその真空はエネルギーを若干持っており、真の真空状態とは言えない状態にあります。そこでエントロピー増大の法則に則り「エネルギーの低い方へと遷移」しようとするのですが、この際持っているエネルギーを手放す必要があります。
  その手放されたエネルギーは極僅かですが積り積ると莫大なエネルギーになります。宇宙のどこか一箇所でこの「偽の真空から真の真空への相転移」が発生すると、連鎖的に周囲の偽の真空がエネルギーを手放し真の真空状態になろうとします。

  イメージとしては過冷却水が分かりやすいでしょう。ゆっくりと静かに水の温度を下げていくと、マイナス8℃程度まで冷やしても水は凍ることはありません。氷の欠片を入れる・衝撃を与えると凍るのですが、
  この時「水」という流動的に動けるエネルギーを持つ物質が、衝撃により連鎖的にエネルギーを手放して固体(氷)になっていきます。水から氷に相転移する際に放出されるエネルギーを「凝固熱」といい、
  この凝固熱によりマイナス8℃程度だった水温がマイナス1℃程度の氷にまで「温度が上がります」。
  真空崩壊も同じように、一番安定している状態のように見えて実は若干エネルギーのある「偽の真空」状態が、より安定した状態に相転移しようとエネルギーを連鎖的に手放す時に発生するエネルギーにより宇宙が終焉するということになります。
  同じ連鎖でも、過冷却水やぷよぷよと異なるのはその連鎖反応速度が光速で行われる点です。過冷却水やぷよぷよの連鎖のように目で追える速度ではなく一瞬です。「ばよえーん」と言っている間に銀河系の数十個程度は消滅しているレベルとお考えください。

 【いつ頃これらの現象が起きるのか、について】

  チャットログに於いても絵笛さんが
  「急いで効率を考えないといけないほど差し迫った問題じゃないのになあ」
  とおっしゃっています。
  それでは、それぞれのシナリオ毎にいつ頃終焉が起きるのかをまとめてみましょう。

 <ケース1:エントロピー増大による熱的死>
  この宇宙内のすべての物質とエネルギーが散逸し、エントロピーが最大になってエネルギーの移動が完全に停止した状態になるには、「グーゴル年」という途方もない年月が必要とされています。(10の100乗年)

 <ケース2:ビッグリップ>
  宇宙がバラバラに引き裂かれ終焉を迎える「ビッグリップ」が起きるのは、早くとも1400億年先と言われています。

 <ケース3:ビッグクランチ>
  宇宙が膨張から転じて収縮を始め、やがて一点にまで収束されるというシナリオの「ビッグクランチ」が起きるのは、あと200億年先と言われています。

 <ケース4:真空崩壊>
  真空崩壊自体は実はいつ発生してもおかしくないと言われています。しかしながら、真の真空の波は光の速さでやってきます。その為、宇宙のどこか一箇所で今真空崩壊が発生したとしてもこの太陽系に到達するには数十億年はかかるとされています。
  今目の前で発生したならばそれこそ瞬時ですが、真空崩壊はこの広い宇宙空間のどこに於いても均等な確率で発生しますので、数十光年という狭い範囲より数十億光年という広範囲で発生する確率の方がはるかに高くなります。その為、計算上は
  真空崩壊に遭遇するには数十億年以上は必要になってくるということのようです。

以上のことから、宇宙の終焉には残念ながら我々は立ち会うことができなさそうですね。そのくらい、それこそ天文学的に長い時間がかかるということであり、まさに絵笛さんのおっしゃる通りということになります。
(むしろインキュベーターが危惧しているエントロピー増大による熱的死は、現在考えられている上記4ケースのうち一番発生までの猶予時間が長い現象です。何故それを選んだのか……)





■転びマスター小依さん
 度々公演会に登場する「転びマスター小依さん」のお姿。今回は動画にて実際の様子をご覧いただこうと思います。
 映画「プレシャス・フレンズ」より「転びマスター小依さん」を中心に、夏音さんとの心温まるシーンを抜粋してみました。

 ※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約199MBです。



 ひと続きの動画としてエンコードしましたので、以下に参考としてタイムスタンプごとの概略を記載いたします。


 ・00:00~00:07 …… 星野家にてコスプレ撮影会に興じるお二人。バランスを崩して倒れそうになる小依さんを夏音さんが支えます。



 ・00:07~00:56 …… 長瀞にあります、白咲花さんのご祖母様・桜さんのお宅。天使たちが「修学旅行の練習旅行」としてお泊りに来ています。ひなたさんと共に駆け回る小依さんが2回ほど躓いて転びそうになっています。


 ・00:56~00:59 …… 川下り(ラフティング)中、小依さんが落としそうになったオールを夏音さんがキャッチします。


 ・00:59~01:02 …… 石畳にて撮影会に興じるわたてん☆5。5人の集合写真では小依さんが転びそうになっており、夏音さんにしがみついていますね。


 ・01:02~01:09 …… 桜さんのご自宅で夕食後のデザート作りのお手伝い(生クリームの泡立て)をする小依さんと見守る夏音さん。生クリームが周りに飛んで夏音さんにかかってしまっていますね。


 ・01:09~01:21 …… TVシリーズで既に戦力外通告を受けていた小依さんと花さんに、料理の苦手な桜さんも仲間入り。フローリングで正座は痛そうですね。


 ・01:21~01:27 …… 「よりちゃん、危ない・・・」「かの、ありがと・・・」 という寝言。夢の中でもお二人はご一緒なのですね。


 ・01:27~01:36 …… 2日目の朝。急遽お祭りに行くことになったことからリーダーの小依さんは予定を変更してみなを導こうとしていますが、その矢先に転びそうになり夏音さんに支えてもらっています。



 ・01:36~03:20 …… 「エンジェルフォール・スターマイン」内「えんむすびのかみさま」にてお二人が魅せてくださいました、「夏祭りのリベンジ」を公式が映像化したものです。厳密には輪投げ屋さんと射的屋さんで異なりますが、趣旨・行動原理・想いは共通と言えるでしょう。「深呼吸をすることで落ち着いて物事がうまくいく」というところまで公演会の内容を完璧にトレースしていますね。



 ・03:20~03:29 …… 射的の景品(秩父市のマスコットキャラクター、ポテくまくん)を見事に手に入れた小依さん。阿左美冷蔵 金崎本店さんの卓上にそれを置きながら、夏音さんとかき氷を「あーん」し合っていますね。



■原作単行本に於ける転びマスター小依さん
 原作単行本でも「転びマスター小依さん」のお姿は多数登場します。ただ、成長しているのか転ぶシーンはあまり後半には出てこない印象です。
 「転びマスター小依さん」のシーンだけでなく、小依さんが「ドジっ子」であることを表すシーンも併せてまとめてみました。右から古い順に並べてあります。



 原作第3巻14ページ「納得」 家庭科の授業での調理実習です。小依さんが転びそうになり、持ってきたお砂糖が全量入ってしまったシーンです。これは確かに焼いたら真っ黒になりますね(苦笑)
 原作第3巻51ページ「舞い散る」 階下でみやこさんと夏音さんがプリンを作っている際のひなたさんのお部屋の様子。小依さんのくしゃみにより舞い散ってしまいましたが、ね●ねる●るね的な粉状のお菓子を作ろうとしていたようです。
 原作第3巻52ページ「弾ける」 イチゴ味のポテチを開けようとした小依さんが、ポテチバーン現象により周囲にまき散らしてしまっている様子。
 原作第3巻120ページ「二人の関係」 「みんなから集めた大事なプリントをなくした」際の様子。廊下を直進していたはずの小依さんが急に右に90度ターンをしてから転びそうになり、窓の外にプリントを放り投げる形になってしまっていますね。



 原作第4巻87ページ「ドジに針」 文化祭の劇で使う衣装をみなさんで作っているシーンです。どうやら「ふふん」と得意げになってしまうと「いいところを見せよう」という気持ちが強くなってしまい、作業に失敗するように見受けられます。
 原作第4巻95ページ「ひとコマ漫画」 落ち着いて作業することで失敗なく上手にできるようです。ちなみに作中では「ドジ=小依さん」「不器用=花さん」という分類がされているようです。



 原作第4巻112ページ「反射」 的に当てて跳ね返ってきたボールを顔面にヒットさせてしまう小依さん。ある意味で非常に器用なことをされているように思えます。
 原作第4巻113ページ「天丼」 空きペットボトルをピンに見立て、ボーリングで勝負する小依さんたち。原作ではコマ割りの淵に跳ね返ってきているような演出になっていますが、アニメでは自由落下したボールが頭に当たっているようです。手を放すタイミングが若干遅かったようですね。
 原作第4巻136ページ「無計画」 「困っている人を助けたい!」という思いが先立ち声を挙げたものの、よくよく考えてみると妙案が浮かばなかったようです。残念な感じですが、その心意気は素晴らしいですね。
 原作第4巻137ページ「かのんジョーク」 普段言い慣れないジョークを頑張って言ってみた夏音さん。誰もが「うーん……」となっているところに、夏音さんのことをよく知る小依さんが「冗談が下手ね」と。こういう点を即座に見抜けるのは幼馴染の特権かもしれません。普段から夏音さんのことをよく見つめているということですね。



 原作第5巻36ページ「そこまでのドジ」 体育の授業中にバク転をしたひなたさんがクラスメイトから歓声を受けたことを見て、小依さんが「バク転をするわ!」と思い立ち、それをフォローしようと奮闘する夏音さんのお話です。恐らくバク転ができるのはクラスの中でもひなたさんだけと思うのですが、それを小依さんの為に「まず自分ができるようになる」という目標を立てた為、みんなに内緒でひなたさんに頼み込み放課後に特別レッスンをしてもらうのでした。一方の小依さんは靴下を脱ぐだけでも転んでしまっているという、前途多難な様子を表したシーンです。
 原作第6巻27ページ「第一被害者」 クリスマスイルミネーションを見ようと、みんなで街に繰り出した天使たち。小柄な小依さんは雑踏に揉まれて流されていってしまいました。
 原作第6巻29ページ「詰み」 走って合流しようとする小依さんとひなたさん。滑る地面により小依さんは背後に、ひなたさんは前に転びそうになり、お互いがお互いを支える形となり奇跡的なバランスで転ばずに済んでいるようです。これはこれですごい。



 原作第6巻65ページ「用意よくない」 元旦早朝デートをする為に、小高い神社まで夏音さんと共に登ってきた小依さん。温かいお茶を持ってきたとのことでしたが、夏音さんが飲んでみると冷たいお茶だったのでした。ただ、そのことは小依さんには伝えず自分の中だけに留めておこうと気遣える夏音さんはやはり大人組ですね。
 原作第6巻68ページ「衝撃の事実」 夏音さんが内緒にしていた「冷たいお茶」ですが、あっけなく小依さんにも知られてしまうのでした。この後の「(かの、冷たいなんて一言も言わなかったのに・・・)かの、ありがと」「えへへ・・・」といったお二人の様子を思い浮かべると、自然と笑顔になりますね。



 原作第6巻130ページ「トラウマ」 星野家で天使たちがチョコ作りに勤しんでいます。小依さんはラッピング担当ということで、夏音さんの配慮が見て取れます。針を指に刺すことも危険ですが、包丁では最悪指を切り落としてしまう可能性があります。夏音さんが震えているのも分かりますね。なお、小依さんがチョコ作りをするお話として「バレンタイン・イヴ」という作品があります。
 原作第7巻31ページ「説得力」 小依さんのお誕生日当日のお話です。夏音さんより少し大人になれたと上機嫌の小依さんはノートを集めて職員室まで届ける役を買って出ましたが、みなさんのイメージ通りの展開となってしまいました。張り切る小依さんの思いを無下にせず、口も手も出さずにいた夏音さん。「やる時はやるんだよー」と誇らしげでしたが、ノートをばらまいてしまっている音を聞いて自信がなくなってきてしまっているようです。
 原作第7巻41ページ「プロ」 お誕生日デートのお話です。夏音さんの為にネコカフェに入る小依さん。ネコカフェデートは大成功でしたね。その後「山」に行くという小依さんについていこうとした夏音さんでしたが、地面の段差で転んでしまいました。安全な転び方をレクチャーする小依さんは「転びマスター小依さん」としての真骨頂が発揮されています。



 原作第8巻14ページ「偶然か必然か」 ここからの4ページは6年生に進級した乃愛さんが「クラス替えで離れ離れになってしまうのでは」と不安を感じているお話です。こちらでは夏音さんと小依さんはこれまで別のクラスになったことがないという衝撃の事実が語られています。
 原作第8巻15ページ「こよりちゃんにおまかせ」 「クラス委員(学級委員)」という役職に絶大な信頼を置いている小依さん。既に(夏音さんと共に)クラス委員になった気になっている小依さん、かわいいですね。
 原作第8巻16ページ「杞憂」 そして花さんから衝撃の事実が。どうやらプリントに書かれていたようですが……。乃愛さんは嬉しい反面、ここまでのやり取りは何だったのかというお顔をされていますね。
 原作第8巻17ページ「うっかりこよりちゃん」 君子豹変す。「そういえばそうだったわね・・・」という表情の小依さんですが、誤っていたときははっきりきっぱり謝ることができていますね。さすが大統領の器(微笑)



 原作第8巻55ページ「やる気は満点」 小依さんの「×」型のバレッタのお話です。放課後にお掃除しているのですが、小依さんが動く度に散らかっていくという(苦笑)。ここでは珍しくあのひなたさんがツッコミ役を担当していますね。
 原作第8巻56ページ「軽い理由」 ごみ捨てに行った小依さんでしたが、からっぽのごみ箱を抱えて行ってしまったようです。走って行かれたので、「コケッ ガランガラン」という絵面が浮かんでしまいますが大丈夫だったのでしょうかね。



 原作第8巻124ページ「戦力外3」 「戦力外1」は文化祭のお洋服を作る際に指に針を刺してしまったこと、「戦力外2」は同じく文化祭の飾りのお花をフェルトで作ろうとしてダメだったことでした。今回はお花見用のお花を布で作ろうとしていましたが、花さんと小依さんにはやはり難しかったようです。
 原作第8巻125ページ「言うは易し」 夏音さんの「ぽしょぽしょ」が可愛らしいですね。自分がアドバイスすることで小依さんが活躍できることに幸せを感じているお顔です。結果うまくいきませんでしたが、それにしてもこの「ぽしょぽしょ」の情報圧縮率には舌を巻きます。
 原作第8巻130ページ「ゴミ」 現在までに発刊されているわたてん原作マンガの中でも、恐らく最大の失言ではないかと思います。みやこさんも乃愛さんのようにお二人の様子をよくよく観察してから発言されるとより良いのではないかと思います。



 原作第11巻32ページ「首トン」 暇を持て余した天使の遊びとして「みゃーさんねかしつけせんしゅけん!」が開催されました。一番手の小依さんは肩揉みで気持ち良くなってもらおうとするのですが、気合が入り過ぎて「首トン」になってしまいました。やはり小依さんの課題は「如何に平常心で居られるか」という点に尽きると思います。
 原作第11巻94ページ「大人の姿」 大人になりたい小依さんは、みやこさんにお化粧・整髪・コスプレなど手伝ってもらい大人っぽい姿に変身します。しかし、ブラックコーヒーの苦手な小依さんは一口飲んで戻してしまうのでした。花さんは酔い潰れている大人をよく目にしているようですね(苦笑)
 原作第12巻19ページ「プール遊び」 松本家を含めた子どもたち全員でプールに遊びに来ました。細かいですが、こちらの3コマ目で久しぶりに小依さんが転びそうになっています。
 原作第12巻28ページ「説得力」 「よりねぇゆーかいはんだからみはってる」とおっしゃる友奈さん。それに対し「よりちゃんはとってもやさしくて頼りになるお姉ちゃんだよ」と夏音さん。ところが、「あっつ!」「あっ!」「あっ ごめんなさい!」とここぞとばかりに小依さんのドジが炸裂。夏音さんも立場がないのか珍しく厳しいお顔をしていますね。



 原作第12巻83ページ「夏が旬」 お母様がお仕事の為、お夕飯を作ることになった夏音さん。小依さんにリクエストを聞きますが「旬のもの」ということで「流しそうめん」ということに。2コマ目の夏音さんは珍しく小依さんに的確なツッコミを入れていますね。これまでの「よりちゃんダメ!」「ほらもー」とは異なり、お友だちがいない場ではより距離感が近くなるのか率直な物言いになるようですね。
 原作第12巻94ページ 本公演会でも登場しました「流しそうめん」です。牛乳パックを組み合わせて、非常に上手に作っていますね。確かにハンバーグよりは流しそうめんの方が旬と言えるかもしれませんが(苦笑)
 原作第12巻95ページ「ひとコマ漫画」 牛乳パックで器用に流し台を作り、ボウルとザルまで用意して準備は完璧……に思えましたが、肝心のそうめんを用意していなかったようです。あはは…… 自宅にそうめんがあるといいのですが、もしなかった場合お買い物のやり直しとなるのですごい手戻りですね。この後夏音さんがどのようにリカバリしたのか気になります。



 原作第13巻68ページ「危険度増」 道端でばったり出会った小依さんたちと松本さんたち。「こよねぇも一緒に散歩行こ!」という友奈さんのお願いを聞き入れる形で走り出すのですが夏音さんたちとはぐれてしまい探すことに。その際のシーンなのですが、3コマ目で友奈さんに褒められて得意げな小依さんはやはり転びそうになるのでした。
 原作第13巻112ページ「私は間違えない」 修学旅行でのひとコマ。修学旅行では終始小依さんがリーダーとして奮闘しましたが、たまにこのようなミスをすることも(苦笑)
 原作第14巻129ページ「確定イタズラ」 6年生の文化祭でのひとコマ。仮装衣装を着てお菓子を配るのですが、「トリック・オア・トリートって言ってお菓子受け取らない人にイタズラするんだぞ!」とのこと(ひなたさん談)。小依さんはお菓子を持っていない(転んで撒いてしまった)ことから、イタズラ確定ということですね。
 原作第15巻79ページ「迷子RTA」 クリスマスのお話。イルミネーションを見に駅前まで出てきた天使たちですが、小依さんは集合する前の段階で消えてしまったとのこと。原作第6巻27ページ「第一被害者」と対になるお話ですね。ちなみに、この後小依さんと夏音さんは二人きりで綺麗なイルミネーションを見て回ったようです。


 このように、小依さんは「想いが先走ってしまい、体がついてこない」為に毎度転びそうになっていることが分かります。本公演会の「第17章」冒頭に於いても、尋常ならざる様子の夏音さんから「逃げて」と懇願されたことで動揺していることが読み取れます。
 「誰かにいいところを見せたい」「褒められて有頂天になっている」ような状況で発生しやすいようですので、小依さんは落ち着いて周囲を見渡す余裕を持つ、客観的に現状を捉えることで(是非はともかく)より大人のような振る舞いが可能になると思います。





■キスに込めた密やかな想いについて



 第19章終了後のご感想タイムにて、小依さんより上記の説明がありましたので詳しくまとめてみます。
 まず「キスをする場所によって想いを伝える」という風習は元々海外の文化であり、日本に於いてはあまり浸透していない概念であろうと考えられます。少なくとも「○○にキスをしたからこう思っているのだな」という統一見解を広く共有できていないのが現状と思われます。
 (もっとも、お若い世代の小依さん夏音さん、そして乃愛さんは重々ご理解されて(かつ運用されて)いるように見受けられますが)
 その為、想い合うカップル同士での決め事である場合がほとんどでしょう。以下に記載しますのは微に入り細に入り分類をしたくなる一種の「若者文化」として、辛うじて統一見解を得られているように見受けられるインターネット上の情報をまとめたものになります。

※以下、第19章での登場順に上から並べています。

キスをした人 キスをする部位 そのキスに潜ませている想い
小依さん → 夏音さん お鼻 慈しむ気持ち・かわいがりたい・守ってあげたい
小依さん → 夏音さん おでこ 信頼する気持ち・友愛の気持ち
小依さん → 夏音さん ほっぺ 親愛の気持ち・かわいい・愛でたい
夏音さん → 小依さん 恋慕の気持ち・恋愛愛情
夏音さん → 小依さん 執着心・自分のものにしたい・独占欲・性的な魅力を感じている
夏音さん → 小依さん 性的な魅力を感じている・恋愛感情・スキンシップしたい
小依さん → 夏音さん 手の甲 敬愛の気持ち・尊敬・大きな敬意・相手の気持ちを尊重
小依さん → 夏音さん まぶた 憧れの気持ち・大切に思う気持ち・理想的な人だと感じている
夏音さん → 小依さん お腹 癒しを求めている・疲れている・ゆっくりしたい
夏音さん → 小依さん 情欲の表れ・性的魅力を感じている
小依さん → 夏音さん 背中 もっと愛情を伝えたい
小依さん → 夏音さん 髪の毛・頭部 親愛の気持ち・かわいい・守ってあげたい
今回は対象外 ストレートな恋愛感情



まさに小依さんがおっしゃる通り
「私はずっと、「かののこと守りたい、尊敬してる、いとおしい」って意味のキスをしてて」
「かのはずっと、「癒されたい、愛しあいたい」って意味のキスをしてるの」

ということになります。





■ワルプルギスの夜との死闘。そして、ほむらさんによる介錯。



 第20章のご感想チャットログに、「テレビ版の再現度の高さ」についての会話がありました。ここでは魔法少女まどか★マギカの原作アニメから該当のシーンを抜粋しつつ、その再現度の高さについてまとめてみたいと思います。

 ※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約255MBです。

※編集注
 動画にはこれまで天使のみなさんには伏せてきたシーンが登場します。ほむらさんとまどかさんの演技力の高さによりダメージを受けてしまう方がいらっしゃるかもしれません。
 天使のみなさんはそれぞれ親御さんとご一緒に。小依さん夏音さんは周囲の大人の方とご一緒に以下の動画を閲覧するようにしてください。



【シーン解説】

 基本的な解説は動画の下部にテキストとして加えております。
 ここでは動画に入りきらなかった注釈を記載いたします。

・動画の順序について
 今回は「第20章」をなぞる形で、それに近しいシーン・セリフのあるパートを繋げています。前半は原作第11話、後半は原作第10話から抜粋しています。
 つまり、「通常の視聴方法では順序が逆になる」ことにご留意ください。

・劇場版における秘話
 実は、TVアニメ総集編となる[新編]の前後編映画では、ほぼすべての音声を新たに録り直しています(鹿目まどか役の悠木碧さんの証言より)。
 唯一の例外として、このTVアニメ第10話の「介錯」シーンのセリフだけはTVアニメのものがそのまま流用されています。理由として悠木碧さんが以下のように証言されています。

 「私たちみんな、映画になる!ということでTV版を上回るような「劇場盛り」をしようと取り組みました。この10話のシーンももちろん録り直したんですけど、どうしてもTV版を越えるものにならなくて。結局、音響監督の鶴岡さんの判断で「TVアニメ版の音声をそのまま使う」ということになりました」

 即ち、TV版の音声が至上であり、後から録り直したものでは置き換えることができなかったという意味となります。
 確かに、ほむらさんの「~~~~~~~!!!!」の鬼気迫る感情であったり、今にも息絶えそうなまどかさんの息遣いなどは、後から再現できるものではない気がします。
 音響監督さん、そして担当した声優さんが「これ以上のものはできない」と言い切る今際の際のシーン。ご堪能ください。





■天使たちの担任、山中先生について。



 わたてん!世界に於ける常識人枠であり、天使たちを直接的に導く担任の先生です。アリスさんが触れられているように、「天使のまなざし」というある意味伝説的な文化祭の劇を生み出した作家先生でもあります。
 この「天使のまなざし」はアニメに於いてもかなり重要なものであり、アニメ最終話Aパートのすべてを使用して表現されていました。内容としてはアニメ1~12話までの総括を様々なモチーフを用いて行うミュージカル劇となっていました。

 それでは、ここで山中先生のご紹介ということで第5話の「生徒たちの奇行を目撃しては、教師としてどう対処すべきか頭を悩ませている」シーンから、第11話の文化祭準備~第12話の劇本番~山中先生とのご挨拶の様子を動画でご覧ください。

 ※Windows/Android/iOS上のChromeブラウザにて再生確認しております。動画形式は「mp4」、ファイルサイズは約234MBです。


【シーン解説】

どのようなシーンであるかは動画の下部にテロップとして簡単に書き込んでおります。
以下、特筆すべきと感じるポイントや、説明が必要と思われる箇所について述べさせていただきます。

■第5話「いいから私にまかせなさい!」

 普段から仲睦まじいよりかのペアですが、この時ばかりは(外野からすると)不穏な空気に見えてしまいました。もっとも、「夏音さんを動けないようにして小依さんに頼ってもらう」というアイデアは乃愛さんのものですので、恐らく小依さん夏音さんお二人だけでは出てこない発想なのではないかと思います。
 なお、原作ではアニメとやり取りが変わっており、山中先生が大きなショックを受けていることが分かります。


 原作3巻 第28話 132ページ「最高の笑顔」  同133ページ「ひとコマ漫画」

 業務後、保健の園崎先生に付きあってもらい飲み屋さんへ。愚痴や相談などを聞いてもらっているのでしょう。
 教員同士もこのように支え合う様子が描かれているのはほっとしますね。
 通常であれば生徒同士のおふざけですので「そんなこともあるかもね」と軽く流されてしまう案件かもしれません。しかしながら、山中先生はそれでも真剣に受け止めてなんとか生徒を正しく指導したい。寄り添いたいと苦悩されています。
 佐倉杏子さんのお父上同様、時代が時代なら聖職者になっていたかもしれませんね。

 天使のみなさん。山中先生の心労が大きいのであまり突飛なことはしないよう心がけましょう(苦笑)。

■第11話「つまりお姉さんのせいです」

 文化祭で披露するミュージカル劇について、夏音さんが「先生が用意してくれた、オリジナルのお話なんです」とおっしゃっています。この場合の「先生」は山中先生でしょうし、オリジナルのお話とのことでどこかから引用してきた物語でもなさそうですので「完全に山中先生のオリジナル作品」であると考えられます。
 第12話のAパートも動画にまとめましたが、よく見ると生徒同士の普段の関係性までをも把握した配役となっていることから確かに担任の山中先生にしか作れないお話といえるでしょう。天舞市の才女、ここにあり。
 ちなみに動画に途中で出てくるテロップの「デスゲーム」ですが、これは原作の該当箇所の4コマ漫画タイトルです。今回の動画は解説テロップだけでなく私の個人的な感想や着目点も入れ込んでおります。ノイズに感じられたら申し訳ございません。

■第12話「天使のまなざし」

 最終話となる12話タイトルは「天使のまなざし」です。Aパートまるごとすべてこの劇に充てていることが大きな理由ですが、12話ラスト付近の体育館裏でのみやこさんと花さんの逢瀬にて花さんのやわらかくやさしいまなざしを拝めますので、そこにもかかっているのでしょう。
 第11話までのタイトルはすべて「その話中の誰かのセリフ」でしたが、第12話だけはミュージカル劇の作品名となっていることが相違点と言えるでしょう。
 以下、ミュージカル劇「天使のまなざし」に於いて、天使たちが「なんでかな?」「不思議だね」「どういう意味?」とよく話しているポイントについて挙げていきます。

 ▼天使たちの歌う歌について

  最近の小学生は歌唱力が非常に高いようで、プロ顔負けの声量と安定した音程を保っていますね(微笑)。
  といった野暮な揶揄は置いておきまして、この劇は「ミュージカル」ですので演技パートと歌唱パートが入り乱れて観客に届けられます。感情を大きく乗せて楽しげに、そして悲しげに歌う天使たちはそれだけで見応えがあります。
  ここで、基本的な情報として天使たちの歌う歌の歌詞を列挙してみましょう。文字色は例によって歌っている天使のイメージカラーであり、<>内は曲名です。


  <天使の眼差し Prologue>
   スイ  :大きな空に 天使と人の世界 人は大地に天使は空に 天使たちは人を愛で結び繋ぐ 新しい花が咲き廻る世界 天使と人の物語
   レン  :大きな空に 天使と人の世界 人は大地に天使は空に 天使たちは人を愛で結び繋ぐ 新しい花が咲き廻る世界 天使と人の物語
   デイジー:                         天使たちは人を愛で結び繋ぐ 新しい花が咲き廻る世界 天使と人の物語
   カルミア:                         天使たちは人を愛で結び繋ぐ 新しい花が咲き廻る世界 天使と人の物語

  <私を呼ぶ声>
   アネモネ:声が聞こえる 私を呼ぶ声 不思議な世界が待ってる
   アネモネ:たくさんの光に包まれて なんてまぶしい世界 私を呼んでいる 穏やかな愛に溢れている 素晴らしい世界

  <ようこそ天使の国へ>
   レン  :色とりどりの花が咲き誇る 素敵な場所 天使の国へ「ようこそ!」
   スイ  :                        「ようこそ!」 いつでも笑顔の 仲間たちと一緒 幸せに暮らしてる
   レン  :初めて薫る風          初めて芽吹いた気持ちは 世界を埋め尽くす愛
   スイ  :       初めて瞳に映る色 初めて芽吹いた気持ちは 世界を埋め尽くす愛
   レン  :天使の仕事 それはたったひとつ 愛を人に届けるのこの弓矢で
   スイ  :天使の仕事 それはたったひとつ 愛を人に届けるのこの弓矢で

  <恋するお菓子屋さん>
   デイジー:おいしいスイーツ          「クッキー」       「カップケーキ!」 もうすぐオープン 二人のお店
   カルミア:         おひとついかが?       「マカロン」 「カップケーキ!」 もうすぐオープン 二人のお店
   デイジー:この街のみんなに届ける幸せの味 「とびきりのデザート!」
   カルミア:この街のみんなに届ける幸せの味
   デイジー:「はぁ…… 素敵な出会い、ないかしら?」
   カルミア:「デイジー、恋に恋してないで、手伝って?」
   デイジー:「カルミアは、好きな人いる?」
   カルミア:「私は…… お店が忙しいの! ほら、手伝って」
   デイジー:「はーい」 弾む心 感じたいの 「綺麗な羽根……」

  <あの子に会いたい>
   アネモネ:この胸がしめつけられるの あの人を見た時からずっと
   デイジー:                          あの子は今何をしてるんだろう この胸の高鳴り
   アネモネ:あの子に会いたい 私の胸に           確かめたい
   デイジー:あの子に会いたい      芽生えたこの気持ち 確かめたい

  <決意>
   アネモネ:踏みしめる冷たい雪 足から伝わる痛み「これが寒さね」
   アネモネ:そう私は決めたの 懐かしくやさしい天使の国離れ あなたのもとへ向かうわ
   アネモネ:この胸に芽生えた気持ちは もう止められない
   アネモネ:さあゆこう 希望胸に抱いて あなたのもとへ 愛の花咲かせよう

  <受け継ぐ心>
   アネモネ:この胸に愛が 芽生えて気づいた あなたへ届けたいこの気持ち
   マリー :                              話に聞いた美しい天使 憧れていた まるでおとぎ話
   アネモネ:今二人巡り合った わたしたち このケーキを受け継いでゆくの いのち尽きるまで
   マリー :今二人巡り合った わたしたち このケーキを受け継いでゆくの いのち尽きるまで
   アネモネ:初めて芽吹いた 風を感じる 初めて目にした あざやかな色 初めての愛が 世界を包みゆく
   デイジー:初めて芽吹いた 風を感じる 初めて目にした あざやかな色 初めての愛が 世界を包みゆく
   マリー :初めて芽吹いた 風を感じる 初めて目にした あざやかな色 初めての愛が 世界を包みゆく

  <天使の眼差し Epilogue>
   スイ  :大きな空に 天使と人の世界 人は大地に天使は空に 天使たちは人を愛で結び繋ぐ 新しい花が咲き廻る世界 天使と人の物語
   マリー :大きな空に 天使と人の世界 人は大地に天使は空に 天使たちは人を愛で結び繋ぐ 新しい花が咲き廻る世界 天使と人の物語
   アネモネ:大きな空に 天使と人の世界 人は大地に天使は空に 天使たちは人を愛で結び繋ぐ 新しい花が咲き廻る世界 天使と人の物語
   デイジー:大きな空に 天使と人の世界 人は大地に天使は空に 天使たちは人を愛で結び繋ぐ 新しい花が咲き廻る世界 天使と人の物語
   レン  :大きな空に 天使と人の世界 人は大地に天使は空に 天使たちは人を愛で結び繋ぐ 新しい花が咲き廻る世界 天使と人の物語

 ▼映像面でのポイント

  「天使のまなざし」というミュージカルは、15分30秒という短時間でひとつのお話にまとまっています。その為、セリフや歌で説明されない事情などが映像の中に組み込まれているシーンがあります。
  そのような箇所を抜粋してみましょう。

  
  ミュージカル冒頭。オープニングテーマとなる「天使の眼差し Prologue」が歌われます。歌の歌詞にもありますように「人は大地に天使は空に」住んでいることが示されます。(大地側にいる天使は「人を愛で結び繋ぐ」というお仕事の為に飛来して来ていることを示唆しているのでしょう)
  なお、エピローグにも同じ歌が流れますので、そことの相違点を比較する為にここの情景は気に留めておくとよいかと思われます。

  
  アネモネの花びらを模したポンチョをお召しの花さんが登場し、みやこさんによるイメージ映像に切り替わっていきます。
  天使の国に生まれ出でたアネモネの前に現れたのは、スイとレン。アネモネの「ママとママ」ということで保護者としてアネモネに色々なことを教えてくれます。
  なお、この「ぽしょぽしょ」シーンですが、恐らくミュージカルの脚本としてそのまま取り入れられているものと思われますので、山中先生は配役された二人(よりかの)が普段からこのようなやり取りをしていることをよく見ているということになりますね。

  
  「アタシはヒナタちゃんのお姉さんの役と、もう2つ。3つも役をやるのー!」と第11話にて乃愛さんがみやこさんにおっしゃっていました。つまり、デイジーとカルミアは姉妹ということになります。
  ただ、カルミアはデイジーに強い恋愛感情的愛情を持っています。それが分かるのが上図のシーン。ミュージカルでよく見かける「全身をお相手に委ねる」という仕草を、カルミアはデイジーに対して行っており、デイジーもそれをしっかり受け止めています。
  このポーズは身を委ねた側の「求愛・求婚のポーズ」とされていますので、カルミアはデイジーに言葉で伝えることはできないのですが、生涯を添い遂げるお相手としてデイジーと結ばれたいという強い気持ちを持っていることが読み取れます。

  
  「素敵な出会い、ないかしら?」と恋に恋するデイジー。お店の窓から街を眺めると、りんご入り紙袋を持ちながら仲睦まじく寄り添う二人の女性が目に入ります。
  このお二人はこの直前のシーンでスイとレンが「愛で結び繋いだ」新しいカップルさんです。そして、明言はされていませんが実際のひなたさんたちのクラス内に於いてもこのお二人はカップルなのではないかと思われます。
  以下、その裏付けとなるであろう原作エピソードを抜粋します。


  右から
  原作第10巻 第84話 108ページ(運動会のお話)
  原作第11巻 第89話 55ページ(外出中の逢瀬)
  原作第13巻 第106話 115ページ(修学旅行での就寝前のお遊び)

  このお二人はお名前すら設定がありませんが、クラスメイトの中ではレギュラー的存在です。「登場する際には高確率でお二人一緒である」、「距離感が小依さん夏音さんと同程度に近い」、修学旅行のお話を見るに「それぞれ特定の好きなお相手がいるが明言するのは恥ずかしい」といったことが読み取れます。
  椋木ななつ先生が明言されていませんので推測の域を出ませんが、お二人は親友、幼馴染、恋人同士のいずれか(またはそれらの組み合わせ)であろうと思われます。



  「私は天使。愛を届けなくては」とアネモネが義務感から放った矢。これがどこに(誰に)刺さったのかを考えてみると、この先の展開から恐らくデイジーに刺さったものと思われます。
  つまり、アネモネは何の気なしに放った矢によって自らの恋路を絶ってしまったことになるのではないかと。非常に悲しい因果を感じます。

  ■ 更なる深読み ■
    天使のお仕事についての説明として、次のように歌で歌われています。
    「天使たちは人を愛で結び繋ぐ」
    これは次のように言い替えることができるのではないでしょうか。
    「天使たちは人間たちを愛で結び繋ぐことが仕事であり、その為の道具として弓矢を使う」
    回りくどいようですが、ここでポイントとなるのは「天使たちは人間たちを」というところ。
    つまり、「天使に対しては効果がない」「人同士でのみ効果を発揮する」「人または天使に刺さっても、種族を越えた存在を好きになることはない」のではないでしょうか。
    この点に留意しながら、次に参りましょう。


  窓辺に座っていたデイジー。先のアネモネの矢が刺さった(であろう)状態のまま、アネモネの残した羽根を見つめ「あの子は今何をしてるんだろう」と案じるデイジー。時同じくしてアネモネもデイジーが気になり、気持ちを確かめに下界に降りてきました。


  「これ。君の羽根をモチーフに作ってみたんだ」とカップケーキをアネモネに差し出すデイジー。次の瞬間、カルミアから「どうしたの? デイジー」と声がかかり後ろを振り返ります。




  敢えてセリフは挟まず、デイジーの表情だけに注目してみましょう。
  1枚目:ここでデイジーは、天使の矢が刺さった状態で初めて人間(カルミア)を目にしています。
  2枚目:ここは別の留意ポイントですが、天からやってきたアネモネを迎え入れる為に立ち上がっていたデイジーが、カルミア視点では「しゃがみこんでいるように見える」シーンです。
  3枚目:少し時間差はありましたが、カルミアを見て「何かに気付いた様な表情で」「頬が紅潮している」デイジー。

  セリフを交えると、3枚目の表情は「カルミアにはアネモネは見えていないんだ」という気づきを得た時の表情として見えますが、セリフを排してみますと「あれ、カルミアのことが好きかも? 好きになっちゃったかも? あれ??」と戸惑っているような表情にも見えます。


  「私は人間。天使のあなたと結ばれても、先に死んでしまう……」「ごめんなさい……」
  昼間に感じた恋心は確かなものだったはず。でも、今カルミアに対して感じている想いも本物だと感じる。
  デイジーは自分の気持ちが分からなくなって混乱してしまっていますが、「上書きされた」想いを選択する形でアネモネには苦しい理由と別れを告げるのでした。

  いかがでしょう。これらのことから私の解釈としては
  「アネモネの放った「人間同士を結び付ける」効果を持つ弓矢を受けたデイジーは、同じ人間であるカルミアを見つめたことで弓矢の効力が発揮され「昼間に感じたアネモネへの恋心を上書きされて」しまい、アネモネとの恋を諦めた」
  という、非常に入り組んだ悲恋として捉えています。
  先に「好きだ」と感じたお相手(アネモネ)により、別の人(カルミア)を「好きにさせられてしまった」形ですね。そしてそのことをデイジーも、アネモネ自身も理解できていないという。
  悲しい形で運命の歯車が回ってしまいました。


  すべてを見つめていたビッグノア……もとい、カルム様が登場します。カルム様のお姿は「3対6枚の翼を持つ」ことから、天使の九階級の最上級「熾天使」であることが分かります。
  公演会でお馴染みの「乃愛さん=熾天使」という概念は、その頭の回転の速さや心情を察するEQの高さ、語彙力の豊富さだけでなく、このアニメのカルム様のイメージもかなり影響していると思われます。

  以下、カルム様とアネモネのやり取り、スイとレンのセリフを明文化してみます。

   「あの人間の少女は、そなたの愛を受け入れなかった。それが答えです」
   「それでも、そばにいたい。デイジーと一緒に」
   「人間と愛を結ぶ唯一の道は、そなたが人間となり、時の峠を越えること」
   「あ…… なれるのですか? 人間に」
   「しかし、人間となったそなたの愛を少女が受け入れなければ、そなたは消えてしまうでしょう」
   「……!」
   「それでも行くというのなら、試練の門を開きましょう」
   「アネモネ!」
   「アネモネ!」
   「行くのね……。止めないわ。悲しいけど」
   「素敵な愛の形ですものね」
   「うん!」
   「カルム様、お願いします!」
   「分かりました。では……!」

  動画下部のテロップでも記載しましたが、ここではカルム様による「会話のすり替え」が行われています。
  最初にカルム様がおっしゃった「あの人間の少女」とは間違いなくデイジーのことです。
  しかしながら、その次の「人間と愛を結ぶ唯一の道は~」の箇所で言及している「人間」はデイジーのことではなく、人間全般のことを指していると考えられます。
  (ここで「あの人間の少女と愛を結ぶ唯一の道は~」とおっしゃっていれば、デイジーとのことを話していると素直に受け止められたのですが……)
  「デイジーと一緒にいたい」というアネモネに対し「人間(全般)と愛を結ぶ唯一の道は~」と応えるカルム様。冷静に見るとまったく会話が成立していません。
  この気持ち悪さはまさしく「インキュベーターと魔法少女候補のやり取り」を想起させます。「論点のすり替え」ですね。
  そして悲しいのは、恐らくは立ち会ったスイもレンもアネモネと同じ認識であるという点。もしカルム様と同じ認識を二人が持っているならば、娘のように育ててきたアネモネに対してこの場できちんと確認するはずです。
  「デイジーとはもう結ばれることはないのよ。デイジー以外の人間と結ばれる為に人間になる。それでいいのね?」と。
  つまりこの場にいるカルム様以外の天使は、全員「アネモネが人間となることでデイジーと結ばれる」と信じていることになります。無慈悲ですね……。


   「夜明けまでに峠を越え、少女の元へ行くのです。急ぎなさい、あまり時間はありません。」
   「はい」

  ここでも「あの少女」「あの人間の少女」ではなく「少女」としか言っていません。カルム様の中では「デイジーのことは諦め、これから出会う新たな少女と結ばれ幸せになってほしい」という想いが根底にあるものと思われます。

  ■ 更なる深読み ■
    恐らくですが、あの天使の弓矢による効力は非常に強力なものであり、取り消すことができないのだろうと思います。
    その為、アネモネ(の不注意)により放たれた弓矢の効力が発動してしまったデイジーを元の状態には戻せないという判断をカルム様はしたのでしょう。
    そして、天界にいるよりも人間界にいた方がアネモネ自身もデイジーのような素敵な人と出会える可能性が高いと踏んだのでしょう。
    アネモネやスイ、レンを傷つけることなく、言葉を選んで穏便に人間界へ送り出した────。カルム様の言動はそのように捉えることもできます。
    熾天使たる者、決して意地悪をしたり、カルミアだけを贔屓したりすることはありません。天使長としてカルム様も可能な限りのことをしたのではないかと考えます。



  デイジーに会いに来たアネモネ。出迎えてくれたのはデイジーの孫娘、マリーでした。
  「残念だけど、おばあちゃんは、もう……」と、既にデイジーが天寿を全うしたことを告げられます。

  ■ 更なる深読み ■
    私も不思議に思ったのですが、何故デイジーの「娘」ではなく「孫娘」だったのでしょう。
    恐らくですが、デイジーの「娘」は(デイジーの血が濃すぎて)見た目が完全にみやこさんだったのではないでしょうか。(星野家の血という意味で)
    もしそうであるならば、その「娘(みやこさん)」とアネモネ(花さん)が結ばれると一見、アニメの内容と完全に一致しているように思えて綺麗にまとまります。
    しかしながら、その場合どうなるかと言いますと「完全にカルミア(乃愛さん)の要素が抜け落ちてしまう」ことになります。そうなるとラストに3人の天使(花さんひなたさん乃愛さん)が
    仲良く天に召されるという感動的なシーンを作ることができず、またミュージカルに「観客であるみやこさんが登場することになってしまう」ことから、作劇上の都合により
    「デイジーの忘れ形見であり、隔世遺伝でカルミアの形質を強く引き継いだマリー」と結ばれることになったのではないかと想像しています。
    製作スタッフ側からこの辺りの種明かしをしてほしいところではありますね。


  「私、消えるはずなのに……」

  デイジーが亡くなっていることから、「愛を受け入れてもらえる存在」が既にこの世にいない為、自分は消えるものと思っていたアネモネ。
  ここで、もう一度カルム様の言葉を思い出してみましょう。

  「しかし、人間となったそなたの愛を少女が受け入れなければ、そなたは消えてしまうでしょう」

  そう。ここで「少女」と言うに留めていたカルム様の言葉が効いてきます。つまりデイジーに限った話ではないということです。



  いつもここで泣いてしまいます;; 年を取りましたかね……。
  弓矢の効力によりカルミアと結ばれたデイジー。しかし、心の奥底では初めて恋に落ちたアネモネのことを忘れられず、「お店の看板商品」としてアネモネの羽根をモチーフとしたカップケーキを作り続けました。
  更にはそれを孫娘にも伝授し、末永くアネモネの象徴として残そうとした。そんなデイジーの想いにいつもここで感涙してしまうのです。
  (もちろん、看板商品の由来はカルミアそして子々孫々には秘密にされています。マリーも看板商品であること以上のことは知らない様子ですが、ここでアネモネがカップケーキを見ることで初めてその意図に気付くのです)


  「おばあちゃんがよく言ってた。いつか天使のような人が来たら、食べさせてあげたいって」
  ここも涙が……。「天使のような人」とはつまり、アネモネご本人のことでしょう。
  デイジーはカルミアと結ばれ、娘や孫娘をもうけて順風満帆の人生を送ってきましたが、胸の内では常にアネモネのことを想い焦がれていたわけですね。

  ■ 更なる深読み ■
   もちろん、カルミア側から見れば生涯を通して精神的な不倫(浮気)をされ続けていた訳ではあります。
   しかしながら、元々のカルミアとの馴れ初めも偶発的な事故による「天使の矢」という強制力のあるものであったことから、
   私は個人的にはデイジーの純愛を応援する立場にありたいと思ってしまいます。
   家族には明言を避け、一人密やかにアネモネを待ち続けたデイジー。臨終の床でその胸に去来したのはどのような想いであったことでしょう。


  赤子に「特徴的な前髪」があることから、このお写真は祖母デイジーがマリーを抱いているところと分かります。写真を撮影しているのはデイジーの娘かつマリーの母でしょうか。
  なお、わたてん本編中との関連として、このお写真は以下のシーンと相関関係があると思われます。


  第3話 刷り込み より。 病院で初めてひなたさんと会ったみやこさん。泣いているひなたさんを抱っこしたところ即座に泣きやんで笑顔となったひなたさんの図。


  第9話 私が寝るまでいてくださいね より。 アルバム整理をしようと千鶴さんがリビングに持ってきたみやこさん関連のお写真より。

  それ以外にも、マリーの髪型は「第7話 みゃー姉が何いってるかわかんない」より「星野みやこ変身セット」から、マリーの付けているヘアピンは同7話より花さんからプレゼントしてもらったヘアピンがモチーフであろうと思われます。
  このように、この「天使のまなざし」というミュージカル劇はアニメ12話それぞれを想起させるキーアイテムが随所に登場し、アニメ版わたてんを総括するものという立ち位置にもあります。


  アネモネが愛の歌を歌い、それを継ぐ形で歌い出すマリー。こうしてマリーとアネモネが結ばれることとなり、アネモネは消滅を免れたのでした。



  天使の羽根を象ったカップケーキの作り方をマリーから教わっています。このカップケーキは「愛の象徴」、そして看板商品として、「マリー&アネモネ」のお店となったケーキ屋さんでも売られ続けました。


  松本さんご姉妹も買い求めていますね。みやこさんのイメージ映像ですので、実際には他のクラスメイトがエキストラ役であったものと思われます。


  天使から人となったアネモネ。寿命も天使のそれではなく人間と同じとなっているようです。愛するマリーに看取られ、天寿を全うするのでした。


  ここもデイジーの深い愛で泣いてしまうポイントです。
  アネモネが亡くなった後、ほぼ同じタイミングでマリーも天に召されました。「マリー&アネモネ」の店舗兼住居から二人の御霊が飛び立とうとする、まさにその時。
  黄色い御霊が天空より飛来し、合流しました。そう、デイジーです。
  デイジーはタイミングとしてはかなり前に召されていたと思うのですが、アネモネとマリーが天寿を全うするのをしっかりと見届けてからアネモネの元へ身を寄せたのです。
  このデイジーの愛の深さに、毎回涙を禁じ得ません。






  ■ 更なる深読み ■
   このシーンは非常に複雑な人間模様が幾重にも重なっていますので、軽く説明いたします。
   まず直接的には中央のアネモネと右のマリーがご夫婦ですので、このお二人でまずひとつ完結する「ご夫婦」という関係性となります。(アネモネ=マリー)
   次に、カルミアと家族との生活を経て天寿を全うしたデイジーが「亡くなったことでしがらみがなくなったことで」アネモネをお迎えすることができました。
   本来、運命のいたずらがなければご夫婦となっていたであろうお二人。ここでもひとつ完結する関係性となります。(デイジー=アネモネ)
   そして更に、マリーはデイジーとカルミアの孫娘です。形質的には特徴的な前髪や碧眼などカルミアの遺伝的形質が強く表れていることもあり、マリーの姿を通してカルミアの存在感も色濃く出ています。
   その為、ここでもひとつ完結する「ご夫婦」という関係性となります。(デイジー=カルミア)
   つまり、目に見えているのは3人ですが、もう一人仮想の「カルミア」を立てることで「一場面に4人存在している」こととなり、それぞれが強い結びつきのある「ご夫婦」という関係性が成立していることになります。
   少し上に「何故娘ではなく孫娘だったのか」の項に書きました「作劇上の都合」ということもありますが、このシーンはこの御三方で完結しているからこそ美しく、説得力があるのではないかと考えています。


  そして、この物語はここで終わりません。オープニングと同じ歌ですが、歌っているメンバーが異なることから「天使の眼差し Epilogue」という別楽曲となっているテーマソングがエンディングとして流れます。
  この「同じ曲が流れているパート」である、オープニングのシーンがどのようなものだったか思い出してみましょう。
  天使スイとレンがそれぞれ舞台袖から階段を上り、大道具の「天界」まで上がって歌っていました。一方、人間は「地上」にいましたね。
  エンディングでは「大団円」といった空気で、みなが手と手を取り合い「おつかれさまでした」と労い合っているかのようにも見えます。

  しかしながら、ここで訴えていることは他にあります。それはつまり「天使と人とがその垣根を越えて、天界・地上といった区別なく同じ大地で暮らすようになった」ということです。
  何故そのようなことが起きたのか。何がきっかけでオープニングの時と世界の構造が変わったのか。
  そのヒントが、天使の歌にあります。

  「天使たちは人を愛で結び繋ぐ」

  人々に愛を行き届かせ、その愛を以って結びつけてゆく。これは「天使の仕事である」と歌われていました。
  しかし、どうでしょうか。本当にそれは天使だけが担っていた役割だったのでしょうか。私はそうではないと思っています。

  かつてデイジーの生み出した、「アネモネの羽根をモチーフとしたカップケーキ」。それはまさしく「愛という形而上の概念を形而下化したスイーツ」であったと言えるでしょう。
  それは長らくデイジーのケーキ屋さんで「看板商品」として売れ続けました。そして、孫娘にも秘伝のレシピは受け継がれ、「マリー&アネモネ」のお店でも同じく看板商品として売られました。
  そのカップケーキはとてもおいしかったことでしょう。自然と笑顔があふれたと思います。笑顔あるところに人は集い、繋がりは生まれていきます。
  つまり、この一連の動きは「人間が天使の役目を果たしていた」と言えるのではないでしょうか。
  デイジーというたった一人の人間が、芽吹いた愛を形にし、それを人の世に広く行き届けていった結果、人々は愛の元に集い繋がりが生まれていった訳です。

  その結果どうなりましたでしょうか。そう、劇のエンディングで見られたように「天使と人とがその垣根を越えて、天界・地上といった区別なく同じ大地で暮らすようになった」訳です。
  このことから、この「天使のまなざし」というミュージカル劇で強く訴えたかったことは
  「天使だけでなく人間にも愛を広めることができるのだ。愛とは世界の形を変えてしまえるものなのだ。それほどまでに、愛の力というものは力強いものなのである」
  ということなのではないでしょうか。


  さすがは天使たちを導く天舞市の才女、山中先生の脚本ですね。スケールが壮大であり、かつ非常に大切なことを未来ある子どもたちに分かりやすく伝えることに成功していると思います。

  ※上記「天使のまなざし」についての考察はすべてDOSANの想像です。公式から正式な言及がない以上、みなさんそれぞれの解釈が正となりますので、「このような捉え方もできるのだな」とあくまでも一例としてお読みください。







■佐倉杏子、という人。

 魔法少女まどか★マギカに於いては、その登場人物全員がそれぞれ主人公になり得る因果、背景ストーリーをお持ちです。
 またそれだけでなく、各人の日頃からのファンサービス精神やハンサムガールな振る舞いにより、フェデレーション内にて数多のファンがいることも確かです。
 ここではその主人公格のお一人である佐倉杏子さんにつきまして、原作アニメからシーンを抜粋しつつ浸ってみたいと思います。

 ※Windows11/Android/iOS上のChromeブラウザ(ver.141.0.7390.66)にて再生確認しております。動画形式は「mp4(H.265 HEVC)」、ファイルサイズは約1.12GBです。(55分と長いので容量大きめです。これでも1/3以下に圧縮しているのですが……)

※編集注
 「※以降、流血表現あり」と動画内で注意喚起しているパートがあります。戦闘シーンの為仕方ないのですが、天使のみなさんは可能な限り周囲の大人の方とご一緒に以下の動画を閲覧するようにしてください。



【動画の紹介】

 今回の紹介動画は約55分と長く、映画一本分くらいあるボリュームとなっております。それだけ、魔法少女まどか☆マギカの世界に深く関わる方であり、美樹さやかさんと合わせるとほぼ物語全体の半分のウェイトを占めるほどになっています。
 ノイズになることは承知の上で動画の下部に解説を入れさせていただきましたので、ここでは特に長く記載することはありません。
 ただ、仕掛けとして一点だけ。以下の画像は動画の「00:55:28.37」辺りに1コマだけ差し込まれているものです。可能であればコマ送りしてご確認ください。



この画像をどこかで見たことがある方がいらっしゃるかもしれません。それは恐らく以下の画像かと思われます。



これは全12話のTVアニメがブルーレイ・DVD版として発売された際に追加された、「第09話 そんなの、あたしが許さない」のエンディングの背景で使用されていたものです。
こちらははっきりと構図が視認できます。失意の底、涙に溺れるさやかさん。その手を杏子さんが取り、「一緒にいてやるよ」と深い深い水底へと共に沈んでゆく────。まさに杏子さんがおっしゃる「さやかと心中した」際のものです。
涙なしには見られない、命を賭してさやかさんを救おうとした際の杏子さんの姿が描かれています。







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